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告白

「ごめんね、結局運んでもらっちゃって。」

「いえいえ、私とブラックの仲ですから。」


 ブルーに正体を見抜かれてしまった後、なかなか回復もしなかった星夜は結局ブルーに運ばれて自宅に帰って来ていた。

 ブルー……美空と星夜の家が近所であるのは事実のようであり、星夜の家から歩いて3分もすれば美空の家につくとのことであった。

 ほとんど運ばれた形の星夜は、ベッドに腰を下ろさせてもらった。


「一人暮らしなんですね。」

「まあ、ね。昔からね。」

「それにしても少し殺風景というか、色がありませんね。」


 美空は星夜の部屋を見渡してそう言う。確かに華やかな部屋ではないが、星夜としては特にそんな印象は持っていなかった。男子高校生として、平均的なところではないかと考えていた。


「そうかなあ?普通じゃない?」

「女の子の部屋に見えませんね、男の子みたいな……。」

「だから、僕は男だって。」


 星夜が男であることはあの後説明していた。首をかしげつつも、どうにか納得してもらうことができたと星夜は思っていたのだが、どうやら違ったようだ。


「もう、ブラックったらまだそんなこと言ってたんですね。いえ、星夜さんですか。どうして男の子になりたいのかは知りませんが、魔法少女はその名の通り女の子なんですよ?」

「うーん、そのあたりは説明しづらいというか、妖精に説明してもらうしかないかもしれないけど……。」

「それより着替えましょうか。土もついて汚れてますし、手伝いますよ。」


 そう言って美空は星夜の制服のワイシャツに手をかける。まるで星夜のことを男とは思っていない様子だった。


「自分でやれるよ。あ、そうだ。胸見ればわかるよね?」


 そう言うと星夜はボタンをはずしていく。ワイシャツを脱いでTシャツ一枚になった星夜は、少し恥ずかしく思いながらもそのTシャツを脱ぎ捨てる。


「恥ずかしいけど……、ほら。男の胸でしょ?」

「……たしかに少し、いえかなり控えめですが。」

「控えめってレベルじゃないと思う。いい加減納得してくれないかな、君は昔からいろいろと察しがよかったはずだろう。」


 どうにも納得してくれない美空に頭を悩ませる星夜であったが、美空の方は胸を見たところでどうにか状況を理解し始めていた。


「でも……いえ、確かにそうなのですか……。そう、星夜さんは……ブラックは本当に男の子で。」

「そうだよ。どうも、魔法少女に適性があったみたいでさ。ただ、それも少しの間の話だったんだけどね。」

「ブラックが私たちの前から姿を消したのは、5年前でしたね。」

「君たちも気付いていたことだとおもうけど、あの頃には僕の力は衰えてた。君たちと一緒になんて、戦えないくらいにまでね。あの時は自分の思いを見つめなおしてたりしたけど、結局は男であったことが原因なんだろうね。」


 星夜と美空はかつてのことに思いをはせる。星夜の力が衰えていたことには、美空にも思い当たるところがある。


「練習で君たちと模擬戦をしても、全然敵わないようになってしまった。勝てない、そのことが悪循環を生んだ。」

「悪循環、ですか?」

「この際だからこれも白状しておこう。僕はあの時、自分の思いを直視することもできなくなっていたんだ。それはね、自分の思いが汚いものだったから。」


 男であることを明かしたのに加えて、せっかくだからと星夜は自分の事情をすべて吐き出すことにした。


「それはね、君たち3人の思いがあまりにきれいだったから、なおさら嫌になったんだ。」

「そうでしょうか?ごくありきたりな思いです。」

「そのありきたりな、きれいで純粋な思いを抱き続けることができることが、僕にはまぶし過ぎた。僕と君たちは、性別も違うし、その本質も違うんだとはっきり分かってしまっていたから。」


 自分の思いとは異なり、きれいで正義の名に恥じない思い。それに対して星夜はコンプレックスを抱いていた。


「魔法にささげた僕の思いはね、勝ちたいという思いなんだ。」

「……。」

「戦って、勝ちたい。ただそれだけの、野蛮な願いだ。それが僕の本性なのだと思うと、そんな思いを持つことにも躊躇したし、さらに君たちに勝てなくなったことで、そんな思いはかなわないものでしかなくなり、戦うことも怖くなった。僕はもう、戦いたくなかった。」


 黒い妖精は自分が星夜をやめさせたのだとの立場を取っているが、星夜はそんなものは嘘だと分かっている。自分から逃げたのだ、妖精はそれを手助けしただけだ。


「そうですか……。ごめんなさい、ブラック。私はあなたのことを何も理解できていなかった。あなたが苦しんでるときに、私はなにも気付いてあげることができなかった。あなたは私のことを察しがいいと言いますけど、結局はこの程度なんです。」

「君が謝ることじゃないよ。そもそも気づかれないように隠していたのは僕だ。それに僕は歪んでるからね、理解できなくても無理はないさ。」

「いえ、あなたは歪んでいません。勝ちたいと思うことは、人としてごく自然な思いです。」

「……そう言ってもらえるとうれしい。」


 5年ぶりに会った戦友に、初めてすべてを打ち明けることができた。あるいは戦友ではなくなったからこそ、打ち明けることができたのかもしれない。

 無関係な相手だから、すべてを明かしても支障はないのだと。


「しかし、ブラックが男だったとなると大変ですね……。」

「それは魔法少女の常識的にってこと?」

「いえ、そんな些細なことはどうでもいいのです。困ったわ、雪音にイージス……。」


 些細な事、と切り捨てる美空に苦笑した星夜は、続けて小声で口にした2人の名前を聞き取ることはできなかった。

 そうしてしばらく思案したのち、再び星夜の方を見た美空はふと状況を思い出した。

 

「あ、着替えの最中でしたね。クローゼットから適当なものを取り出しますね?」

「お願い。…………あっ!」


 あることを思い出した星夜は声をあげるが、それは遅かった。

 クローゼットを開けた美空は、意外なものが(あるいは実は予想通りであったかもしれないが)中にあることに気付いた。


「あら星夜さん。……女性もの、の服がありますね。」

「……。」


 ハンガーにはいくつか明らかに女性の服がかけられていた。そして美空が手に取ったものは、つい最近買ったワンピースである。

 美空はその服と星夜を……特に胸のあたりとを見比べて視線を行き来させる。


「えっと……結局どっちなんですか?」

「…………歪んでるんだ。」


 結局歪んだ趣味を説明することに、また労力を割かねばならなかった。

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