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元魔法少女の少年

がんばります、少しずつでも最後まで

「お前はもう力になれない。」


 犬のような、狐のような、黒い生き物が少女に言う。


「俺たちは人間の女に魔法の力を与えることができる。その力でもって、この地球に現れてしまった災厄どもと戦う。強いからこそ、力を与える意味があるわけだ。」


 言葉をかけられている少女は、黒い服に身を包んでいた。10歳くらいであろうか、少々派手な衣服を着ていた。

 厳しい言葉を投げかけられつつも、悲しむでもなく、何かを悟ったような表情でその動物をまっすぐ見つめている。


「……まあ、当然だよね。」

「お前はイレギュラーだった。まさか男でありながら魔法少女としての力を手にする人間が存在するなんて、想像もしなかったさ。」


 耳を疑うような単語が発せられる。男でありながら。それはこの少女に向けられる言葉であった。


「でもその例外もこれまでだ。お前も気付いているはずだ。他の3人が成長する中で、お前自身の能力が伸び悩みつつあることを。」

「潮時、ってわけかい?」

「そうさ。まあ子供のうちは男女の差は小さいからな。とはいえもうお前も中学生になるところだ。男としての要素が、お前の能力を妨げている。俺たちの力は女性に与えられる力だ、当然の理屈だな。」


 男。その黒い生き物はそう語るが、やはりその少女はいくら幼いとはいえ男には見えなかった。

 むしろ美少女という表現がふさわしかった。


「……これで彼女たちともお別れか。」

「彼女たちはこれからもっと強くなる。俺も、彼女たちに勝る新たな才能を見つけないと出世も遅れるんでね。」


 可愛らしい見た目とは相反する生臭い単語が飛び出す。


「妖精というのは、なかなか即物的だね。これでも2年付き添った仲だ、少しは別れを惜しんでくれてもいいんじゃないかな。」

「役に立たん人間となれ合うつもりはない。」

「その割に、長々と話に付き合ってくれてるじゃないか。」

「……そうだな。話が過ぎたようだ。」


 その言葉ともに変化が起こる。少女が一瞬黒く霧に包まれたかと思うと、服装が普通の服に変化した。


「魔法少女も、引退か。まあ少女ではないけどさ。」

「楽しい夢を見れたと思っていればいい。お前にとって、そう悪い経験でもなかっただろう?」

「そうだね。ホワイト、レッド、ブルーに会えなくなるのはさみしいけど、これもいい思い出さ。ああ、もちろん君とも楽しかったよ。」

「ふん、つまらん世辞を言うな。」

「これは本心なんだけどな。最後まで君は名前は教えてくれなかったね。」

「妖精に名前などない。」

「ふ、そうかあ。……じゃ、僕はこれで去るよ。」


 そういうと少女、いや少年は踵を返し立ち去っていく。その後ろ姿に黒い生き物……妖精が言葉をかける。


「……これだけは言っておこう。」

「……なんだい?」

「これまでよく戦ってくれた。その礼は言っておく……星夜。」


 星夜せいや……それはその少年の名前であった。

 その言葉を聞いて、少年は笑みを浮かべる。


「珍しいね、君が僕の名前を呼んでくれるなんて。こちらこそいい思い出をありがとう。また会えるといいね、クロ。」

「そのクロというのは俺を指しているのか?」

「単純すぎるけどね、まあ名前がないならそう呼ぶのがいいかなと。思い出に浸るにしても、名無しってのは登場人物として動かしづらいからね。」

「好きにしろ。」

「じゃあね、クロ。」


 そういうと今度こそ少年は立ち去って行った。





 朝。


 星夜はベッドの中で目覚める。寝起きは悪く、しばし寝ころんだままぼうっとしている。


「夢か……。」


 昔のことを夢に見ていた。中学生になる直前の、あの小さい生き物との最後の会話。


「5年前か……あいつら元気かな。」


 かつて共に戦った3人の魔法少女(とその妖精たち)を思い浮かべる。5年もたてば随分と変わり、成長していることだろう。

 ホワイト、レッド、ブルー。魔法少女の衣装の色からとった呼び名しか知らない彼女たちとは、もう会う術もないのだろう。いや、会ったとして説明に困る事実が存在している。


「まさか男が魔法少女をやっていたなんてね。」


 そんな冗談みたいな話も、もうとっくに思い出話だ。もちろん誰にも話したことはないが。

 そろそろ目も覚めてきたので星夜は体を起こす。長い黒髪は普段は後頭部でまとめているのだが、いまは降ろされたままだ。

 その姿は5年前とも変わらず、いまだ少女のような容姿である。


「今日から高校2年生か……。ま、学年が上がるだけで面子が変わるわけでもなし、始業式で授業がない分今日は一番楽だな。」


 大きく伸びをしてから立ち上がり、かけてある制服を手に取り着替え始める。

 今日も適当に乗り切ろう、そんな甘い考えを抱きながら朝の支度をしていたが、しかしそんな考えは大きく裏切られることになった。


 5年ぶりの、再会によって。


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