未練
「私が見えるということは、魔法の関係者ということでしょうか?」
灰色の妖精が星夜に問いかける。
「うーん、まあそういうことにはなるのかな。少しワケありでね。」
妖精の問いに対して、星夜ははっきりとは答えない。
魔法少女であった過去を、答えたものかどうか。内心で悩んでいた。
「そうですか……。本当はいろいろと聞きたいところですが、助けてもらったことですし深くは問いません。とりあえず、お礼申し上げます。」
そういうと妖精は頭を下げてきた。
「いや、こっちこそありがとう。正直助かったよ、あのまま魔獣にやられるんじゃないかってね。」
「魔獣……そうですか。いえ、グレーが勝手にやったことですから。」
少し口が滑った、と星夜はあとになって気づいた。とはいえそもそも魔法の関係者であることはバレていたであろうし、大して情報が漏れたわけでもないとして気にしないことにした。
「その子は、グレーっていうのかい?」
「ええ。この色の通りです。」
星夜は改めて倒れている魔法少女に目を向ける。なるほど、確かに灰色の服装を身にまとっていた。
(純粋な色じゃないな。そういう魔法少女もいるのか。)
白、赤、青そして黒。星夜が知っている魔法少女はどれも単純な色だった。この魔法少女は少し例外であるのだろうか。
(いや、少し複雑な色もいたか……。)
「ん……。」
そうしているうちに魔法少女……グレーが身を起こす。
気を失っていたわけではないが、どうにか体を起こす体力は回復したらしい。
「大丈夫?つらいなら横になっていた方がいいけど。」
「……いえ、大丈夫です。えっと、それよりありがとうございます。」
「礼はそこの子からもらったよ。むしろこっちが助かったくらいだから。」
同じような会話を繰り返す。
「……いえ、見てましたよね。私、うまく戦えなくて。結局何の役にも立てずに……。」
そんなことはない、とも星夜は言えなかった。確かにひどい戦い方だったように見えていたからだ。
「いやいや、あのままだと私はあの魔獣に食われてたよ。君はまあ、結果的に負けたかもしれないけど、私を助けてくれたことに変わりはない。だから、ありがとう。」
「……はい。」
魔人との勝負がどうであっても、星夜を助けようとしての行動に変わりはないのだ。そのことを伝えると、グレーは少しうれしそうな顔を見せた。
(ようやく持ち直してくれたかな。)
「それはそれとして……。君はあまり戦いなれてないのかな?」
「いえ、そういうわけではないんですけどね。情けないですよね、これでも2年ほど戦ってるんですよ。」
「2年も……。」
その割には、とは口にしなかった。
戦っている年数と、戦い方が釣り合わないように星夜には思えた。
「弱いですよね……。でも、どう戦えばいいのかわからないんです。いくらやっても、ダメで。」
(才能か、それとも師に恵まれなかったか……。まあ僕だって独学なわけだが、どう育つのが適しているのかは人それぞれだ。教えてくれる人が必要なタイプなのかもしれないな。)
「あの、さっきの銃の手さばき、綺麗でした。本当に。それに、魔人と向き合う姿も凛としていて……。妖精が見えているってことは、関係者、魔法少女なんですか?」
「さあ、どうだろうね。」
疑問形ではあるが、それは確信しているような様子だった。
質問をかわそうとする星夜の心とは裏腹に、グレーは腹をくくったような顔をしてこう言った。
「私の、師匠になってください!」
「……え。」
唖然とする星夜だったが、グレーは言葉をつづける。
「勝手なことを言ってすみません……。でも、私はあなたがすごいと思ったんです。私はあなたみたいになりたい。」
「ただ銃を回しただけの人間だよ。」
「それだけじゃありません!なんだか、分かるんです。あなたは私がなりたかった魔法少女であるような、そんな気がするんです。」
「大した錯覚だよ。」
困惑する星夜と対照的に、グレーの声は力を増していく。
「今のままじゃ、私には何もわからない。でもあなたなら、きっと。お願いします。私を助けてください!」
「……そんないきなり、勝手な。」
「私からもお願いします。」
傍観していた妖精も、グレーの言葉に同調した。
「ほんの少しだけでも、片手間でいいんです。グレーを助けてあげてください。この通りです。」
そういって妖精が頭を下げる。星夜のかつての相棒とは、姿かたちは似ていても全く違い過ぎるものだった。
その姿に、つい星夜も気が乗せられてしまったのだろうか。
「……分かったよ。私にできることなら、教えてあげる。」
「!!ほんとですか!!!!」
あるいは、かつて自分がいた世界への執着心から出た言葉であったかもしれなかった。
(本当に、未練がましいな……。まったく。)
そして星夜は、再び魔法に関わり始めるのだった。