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実家にて

公爵家から届けられた……もとい、やってきたのは私の荷物ではなく旦那様ご本人で。これは旦那様から直接三行半みくだりはんを突き付けられるということなのでしょうか?

使用人さんたちとの楽しかった日々におさらばなのでしょうか。ああ、もっと別れを惜しんできたらよかったです。

そんな後悔はうっちゃって、まずは謝罪をしておかないと人としてどうかと思われますので、

「旦那様! 大事な飾り物を壊してしまって申し訳ございませんでしたっ! ちょっとふらついて手をついた私がいけなかったのですこの身を挺して割れるのを防げばよかったと思っています本当にごめんなさい!!」

とりあえずは平謝りの方向で。一息に謝罪を述べがばっと勢いよく頭を下げました。

どんな叱責でも甘んじて受け入れましょう! ばっちこいや~と覚悟を決めていたのですが、

「あんなものどうだっていんです! 貴女に怪我がなかったとロータスから聞いていましたが実際この目で無傷が確認できてほっとしました」

予想に反して旦那様から発せられたのは安堵のため息と優しい言葉。

恐る恐る顔を上げれば、そこには困ったように微笑む旦那様がいました。

「とっても大事そうな置物でしたのに?」

使用人さんがことさら丁寧に扱っていましたよ?

「あんな物いくらでも替えがききますよ」

「そうでございますか?」

「そうですよ。貴女がそんなに気に病むようでしたら今度ご一緒に空いた場所に置く飾りを見に行きましょう」

旦那様が名案思いついたとばかりにぱあっと顔を輝かせながら言いましたが、

「センスに自信がありませんのでそこは辞退しておきます」

そこは丁重にお断りをさせていただきました。

「……」

私の一言に苦笑した旦那様でした。


「ミモザさんのおっしゃった通りじゃないの。よかったわね、ヴィオラ」

私と旦那様の一連のやり取りが一段落したところで、それまで黙って見守っていたお母様が口を開きました。私たちを見守る視線がビミョーに生温かったのは気のせいですよね?

「……よかったです。若干の罪悪感は残ってますけど」

「じゃあ以後気を付けることね。うちじゃあそんな高額商品弁償できないんだから」

「はい」

「公爵様、お忙しいところこのようなむさくるしい我が家へようこそいらっしゃいました。あいにく夕飯の途中でございまして、もうしばらくお待ちくださいますでしょうか? お茶の用意をいたしますので」

しゅんとなりつつ返事をした私を満足そうに見てから、お母様は改めて旦那様に向きなおり話しかけていました。

「いいえ、こちらこそ夕飯時に押しかけてきてしまって申し訳ありません。いくらでも待ちますからお気遣い無用です」

「では少し失礼させていただきます。しかし、ひょっとして公爵様は晩餐まだではございませんか?」

「ええ、帰館してすぐにこちらに来させていただきましたので」

どんだけ急いでこられたのでしょう、旦那様。

「まあ、それではお腹も空いておいででしょう。我が家の粗末な料理でよろしければご一緒にいかがでございますか?」

さらりとお母様が旦那様を夕飯に誘っています。って、お母様?! うちみたいな粗食に、美食慣れしている旦那様をお誘いしちゃうなんてどんだけ勇気ある行動してるんでしょうか?! お母様の勇者ぶりに唖然としてしまいましたが、ハッと我に返ると私は慌ててお母様の耳元に、

「お、お母様?! この粗食を旦那様にお出しするんですか?!」

こっそり囁きました。

「何言ってるのヴィー? 空腹は最高のスパイスよ?」

「いやいやいやいや、そこ、違うでしょ」

思わずつっこみを入れてしまいましたが。

しかし旦那様は、

「ではお言葉に甘えてよろしいでしょうか」

あっさりとお母様の誘いに乗ってしまいました。

「ええ、ええ、どうぞ。ヴィオラの横に席を設けますのでお待ちくださいませ」

また私の心配なんて気にもせず、お母様はオーキッドに言って椅子を持ってこさせます。私の横に用意された椅子に旦那様が腰かけるとすぐに旦那様分の夕飯が用意されたのですが、粗食を前にするキラキラ美形の旦那様の図がどう見ても違和感ハンパないです。

