そして再び
「無理に速度を抑え込もうとしない!力を抜いて、魔法に身を任せて!」
「は、はい!!」
星夜の叫び声が飛ぶ。
グレーの願いを聞き入れた星夜は、彼女に魔法の戦闘を基礎から教えることとした。
まず最初に、飛行からだ。グレーの戦うさまを見た星夜は、彼女の飛び方はまだまだモノになっていないと感じていた。
移動は戦闘の基本である。
(飛ぶのが怖いのかな……。慣れていないのか。それにしても魔法量も足りてないな……。)
「ねえ、妖精。彼女の魔法力なんだけど。」
「彼女の願い、ですか?」
気になった星夜が妖精に問いかけると、知らぬ人が聞けば的を得ない答えが帰ってきた。
だがその返答は星夜の問いたいことを的確にとらえていた。
「そう。魔法少女の力の源は、願いだ。それも最初に魔法少女になったときの、幼な心に抱く願いだ。その願いに世界が応える。そういうものだったよね?」
「ええ、その通りです。そしてその願いの強さが魔法量を決めます。」
「彼女は、どうだったんだい?強い願いを持っていたのかな。」
魔法少女が魔法を使えるのは、強い願いに世界が応えたからだ。その願いを持ち続ける限り、世界は魔法少女に力を与えてくれる。だがその願いを持てなくなってしまえば、力は使えなくなる。魔法少女になった時の幼い願い、それと同じものを持ち続けなければ戦い続けることはできないのだ。
それがどのような願いだったのか、については星夜は聞かない。そこはプライベートな事柄だからだ。魔法少女の大事な思い出であるかもしれないし、悲しい思い出であるかもしれない。あるいは、弱みであるかもしれないのだ。
だがそんな配慮を気にしないかのように、妖精は答える。
「彼女の思いは、とても強いものでした。でもそれは憧れだったんです。」
「……私に教えていい話かい?」
「かまいません。グレーもあなたには知っておいてほしいと思っていることです。本人が言うのは恥ずかしいのでしょう、だから私が代わりに教えるだけです。」
「そう、なら教えてくれるかな?憧れって言うのは、魔法少女に対する?」
「そうです。彼女の願いは、魔法少女になることでした。それはとても強く、極めて純粋なモノでした。だから願いの強さと純粋さで言えば、彼女の素質はすごいものだったんです。」
そこまで聞いて、星夜はその救われない状況を理解してしまった。
願いの強さが魔法少女の強さを決める、だがその願いが、魔法少女になること自体であったのならば、魔法少女になって以降その願いが弱くなってしまうのは必然。魔法少女になってしまった時点で、彼女の願いは達せられてしまっているからだ。
「そうか……。てっきり、抱いた願いが空想と気づいてしまったとかで弱くなったのかと思ってたけど、願いが達成されてしまった、っていうパターンだったとはね。」
「そのうえで、彼女を導いてくれますか?」
「うん、まあ難しい状況だけどね。ただ一度引き受けたことは、そう簡単に放り出すわけにもいかないから。それに、願いを見失ってしまうのは、魔法少女に珍しいことじゃない。よくあることさ。」
「そういう人を知っているのですか?」
「2人ばかりね。」
星夜は懐かしむようにつぶやく。今までの彼の人生の中でも、願いを見失い、保てなくなった魔法少女は2人知っていた。
「その2人はどうなりました?」
「1人は復活したよ。きっと今も、すごい魔法少女として活躍してると思う、それくらいに確固たる願いをまた抱くようになったからね。」
星夜はその彼女の姿を思い浮かべる。背は小さく、しかし強い気持ちを持っていたその女の子は、今もどこかで戦っているのだろうか。
「そうなのですか。願いは、再び抱けるものなのですね。であればグレーにも見込みはまだあるということでしょうか。」
「うん。魔法少女になりたいっていう憧れだって、再び心に抱けることもあるだろうから。失った思いは同じものは取り戻せないのかもしれない。でも新しい思いを、グレーにとっては新しい魔法少女への憧れを。」
必死に飛び回るグレーを見ながら、星夜はひそかに確信する。彼女は再び願いを、憧れを抱くことができるだろう。
彼女には強い意志がある。ただ思いを少し見失っているだけだ。
「それで、もう1人はどうなったのですか?」
「やめたよ、魔法少女をね。」
必死にあがく彼女は、逃げ出した自分とは違うのだから、と。
手立ては、ある。彼女に気づかせればいいだけのことだ。己は、本当の魔法少女ではないのだということを。ただ魔法が使えるようになっただけでは、魔法少女と呼ぶに値しないということを。
「グレーはホワイトたちの戦いを見たことはあるの?」
「やはり彼女たちのことはご存知でしたか。実は見たことはありません。彼女自身、自分が戦えないことを恥ずかしく思っているのでしょう、ホワイトたちと会いたがらないのです。」
「自然な感情だと思う、でも見た方がいい。もしかすると酷なことかもしれないけど。」
「それが彼女のためになるとお思いなら、そうするべきでしょうね。ただ、ホワイトたちの戦いを見たいと言って見れるものでしょうか。」
「そこがネックかなあ。」
今のところホワイトたちとグレーの間にはつながりがない。コンタクトを取ろうにもそうそうとれるものではない。
「君は妖精同士でつながりはないのかい?」
「ないわけではありませんが、疎遠と表現するのが正しいですかねえ。彼女たちは出世頭ですから。」
「相変わらず、俗なこと。」
(とするとどうしたものかなあ。まさか学校で話しかけるわけにもいかないし。)
そんなことをすれば、なぜ正体を知っているのだ、ということになるだろう。下手をすれば魔人容疑すらかかりうる話だ。
「そうすれば、偶然に期待するしかないね。まあ待っていればいずれ機会も来るかな。それまではとにかく、戦い方を鍛えないとね。」
魔法量はともかく、戦い方もまだまだだなと、頼りなさげに飛び回るグレーを見て思うのだった。
翌日の学校。
星夜は授業を聞き流しながら、3人の魔法少女たちのほうに視線を向ける。
(願い。はっきり言って、幼いころのそれを強く持ち続けられるというのは異常なことだ。抱いたその思いと、同質のもの。強さで言えばあるいはより強くなったものを持ち続けるということは。)
だから、怖かった。
彼女たちと自分は、すべてが異なっていた。
(あんな綺麗な願いを、ずっと持ち続けているのか。君たちは。)
「星夜。」
「……なんだい。」
授業中にも関わらず、彼女たちに見つからぬようこっそり話しかけてくる妖精に星夜は小声で答える。
「いつも露骨に見過ぎだ。彼女たちの会話を聞く限り、視線に気づかれているぞ。」
そう言われるのと同時に、ホワイト……雪音と目が合う。
雪音はぴくりと反応し、そそくさと顔を背け前を向いてしまった。
「あー、そうか。」
(女性は視線に敏感、だったっけなあ。)
少し恥ずかしく思いながら、意識を彼女たちから外すことにした。