活動開始!
ダリアに邸の中を案内してもらって、この素晴らしいお邸を活気づけたいと思った私。私ごときが、とおこがましくも思いますが『どうぞご自由になさってください by 公爵本人』と直々に言われてるんですから、自由にさせてもらうことにします☆
それにね、このお邸の使用人さんはほんと『使用人のエキスパート』なので、そのハウスキーピングの技を伝授してもらっていたら、もし、私がこのお邸を出て行く時が来ても『手に職』あるから生きていけると思うんですよ! その時は紹介状書いてくれるかしら?
「奥様ぁ~本当にこれを着るんですかぁ?」
私室で情けない声を上げるのはミモザ。
「ええ、そうよ。だってこの方が動きやすいし汚れても平気だもの」
そう言いながら私が手にして自分の身頃に当てているのは、フィサリス家の使用人のお仕着せ。動きやすい腕回りに七分袖、Aラインで綺麗なドレープを作っているスカートは少々動いても見苦しくないひざ下丈。そして清楚な紺色。汚れが目立たなくていいですね~。埃は目立っちゃいますが。
ミモザが渋々調達してきてくれたそれを、私は鼻歌交じりに上機嫌で着替えます。
「奥様でしたらもっとおかわいらしいドレスの方がお似合いですのに~」
どうやらミモザは私を着飾らせたいらしいのですが、あいにく私は地味子なものでおしゃれだとかそういったことには興味がありません。
渋々ながらも着替えを手伝ってくれるミモザですが。
「そんなことないわ。これでも上等よ」
口こそ尖らせてませんが、ブスッとした顔がかわいいミモザに思わずクスクス笑ってしまいます。そんなところは私よりも年上に見えないと言ったらきっと怒られますね。
「でも不思議ですねぇ。奥様がお召しになると私どものお仕着せですら質素で上品なものに見えるんですから。元々背も高くていらっしゃるし体の線も華奢でいらっしゃるから、このシンプルさで奥様の清楚な可憐さが引き立つのですね」
さっきまでの仏頂面はどこへやら、着替え終わった後の私を見て微笑むミモザです。
しかしそれは買い被りというもの。実際はこのお仕着せが着る人を選ばないからですよ! 誰が着てもそれらしく見えるようにデザインされてますから、私のようにひょろりと薄っぺらい体型でも綺麗に見せてくれるんです。胸が無くたって大丈夫なのです! いやむしろ胸がない方が清楚に見えたりするから、このお仕着せの実力はすごいですね。自分で言っててへこむけど。
「まあ、ありがとう」
ニッコリ笑ってここは素直に賛辞を受け取っておきます。この性格ですから、可憐とかいう形容詞はちょっと……。
それからの私はいろんなことに精を出しました。
掃除。
明らかに高価なお飾りは使用人に任せて、それ以外を頑張りました! 壊したら弁償できないもん。そして、殺風景だと思うところには花を飾ることにしました。庭園の花壇に色とりどりのお花が咲いていたので、それを拝借。
とってもイケメンなんだけど雰囲気オオカミな庭師長のベリスにビビりつつ(目つきが鋭いので、どこの傭兵サンかと思いました☆)、実家にはなかった素敵施設の温室からお花をいただきました。
洗濯。
こちらに来て初日から感動したあの高度な洗濯技術! もしもの将来のことを考えても、ぜひともマスターしたいと思ってたので、ここはみっちりと使用人に張り付きました。洗濯は重労働でしたが、やり甲斐がありました。いい汗かいたわぁ☆
料理。
料理長はカルタムという、腕は超一流だけどちょい悪オヤジ的な人。こちらはベリスと反対で、全身全霊でフェミニストということを体現しているイケメンさんです。
料理についてはさすがに一流シェフがいるのに口出しはできませんので、献立の相談をしたり、デザートやお菓子を作らせてもらったりしました。
そう言えば、途中でロータスに出会い、
『旦那様は今日から一週間ほど急務で出張されるということでございます』
と聞きました。
前にも言いましたが旦那様のお仕事は騎士様です。軍部ですよね。そこの特務師団というところの団長さんなのですが、特務師団というのはいわゆる諜報活動をするところなのです。Not脳筋、Yes知略なのです。だから任務は基本秘密。ごくごく一部の家族のみにしか告げてはいけないのです。それも『任務で○○へいく』くらいにアバウトなもの。だからお飾りの嫁の私に詳細などは言うはずもありません。
とりあえず『わかりました』とだけ返事しておきましたが、お仕事のことなど私にはさっぱりわからないのに何が『わかった』んだ、と自分につっこみそうになりました。
色々やっているとあっという間に一日が終わります。もちろん旦那様の存在など微塵も思い出すことがありませんでしたよ。薄情な嫁で申し訳ない。
そしてあっという間に一週間が過ぎていました。
晩餐までの間を私室で寛いですごしていると、
「旦那様がお戻りになられました」
と、ミモザが入ってきました。
「あら、旦那様がお帰りになられたの? って、どこに?」
間抜けな質問です。でも、公爵家に来てから旦那様が帰ってきたことがなかったので、どう対処したらいいのか判りません。
すると、
「一応、こちらの玄関にでございます。いつも一旦こちらの玄関にはお顔を出されまして、ロータスさんと話をしてから別棟に帰られるのです」
すかさずミモザが説明してくれました。ナイスフォロー、ありがとう。
「では、私もお出迎えした方がいいのかしら?」
「ええ、ぜひ。ですので簡単にお着替えくださいませ!」
「あ、ほんとだわ」
私はまだお仕着せのままでした。
慌ててミモザの用意してくれた簡単なワンピースに着替えます。しゅぽんと頭から被れるタイプなので楽チンお着替えです☆
それまで邪魔にならないように後ろで結わえていた髪も解き、ささっと簡単に巻き上げて玄関に向かいました。
「お帰りなさいませ、旦那様」
エントランスに急ぐと、旦那様はロータスと話をしているところでした。旦那様は私に気が付くと、
「ただいま帰りました。つつがなくお過ごしのようで何よりです。では」
ニッコリと笑ってから踵を返すと、スタスタと玄関から出て行かれました。
ぽかーーーん。
「……一瞬でしたね~」
「ええ、まあ……」
パタン、と閉まる扉を眺めながら私はロータスに言いました。これはまた、いっそ清々しいほどの素っ気なさです!
何だか取り残された感のある私とロータス。
「旦那様とは何を話していたのですか?」
私はロータスに尋ねました。
「留守の間のことを報告しておりました」
曲がりなりにも公爵家の当主ですからね。邸のことは一応気にかけていらっしゃるんですね。どこまでも放置じゃなくてよかったです。
あれ、でも邸のことを報告してるってことは……。
「まさか、私が使用人に混じってあれこれしているとか言っちゃったりしてません?」
慌ててロータスに確認しちゃいましたよ!
「まさかまさかまさか! そのようなこと、口が裂けても申し上げられません!!」
「デスヨネ~」
奥様たる私が使用人の真似事をしている、そしてそれを止めなかった執事なんて、ね?
私のわがままだからロータスには何の罪もないんだけど。
「これからも内緒の方向でお願いね」
「もちろんでございますとも!」
きっとダリアも同じことを言うんだろうな、というのは想像に難くありません。
今日もありがとうございました(*^-^*)
やっと登場人物が出そろった、あ~んど旦那様が出没。でも一瞬(笑)