愛されてます!
誰に?w 閑話的な感じで(^-^)
とっても気に入った鉢植えは、庭師さんたち3人がかりでエントランスに運ばれていきました。そして今は何も置かれていない台座に鎮座することに。
ぽっかりと空間しか載せていない台座を見ているといつまでも良心が痛むところでしたが、鉢植えの緑がその空間を埋め、なおかつ私の心を癒しくれます。一粒で二度おいしいとはまさにこのことですね!
ここには他にも以前から私が花瓶に花を活けていますので、緑が増えてなかなか温かい雰囲気のエントランスになりました。
ちょっと離れたところからエントランスホールを眺めて、
「緑が増えてやはりいい感じになりましたね!」
横に並び立つ旦那様を見上げると、
「そうですね。貴女にも喜んでもらえたしよかったです」
濃茶の瞳を細めてふわりと微笑む旦那様です。
それからダイニングに行き朝食をとった後、いつもどおりに旦那様をお見送りしました。
旦那様をお見送りした後はすぐさまお仕着せに着替えていつもの行動を開始です。やっぱり体を動かしていないと気がすみません。
今日は大人しく厨房でシルバーのカトラリーを磨くことにしました。これなら破壊することもありませんしね! 艶出し専用の磨き布で磨いていくと、だんだん細かな疵がとれてきて、まるで鏡のように周りを映しこんでいきます。そんな変化がうれしくてカトラリーだけでは飽き足らず、シルバー製のお皿やお盆に至るまで、ちょっとストイックなまでに磨きこんでしまいましたが。
私がちまちまと作業をしていると、手すきの侍女さんたちが、
「私たちにもお手伝いさせてくださいませ~!」
と寄ってきてくれたので、おしゃべりしながら作業することになりました。
「旦那様、いろいろお考えになっておられたみたいですよ~」
和気あいあいと作業をしていると、ふいに侍女さんが振ってきました。何を旦那様が考えたのか、最初思い当たらずにキョトンと発言した侍女さんを凝視してしまいましたが、によによしている侍女さんを見ていると、言ってるのはエントランスの鉢植えのことだなと思い当たりました。
「いろいろ? ああ、鉢植えのことですか? いきなり温室に連れて行かれるから何事かと思いましたよ」
しかも超至近距離で寝起きの間抜けな顔を見られたし? ああもう、思い出しただけでも赤面ものです!!
「そうですわ。空いた場所に新しく置物を買おうと言ったら奥様に断られたとかなんとかで、代わりに何をしたらいいのかロータスさんと真剣に相談されていましたよ」
侍女さん、こちらを見ながら生温かく微笑むのはやめてください。確かに旦那様の申し出は速攻お断りしましたよ。だって旦那様のことですから、また目ん玉飛び出るくらいに高価なお飾りを買おうとか言い出しかねませんからね。置物を壊したのは確かに私ですが、私のせいでいらぬ浪費するのは断固阻止せねばなりません!
「ダリアさんにも聞いてましたよ? 奥様がどんなものがお好きなのかって」
もう一人、一緒に作業している別の侍女さんが言いました。
「私の好みですか~? 派手でもなくて高価でもなくて地味なもの、かしら?」
確かに私の好むものを一言で表せば地味。四文字熟語で言えば質実剛健てとこでしょうか? ううこれ、まだうら若き乙女の好みとは思えませんね。また自分で言っててちょっとへこみます。
「全然地味ではございませんわ。かわいらしくてほのぼのとしてしまいますよ!」
私の発言にかぶりを振りながら侍女さんが言うと、他の侍女さんやミモザも『うんうん』と力強く頷いています。地味=かわいらしくてほのぼの。モノは言い様ですね!
「奥様がいろいろとお邸内を変えてくださったから、お邸も若々しく明るくなりましたしね」
「活気も出てきましたし」
「もはや奥様はこの公爵家にとってなくてはならない存在ですのよ!」
「「「ね~!!!」」」
ミモザと侍女さんたちが顔を見合わせ声を合わせてきゃぴきゃぴしています。
何だか異様におだてられている気がするのですが……?
お昼の賄時間。
「なんだか今日は人が多くありません? てゆーか、ほぼ全員そろっているような?」
私はいつもの三倍くらいの人口密度を誇る使用人ダイニングをぐるっと見回しながらつぶやきました。いつも一緒にご飯を食べる侍女さんから、なんとベリス以下庭師さんご一行までいるのです!
なぜそんな普段の倍以上の人口密度なのかというと、いつもは必ず交代制で食事をとるところが、なぜか今日は一時に全員集まっているからなのです。そもそもこの使用人さん専用のダイニングルームは広いですし、ダイニングテーブル自体も大きくて立派なものなので、使用人さんが全員そろっても座れないことはありません。まあ多少の狭さは否めませんが。ちなみに厨房組は調理台からこちらを向いて座っています。
「たまにはこういうのもいいのでは、と使用人たちが申しますので」
と説明してくれたのはロータス。そう、ロータスまでもが今日は一緒なのです。いつも侍女さんたちと一緒に食べているので、ロータスと一緒になったことはありません。てゆーかロータスが食事をしているところなど見たことないですね~。これは本当に非日常です。これから使用人さんの宴でも始まるのでしょうか?
