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企みクラッシャー

しばらくして旦那様たちがサロンに顔を出しました。どうやら話が終わったようです。

「ヴィー? どうしたんですか?」

私の様子がおかしいことに気付いたらしい旦那様が顔を覗きこんできました。

まさか宝石もらって顔色変えているなんて言えるはずもなく、

「とっても素敵すぎるプレゼントをいただいたので、驚きすぎてしまいましたの~おほほほほ~」

そう言って手に持っていた箱を旦那様に差し出すと、それを受け取り中の宝石をつまみ出し矯めつ眇めつあらゆる角度から眺めてから、

「ああ、これは見事なピジョンブラッドですね! こんな上物は久しぶりではないですか?」

なんてお義父さまに向かって嬉しそうに話していますけど、それってやっぱり最高級品なんですね! ますます豚に真珠ならぬヴィオラにルビーですよ!

箱から取り出して光に翳された石はとても大きく濁りのない赤い光を放っています。

「王宮や商人に売るのもいいけど、これは是非うちの可愛いお嫁さんにつけてもらいたいねって、うちの奥さんが言うから今日の手土産に持ってきたんだよ」

お父様は柔和な微笑みを湛えておられますが、私はますます引きつります。王宮に献上できるほどものっそい貴重な石なんですよね?! それ聞いただけでもめまいがします。手土産とかいう範疇を軽く超えていってると思うのですが?!

「この大きさだと首飾りだけでなく耳飾りも作れますね。――ミモザ、宝石商を呼んでおいてくれ。これを加工させよう」

「かしこまりました」

旦那様の一言で、ミモザは宝石商を手配しに嬉々としてサロンを出て行きました。こういうことには素直で素早い行動です。


「ではそろそろ行くとするか」

「そうですね」


お義父さまも旦那様もサロンに顔を出してそんなに時間も経っていませんが、そろそろ王宮に行く時間なのでしょう、ソファに座って寛ぐことなく出かける準備を始めました。




「いってらっしゃいませ」

エントランスにお義母さまと並んでお見送りです。

今日は早く帰ってきますね、と旦那様とお義父さまは言い残して王城へと出仕されました。




お留守番になった私とお義母さま。

午前中は『別棟が改装されたって聞いたわ~! 見てみたい~』とのご要望が出ましたので別棟を案内させていただきました。どこがどう変わったとかは私にはわかりませんが、お義母さまは『前よりもナチュラルで落ち着く感じになっているのね。とっても素敵よ!』とお気に召したようです。『今度はこちらに滞在してもいいわね~。あ、そうそう、ヴィーちゃんも一人になりたくなったらここに籠っちゃえばいいのよ! 私もよくやったわ』ともおっしゃっていました。ふむ、そういう使い方もあるのですね! 参考にさせていただきます。

午後になると何とも素早いことに宝石商がやってきました。今朝連絡して午後にはもう来てくれるって、どんだけ破格の扱いなんでしょう?!

いそいそとやってきた宝石商のオーナーですら手が震えるほどの上物らしいです。まあオーナーの場合は私と違って感動で打ち震えたのだそうですが。

ここからはお義母さまとミモザが張り切ること張り切ること!

意匠から他の石との組み合わせなど、それはそれはウキウキと打ち合わせています。あまりにみなさんが楽しそうなので『もう好きにして~』と放置プレイで見ていたら、『これに合うドレスも作っちゃいましょうよ☆』なんてお義母さまがトンデモナイ方向に行きかけたので慌てて止めに入りましたが。この人たち、放っておいたらいけませんね!


そうこうしているうちに夕方になり、旦那様とお義父さまが王城から帰ってこられました。




「今日は二人で何をしてたんだい?」

晩餐の席でお義父さまが私たちに聞いてこられました。

「改装したっていう別棟を見てきたわ! とっても素敵になっていてよ! 長期滞在になったらあちらに泊まるのもよさそうよ?」

お義母さまが弾んだ声でお義父さまに報告しています。私的には長期滞在するような予定があるのかというところにツッコミを入れたいところでしたが、まあ別棟なら問題なしでしょう。

「そうですね。かなり思い切って手を加えましたので以前の面影はなくなっていると思いますよ。父上もきっとお気に召すと思います。どうぞ滞在の折にはあちらをお使いください」

「ほう、そうかい。まあまた見せてくれ」

フィサリス親子で話が盛り上がっています。別棟がどう変わったとか私にゃ判らないことですから? 私は黙々とお食事に専念させていただきましょう。

今日はワール地方の郷土料理をアレンジしたもののようです。ワール地方は海が近いので魚介類を使った料理が多く、素材を生かしたシンプルな味付けが特徴なのです。まあぶっちゃけて言えば粗食に限りなく近いのです。ですからこうやって晩餐の席に出されても私がテロリストに屈服することもありません。盛り付けも少量で、カルタムや厨房ズの気遣いをジンジン感じます。ありがたや。

白身魚のグリルうまー。付け合せの温野菜うまー、と一人ほっこり料理を味わっていたら、

「じゃあヴィー、父上も別棟に案内してくださいね」

と旦那様に突然振られてたので、危うく温野菜で窒息してしまうところでした。


その後は宝石商とのやり取りの話です。お義母さまがものっそい張り切って瞳を煌めかせながら意匠のことやなんやかんやを熱く語っておられたので、私は傍観させていただきました。




