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気が合った!?

びみょーにテンション低めの旦那様と通常運転の私に見送られて、義父母は朝食を一緒にとってから、

「またくるね~! 今度はもうちょっと早目に連絡入れるから!」

とものすごくいい笑顔で帰って行きました。そこは物凄く大事なところなので是非とも気を付けていただきたいところです。抜き打ちはんたーい!

まったく、何をしに来たのでしょうか? 相変わらず旦那様のお仕事のことや公爵家の領地のことは一切関知させていただいていませんのでよくわかりません。旦那様もロータスも『気にしなくていい』と言いますので。

ロータスも交えてのお話だったので重要なことではあると思いますが、それにしても短い滞在でしたね。

「もう少し滞在なさるかと思っていたんですけど」

「まああの人たちも忙しいのでね。あれでも。でも近いうちにまた来るんじゃないですか? いたく別棟をお気に召していたようですから」

隣に並ぶ旦那様を見上げて私が問えば、帰ってきたのは苦笑とそういう答えで。別棟にお泊りならば大丈夫でしょうけど、念には念を入れて次回はいの一番に簡易ベッドの搬入をしてもらっておきましょう!

「ヴィオラのために改装したっていうのに、母上は……まったく……」

ブツブツとつぶやく旦那様は華麗にスルーの方向で。




それからはまたいつもの平和な(?)日々が続いていました。


フルール王国王都ロージア。本日は雨なり。

雨です。いつもの雨レッスンの日です。

朝目覚めた時に聞こえる『ザー』という雨音にテンションが一気に下がります。曇天と相まって、ずずーんとブルーになるのです。

そんな私の心とは裏腹に、

「おはようございます! 今日は雨ですよ、奥様! さ、ドレスに着替えましょうね! 今日は何色のドレスにしましょうか。やはり明るいお色目で気分を盛り上げていきませんとね」

なんて雨なのに明るく弾んだ声で私を起こすミモザ。

「うう、今日は頭が頭痛だわ。お腹も腹痛だし」

よよよ、と倒れ込み仮病を装ってお布団を頭から被っても、

「何をおっしゃっているんですか~! すっごいお顔色もよろしいですよ~」

とまったく取り合わず、布団を容赦なく引っぺがしてから衣裳部屋に消えていきます。お仕着せではなくドレスを着せられること・ダンスレッスンの後目一杯私をもみくちゃ……もとい磨き上げられることに、ミモザはうれしくて仕方がないそうです(ダリア談)。見るからにウキウキしているので私も何も言えませんが。

そうです。今日も朝からロータス鬼教官のダンスレッスンなのです。

かなり腕前を上げてきたと褒めてはいただいていますが、さらなる高みを目指すべくレッスンは欠かさず行われてます。高みってどこさー? ちっともそんなもん目指していないのですが、レッスンの時のロータスは普段と違ったオーラが出ていますので怖くて言い出せません。チキンですが何か。

「今日は旦那様がお休みだそうで、お邸にいらっしゃいます。ダンスのレッスンをご覧になるそうですよ」

往生際悪くのろのろとベッドから這い出しているとダリアがそう告げました。

「ああ、そんなことを昨日の晩餐の時におっしゃっていましたね。レッスンのことは聞いてませんでしたけど」

「日ごろの成果の発表だと思われてはいかがですか」

とかダリアは言ってますが、このために頑張っていたのか、私?! ……何か違う気がするのですが……。

「はい、まあ、がんばります」

これが『さらなる高み』ではないとは思いますがやるしかないのでしょう。




ミモザチョイスのコーラルピンクのかわいらしいドレスに着替えてメインダイニングに向かえば、旦那様はすでに着席されていました。今日はお休みなので騎士様の制服ではなく普段着です。さりげに見れば例の外出デートの時に買っていた服です。その場しのぎ的に適当に選んだものですが(ごめんなさいね~☆)、モデルがいいと何でも素敵に見えるんですよね~。一番オーソドックスなタイプを選んだはずだったんですが、そうは見えません。うう、うらやましいです。それはどうでもいいとして、ダイニングに入ってきた私にニコリと白い歯を見せて、

「おはよう。せっかくの休みなのにあいにくの天気ですね。晴れだったらまた外出するのも楽しいかと思ってたんですけど」

爽やかすぎて旦那様の周りだけが青天かと思いましたよ……じゃなくて。でもまた外出デートだと浪費しまくるでしょうから、やっぱり雨でよかったのかもなんて思ったりします。

「おはようございます。このように雨模様でしたら旦那様は退屈でいらっしゃいますでしょう」

私は予定がぎっしりですけどねっ! 主に受け身的な方向で。

しかし旦那様は私のちょっと重めな気分とは反対に楽しそうに微笑んで、

「いえいえ。今日はダンスのレッスンがあるというので楽しみにしているんですよ」

とかおっしゃってますし。

「……ご期待に添えるかどうかはわかりませんが」

やっぱり雨の日は気分が重いです。




「タン・タン・タン、タン・タン・タンのリズムで」

パンパンパンと小気味よく刻まれる手拍子に合わせてステップを踏みます。

今はステップの練習なので一人で踊っています。ぜぇ、はぁ、はぁ、とリズムに合わせて息が上がりますが、そこは優雅な社交ダンス、笑顔で誤魔化さねばなりません! がんばれ私!


