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後輩と歪んだ感情と、

「先輩!一緒に帰りませんか?」


 放課後、靴を履き替えて校舎を出ようとする星夜に、1人の女子生徒が話しかけてきた。


「晴香か、いいよ。帰ろうか。」


 ショートカットの似合う女子生徒の名前は晴香。1年生で、ふとしたことから星夜と知り合った後輩である。



「先輩って、部活やんないんですね。体育なんか見てると、結構運動神経よさそうなのに。」

「それは晴香もでしょ?僕なんかよりよほど運動が得意そうだ。見た目だってスポーツ少女って感じなのに。」


 星夜の言う通り、晴香は活発そうなスポーツ少女といった風貌である。ただ、彼女も星夜も部活はせず、こうして帰宅部として高校生活を送っていた。


「部活なんてしたら、先輩といっしょに帰れないじゃないですか?」

「……ふ、からかうなって。」

「ちょっと、本当なんですからね??」


 晴香の言うことが本心なのか、からかいなのか星夜にはわからない。ただ、晴香は確かに本心であった。


「そういえば、うちのクラスに転校生が来たんだよ。それも3人。」

「へえ、多いですね。そういうのってクラスもばらけさせるものだと思ってました。」

「新年度だし、もともと転校混みでクラス割をしたんだろうね。それに転校生同士で知り合いのようだし、そうやって固める配慮もしたんだろうね。」

「なるほどー、それもそうですね。あ、それで転校生って男子ですか、女子ですか?」


 その質問は晴香にとって重要だったのか、彼女は星夜の前に躍り出て問うた。

 彼女のやや真剣な目に、星夜はうっと息をのんだ。


「……3人とも、女子だけど。」

「……かわいかったですか?」

「美人だね。」

「ふうーん……そうですか。」


 それだけ言うと、彼女はまた星夜の隣に並び、2人は歩き始めた。


(……やっぱり、そういう動きも女の子なんだな。高校生ともなれば、こうも違ってくるのか。)



 帰宅した星夜は、服を脱ぎ鏡の前に立つ。

 己の裸を眺め、つぶやく。


「……男だ。」


 線も細く、色白な星夜はともすれば女に見えるのであるが、それでも彼自身にとっては男の身体以外の何物でもなかった。


 彼女たちと同じ世界にいて、彼女たちと同じ世界が見えていた。

 それが自分のいる世界のはずだった。


 その世界が自分の前から消えうせたとき、星夜はすべてを失った気がした。

 いや、事実彼には何もなくなってしまったのだ。彼は何にも熱くなれず、何にも打ち込めず。何に惹かれるでもなく、ただ己と魔法少女たちとの間にできた壁と向き合っていた。


 男と女。


 年を追うごとに高くなるその壁を乗り越えなければいけない。

 日ごろ目にする同級生の女子たちの姿を見るにつけ、自分が男であることが理解されてくるようであった。


 いつしか彼は、女装を始めた。



(……うん、うまく化粧もできたかな。服も、バランスよくコーディネートできたかな。)


 化粧をし、普段とは異なり髪をおろしてセットする。女性ものの黒のジャケットを着て、赤いミニスカートを履いた星夜は鏡の前で身だしなみをチェックしていた。

 その姿は、もともとの彼の容姿も相まって完璧な美少女と呼ぶにふさわしかった。


(僕が、女の子だったなら……。この格好なら、彼女たちと同じ世界が見えてくる気がする。)


 彼はもはや魔法少女ではない。だから、彼女たちと完全に同じ世界を見ることはできない。それでも、女の子の格好をすれば、少しは彼女たちと同じところに立てるような気がしていたのだ。


(男の部分は、やっぱり隠さないといけないんだよね。)


 男が出る膝などはニーソックスで隠してある。腰の形もスカートでごまかしている。


(女装って言うのは、スカートよりズボンのほうがずっと難しいんだもんな……。)


 一通り自分の格好をチェックすると、彼は家のドアを開け外に踏み出していった。



 時折すれ違う人の視線を感じる。

 嘗め回すような視線もよくわかる。


(バレているのか、バレていないのか。)


 星夜は自分が男だとばれているのかどうか、相手の様子を観察しながら歩く。


(ナンパされたことだってある。だから、そうそうバレてるとも思わないけど……。)


 それでも、彼にとって彼は男だ。

 鏡で自分を見れば、どれだけ女を装ったところで、男以外の何かになれているわけではなかった。


(こんなことをしていて……ほんとうに僕は彼女たちと同じ世界に立てるんだろうか。)


 そんなふうに考えていると、ふとすれ違う人がいなくなったことに気づいた。

 都会でもないし、人が多い町ではないが、それでもさっきから人の姿を見なくなったのはおかしい。

 この、人の気配が無くなった雰囲気を、星夜はよく知っていた。


「まるで結界、か。」


 魔法少女たちが戦うときに展開する、結界。

 関係のない一般人を巻き込まないための魔法である。


 まるで、別の世界に来たような感覚。

 それを星夜は、5年ぶりに感じていた。


(人がたまたまいなくなっただけなのか、はたまた彼女たちがこの町に来たからなのか……。)


