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疑惑

私室に戻ったものの先程の侍女さんたちの『シュラバ☆プレイバック』により完全に気力を消耗してしまい、げっそりと疲れていました。

ふらふら~とゾンビのようにベッドに近付くとそのまま何も考えずにダイブし、この心地よさに気力の充填をはかります。

あ~とりあえず落ち着こう。つーか、逆にすっごい落ち着きすぎちゃうわ。

大好物のベッドのふかふか加減に癒されていると、


「奥様、取り急ぎロータスが調べておりますからお気を落とさないでくださいませ」


気遣わしげにダリアが声をかけてくれましたが、気を落としているかどうかと言われればちょっと違うよな……。まあもう少し一人きりにしてほしい気もします。色々考えないといけないことも出てきましたので。

でもお邸にいるとそこらじゅうで侍女さんや使用人さんの目があるので落ち着けません。もういっそ家出してやろうかしらと思ったその瞬間。


おあつらえ向きなところが あ る じ ゃ な い で す か !! 


と、その存在のことを思い出しました。

そうです、別棟ですよ!

どこがどう変わったのかよくわかりませんが、とりあえず私の好みのように素敵改装された別棟は、旦那様からも好きに使っていいと言われていますし、お義母さまからも『プチ家出するのにいいわよ~』とお墨付きをいただいていましたからね。家出しようにも行く当てのない私にはぴったりです。あちらにもこのベッドと変わりない寝心地のベッドもありますし、考えることに飽きれば私好みの本だってあります! レッツ別棟!

そうと決まれば話は早い。私はもぞもぞと起きだして、

「ちょっと別棟に行ってきますね。しばらく一人にしておいてください」

傍に控えていたダリアに告げました。ダリアも別段引き留めるでもなく、ちょっと眉を下げただけで、

「かしこまりました。ではご一緒に参りましてお菓子やお茶の用意などをさせていただきますね」

とあっさり了承してくれました。

とりあえずお仕着せから簡単なワンピースに着替えて、ダリアとともに別棟に向かいました。




いつでも使えるようにしているのか、別棟は埃ひとつなく清潔に保たれていました。こんなとこにまで! と使用人さんの働きに一人で拍手喝采でした。


商人さんがお邸にやってきて爆弾を落として行ったのが昼食後すぐでしたので、今はお茶には少し早い時間です。いつもならば午後もお邸内をうろうろとしているか庭園で雑草引きをしていたりする私ですが今日に限ってはそんな気力もわいてきません。ま、こーゆー日もあるさ、と開き直り引き籠ることにしたんですけどね。

ダリアはここに来る間も相変わらず心配そうにしていましたが、それでも何も言わずにてきぱきとお茶の用意を整えると、

「たまにはゆっくりなさるのもよろしいですね。よろしければ晩餐もこちらに運んできますからおっしゃってくださいませね」

そういうと静かに退出していきました。


久しぶりの一人きりの空間。公爵家に来てからはダリアやミモザだけでなく、必ず誰かが傍にいましたからね~。本来の私のあるべき姿よね、とほっとしたりもします。

私は誰もいないのをいいことにドカッとソファに沈み込み……座り込み一息つきます。

先ほども言いましたがお茶の時間にはまだ少し早いのですが、せっかくですし肩の力を抜いて思いっきりリラックスしようじゃないかと思い、何か飲もうとダリアが用意してくれたお茶セットを見れば、紅茶数種類にハーブティ数種類、おまけに薬草茶まで用意してありました。薬草茶に関しては意味不明ですが、それ以外はどれでも好みに合わせて飲めるようにという心遣いが見て取れて、心がほっこりとなりましたね。久しぶりに母の愛のようなものを感じました。あ、でもうちの母はこんなにも気が利きませんけど。せいぜい『寝れば治る! 解消される!』って笑い飛ばされるのがオチでしょう。


私はカモミールのハーブティを選び、淹れることにしました。


優しい香りのそれをゆっくり飲みながら、これからについて考えましょう。そしてビバ☆シエスタです! 寝れば治ります!(やはり母娘)

早速お茶の準備に取り掛かりました。




小ぢんまりした別荘購入して若い愛人さんですか。でも旦那様のお好みは年上さんだったと認識していたのですが、いつの間に守備範囲を広げられたのですかね。

この噂が本物だとしたら旦那様もマメな方ですよね~。毎日お仕事場からお邸に直帰しながら愛人さんとも密会ですもんね。


……んと? どこに密会などしている時間があるのでしょう??