旦那様も初見であろう粗食を前に、脳内情報処理なさっているのか身動きなさいません。

「どうかなさいまして?」

動こうとしない旦那様を見て、お母様が問いかけると、

「いえ。なかなかシンプルな食事だなと思いまして」

粗食から目線を外し、顔を上げてにこーっと微笑みながら答える旦那様。上手い! 言葉を選びましたね!

「シンプルかつヘルシーが体には一番よろしいのですよ。毎日毎食豪勢なものを食べていると体を壊すのも早くなってしまいます」

お母様も負けじと微笑んでいますが、言っている内容は王族以下セレブな方の食事事情を全否定ですからね!! 聞いている私がひやひやしてしまいます。

「そうなのですか?」

旦那様が真面目に聞き返しています。

「周りを考えてみてくださいませ。腹に一物ではなく脂肪を溜めこんでいる方がたくさんおられるでしょう? 持病も財産並みにたくさんお持ちでございましょう」

「……おっしゃる通りで」

でも旦那様のご両親はぶくぶくしていませんでしたよ? 田舎暮らしだから健康的な生活を送られているのでしょうか。ご両親には当てはまりませんでしたが他に思い当たるお貴族様がいらっしゃるのでしょう、旦那様が真面目に頷いています。私も数少ない社交の場を思い出してみます。……該当者はたくさんいますね! 

旦那様の相槌に気をよくしたお母様はなおも続けてお説教タイム突入でしょうか。

「公爵様はまだお若いですし騎士様の鍛練などで体を十分に使われますからよろしいようなものの、これから先体を使わなくなった時に困りますのよ」

「なるほどなるほど」

みょ~に感心している旦那様です。

「まあ、お話ばかりもなんですからまずは食べてみてくださいませ」

「はい。ではいただきます」

そう言って優雅な手つきでスプーンを手にする旦那様は、まずスープを一口。お育ちのいい旦那様は食事スタイルも優雅に洗練されています。そんな旦那様がお召し上がりになるとうちのような粗食でも豪勢な食事に見えてしまうっていうのはどんな補正が働いているのでしょうか?!

お口に合うかどうかハラハラしながら見守っていた私でしたが、

「ああ、これは美味しい! 優しい味わいですね」

ハッとした様に顔を上げ、驚きの表情の旦那様。見た目はちょっぴりの野菜しか浮いていないようなスープですからね。

「お口に合いまして? 野菜をたっぷりと使ったスープですから、身体にも優しいですし栄養もたっぷりですのよ」

にこーっと笑うお母様。これまたうまいこと言いましたよ、コノヒト。サラダにすらできないくず野菜をしこたま入れて作った野菜コンソメだから『野菜たっぷり』は間違いではありませんからね! カルタム作の上質野菜コンソメとはまた違った素朴なうま味を醸し出しています。

「いや、実に美味しいですよ、これは。我が家の料理長にもない味だ」

「すべての素材を余すところなく調理する、これが大事なのでございますよ。お残しももちろん厳禁」

「……」

『お残し』という言葉に思い当たる節がある旦那様は無言。その反応にピンときたお母様、

「お残しをするとですね、もったいないオバケというものが出てくるのですよ。それはですね……」

いかに残すことがよくないのか、残すとどうなるのかのご高説が始まってしまいました。

これが始まると長いんですよ。

私たち姉弟はよ~く知ってますから『あ~また始まった~』とばかりに食べることに専念することにしました。そしてさっさと食べ終えると、

「ごちそうさまでした。私たちはお話の邪魔をしないように居間に行ってますね。シスル、フリージア、行きましょう」

「「はーい!」」

「え?! ヴィオラ?!」

さっさとこの場を後にしようとする私をギョッとして旦那様が見ています。いくらしおれたしっぽ(幻視)に哀願のまなざしで見つめてこられても、お母様のありがたいお話は耳にタコができるくらい、そしてそれでたこ焼きができるくらいに聞いていますから、

「旦那様はゆっくりなさってくださいませ! あちらにおりますから」

決して旦那様を人身御供に捧げたのではありませんよ?


