お邸探訪!
まったく私のキャラじゃないおねだり攻撃で、無理矢理侍女さんたちの食事に混ぜてもらうことになった私。
『奥様のお食事のお時間より少し早いのですが……』
恐縮するダリアに、
『私が無理を言うんですから、気にしないでください』
と満面の笑みで返し、そのまま使用人ダイニングへGO☆ 早かろうが遅かろうが気にしません! ぼっちじゃなけりゃいいんです。
ちょっとここで公爵家の侍女さんについて。
侍女さんは全部で15人います。侍女長のダリアとミモザが私専属で、旦那様付きは6人いるそうです。この6人は3人一組で別棟の旦那様と旦那様の恋人のカレンデュラ様のお世話をしています。一日おきに交代しているそうです。残りの7人はこれから増えるであろう子供(でも私の子ではないのよね~☆)に付くためやお客様が来た時のためにいるそうです。侍女的仕事のないときは、使用人さんたちと一緒に掃除や洗濯などをしたりしているそうです。全員がいっぺんに食事をするといろいろ支障が出ますので、半分ずつ交代制で食事をとります。シフトはその日によって変わるようです。そこはロータスやダリアが決めています。
以上、ダリアからの受け売りでした。
私が正式な食事をしないからといっても、別棟で旦那様やカレンデュラ様はちゃんとお食事をなさるので、賄は素晴らしい食材です。実家ではなかなかお目にかかれなかったものばかりです。これが賄って、贅沢ですよ!! 賄ですら腸内テロが起きそうです。
スープは旦那様たちに出すものと同じなので(だってたくさん作る方が美味しいですもんね)素晴らしいのは当然。パンも同じく。サラダだってやわらかいところ以外とは言いながらも申し分ありませんよ。後、今日はスクランブルエッグのベーコン添え。
それを侍女さんたちとワイワイしながら食べるのです! ああ、幸せです! 美味いご飯がさらに美味い!!
「皆さん、おはようございます。今日からお仲間に入れてくださいませね。お気遣いは結構ですから、いつも通りなさってください」
使用人の場所に入れてもらうのですから、私は着席する前に挨拶しました。
「「「「かしこまりました、奥様!」」」」
みなさん、全然いつも通りじゃないですよね? ま、当たり前ですか。いきなり女主人である私がこんなとこにいるんですから。
「ごめんなさい。私のわがままで皆さんの貴重な寛ぎ時間をお邪魔してしまって。本当に私のことは気にしないでほしいの。できれば奥様なんて呼ばれたくないくらいなのに……」
しゅんとして言うと、
「そんなことございませんよ! 皆、奥様とご一緒できて喜んでおりますから!」
旦那様付きの侍女さんの一人が慌てて言ってくれました。
「そうでござます! まさか奥様がこんなところまでいらっしゃってくださるなんて、驚いているだけですわ」
「昨日の今日なのでまだ緊張しているだけでございます」
他の侍女さんたちも口々に言います。そんな侍女さんたちを見ると、それは本心のように見えました。みな、気立てのいい人ばかりのようです。
「ありがとう。では、いただきましょう」
「「「「はい」」」」
ま、そのうちもっと打ち解けていけばいいか、と思いました。できれば私のことも「ヴィーちゃん」と呼んでほしいくらいなのですが、それは無理な相談ですね☆
侍女さんたちは若い人ばかりだったので、結局すぐさま打ち解けました。でもみなさん私よりも年上ばかりでした。
朝食を終え、私室に戻りますがまた今日も暇です。
お礼状も昨日で書き終えてしまったし。
「う~ん。今日はどうして過ごしましょうか?」
仁王立ちで一人ごちていると、
「今日はお屋敷を案内させていただきますわ」
ダリアがお茶を淹れながら言いました。
「ああ、それはうれしいです! とっても広くて素敵なお屋敷ですものね!」
それってリアルお宅探訪ですよね?! まるでよそ様のおうちを覗くかのようなワクワク感に、私の目がキラキラしているのが自分でもわかります。ああ、でももはや『我が家』なんですけどまったく自覚がございません!
コの字型に建てられているお屋敷は石造りの立派な建物です。ナントカ調の様式が云々カンヌン、ン代前の当主が建てた云々カンヌン。まるで呪文のようなそれらは全くもって興味がないので、見事に耳の中をスルーしていきました。ダリア、ごめんなさい。
でもン代前に建てられたという風には見えない、しっかりと手入れされた綺麗なお屋敷です。実家なんて手入れしたくても先立つものがない不幸ゆえ、あばら家一歩手前だったのに。うう。比較対象にすらなりません。
長い廊下を歩きながら。
「1階がほぼパブリックスペースになっております」
「そうなんですか」
階段を登りながら。
「2階が公爵家のプライベートスペースでございます」
「そうですね。私の部屋も2階にありますものね」
「3階が使用人の住居部分になっております」
「3階ってどうやって行くの?」
メインの階段は2階までしか行けないのです。
「コの字の端に、それぞれ使用人専用の階段がございまして、そちらを使っております」
「なるほどなるほど」
私はお屋敷の隅から隅まで説明を受けながら案内されました。
とっても広くて立派なお屋敷は、どこもかしこもピカピカに磨き上げられていて、使用人さんたちがいい仕事をしているというのがひしひしと伝わってきたのですが。
「なんとなく、寂しいですね」
屋敷の中を一通り案内してもらい、私の部屋で休憩しながらポツリと感想を漏らした私。
ピカピカに綺麗すぎて生活感がないというかなんというか。
「まあ……奥様はそのようにお感じになったのですね」
少し目を見開いた後、慌ててその目を伏せ、顔を曇らせてダリアが言いました。
「あっ! いえ、あの、その、とっても綺麗で皆さんが頑張って美しく保ってくださってる努力をすごく感じましたのよ!」
そんなダリアの変化にアワアワと言い募る私です。そこはかとなくさびしいだけで何も責めてません責めてません責めてません~~~!! 私の失言でした!!
ひ~~~っと涙目になりながら言い繕っていると、
「いいえ、本当のことでございますのよ。何年も女主人が留守ですと、やはり華がなくなるのです。邸は住んでこその邸。女主人どころか、ここ数年はご主人様も別棟でお過ごしでしたので、こちらは寂しくなる一方でございました」
ふう、とため息をつきながらダリアが言います。
確かに、主が住んでいない家は活気がなくなりますよね。
じゃあ私が活気づけていけばいいんですよね。ダリアをこんな暗い表情にさせていられませんよ!
「大丈夫! これからは私がこのお邸を生き返らせますから!」
「まあ、奥様!」
曇らせていた顔をハッと上げて私を見ました。
「みんなと一緒に掃除や飾り付けしたらきっと楽しいわ」
「……え? 掃除? ……奥様が?」
「ええ! 掃除も洗濯も飾り付けも!」
「そ、それは方向性が違うと……」
俄かに慌てだすダリアです。え、なんで? 掃除もしたいですよ?
コテン、と首を傾げながらダリアを見ると、
「ま、まあ。できる範疇で……」
何かを諦めたような顔で言ってくれました☆
今日もありがとうございました!(*^-^*)
そんなに広くないおうちに、家族5人でひしめき合って暮らしていたヴィオラにとって、公爵家は広すぎました☆ やることがないのなら自ら作り出すのです!