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出戻り? 里帰り?

とりあえず出戻りな気分で用意された公爵家の馬車に乗り込む私。足取り重くのろのろと。

「初めてのお里帰りなのですから、ゆっくりなさってきてくださいませ」

ロータスとダリアが微笑みながら送り出してくれますが、まだ落ち込んだままの私は多分笑えていないでしょう。

「ありがとう。短い間でしたがお世話になりました……」

まるで今生の別れのような私のセリフに、

「ですから、何度も言うようにですね、奥様。夜にはこちらにお戻りになるのですよ? ……ミモザ、ちゃんとお連れして帰ってくるように」

とうとうロータスが呆れ顔で天を仰いでしまいました。そして私では埒が明かないと判断したのか、私に付き添って実家に行くミモザにきっちりと念押ししています。実家への手土産にといろいろ持たせてもらったものを両手にいっぱい持ったミモザが、

「もちろんでございます! なんとしても連れ帰ります!!」

シャキーンと背筋を伸ばして気合十分に返事しています。やけに頼もしいです。

「……まあ、そんなに遅くない時間にお迎えが行くとは思いますが」

コホンとひとつ咳ばらいをしたロータス。

「……そうでございましょうね」

こくりと頷くミモザ。そんなに慌てて迎えに来なくてもいいのですが? しかもゆっくりして来いと言ったばかりじゃないですか。なんでしたらお泊りでもよかったのですが、なぜかお泊りセットは用意してくれませんでした。ああ、そうか。私の荷物は後からまとめて送られてくるのですね。私の荷物と言ってもほとんどありませんけど。せいぜい箱一つ分くらいでしょう。何から何まですべて公爵家が用意してくださったものですからね。今日の私はどこまでもネガティブです。




公爵家に嫁いでから初めての里帰りです。いや出戻りか。ま、どちらでもいいです。久しぶりの我が家は……あれれ。

窓の外を見ていたと思ったら小首を傾げた私を怪訝に思ったのか、

「いかがされました奥様?」

ミモザが聞いてきました。

「私、まだ寝ぼけてるのかしら? ここ、私の実家?」

馬車の窓越しに見える景色に、ごしごしとわが目を擦りました。高級調度品を割ったことですっかり目が覚めたはずだったのですが、目の前の光景がどうにも現実のように見えないのですよ。

「そうでございますよ? もうお忘れになったのでございますか?」

口元に手を当てクスクスと笑いながら答えるミモザですが、

「いや、えーと、私の覚えている実家の様子とえらく違うものでね」

目を擦っても眼の前の光景は変わらず。では、と次に自分のほっぺをつねってみましたが、

「あいたた……!」

痛いです。どうやら夢ではなさそうです。

「あああ、もう、奥様!! ほっぺたが赤くなってしまわれたじゃないですか! 先程から何をなさっておいでなんですか」

ミモザが慌てて私の手を掴み、ほっぺから引き剥がします。


「だって、なというかボロっちかった実家がきれいになってるんですもの!!」


私は拳を握り声を大にして言いました。


私が覚えている、というか最後に見た実家は、年季が入ってどっしりとしたと言えば聞こえがいいですがありていに言えば手入れの行き届いていないボロッちい建物でした。石造りの壁はコケがむすままになっていてそれを取ることもせず(人手不足!)、崩れかけたところは適当な石をそれとなく埋めているような繕い方。若干蔦も絡まっていました。庭も雑草こそはちゃんと私が手入れをしていたからあまり生えていませんでしたが、見栄えのする野草ならそのままに生やしている状態。名もない花の楽園でした。

それが。

苔や蔦はきれいに掃除され、元の白っぽい灰色に戻った石壁。崩れたところも目立たないように同じような立派な石で繕われています。

庭は見違えるように整然と美しく手入れがされていて贅沢にも青々とした芝がひかれています。相変わらず野花はありましたがそれ以上に名前のある花も増えています。色の剥げ落ちた窓枠などもきれいに塗りなおされていました。ざっと見ただけでもそんな感じでどこもかしこもきちんと手入れがされているのです!

「すごー……いつの間に家にまで手がかけられるほど余裕が出たのかしら」

思わずポロリと出た言葉。結構な変わり様に驚いてしばしボーゼンです。

「まあ、それはご家族でお話されてはいかがですか? ほら、みなさんがお出迎えしてくださっていますよ! あ、今日はお父上様は領地に行っていてお留守だそうです」

馬車の窓に顔をぴったりとくっつけるように実家を見ていた私に、クスクス笑いながらミモザが言いました。玄関のところにはお母様と弟妹が出てきていました。

それもそうだと思い、窓から離れて、

「そうね」

降りる支度をしました。




「お帰りなさいヴィオラ。急に帰ってくるなんて言うからびっくりしちゃうじゃない。さては何かやらかしたわね」

優しい笑顔ながらいきなり言うことはきついです、お母様。しかし間違えてないところがお母様の鋭いところ。これでこそ実家に帰ってきたという実感が湧いてきましたが。

「むむむー。久しぶりに会う娘に向かって第一声がそれなんて……」

口を尖らせ抗議するも、

「だってそれしか考え付かないんだもの」

しれっと事もなげに言われてしまいました。

「うう、ゴモットモデス」

しかし反論できない私は、鋭い母に小さくなるしかありません。

「で、何をやらかしたの?」

「……高そうな調度品を壊してきました」

「まあああ!!」

両手で頬を覆うお母様。そうでしょうそうでしょうオーマイガーでしょうとも。

「うう、ごめんなさい~~~!!」

「基本はしっかりしてるんだけど、ごくごくたま~にやらかすのよね、ヴィーは……」

ため息交じりに言われましても。

「ちょっとふらついたの! 手をついたところがその調度品で、ハイ、パリンなわけですよ。うわーん、やっぱりここは弁償よね? すっごく高そうなんだけどうちにお金ある?」

