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愛妻病?

しばらくすると昼食会の用意が整い、王族のみなさまもぞくぞくと再入場してきました。

旦那様とのお話に気をとられていたせいで全然気づいていませんでしたが、周りを見ればテーブルの椅子も、すっかりセッティングされています。

込み入ったお話をしていた私たちの周りだけ「寄ってくんなよオーラ」を漂わせていたせいか、椅子も儀式の時のままでしたが、話が終わるや否や、使用人の方々がワッと寄ってきて一瞬でセッティングしてきました。すご。


「せっかくですから、僕たちも食べていきましょう」

そう言って旦那様がナチュラルにエスコートしてきましたが、ここはホイホイ「オッケー」と言ってはいけないことを思い出した私。いかんよ、私。今日はダリアからお薬を渡されてないんだから、自分で気を付けなさいよってことなんですよ!

しかし『要らない』と言えば旦那様に怪しまれますから、

「今日は朝食を食べ過ぎてしまったようで、あまりお腹が減っていませんの。ですから果物など、軽いものにしておきますわ」

よし、これなら大丈夫でしょう。モノは言いようです。

それにね、今朝ステラリアに締め上げられたコルセットも厳しいのですよ、実際。気絶するほどでもありませんが、まあ、生かさず殺さず? すごい絶妙な力加減でがっちりホールドされていますので、食べ物で膨らむ余地が少ないんですよね~。これもダリアの計算の内だったのかしら? まあそれはさておき、普段からコルセットで寄せて上げて頑張っている方には、尊敬のまなざしを差し上げますよ。ワタシ的にはもうこりごりだわ。やっぱりいつものゆるふわでお願いします。

心の中を去来するアレコレはごっくんと飲み込み、ちょっと儚げな笑みで旦那様を見上げれば、

「ほんとにヴィオラは小食ですね。まあ、無理に食べてお腹を壊されても心配ですからね。僕の心の安寧のためにも、食べられるものだけにしましょう」

ヤレヤレといった溜め息をつきながらも了承してもらえました。よかったです。

それでも、

「これはどうですか? こちらも美味しそうですよ!」

あれこれと見繕って私に取り分けようとする旦那様。アナタ、さっきの私の話聞いてました? 放っておけば山盛りのお皿が完成しそうなので、

「ええっと、ほんの一口づつで結構ですわ」

悪気なく上機嫌で微笑む旦那様の後ろにぶんぶん振っている尻尾の幻影を見た私は、無下にすることもできずにいただくことになっていますが。


「もっと食べなくちゃ、体力が持ちませんわよ」

かぷっ。美味しそうな肉の塊を口にされた金髪のお姉様が、私に微笑みかけます。いや、普段はしっかり賄いを食べているので大丈夫ですよ、最高級品に弱いだけなのです。むしろ体力自慢です。ここじゃあ言えませんがね!


「そうですわ! 奥様はもっとふっくらされてもいいくらいですのに」

もぐもぐ。肉を燻製にしてからスライスし、それをカリッと焼きあげたものがふんだんに乗っているサラダを食べながら、銀糸のお姉様もおっしゃいます。う~ん、もうちょっと局所的にふっくらしたいなぁとは思いますけどねぇ。お姉様のように素晴らしいプロポーションになるのなら、ふっくらするのも悪くないですが。無意識のうちにお姉様のスタイルを上から下まで見てしまいました。はっ、わ、私エロオヤジじゃないですよ!!


「この先ご懐妊の折には、私、心配で心配で夜も眠れませんよ~」

銀糸のお姉様の食べていた燻製の肉のブロックをあぶり焼きにしたものを、上品に一口大にしてから口に運ぶブロンドのお姉様から、ポロリとこぼされたのは衝撃の一言。

お姉様!! な ん つ ー   を !?

お姉様のお言葉にドギマギしてしまいカチンと固まってしまった私ですが、こういう会話は普通のことなのか、

「どーしてお前が心配するんだよ? そーいう心配は亭主がすんの」

と、ユリダリス様が軽くツッコんでくださったので、

「それもそーですねー」

「えーでもしんぱーい」

「うんうん」

きゃぴきゃぴと飲んで食べて楽しそうに話すお姉様方。綺麗に流れていきました。ほっ。


お皿の上に豪快に料理を乗せて、それでも優雅に消化していく綺麗どころトリオや騎士様たち。私も旦那様に取り分けていただいたお料理や果物を少しづつ食べていました。ああ、こういうのは、私大好きです! やっぱり大人数で和気藹々と食べる食事っていいですよね! こんな社交の場ですが、私は再認識しております。

あ、でもこれが一流お貴族様たちに取り囲まれてのお食事だったら、多分、いや確実に心の中は滂沱の涙だと思われますが。まあそれは今考えるのはやめときましょう。お料理がまずくなっちゃいます。


そうやって旦那様と部下のみなさんと一緒に固まって、ワイワイ楽しく盛り上がっているところに、いろいろな方が次々にご挨拶に見えます。


「フィサリス公爵様! 今回の戦ではとてもご活躍されたようで、おめでたきことでございますな。ワッハッハー」

「これはこれは、○○殿。ご無沙汰をしております。私が活躍したわけではありませんよ、ここにいる優秀な部下たちや実戦で働いてくれた者たちのおかげでございます」

「そうご謙遜なさらずに。ハッハッハー、公爵様は奥ゆかしいお方だ」

挨拶に来た○○さん――ああ、もうお名前忘れました。まただわ。ま、いいけど――と話し始めた旦那様ですが、なにこのわざとらしい会話は! こ、これが文字通りの『社交辞令』というやつなのでしょうか? いやん、初めて目の当たりにしました~!