「誰かの誕生日とか?」
「いえ。特にそういったことではございません。強いて言えばただみなで楽しく食べたいだけ、と申しましょうか」
今だ訝しむ私にロータスが微笑みながら言いました。
「う~ん、まあ、楽しそうだから深く考えないでおきます! さ、今日のお昼は何かしら~」
考えることはやめましょう。こんなに大勢で食べられるなんてとっても楽しそうです。ちょっとワクワクしながら料理が出てくるのを待ちます。
厨房の方を覗きこむようにして待ち構えていると、
「お待たせしました、マダ~ム! 今日はタウラスのひき肉を使ったワール風パスタでございますよ!」
そう言ってカルタムが湯気の立つ出来立て料理を運んできてくれました。目が合えばパチンとウィンクは忘れていませんが、先日旦那様に『ヴィオラ接触禁止令』を出されてからというもの、恒例のスキンシップはなくなりました。ちょっとさびしいとか思ってませんよ?
先程ぐいぐい磨いたピッカピカのスプーンとフォークを手に、食い入るように皿を見つめれば、香ばしい香草の香りが食欲を刺激してきます。
全員に皿がいきわたったところで一斉にいただくことにしました。
普段からも侍女さんと楽しく食事をいただいているのですが、今日はいつもにも増して大所帯。
「ソースとって~!」
「オレ、お代わり~」
「おいし~~~!!」
などなど、ワイワイガヤガヤ。まるで大衆食堂のようです。その雰囲気が楽しくてニコニコしていると、
「奥様、楽しそうでよかったですわ」
とダリアが微笑んでいました。
「ええ、なんだか大家族になったみたいですもの」
クスクス笑いながら答えると、
「そうですわね」
と言ってさらに目を細めるダリアでした。
昼食以降も、
「奥様、先程出入りの商人から美味しいお菓子をいただきましたの。よろしければお召し上がりになりませんか」
とか、
「美味しい薬草茶が入りました。いかがですか?」
と、とっかえひっかえ侍女さんや使用人さんたちが私のもとを訪れてきました。
とってもニコニコと勧めてくれるのでこちらとしても断りがたく、総てのお菓子やお茶をいただいていると、夕方には満腹かつ水分でお腹がちゃぽちゃぽになってしまいました。あ、お菓子やお茶ではテロリズムは活動しないので大丈夫ですよ!
とどめにベリス自らが、
「綺麗に咲いていたので」
と言って小さな黄色い花を咲かせた名もない野辺の花を、かわいらしい素焼きの鉢に植え替えて持ってきてくれたのには驚きすぎてとうとう固まってしまいました。
「……今日は何? 何がどうしたの?!」
へなへなと私室のソファに座り込みそのまま横になれば、
「何でもございませんわ」
ダリアが苦笑しています。
「いいえ、いいえ、そんなことないわ。きっと私追い出されちゃうのよ。最後だからみんなして優しくしてくれたとか?!」
普段からみなさんとてもよくしてくれているのですが、今日は異常です。
集いのように昼食をとったり、やたら滅多に構われたり。挙句の果てにはあのぶっきらぼうベリスまで花をくれたり。いやこれは追い出されるという生ぬるい感じではありませんね。むしろ私、絶命?! 絶命しちゃうのか?!
自分の至った結論に恐れおののき、頭を抱えてのたうちまわっていると、
「そんなことございませんよ。みな奥様が帰ってきたことを喜んでいるのです。むしろご実家に帰られている間、このままこちらに帰ってこなくなってしまったらどうしようかと気が気ではなかったようでございますから」
ダリアはやれやれとばかりに大きく息をひとつはいてから、静かに私の横にひざをつくと、優しく私の背を撫でて教えてくれました。
「実家に?」
「ええ。やはりご実家は居心地がよろしいでしょう? そのまま里心がついてしまったらどうしようかと。それほどみな、奥様をお慕いしているのでございますよ」
顔を上げるとそこには優しく微笑むダリア。
そうなの? そうなのか? ちょっと、いやかなりうれしいかもです。
「うう~、そう言ってもらえれてうれしいです~! 私、みんなに出て行けと言われるまで出て行きませんから!!」
力強く居直り宣言です!
「ええ、そうしてくださいませ」
出て行けなど言う訳ございませんでしょう、と笑いながらダリアは言いました。
なんか、私、使用人さんたちに愛されてるって感じがしました!!
今日もありがとうございました(^-^)
使用人さんたちに愛されているヴィオラでした♪




