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作戦会議

「今日は現地の魔法少女の皆さん、そして司法省の方々もお集まりいただきありがとうございます。」


 妖精を介して伝えられた会合の場。

 星夜たちは初めて会う魔法省の幹部の話を聞いていた。

 

 その場には星夜たち6人の魔法少女だけでなく、魔法省の30人ほどの職員たち、そして司法省のユリウスとレオナの姿もあった。

 みな着席して、壇上の女性の話を聞いている。


「皆さんとは初見になりますが、魔法省のアローネ・テーラーです。今回の旧軍人たち逮捕の指揮を執ります、以後お見知りおきを。」


 星夜たちに向けて、アローネが言う。

 その口調からして、想像と違って随分と礼儀正しい人物であるように感じられていた。


「今回の作戦の目的は、彼女らの身柄を一挙に確保することにあります。一部を捕らえたところで、この混乱は収まりません。居場所を特定できたこの機会を逃さず、少なくともその大部分を捕らえなければなりません。」


 前方のディスプレイに地図が表示される。

 そこに表示されている星夜たちの住む町のやや北の範囲が赤く塗られていた。


「事前偵察によれば、彼女たちはこの地域で姿を消すことが確認されています。すなわち、彼女たちの根拠地はこのあたりにあるものと推定されます。」

「ほう……。」


 ユリウスが小さく声を上げる。

 彼女が思っているよりは、魔法省は事前の調査を実施しているようであった。


「我々は彼女らの全戦力が姿を現した状態で捕縛作戦を実施する必要があります。そこで……。」


 画面が変化し、いくつかの点が表示される。

 どうやらこちらの戦力の図示であるようだった。


「まず10人ほどの戦力でもって、彼女らの小部隊に攻撃を仕掛けます。あちらの行動単位は多くて5、6人であるから、それを上回る戦力となります。」

「援軍を呼ばせ、敵本体を戦場に引きずり出す腹づもりか。」


 先読みするユリウスだったが、アローネは説明を続ける。


「この段階では彼女らを倒し切る行動はとらず、敢えて援軍を呼ばせます。行動原理として数的有利を確保しに来る彼女たちですから、あちらの総数24名のうち、大部分を引きずり出すことが期待できます。」

「果たして、それほどの人数が出てくるだろうか?」


 ユリウスが異論を挟む。だがアローネは表情を崩さずに答えた。


「あちらも我々が大人数を用意していることは予想しているでしょう。であれば、こちらが援軍を呼び寄せるより前に、全力で応戦して戦闘を完了するのが敵方の基本戦術となります。」

「叩くときには全力で、迅速に叩く……。確かに順当な反応だな。」

「ですがあちらの援軍が出現した時点で、即座に周辺に潜伏させていたこちらの部隊を集結させます。これによって、彼女たちを捕縛するための万全の状況が出来上がります。」


 説明を聞いて、星夜は納得する部分もあったが、一方で楽観的であるとの感想を抱かずにはいられなかった。

 それはユリウスも同様のようだった。


「向こうはプロだ。こちらがそれなりの策を練っていることは想定しているだろう。……伏兵の存在くらいのことはな。」

「とはいえ、我々もこの好機を逃すわけにはいきません。仮にこちらの思惑が外れたとしても、一定の人数の捕縛が可能です。……我々は一刻も早く、王国に敵対する勢力を打ち滅ぼさなければなりません。」

「敵は精鋭ぞろいだ。加えてこのビル街、こちらの追撃を躱すことなど容易なのではないか?」


 あくまでユリウスは反論を続ける。

 作戦内容に納得していないようだった。


「そのための、私の探知魔法です。このビル街であっても、敵の位置を正確に把握し、また味方と共有することができます。部隊の展開においては敵より優位に立つことが可能です。いったん捕捉してしまえば、敵を見逃すようなことは有り得ません。」

