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再会

 似ている。

 彼が最初に抱いた印象はそれだった。


 登校してきた星夜は、教室で3人の転校生の紹介を受けることとなった。最初は特に興味もなく窓の外でも眺めていたのだが、ふとその3人の顔やたたずまいを見てみると、彼女たちがかつて共に戦った友人たちとどこか似ている風に感じたのである。


雪音ゆきね朱夏あやかそして美空みそらか……。色としては白、赤、青。)


 紹介された3人の名前を思い浮かべる。それぞれに色が関係する名前である。

 その色もまた、かつての魔法少女たちを彼に思い出させるものだった。


(似ている……けど。気のせいだろう。)


 彼女たちが自分の学校にやってくるなど、そうありうる話ではない。そう判断した星夜は似ているだけの別人だろうと考えることにした。なにしろ最後に会ったのは5年も前であるし、名前だって知らないのである。


(でも、彼女たちもああういう感じになってるのかな……。)


 同い年で雰囲気も似ている彼女たちに、かつての友人たちの姿を重ね合わせる。そうすると彼の心の中に、なんともいえないさみしい感情が浮かんできた。



 それは言うなれば、疎外感と言ったものだろうか。魔法少女たちと自分との最大の違い、それは性別だ。

 彼女たちは女で、自分は男。そうして自分は男として育ち、彼女たちは目の前の3人のように女として成長していることだろう。

 そうして彼女たちは女同士として仲良く過ごしているだろう。それは当然のことではあるが、かつての友人たちと自分との間にどうしようもなく存在する壁が、彼に疎外感を味あわせていた。


 再び前を見ると、あいさつを終えて席に着こうとする転校生のうちの一人、雪音と目が合った。かつての友人に雰囲気の似た彼女に星夜はドキリとする。そんな彼に雪音は軽く笑みを返すのだった。


(ホワイト……。うん、まあ彼女たちは女で僕は男。そこに違和感を持ってるわけじゃない。ただ、彼女たちと僕とはもう別の世界にいるんだ。魔法とかそういうのではなく。)


 自身が男であることに違和感を覚えているわけではない。だが、男女の別が、住む世界を分けてしまっていることがさみしく感じた。


(まあ、そもそも会えないけどね。)


 目の前の彼女たちはかつての友人とは別人だと、そう思うことにしたのであるが、それはすぐに否定されることになる。

 その日の昼休み、ふらりと屋上に出た彼は、ご飯を食べる転校生3人組に出くわすことになる。



 話はその転校生たちに移る。

 転校初日の午前を終え、一息ついた彼女たちはせっかく屋上が解放されているからという理由で、そこでご飯を食べることにした。

 転校先での交友関係を思えば、あまりいい事ではないのであるが、少し聞かれたくない話もしたかった事情もある。


「はーー、やっぱり緊張するね。」


 そう大きく息を吐いたのは朱夏。3人の中で一番活発そうなショートカットの女の子である。


「そうだね。はあ、なんで転校なんか……。」


 これは雪音。長い黒髪で明るい感じの少女だ。

 そしてもう一人が美空。おしとやかという表現が似合う彼女は、そんな2人を眺めて笑っている。

 そんな3人のそばに、さらに別の生き物がいた。白、赤、青の毛並みをした生き物は、かつて星夜とともにいた黒い生き物と同じ風貌をしていた。

 すなわち、魔法少女とともにいる妖精である。


 そのうちの白い生き物が言う。


「仕方ないよ。連中が活動拠点をここに移したんだ。理由は分からないけど、とにかくこっちとしても対応しなきゃいけない。」

「それは分かるけど……。」

「それに転校だって悪いことじゃないでしょ?さっきも雪音は彼をずっと見てたようだし。」

「わー!待ってやめて!!」


 その妖精の指摘に雪音が顔を赤くして焦りをあらわにする。午前中ずっとある男子生徒を見ていたことがバレていたのだ。


「あー、あの髪の長い人だっけ?雪音ってああいう感じの人が好みだったの?」

「ずいぶんと女性的な人でしたね……。」

「いや、そんなんじゃないよ!ただちょっと、あの、似てるかなって思って……。」


 惚れでもしたのかと2人が問いかけたが、どうやらそういうことではないようだ。


「似てる?」

「えっと、ブラックに……。」

「あー。……雪音はブラックが好きだったもんね。まだ惚れてたのかー。」

「惚れ……、違うから!」


 名が挙がったのはかつて一緒に戦った魔法少女。黒に身を包んだ彼女のことは、3人とも今でも忘れはしない。特に雪音はブラックと仲が良かったのだ。それこそ、他の2人から見て関係を怪しむほどに。