 結界なのか、どうなのか。

 考えながら歩いていると、星夜は答えを見つけた。


「……魔獣。」


 星夜の3mほど前方にいた、真っ黒で赤い目をした犬のような何か。

 こちらを向いて臨戦態勢にある。


(僕はもう一般人なんだけどな……。ああ、でも元魔法少女ってだけで、そういう匂いを出しちゃうってクロも言ってたかな。)


 今にもとびかかってきそうな魔獣を前にして、しかし星夜にできることは何もなかった。

 かつても星夜なら、一瞬でこんな魔獣は倒していた。

 それこそ1秒もかからなかっただろう。


 そんな相手に今、星夜は打つ手がない。


「降参、できるかなあ。」


 その呟きと同時に、魔獣が地を蹴ってとびかかってきた。

 素早いその動き、それでも最速を誇った星夜の目にはずいぶんとゆっくりと見えた。


 ただし、それでも星夜の動きに比べるとはるかに速い。

 彼が魔獣をかわせたのは、奇跡と呼べるものだっただろう。


「っと……。まずいなあ。」


 目だけ動かして辺りを見回すが、武器になりそうなものは落ちていない。


(武器は無し……こちらの戦闘力はゼロ。逃げる手立ても無し、できるとすれば、延命。時間を稼いで、それで……。)


 誰か来るのだろうか。

 魔法少女が?


(ただの、無関係な僕が魔獣に襲われているなんて、彼女たちは考えていないだろうな。きっと今頃、クロの言っていた魔人とでも戦っているのだろうし。)


 結界があれば、一般人と魔法の世界は切り離される。

 だから、その中で一般人が襲われるなどありえないのだ。


(援軍は見込めず、こうなりゃ死んだふりしかないかなあ。)


 星夜は真剣に死んだふりでもしようかと考え始めていた。

 だがその時、もう1体の影がその場に現れた。


 その姿を魔獣が認めた瞬間、魔獣の動きは止まった。

 その魔獣と目を合わせ、なだめるように手をかざすその者は、青い光をかすかに目からはなっていた。


(……魔人。これが。)


 魔人の姿を詳しく聞いたわけではない。だが今まで見てきた魔獣とは一線を画す、人間と同じ姿。そして伺える知性。

 星夜は目の前にいる存在が魔人であると確信していた。


(……そのまんま人間なんだね。というか、女の子か。)


 魔人は髪の短い女の子だった。ただ少し肌が白く、目が青いだけの。

 黒いコスチュームから露出された手足は、少し艶めかしかった。


「……助けてくれるの?」


 自分の格好を考え、少しだけ女性っぽい口調で話しかけた。


「……。お姉さんは、関係ないと思ったから。」


 声も普通の人間だ。魔人というのは、会話もできる相手であった。


「ありがとう。ほっとしたよ……。」

「……お姉さん、どうしたの?ここは普通の人が来る場所じゃないよ?」

「私にもさっぱりわからないんだ。気づいたら人がいなくなっていたっていうか……。そうしたら目の前にそれがいて。」

「お姉さんは、素質があるんだと思う。この子はすこし、鼻がいいから。」


 そういって魔人は魔獣の頭をなでる。意外とかわいがっているようで、星夜は魔獣をそれと称したことを少し申し訳なく思った。


「素質……えっと、あなたは一体?」

「私は…………。」

「うん?」


 魔人が何なのか。興味を持った星夜は問いかけてみた。しかし魔人の方は黙り込んでしまった。


「私は、なんなんだろう。」


 その答えを聞いて、星夜ははっとした。

 魔法少女の側が勝手に魔人と称している彼女たち。しかし実は人間と変わるところはないのではないだろうか?とすれば失礼な問いであったかもしれない。


 また自分が何者であるか、その問いに答えることができないのは星夜も同じだと思い出した。あるいは彼女以上に。


「ごめん。じゃあ名前が聞きたいな。」

「名前、ですか?」

「うん。私は……えっと。」


 名乗ろうとして、ふと自分が女装していることを考えた。

 本名を名乗るのは気が引けた。でも目の前の彼女に対して、偽ることはもっと気が引けた。


「星夜だよ。星の夜って書いて、星夜。」


 だから本名を名乗った。


「星夜……さん?」


 彼女の顔がピクリと反応したように見えた。魔人として人と普通に話したのは初めて会ったのかもしれない。

 そうして彼女は、自分の名を告げた。


「ヨゾラ。」

「ヨゾラさんか。ふふ、名前が似てるね。」

「……はい。でも、偽名なんです。」

「……そっか。隠さないといけないんだね。」


 魔法少女が敵とする魔人。言うなれば、影の存在。

 彼女がどうして魔人になったのか、知る由もないが、身を隠さなくてはいけない彼女に星夜は少し同情を感じていた。


「でもいいよ。ヨゾラだってあなたを表す名前だ。」

「……ありがとう、星夜。」


 もしかして、魔人とは戦わずに済むのではないだろうか。

 そんな期待を抱いたとき、また新たな乱入者が現れた。


「魔人!??こんなところに!?」


 声の方を見上げると、そこには1人の、魔法少女がいた。

 ただし、星夜の知る3人のうちのいずれでもなかった。


 初めて見る、魔法少女だった。


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