「貴官の探知魔法は王国随一と聞いている……それが発揮されることに期待するしかないか。」


 どうあっても作戦を遂行する姿勢を崩さない相手に対して、ユリウスは議論を打ち切った。

 実際彼女の主張するように、この機会はまたとないチャンスであるのは確かだ。加えて失敗して敵を取り逃したとしても、こちらが失うものは無いだろう。


「我々は有利な立場を用意出来ました。作戦実行に際して、必要以上に恐れるものはありません。」

「とはいえ敵をむざむざ逃がしてしまえば、王国の沽券にかかわる。油断なさらぬように。」

「もちろんです。」


 どうやら魔法省の案がそのまま実行されることになるようだった。

 結局司法省の意見が反映されることは無く、王国での力関係が伺えるものだった。


 そうして蚊帳の外にいた星夜たちであったが、人員配置においては彼女らのことも必然的に話題に上がることとなった。


「現地の皆さんについては、基本的には後方にて、司法省の方々とご同行いただくものとします。」


 戦闘は魔法省の人員が主導し、あくまで司法省は後方待機。それは既に確定事項だった。

 そして現地の魔法少女である星夜たちについても同様のようであった。それは配慮というよりも、魔法省の面子によるところが大きいだろう。


「ようは手柄の独り占めだ。」


 小さい声で、レオナが星夜たちに告げた。

 鼻で笑うような物言いであった。


「今回の作戦は、有利とはいえそれなりの危険をはらんでいます。あなた達は後方で戦闘を観察しておいてください。これもいい勉強にはなるでしょう。」

「分かりました。」


 先陣を切って返事をしたのは美空だ。返答に迷う雪音や星夜を置いて、方針を確定させていた。

 星夜たちにとってこれが最も良い方針であると判断してのことだった。返答が遅くなり、方針が変えられてしまっては困るのだ。

 だが、続けてアローネから承服しがたい提言がなされることとなった。


「しかし……そちらのブラックには我々と同行していただきたいのです。」

「……え?」


 不意に振られた星夜は疑問の声を上げる。


「あなたの機動力、後方で眠らせておくのは惜しい。今回の作戦に十全を期すためにも、我々に力を貸してほしいのです。」

「しかし……いきなり言われても。」

「そうです、あなたも危険とおっしゃったはずです。」


 渋る星夜に、すかさず美空が援護する。

 だがアローネは考えを改める様子はなかった。むしろ、こちらを威圧する雰囲気すら醸し出し始めていた。


「実戦経験ならば、それなりに経たものと聞いて言います。」


 レオナとの戦闘のことを暗に意味していた。

 すなわち、王国に一度盾突いて戦ったことを持ち出していた。

 結果的に雪音たちもレオナとは戦っているが、そもそもは星夜の反抗が始まりだった。


「王国に抗ったその力、今度はぜひとも王国の為に使っていただきたいものですね。」


 ニヤリ、と笑みを浮かべるアローネ。その背後ではほかの職員たちも薄笑いを浮かべている。

 断れまい、という態度だった。


 バカにしたような態度に、星夜は腹が立ってくる。

 見え透いた挑発に乗ることでもあったかもしれないが、この際自分の力を示してやろうではないか、という考えも頭の中に浮かび上がってきた。


 そう思案する星夜に、アローネは顔を近づける。

 そして他の者には聞こえないような小声で、星夜だけに告げる。


「あなたの立場は、王国から見て微妙です。一度、王国にとってあなたが有用であることを示す必要があります。」


 先ほどの嘲笑する態度とは打って変わった、真剣なささやきだった。


「手柄を上げろ、ということですか?」

「王国に協力的な人間であることを示さなければ、あなたの身は危うい。事実、今回もあなたの立場を確かめに来た人間が多くいるのです。」


 背後にいる魔法省の人間たちについて、アローネが語った。

 身内であるにもかかわらず、どこかよそよそしい語り草だった。


「消極的にでも戦っていただければ問題はありません。適当なタイミングで、手柄を上げる機会も譲りましょう。」

「……どういう目的です?」

「さあ?まあ、この話は受けるに越したことは無いと思いますよ。」


 そうして顔を離したアローネは、星夜の返答を待つ。

 怪訝な顔でこちらを伺う美空を横目で見つつ、星夜は決心する。

 アローネの言うことにも、大いに納得するところがあった。


「いいでしょう、私も参加させてください。」

「ブラック!?」


 雪音と美空が驚く。

 その2人をさておいて、星夜とアローネは会話を続ける。

 

「ありがとうございます。ではブラックには敵本隊出現時の、伏兵部隊として参加していただきます。」

「分かりました。」

「っ、私も加えてください!」


 すぐさま声を上げたのは、雪音だった。

 だがその提案を、アローネは思うままには受け入れてはくれない。


「もちろん、あなたにも参加していただきます。司法省とともに、予備戦力として。」

「それじゃあ、ブラックと一緒に戦えないじゃないですか!」

「実戦では何が起こるかわかりません。定まった役割を持たない予備戦力は、敵の奇策に応じる役目も持つ重要な戦力です。」

「今回は遊兵、ということも有りうるわけですがね。」


 レオナが皮肉を込めて口を挟む。あるいはそれも、雪音とアローネの衝突を妨げるための行為であったかもしれない。

 そしてそのままレオナは雪音をなだめにかかった。


「今回はブラックに花を持たせてあげればいい。それに、万一のことがあった場合、魔法省の連中の中に居ては混乱に巻き込まれるだけだ。一歩引いて冷静に対処できる位置にいることは悪いことではない。」


