表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/237

帰りましょう

旦那様から三行半りえんじょうではなく恩赦をいただき心底安堵し、なおかつ実家の気安い空気で気力体力満タン充電です。もちろん睡眠不足もすっかり解消できましたよ。やっぱりちょっと硬めのベッド(安物とか言わない!)は落ち着きました。伊達に長年ご愛用してません。夢も見ず爆睡できました!

そして何よりかわいい弟や妹とも久しぶりにゆっくり過ごせましたし、お母様ともたくさんおしゃべりができました。まあそりゃあ心配をかけてはいけないので色々端折らせていただきましたよ? 特に彼女さんの話とかはね。私、完全復活です!


夕飯をお父様抜きの家族全員プラスうちの使用人数名とミモザで和気藹々といただいてから、居間でゆっくりと食後のお茶を楽しんでいます。迎えに来ると言っていた旦那様がまだ現れないので。昨日の旦那様の勢いだと早退しかねない感じだったのですが、どこかで誰かに引き留められているのかもしれませんね。

「みなさんとってもいい人ばかりでよかったですよ。貧乏人の小娘がーっていじめられたらどうしようかと思ってましたが」

「一応の行儀作法しか身につけさせてやれなかったから粗相ばかりして皆様にご迷惑をおかけしてるんじゃないかと心配してたんだけどね。よかったわ~」

それを聞いてにっこりほほ笑むお母様。うん、ちょいちょい毒を挟んでくるあたりさすがお母様ですね! 地味にズキズキ痛みますがスルーしていきましょう。

「お邸だってめちゃくちゃ広くて立派だし、そうだ、今度お母様たちも遊びに来てね!」

「ご招待してくれるの? うれしいわ!」

「ぼくも行きたい!」

「わたしも~!」

「旦那様にお願いしておくわね。それにお庭も迷子になっちゃうくらい広くて素敵なのよ! そうそう、ミモザの旦那さんが庭師長なんだけどね、庭師の腕も素晴らしいし本人もかっこいいんだけどちょっと強面な人でね~」

「それって、ベリスさん?」

「うえ?! お母様、ベリスを知ってるの?」

コテンと首を傾げて聞いてくるお母様に、私は驚きを隠せませんでした。なぜに温室の魔王様ベリスをご存知ですかお母様!?

「知ってるも何も、うちの庭を手入れしに来てくれたのはベリスさんよ!」

ねーっと言いながらミモザの方を見るお母様。私は初耳なこの事実、

「そうなの? ミモザ?」

とミモザの方を見遣れば、

「ええ、そうでございますわ」

得意気に微笑むミモザ。何気にまた惚気られました。ああでも納得です。

「だからとっても素敵な垢抜けた庭になってたのね~! さすがはベリスだわ。野草庭園をちゃんとした庭にしちゃうんだから。一体どんな魔力を……」

「使ってませんよ、奥様」

妄想に走りそうな私をじと目で見るミモザ。

「そうね」

雑草だらけの庭に向かってバサッと漆黒のマントを翻して……なんていう妄想をぶった切り、つつーっと視線を逸らす私。

そうそう、魔法なんて使えませんよ! 技術です、センスです、人力です!

「……こほん。でも私の知らないうちにこんなに実家をよくしていただいていたなんて、旦那様にはお礼を言っても言い足りないくらいですね~」

ユーフォルビア家にとっては神様仏様救世主様ですね! 借金も返してくれておうちも綺麗にしてくれて。借金のことは契約なので当然知っていましたが、実家の修繕のことまで気を使ってくださっていたなんて知りませんでしたから、私の中の旦那様株は急上昇です。

「そうよ、ヴィオラ。これからもしっかりと公爵様にお仕えするのですよ!」

「はいっ!」

掃除洗濯家事育児、できることは何でも頑張りますっ! って、育児はないか。私が心の中で決意を新たにしているというのに、

「間違っても物は壊さないでちょうだい。弁償しないといけないようなことはやらかさないでね」

ぐさぁっとお母様がくぎを刺してきました。笑顔なのが怖いです。

「……はい」

もう傷を抉らないでください、母よ。せっかく気分が浮上してきたというのに。




ちょうど私たちの会話が途切れたのを見計らったかのようなタイミングで、


「ヴィオラ様、フィサリス公爵様がいらっしゃいました」


オーキッドに案内されて旦那様が居間に入ってこられました。

今日の旦那様は昨日のように騎士服のままではなくきちんと私服に着替えられているところを見ると、やはりロータス辺りに引き留められたのでしょう。このくらいの時間だとおそらく晩餐も済ませてきているでしょうね。