彼女さんと別れてからはほぼ毎日直行直帰(時間的に考えても)、数少ない休暇をもぎ取ってくればお邸にいたり買い物に付きあわ……こほん、連れて行っていただきでしたし、夜会もここ最近(と言ってもたった二回!)は私と参加してましたしねぇ。

あ、あれですかね! 世の中の貴賤問わずお父様方が『接待で狩りに行ってくるよ』とか言って実は愛人さんと密会していたとか、そういうやつですかね! ……いや、そんなのに参加されてる節はなかったですねぇ?

出張には行かれましたが、それはしっかり騎士団のみなさまによってアリバイが成立しております。

考えれば考えるほどわからなくなってきました。

ということはもはや勤務時間内しかありませんよね! なんと大胆不敵な!! 『見回りに行ってくる』とかなんとか言って時間を捻出しているとしか考えられません。むむ、団長たるものがそんなことでどうするのでしょうか!! あ、団長自らが市中警邏なんてことをするのかどうかは知りませんが。


……あら、私ったらすっかり旦那様がクロだと思い込んで暴走してしまいましたわ。おほほほほ☆


まあ下手な考え休みに似たりです。

とりあえず、お邸を出て行けと言われたら身の回りのものをまとめて出ていくのみですね! 私物なんてほとんどありませんからお気楽なもんです。

後はロータスの報告を待つしかないようですので、ここはひとつ昼寝でもしましょう。果報(?)は寝て待てです。

……私、別棟に何しに来たんでしょう??




結局結論が出たのかどうかわかりませんが、お茶セットを片付けてベッドにダイブしました。

初めての寝床でしたが、私室のベッドと変わりなくいい感じのふかふか加減でしたので、あっという間に夢の中の住人になった私。とか言いながら夢も見ずに爆睡していたのですが、どれくらい経った頃でしょう、不意に体がゆっさゆっさと揺れるではありませんか。しかもかなり大きな揺れです。

「ふええ~? 地震~? お邸は大丈夫そうだけど実家は崩れたらどうしましょう~」

ガバリと起き上がり、寝ぼけた頭で思わずそう口走ると、


「地震ではありませんよ。って、ヴィオラ! 起きてください!!」


私しかいないはずの別棟なのになぜか他人の声。しかも男の人。


……男の人?! いや、この声は旦那様!!


寝ぼけて焦点が合っていなかったのが、だんだん覚醒するにつれて明瞭になっていくその輪郭。


「ふわっ!! 旦那様!!」


この間も同じようなシチュあったなぁ、と思わず現実逃避してしまうくらいに超至近距離に旦那様のお綺麗な顔がありました。


寝覚めの心臓によろしくありませんからこれはやめていただきたいものです……ではなく、目の前にはただ今話題沸騰中の旦那様ですよ。びっくりしすぎてうら若き乙女とは思えない声が出てしまいました。

しかし旦那様はそんなこと気にもせずにグイッと私を抱き起すとそのままお姫様抱っこに持ち込み部屋を出て行こうとされています。

「話はロータスから聞きましたから、とりあえず行きましょう!」

視線は前方を見据えたまま歩みを早められます。いつもの余裕のアルカイックスマイルは見られずきゅっと口を引き結び険しい顔をされていて、そこに『否』を唱えさせるような雰囲気は一切ありません。

ですので拒否はしませんけど一応行先くらいは聞いておかないとと思い、

「え? 今からですか? どこにですか??」

と問い返しました。

結構長い時間ぐっすりと眠っていたようで、もはや周りはすっかり暗くなっていました。むしろ旦那様が帰館されるような時間ですよ。そんな時間だというのに今からどこへ向かうというのでしょう?