ここはダンスの練習場。そんなものがあるのですか、贅沢ですね~と言いたいところですが、普段はこうしてダンスのレッスン場になっていますがいざとなればオーケストラがここで演奏してパーティーを盛り上げてくれる場所になるのです。すごいですね~考えられてますね~、とどうでもいいことを考えて現実逃避。ほんとは膝に手をつきゼハゼハと肩で息をしたいところなのですが、そんなことをするとロータス鬼コーチの檄が飛んできますし、ましてや今日は旦那様というギャラリーもいますのでできるわけがありません。根性で踏ん張ります!

先程から同じステップを嫌というほど繰り返しています。ロータスの要求は回を重ねるごとに高くなり、もはや最難関レベルに達していると思われます。何もここまで極めなくても~と思っていても口にできませんので、ひたすら練習あるのみ。

シャキンと背を伸ばし笑顔の仮面を貼り付けて頑張っていると、

「僕が相手をしよう」

と、それまで涼しい顔で見ていた旦那様がやおら立ち上がりました。

「そうでございますね。旦那様も久しぶりに練習されるのもよろしいかと存じます」

ロータスもニコリと笑って同意しましたので、旦那様はフロアのセンターで私の手を取りスタンバイします。

私の手を取り颯爽とスタンバイする旦那様。そのお綺麗さにボケッと見惚れてしまいそうになります。

旦那様が踊っている姿は王宮での夜会とアルゲンテア家の夜会と二度ほど見ましたが、やはりお上手でした。ですから恥ずかしいところをお見せするわけにもいきません。結構ヘロヘロですが目一杯頑張らせていただきます!


ダリアがピアノでダンス曲を弾いてくれるのでそれに合わせて踊りだしました。




「旦那様、かなり鈍っておいでですね」

「うっ……」

「奥様、背筋」

「はいいい!!」

「旦那様、ステップ!!」

「わかってる!」

「奥様、笑顔」

「ひええ~~~」


十数分後。

ロータス鬼コーチの指導が容赦なくバシバシ入ります。

私からすれば旦那様は完璧に見えるのですが、鬼コーチからすれば『腕が落ちましたね』とのこと。バッサリあっさりダメ出しの連続です。


鬼コーチの手拍子とダリアのピアノに合わせてもうどれくらい練習したでしょう。今日のロータスは一段と厳しい気がします。

旦那様と二人、朦朧としながらも必死にステップを踏んでいると、


「お昼の用意ができております」


という、レッスン場まで呼びに来てくれた侍女さんの声でようやく練習はお開きに。侍女さん、救世主っ!!

「旦那様はまた練習が必要でございますね。奥様は随分と上達なされました。では私は先に参りますので、旦那様と奥様は後からおいでくださいませ」

私は褒めて、旦那様はばっさり。ロータス先生はいい笑顔でそう締めくくると先にレッスン場を後にしました。


先程までの厳しい雰囲気が溶けて、緩慢な空気の中。


「今日もなかなかにハードでございました……」

「そうだな……」


旦那様と私は汗だくになってソファーでぐったりです。すっかり背中合わせで持ちつ持たれつ愚痴を吐いております。

「旦那様でもダメ出しなんですね~。ダンスって奥が深いですね~」

「ロータスは厳しいですからね」

くくく、と旦那様が笑ったのが背中越しに伝わってきます。

「ダンスの時はまさしく鬼ですね~。旦那様はずっとロータスにダンスを習っていたのですか?」

「そうですよ。物心ついた時にはロータスにしごかれていました」

「あ~。しごきという言葉がよくあてはまりますね~」

「ははは。貴女もそう思いますか」

「思います思います」

「でもあのレッスンについて行けたらどこでも恥はかきませんよ」

「そうですね。身に染みて思います」

「ほんと、あのロータスについていけている貴女はすごいですよ。乾杯です」

「そうですか?」

「ええ」

褒められました。素直にうれしいです。

「今日の感じだと、また僕もレッスンさせられそうですね~」

「ソウデスネ~」

「まあ、貴女と一緒なら辛くても楽しいから良しとしましょうか」

「そうですか~?」

私がそう答えた途端に背中から旦那様の重みが消えました。おっと、急に退かれてはひっくり返ってしまうではありませんか。

くっと腹筋に力を入れてひっくり返るまいと頑張っていると、ふいに支えられる私の肩。驚いて見上げれば、今まで背中合わせにいた旦那様がこちらに体を向けていました。

そして私の瞳を覗き込み、甘く微笑みながら一言。

「また一緒に練習してくださいね」

「は、はあ……。私でよければ……」

そう答えるしかありませんよね~。


ダンスレッスンの時のロータスに関して、みょ~に意気投合した旦那様と私でした。こんなに気が合ったことなんて初めてですよ。


今日もありがとうございました(*^-^*)

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