「旦那様、わざわざ何度もお越しいただき申し訳ありません!」

さっきまでの『旦那様に感謝感激雨あられ!!』な流れのままに、私はさっと立ち上がり旦那様に駆け寄りました。ああもう、今日の旦那様はなんだか後光が差しているように見える私です! ゼロ円スマイルも炸裂してしまいますよ。 

そんな私の行動に初めは驚きで瞠目した旦那様でしたが、すぐさまそれは甘い微笑みに取って代わり、

「ヴィオラ、ゆっくりできましたか?」

私が自然にのばした手を取りました。

「はい、ありがとうございました! おかげですっかり元気になりました」

「それはよかった。では帰りますか?」

手を取られなおかつそれを引き寄せられたことで私と旦那様の距離がかーなーり近いことになりました。私よりも高い位置にある旦那様の顔を見上げればさらに甘い微笑みで瞳を覗きこまれましたが、その瞬間にハッと現状を理解する私。おいおいおいおい、私は何をやってんでしょう? 自分から旦那様に駆け寄ったとはいえ、このなんだか親密げな状況に今更ながらにドキドキしてきました。これまでもこんな風に最接近、いやむしろ密着したことはありましたが、この反応はどうしたことでしょう? 意識すると顔が赤らんでいくのがわかります。

そんな私の葛藤を悟られまいと自然に手を取り返し、これまたさりげなく旦那様との物理的な空間を確保しながら、

「お茶でも召し上がっていかれませんか?」

そう言ってソファを示しました。

「いや、ゆっくりしていると遅くなってしまうからね。またにしましょう」

上機嫌な旦那様でしたがお茶は遠慮されました。あまり引き留めて帰るのが遅くなっては使用人さんたちの仕事を増やすことにもつながりますから、

「わかりました」

私は素直に頷きました。

そもそも手ぶらで来たので持ち帰る荷物なんてありません。身の回りのものだけぱぱっとミモザが取り纏めてくれていますので、いつでも帰館は大丈夫です。そしてそれを持ってミモザも準備ばっちりでいつの間にか後ろに控えています。

「では義母上様、慌ただしいですが今日はこれで失礼させていただきます。今度我が家にもご招待いたしますので是非足をお運びくださいませ」

私の腰に手をまわし、完全エスコート体制に入ってからお母様に向き直り挨拶をする旦那様です。

キラキラ笑顔で優雅に挨拶する姿はホント、惚れ惚れします。

思わずぽけーっと見惚れてしまいましたが。




「実家の修繕、そこまでお気遣いいただきありがとうございました」

家族や家人に見送られ馬車に乗り込み動き出したところで、私は旦那様にお伝えしたかったこの言葉を真っ先に口にしました。

「借金のことはそもそも当初の約束でしたけど、まさか修繕までしていただけるなんて思っておりませんでしたの」

そう言ってから対面に座る旦那様のきれいなお顔をまっすぐに見れば、ちょっとびっくりなさっている様子。

「旦那様?」

「あ、ああいえ」

「どうかなさいました?」

えーと、ここにきて実家の修繕はまさかのオプションだったなんて言いませんよね? 

オプションだったら私の感謝感激返せコラですけど。

「いや。……そうですか。あれくらいのことでヴィオラに喜んでいただけたのならお安いご用です」

そう言ってなぜか微苦笑されている旦那様。

はて。

最近の旦那様ならちょっとでも褒めたらパアアッと花開くような笑顔になられるのですが? 男性にこんな表現は失礼かと思うのですが、いかんせん美形さんは微笑むだけでも花が舞い散るのです。うらやましい。……っと話が逸れてしまいました。

びみょーに反応が薄いですね。ま、いいですけど。

「私だけでなく家族みんなが喜んでおりましたわ。感謝してもしきれません!」

「そうですか」

またしても旦那様は微苦笑したあと、視線を窓の外にやり沈黙されました。

さっきまであんなに上機嫌でしたのにね? 男心とは実にわからないものです。

今日のお仕事がきつかったので今になって疲れが出てきたのかもしれませんので、私も黙っていることにします。

いつもなら旦那様がいろいろと話題提供をしてくださるのですが、それがないとほんとに無音です。車輪が地面を踏みしめる音だけが車内に響いています。

黙っていたいならそうしていただけばいいことです。

私も静かに窓から外を見ておきましょう。


今日もありがとうございました(*^-^*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