「何言ってんのヴィー! うちにそんな余裕あるわけないでしょ! 自分で働きなさい。そして労働報酬を弁償に充て……」

母子二人で額突き合わせて話が弁償やら労働やらに行きかけたところで、

「お、お待ちくださいませお二人とも! 弁償などございませんのでご安心くださいませ! 今日の里帰りも、奥様があまりに落ち込まれたので静養の意味でございますから」

慌ててミモザが私たちの話を遮りました。

「まあ、本当ですの?」

ミモザの一言に顔を上げ、いち早く反応を示したのはお母様。

「もちろんでございます! それ以上でもそれ以下でもございません!」

さらに言い募るミモザから私に視線を移動させて、

「だそうよ、ヴィー?」

「一応そう言われてお邸を送り出されたんだけど……」

「じゃあ心配しなくてもいいんじゃないの?」

さっきまで私と一緒になって取り乱していた人とは思えない変わり身の早さです。お母様。

「……私の気持ちが落ち着かないというか」

「ですからご静養なんですよ」

畳み掛けてくるミモザ。

「はい。……まあせっかくだしゆっくりさせてもらうわ」

みんながそう言うので、ここは気分一新、甘えさせてもらうことにします。


久しぶりに会う弟妹と遊んだり本を読んだり昼寝したり。昼寝はごめんなさい、マジ寝してしまいました。やっぱり眠気は去っていませんでしたし、何よりここが実家という気安さがありましたからね。久しぶりに姉弟三人で川の字になってお昼寝です。

以前私の使っていた部屋は、結婚と同時に撤去されていて客室にされてしまったようです。そんな滅多に客なんて来ないのにうちの親ときた日にゃ薄情ったらありゃしません。しかしそんな元自室の客室で爆睡してしまいました。すっきり目覚めるともう夕方でした。

居間へ行くとお母様がいて、

「そろそろお夕飯の支度をするんだけど、ヴィーも手伝ってくれる?」

と誘ってくれました。結婚前は夕飯も作ってましたからね! 今でもお母様が夕飯を作っていると思うとうれしくなってしまいました。

「一緒に作るわ!」

そう返事をし、一緒に厨房へと向かいました。


久しぶりのおふくろの味は安心のクオリティです。カルタムにはない素朴な味に気分がほぐれます。今日も手作りパン・野菜のスープとメインが一品。粗食とか言わない! 適量なんです!

ちなみに今日はお邸で覚えてきたワール地方の味付けにチャレンジしてみました。


「ところで、この家、すっごく綺麗になってるよね~? いつの間にそんな余裕ができたの?」

食事をしながら、帰ってきて早々の疑問をお母様に聞いてみました。

「やあねぇヴィオラ。貴女が結婚してしばらくしてから公爵家から援助が来るようになったのよ」

「援助?」

「お金というより人、かしら。家の修繕をしに来てくれたり庭の手入れをしに来てくれたり」

「なるほど」

「すべて公爵家の方がしていってくださったのよ。なんでも公爵様のご意志だそうで、執事のロータス様がすべて取り仕切ってくださったわ」

さすがはロータス……じゃなくて、旦那様に感謝すべきところですね!

「そうだったんですね。旦那様にお礼を言っとかなくちゃ」

「ぜひそうしておいてね!」

お母様がウインクしています。


「お姉さまは前よりも綺麗になりましたよね」

ニコニコしながら突然シスルが言いました。いきなり何を言うんでしょうか、この子は。

「へ?」

あまりに突然だったので、私はぽかんとしてしまいました。

「そおね~。うちにいた頃はなんてことないそこらにでもいそうなだったのにね~!」

シスルの言葉を受けてお母様が続けましたが、失礼極まりなしですね! うう、現実なのが悲しいところですが。

「ここにいるミモザがエステ頑張ってくれてるからじゃない~? もう全身ピカピカになるんだから!」

今日はユーフォルビア家の習慣に則り一緒のテーブルで夕飯を食べているミモザを指します。

「え~? それだけぇ?」

しかし納得いかないのかまだ食いついてくるお母様。

「う~ん、厳しいロータス先生のダンスレッスンで姿勢がきれいになった? 貼り付け笑顔が得意になった?」

「いえいえ~?」

それでも食い下がるお母様。

「じゃあ、ダリアのマナーレッスンのおかげで内面からも淑女化した?」

「うふふふふ~」

意味ありげに笑うお母様。一体何が言いたいのでしょう?

これ以上なんの要素も思い浮かばないのでうんうん唸っていると、


「お食事中失礼いたします奥様、ヴィオラ様。フィサリス公爵様がおみえなのですが」


執事の(辛うじているのですよ!)オーキッドが入ってきました。


「旦那様?!」


「ヴィオラ! いきなりこちらに帰られたと聞いて驚いてきてしまいました!」


驚いてしまって立ち上がったところに、オーキッドの後から旦那様が姿を現したので二度驚きで座り込んでしまいました。

公爵家から私の荷物ではなくて旦那様自身が送り込まれてきましたよ。びっくりです。

今日もありがとうございました(*^-^*)

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