和やかに晩餐も終わり、食後のお茶も終えて今日はもうお開きにしましょうということになりました。義父母も今朝着いたばかりですし、お疲れでしょうということです。

義父母、旦那様に続いてサロンを出ようとしたところで、

「奥様、ちょっと」

と、声を潜めたダリアに引き留められました。

「あら、何でしょう?」

私も立ち止り声を潜めて答えます。

「実は、今日一日ロータスさんも使用人一同もバタバタとしておりまして奥様のお部屋に簡易ベッドを運び込む時間がなかったのです」

申し訳なさそうに耳打ちするダリア。

「えっ? ベッドがないの?」

「申し訳ございませんがそうでございます」

朝からロータスは旦那様とお義父さまと一緒に何やら打ち合わせをしていましたし、その後も食材の手配やら飲み物の手配やらで忙しくしていましたからね。使用人さんたちも、昨日の宴会の片付けとお客様が使われたお部屋の掃除や片付け、それに並行して今日の準備と、目の回るような忙しさだったようです。

それに第一、簡易ベッドのような大きなものをお義母さまに見つからないようにこっそり倉庫から寝室に運び込むのも至難の業です。

そういう諸事情が積み重なって、簡易ベッドは搬入されなかったということでした。

「むぅ……。かくなるうえはソファでお休みなさいですね」

腕組みし唸るように言った私に、

「それはおやめくださいませ!」

きっぱりと言ったダリアでした。


「……というわけで簡易ベッドが搬入されていません。申し訳ありません旦那様」

義父母を客室まで送って、私室に戻り。私は旦那様が『簡易ベッドは?』と言い出す前に先程ダリアから聞いた説明を繰り返しました。

「別に貴女が謝る必要はないですから。では今日はベッ……」

「確認しなかった私もいけませんので、私はソファで寝させていただきますね!」

旦那様が言い終えないうちに私は言わせていただきました! このソファだってふかふかですから寝心地はいいんですよ! うたた寝で実証済みです。ん? なぜに旦那様肩を落としてます?

しかしそんな落ち込んだ様子もあっという間に復活してきて、

「貴女をソファなどで寝かせられるわけがないでしょう! それなら僕がソファで寝ます!」

なんておっしゃいますが、まさか旦那様をソファで寝かすなどできるはずもありませんよね? 旦那様がソファで寝たら確実に足がはみ出ちゃう! ……とかそんな理由ではなくて。

「まさかまさか! 旦那様はベッドをお使いくださいませ! 私はソファで充分ですし、なんでしたら床でも……」

「貴女がソファで寝るなら僕が床で!」

って、また食い下がってきました。じゃあベッド空いちゃうよ? とかいうツッコミは置いといて、今日はやけにしつこ……粘りますね。

「旦那様をベッド以外で寝かせられるわけがございませんのに……」

呆れてため息をつけば、


「じゃあ貴女もベッドに寝ればいい話ではないですか!」


とーーーってもいい笑顔で言うのはやめてください。




ここは私が折れましょう。

ええ、このベッド、無駄に広いのが自慢ですよ。五人くらい余裕で寝れちゃいますよ。だからたった二人くらいじゃ余裕も余白もありまくりですよ。

「ワカリマシタ。ではこの真ん中のラインから向こうは旦那様で、こっちは私ということでよろしいですか? ご一緒で申し訳ないです」

私は紐を調達してきてベッドの中央辺りに置き、線を引きました。きっちり真ん中あたりにねっ!

「そんな線を引かなくても……」

いい年した男の人が可愛らしく口を尖らせないでください。

「いえいえ。間借りさせていただくのですから! 寝相はいい方なのでそちらになだれ込むことはないと思うのですが」

「間借りって……」

「う~ん、これでもなんか足りない感じですね~。あっ! そうだ! ミモザっ!」

ふと思い出したものを持ってきてもらおうとミモザを呼び、

「…………ね! お願い」

こっそりと耳打ちすれば、

「かしこまりました。ただ今お持ちいたしますね!」

そう言って大きく肯いてから踵を返して部屋を出て行きました。


その間に湯あみも済ませ寝支度を整えました。もちろん旦那様は今回も自室で湯あみです。その辺りは前回同様の取り決めのままです。ここにグレーゾーンは一切存在しません!

旦那様が自室に戻っている間にミモザが例のブツを持ってきてくれました。それを先程の線上に配置して準備OKです。

「これなら物理的障害っぽくてよくない?」

満足げにそれを眺めながらミモザに言うと、

「はい! これはいろいろと障害になりますね!」

うんうんと頷いてくれます。いろいろの意味は敢えて聞きませんが。

私とミモザがそれを見ながらひそひそと話をしていると旦那様が寝支度を整えて自室から戻ってきました。

そして、ベッドの上のブツに気が付き一言。


「……シャケクマ……」

「はい! これなら寝返りを打ってもぶち当たるので旦那様の陣地に不法侵入しなくて済むと思いましたの!」


そう。境界線上に配置されたのは何を隠そう結婚祝いにいただいた、あの熊がシャケを咥えた置物です。しばらく倉庫で眠っていたのをふと思い出し今日のお目見えです! 役に立ったよ、どこぞのお貴族様!

「今日もお疲れ様でございました。もうお休みになられますよね?」

「……はい」

「では、おやすみなさいませ!」

「おやすみなさい……」

旦那様に就寝のご挨拶をして、私はいそいそと自分の陣地の布団に潜り込みました。

旦那様もお疲れになったのでしょう、黙々とご自分の陣地に横になられました。




翌朝。

旦那様は境界線ギリギリのところでシャケクマを抱いて眠っておられました。それ、木彫りですけど抱き心地はいいんですかね?


今日もありがとうございました(*^-^*)


企みはあっけなく玉砕。……って、何が企みだった?!w

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