「疑惑の場所ですよ!!」

「疑惑? あー……」

そうですか、そこですか。

若干声を忌々しげに荒げた旦那様は、

「馬車で呑気に行ってる場合じゃないので馬でかっ飛ばします。貴女はしっかりと僕につかまっていてください」

そう言ってたどり着いた場所は本館のエントランスの車寄せ。そこには用意周到にもすでに旦那様ご愛用と思しき綺麗な黒馬がロータスにひかれて待機していました。


旦那様の腕の中、横抱きに馬に乗せられて気絶寸前の速度でかっ飛ばすこと一刻。


初めての乗馬でこれはないわ~。これ絶対トラウマになる! ……乗馬の激しさに若干動揺しております。

旦那様に抱き下ろされて立とうとしても足がガクガクして上手く立てないんですから! 飛ばし過ぎでしょ!

ふらついたのを見るとやっぱりまたお姫様抱っこに逆戻りしましたけど。

どうせ立てないんだからもういいわ、と開き直ったところで『ココは何処だ?』とあたりをきょろきょろと見渡したんですが、いかんせんすっかり暗くなっているのでまったくわかりません。お邸からもずいぶん遠くへ来ています。今私たちが立っているところの前に小さな家があり、ちょっと離れて家々が点在しているのが窓からこぼれてくる光でわかるくらいです。


ここが商人さんが言っていた例の『王都の端っこ』なのでしょうか?


「あの~? ここが疑惑の場所、ですか?」

恐る恐る旦那様に問えば、

「そうです。これから先はかなり重要な秘密の場所になるので貴女もそのおつもりで」

との答えが返ってきました。しかもまだ真面目なお顔のままですし。『かなり重要な秘密の場所』って、ものすごく意味深なんですけど?

「そんな重要な場所に私なんかを連れてきてよかったのですか?」

「貴女だからこそ、です。貴女は大事な秘密を軽々しく他人に洩らしたりしないでしょう?」

「はあ……まあ……?」

ここでようやくいつものキラキラしい微笑みを見せた旦那様。それまでのピリピリした雰囲気が和らいで、ようやくほっとしました。

しかしものすごい買いかぶられているようなんですが。軽々しく洩らすも何も、ほとんど外部と接触ないんですから洩らしようがないんですけど……。まあもともとそんなおしゃべりじゃないですよ? それは大丈夫です。でもこういうふうに言われちゃ、絶対他言できませんよね! 上手いなぁ、旦那様。

「じゃあ、行きますか」

そう言って旦那様は少し周囲を伺う素振りを見せてから、目の前の小さな家に歩を進めました。




いきなり愛人さんと直接対決か!? いやそもそも旦那様から何も説明されてないよなぁと思いながらも家の中に入ると、そこは小ざっぱりとしたリビングのようでした。そこには6,7人の人たちがすでにいました。外からはこんなに人がいるようには見えなかったのでびっくりです。


壁際に控えるのは使用人さんのような服装をした男の人たちと、侍女さんらしき女の人。

そして、ソファに座っているのは豪華なドレスを着た美しい若い女の人。


皆さんの視線が私に一斉集中しているのが感じられます。

一方の私はまだ旦那様に抱っこされたままの状態。なんでしょう、こんな状況なのになぜかものすごく生温か~いものを感じます。

しかしこれは疑惑確定ですよね?! この状況、どう見ても旦那様はクロですですね!! 

そしてどう見てもどこかの高貴な身分あるご令嬢にしか見えない女の人。


これは私のお役御免で決定ですね!



今日もありがとうございました(*^-^*)

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