もっちゃりと太った○○さんは、あまり素敵とは言い難い油ギッシュなおじ様です。しかし嫌そうなそぶりも見せずにキラキラスマイルで応戦する旦那様は、さすがとしか言いようがないですね。おじ様との対比で、ますます優雅に素敵に見えるマジックです。


とっかえひっかえ誰かしらが挨拶にみえるのですが、何かというと、

「ああ、この際だから紹介しておきますね。妻の(・・)ヴィオラです。ヴィー、軍でお世話になっている……」

そう言って旦那様は私に振ってきます。そしてなぜか『妻の』というところを強調して言ってるように感じるのは私だけでしょうか? 特に騎士様がいらっしゃったときに。

まあ、お貴族様は結婚式や数度の夜会で御目文字しているので、今更紹介もへったくれもないでしょうけど。

最初に振られた時には、びっくりして手にしたワインをこぼすかと思いましたよ。突然振られて慌ててるのに、そんな素振りを見せずに優雅にご挨拶するのに苦労しました。

「まあ、そうですの。初めまして。妻のヴィオラでございます。以後お見知りおきを」

おほほほほ~、とワタシ的最高の良妻スマイル(当社比)で微笑みます。

ボロなんかを出したら、後でダリアにみっちり特訓されますからね! ダリアコワイ。

しかし旦那様、ことあるごとに、

「妻のヴィオラが~」

「妻が~」

と『妻のヴィオラ』を頻発・連呼しています。なんですかその私の大売り出しは。恥ずかしいのでやめていただきたいのですが。


挨拶攻撃の隙を見て、旦那様に連れられ新たにお料理を取りに行くと、偶然傷だらけの騎士様集団に出会いました。そう、旦那様たちの後に褒賞されていた実働部隊さんたちです。

旦那様がいち早く彼らに気付き、

「やあ。傷の具合はどうかな? 今回の戦、君たちがいたからこそ勝てたようなもんだからね」

さっきよりもさらにキラキラしい笑顔で近付いて行きました。

「と、特務師団長殿!!」

旦那様に先に声をかけられてしまったので慌てたのか(旦那様の方が軍での階級も貴族としての位もぶっちぎりで上ですからね)、金髪碧眼のイイオトコさんの声が上擦っています。上擦ったおまけに手にしていたカトラリーを落としています。慌てすぎじゃね? ……こほん。思わず素でツッコんでしまいました。

顔に傷こそ作っていますが、それでもイケメンさんなのに台無しです。あ、でも旦那様と並んだらフツメンに見えてしまうというレベルですけど。『ハイスペック・ハイ残念』といえども、旦那様の美形っぷりはこの国トップレベルなのです。


なにこれデジャヴ。


これ、どこかで同じこと思ったよな? いつだったかな~? ま、いっか。

もやっとしたものは感じましたが、別に大事なことではないので放っておき、旦那様と騎士様に意識を戻しました。

「いや~、あの作戦を実行できる部隊を探してたんだが、我が軍屈指の実力を誇るという評判を聞いて君たちを指名してよかったよ。他の部隊じゃああも鮮やかに決まらなかっただろう」

「お、お褒めに預かり光栄にございます!」

旦那様が褒めちぎるからか、騎士様はカチコチに固まっています。旦那様に声をかけられて、そんなに緊張するものなのでしょうか? よく見れば他の方々もぎくしゃくとしています。

大丈夫かしら。私が指で突いても倒れそうな感じです。

向こうの緊張に気付いていないのかなんなのか、旦那様はまだ彼らに構おうとするので、

「旦那様、旦那様、部下のみなさんが待ってますよ。美味しいフルーツを持って行ってあげましょう」

クイクイッと袖を引っ張り、振り向いた旦那様の耳元に小声で囁きます。これ以上ここにいたら、コノヒトたち卒倒しそうですからね。

袖を引かれて私の方を見た旦那様は、さっきとは質の違う笑み――ニンマリ、という感じの――を浮かべて、

「そうですね。ああ、そうだ。いい機会だから紹介しておこうか。妻のヴィオラです。ヴィー、この方たちは今回の戦で手柄を立ててくれた実働部隊だ」

と、私を紹介しました。もう何度これをやらされたかわからないくらいこなしてきたので、今更慌てません。先程からいやほど貼り付けている良妻スマイルで、

「ええ、先ほどの褒賞の折に見ておりましたわ。こたびのご活躍、おめでとうございます」

優雅に(見える)ご挨拶をしました。

「い、いえ。ご紹介に預かりこ、光栄にございます!」

また引きつり笑いになる騎士様。あ、そういえば儀式の時にもゼロ円スマイルで引きつられたんでしたよ。


所詮は地味子の良妻スマイル。やっぱりお気に召さなかったようです。ぶーぶー。


今日もありがとうございました(*^-^*)

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[気になる点] >>あまり素敵とは言い難い油ギッシュなおじ様です。しかし嫌そうなそぶりも見せずにキラキラスマイルで応戦する旦那様は、さすがとしか言いようがないですね。 いや見た目が悪いから嫌そうな顔…
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