 魔法省のことをやや露骨にけなしながら説得する。

 不測の事態が起こっても、司法省ならば冷静に対処できるとの自負の現れでもあった。


「……でも。」

「ホワイト、大丈夫だよ。先陣を切るってわけでもないし、僕も危ない橋はわたらない。」

「ブラック……。」


 あくまで心配そうに星夜を見つめる雪音だったが、状況が変わるわけでもない。

 アローネの定めた方針は変わらぬままに、作戦実行の布陣が決定されることとなった。





「敵を策に嵌めるには、その認識を誤らせることが肝要だ。」


 エイミーがソフィアに語り掛ける。


「攻めてくると考えていないところを攻め、守っていないと考えているところを守る。眠っているはずの夜に奇襲し、いると思わない場所から攻撃する。」


 ソフィアは静かにその言葉に耳を傾ける。

 この場にいるのは他にはリサのみであるが、いつものように聞いているのか分からないような態度だ。


「そのうちでも最上のものが、敵に勝利を確信させることだ。勝ちを信じた敵は思慮が浅くなり、また勝ち戦を予期した兵は戦意に乏しくなる。」

「勝つと分かっている戦で、必死に戦って自分だけ傷を負うのは避けたいものだからな。」

「敗北への恐れは常に心に抱き続けなければならない。そうしなければ、勝利などすぐに消え失せてしまう。」

「甘いよね、魔法省も。」


 意外にも話をしっかり聞いていたリサが言う。

 もっとも、付き合いの長いエイミーもソフィアもリサがしっかりと話を聞いているであろうことは分かっていたのであるが。


「魔法省30名、司法省10名。あの魔法少女達も動員するそうだ、合わせてこちらの倍の戦力だ。」

「戦力投入は上々だな。そして近衛もいるのだろう?」

「ランク5、アローネ・テイラーがこれを指揮する。探知魔法の第一人者だな、辺境への反乱部隊鎮圧にしては大げさな布陣だな。」

「それだけ将軍派排除が重要なんだろう……それで、戦えるか?」


 期待に満ちた目で、ソフィアがエイミーを見つめる。

 勝ち目がない、などという返答を予想していないことは明らかだった。


「当たり前だ。……圧倒的優位でもって戦闘を展開できる敵、その作戦の前提から崩すとするさ。」




 一通りの作戦談義を終え、リサも部屋を退出していったあと、エイミーとソフィアは静かに語り合っていた。

 作戦を語るときの自信に満ちた表情とは打って変わって、伏し目がちにエイミーが言う。


「5年か……。結局、今まで私は何も成し遂げることはできなかった。王国を飛び出し、将軍を置き去りにしたまま足掻き続け、なお何も変えることができなかった。」

「それでも、多くの鼠を駆除してきたはずだ。」

「……天下は動かなかった。思えばあの人ですら、世を変えることはできなかった。あれだけの才能、あれだけの人望を持ったあの人でさえ……。」


 エイミーがその人のことを思い出す時は、いつも悔しさと悲しさの入り混じった感情に襲われる。

 無意識に、首に付けたネックレスを握りしめていた。それは今エイミーが思い描いている人物がいつも身に着けていた、言うなれば形見でもあった。


「私は随分な思い上がりをしているのかもしれないな。あの人に代わって世を動かし、将軍を支え天下を正す……。私は何1つ、あの人に返すことができないままでいる。」

「時機というものがある。事を為すための準備は続けてきている、もう少しでそれも整う。お前は我々の将として、これからも立ってもらわなければならない。」

「世界を変える、か……。まずはその前哨戦だ。我々が王国に対抗しうる戦力であることを、はっきりと突き付けてやるとしようか。」


 たった20名ばかりで国家に対抗しようとしている自らのことを、愚かな人間だとエイミーは思う。

 それでも、その愚かさを捨てることはできなかった。


 いつか、その行為には意味があったのだと、天下を動かす力があったのだと世界に示さなければならない。

 自らのことを愚かと嗤いながら死んでいった、恩人のためにも。


 ふと、映像で見た黒い魔法少女の姿が頭に浮かび上がった。

 恩人と似たところのある少女、しかし魔法の力は天と地ほどの差がある。それでも、確かに似ているのだ。

 その彼女も、おそらく今回は出てくるのだろう。


(邪魔をするなら……容赦はしない。)


 エイミーの頭の中で並べられた敵味方の駒の中で、ただ1つだけ……。

 その黒い駒だけが不思議と無視することができないでいた。


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