「雪音の思いはかなわず、成就されないままブラックはどこかへ。まあ未練は残るよねえ。」

「ちょっと誤解を生む言い方はやめてよね!」


「ブラックに似ている人間?あの臆病者のことを思い出すじゃないか。」


 3人の女の子らしい会話に、割って入るような別の声。その主は突如現れた黒い妖精だった。

 それはまさしく、星夜が別れを告げた妖精であった。


「あんた!何しに来た!??」


 その姿を見るなり朱夏が声を荒げる。雪音も表情を変えるが、怒鳴りつけることはどうやら我慢したようだった。

 彼女たちはこの黒い妖精のことを嫌っている。かつてブラックの相棒であった妖精は、しかしブラックを追い詰め、3人の前から姿を消すに至らせた存在である考えているのだ。


「別に。ただ、戦いから逃げ出した彼女のことがそんなに懐かしいか?」

「あんたがブラックを追い詰めたんでしょ!だいたい彼女の居場所だって教えてくれないし、それくらいいいじゃないの!」


 どうやら妖精を問い詰めるのは朱夏の役割らしい。


「居場所を知って、どうする?また戦わせるのか?逃げ出した経緯がどうであれ、それを選んだのは彼女自身だ。戦いが嫌になった人間に、また戦えとでもいうつもりか?」

「そ、そういうわけじゃない。ただ一緒に遊んだり、一緒に……。」

「そうしてお前たちが戦う姿を見た彼女は、自らを責めるだろうな。さぞかし苦しむだろうに。」

「お前!!」

「待って朱夏。その、そいつの言い分も分かるんだ。」

「雪音……。」


 激昂する朱夏を止めたのは雪音だった。彼女だってブラックの居場所は知りたいが、しかし黒い妖精の理屈も理解できた。

 そうしてどうにか朱夏をおさえ、落ち着かせたとき屋上につながるドアが開き、別の人間が現れた。


「あ、誰か来た。」


 雪音がすこし驚いたが、妖精は普通の人間には見えない。特に問題はないだろう。

 だが入ってきた人物を見てどきりとしてしまう。先ほど話していた、長髪の彼であったからだ。

 その彼も雪音たちを見てすこし驚いたようだ。屋上にいるとは思わなかったのだろう、雪音はそう思い軽く会釈を返した。


「……あれが例の男か。近くで観察するとしよう。」

「あ、ちょっと。」


 雪音が静止するよりも先に、黒い妖精がその彼の方へ向かってしまう。彼は屋上の端の方に向かうと、柵に手をついて手に持った缶コーヒーを開けた。その柵の手すりに妖精も飛び乗った。




 一方、その彼は彼女たちが想像しているのとは別のことで驚いていた。


(妖精……。まさかとは思ったけど……。)


 屋上に入った彼は、転校生3人組とそのそばにいた妖精4匹を見てすべてを悟った。そう、彼は再会したのである。

 そして今、彼の横にはかつての相棒がいた。


「不用心じゃないかなあ。」

「妖精は普通の人間には見えない。まあ、しょうがないだろうよ。」

「やあ相棒。5年ぶりだね。」

「ふん……。」


 妖精はそうそっけなく返事しながらも、彼のそばを離れることはない。


「相変わらず素直じゃないなあ。あ、ところで僕がいなくなった理由、3人にはちゃんと教えてないでしょ?」

「悪いが、お前自身が逃げたと説明した。俺から追い払ったと言うと悪者にされるからな。」


 あくまで自分の体面を保つための嘘だと言うが、しかし星夜はそう考えていなかった。


「君は優しいな。僕から逃げたって言えば、彼女たちは追ってこない。そうしてブラックは永遠に彼女たちと会うことはない。」

「ああ、さぞかし寂しいことだろうな。」

「でもそうすれば、ブラックは永遠に彼女たちの友人であり続けることができる。」

「どういうことだ?お前はもう彼女たちと一緒に過ごせないだろうが。」

「そういうことじゃないでしょ?彼女たちは女で僕は男。どうしようもない壁さ。僕はもう友人にはなれない。でも彼女たちの中のブラックは、いつまでも女の子で、彼女たちの友人なんだ。それは僕にとって救いだ。」

「……歪んでいると思うがね。」


 星夜は彼女たちをちらっと見る。小さい弁当に、女の子らしい座り方。髪には可愛らしい髪飾りを付け、どこからどう見ても可愛い女の子たちだ。

 そうして思う。自分はああはなれない。


 もしずっと一緒に過ごしていたとしても、いずれ彼女たちとの違いが現れてきただろう。それとともに、彼女たちと自分は友人でなくなっていく。


「僕が逃げたって言うのだって間違いじゃないしね。それは完全なウソってわけでもない。」

「……そういうものか。」

「それで、彼女たちは最近どうかな?戦いの方は。それくらい教えてくれたっていいでしょ?」

「……敵が強くなった。」

「え?」


 思わぬ回答に星夜が驚く。てっきり戦いは余裕だと言う返事が来るものと思っていたからだ。


「連中も本腰を入れだしたようだ。魔獣ではなく、魔人が自ら戦いを挑んできている。だからお前が経験した戦いとは少し状況が変わっている。」

「へえ……。それで、苦戦でも?」

「まさか。彼女たちは間違いなく天才だ。そして、5年前よりはるかに成長している。これくらいの敵、どうってことはない。」

「そうか……。じゃあやっぱり、僕の居場所はないね。」

「当然だ。お前はおそらく前より弱くなっているはずだ。もとよりお前がいるべき場所ではない。ただ……。」

「ただ?」


 何かを口にしようとして、しかし妖精はやめる。


「いや、お前が気にするようなことはない。」

「そうだね。まあ、ほんとうは一度見てみたかったんだけどね。」


 見てしまえば、すべてわかってしまう。自分が必要でないと言うことも、3人が変わってしまっていると言うことも。そして自分が異物であることも。

 だから星夜は、心の中ではためらっている。


「……無理はするな。」


 その心を見透かしたように、黒い妖精は答えた。


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