お母様のお話はもう少し続いたのでありました。




しばらくして旦那様が居間に案内されてやってきましたが、若干疲れた感じに見えるのは気のせいですよね!

私はというとシスルやフリージアとまったり絵本を読んでいました。

「ヴィオラ、そろそろ帰ろうか。みなも心配しているよ」

旦那様はそう言うと、長いコンパスで私のところにあっという間に近づいてき、優しく手を取り立ち上がらせようと軽く引かれました。

「そうですね。では……」

絵本を閉じ、立ち上がろうと腰を上げたところで、

「ええ?! お姉さまもう帰っちゃうの?!」

旦那様に引かれていないもう一つの手を取りながらシスルが言いました。上目遣いに見つめる私と同じ色の瞳がウルウルしていて可愛いったらありゃしません!

「やだー、お姉ちゃま、もっと一緒にいたい~!」

こちらはフリージア。私の腰に抱き付いてきました。うう、こっちも可愛いです!

「またすぐに来たらいいでしょう。とりあえず今日は邸の者たちが心配してるから……」

旦那様がシスルに言いますが、

「だって今日はお姉さまお昼寝してばっかりだったんだもの!」

さらに瞳を潤ませて言い募るシスル。

うう、弟よ、それは悪かったと思ってますよ! だって眠たかったんですから、仕方ないでしょ! まあその睡魔が諸悪の根源なんですけどね。

「もっと絵本読んでほしい~」

おお、フリージアまで! 腰に回される小さな手に力がさらにこもりました。

そしてこんなに可愛い弟や妹にすがられて否と言えるような鬼ではない私。

「ごめんごめん。シスル、フリージア。……あの、旦那様、帰るのは明日でもよろしいでしょうか?」

恐る恐る旦那様を見上げると、

「……ワカリマシタ……。明日は帰ってきてくださいね、いいですか?」

カクッとうなだれながらも許可してくださいました。

「はい! ありがとうございます!」

旦那様のお優しい配慮にうれしくなって、ゼロ円スマイル全開で旦那様を見上げればちょっと耳が赤くなりました。さてはこの美しき兄妹愛にやられましたね!

やれやれとばかりにため息を一つこぼしてから、

「明日は仕事帰りにこちらに寄りますから」

と旦那様直々お迎え宣言です。

「ええ? なにも旦那様が直々においでにならなくても……」

徒歩でも適当な時間に帰りますよ~? と続ければ、

「何を言ってるんですか貴女はっ! 迎えに来ますからじっとしていてください!」

と強い口調で言われてしまいました。

まあそうですね。仮にも(仮強調で!)公爵夫人ともあろうものが徒歩でフラフラしていたら恥も外聞もあったもんじゃないですよね。スミマセン、自覚が足りませんでした。

「うう、自覚がなくてスミマセン……」

「いや、うん、僕も強く言いすぎました。迎えに来るのは心配だからですからね? 誤解しないでくださいよ?」

「はい?」

だから公爵家の恥を晒すなってことですよね? 大丈夫、しっかり理解しましたよ!


今日もありがとうございました!(*^-^*)


4/19の活動報告に小話を載せています♪ お時間よろしければそちらも覗いてやってくださいませ! 50話目、旦那様がヴィオラの里帰りを聞かされたときのロータスとの会話です(^-^)


4/25 誤字修正しました m( _ _ )m

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