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外出デェト

エントランスに横付けされた公爵家の家紋入り馬車に、旦那様のエスコートで乗り込みいざお出かけです。

「今日はどちらに参りますの?」

ゴトゴトと馬車が動き出したところで私の前にご機嫌で座る旦那様に問いかければ、

「まだ内緒です」

と言って教えてくれません。

「そうですか」

ま、どこでもいいですけどね。どこがいいって言われたら迷わず美味しいお菓子屋さん希望です!




どこ行くのかな~やっぱり高級な馬車は揺れが穏やかだな~気持ちよくて寝そうだな~と、窓から外の景色をぼんやりと見ていたら、一軒のお店の前で馬車が止まりました。もうちょっと乗っていたら寝ていたかもしれないということはさておき。

「さ、一つ目の目的地に到着ですよ」

そう言って旦那様が私の手を引き馬車から降ります。

馬車から降りて目にしたそこは。――いつも私のドレスを作ってくれる、あの超有名オートクチュールの本店の前でした。

そりゃ生まれた時から王都に住んでいますからね。このお店の前も通ったことはありますよ。もちろん徒歩ですけど。でも自慢じゃありませんが一度も足は踏み入れたことございません。

「だ、旦那様?」

今まで素通りだった高級店の前で、しかもマダム以下店員さん全員のお出迎えにひるんでしまい、不覚にもエスコートしてくれる旦那様の手を強く握ってしまいました。

「たまにはお店に顔を出すのもいいでしょう? 既製品もありますし、見ていきましょう」

優しく笑ってますが、その『見ていきましょう』には『お買い上げ』も明らかに含まれてますよね? ぜんっぜん必要ないんですけど。特にドレスとか、ドレスとか、ドレスとか。

「ドレスですか?」

斜め上の旦那様を見上げて問えば、

「普段着もたくさんありますのよ。それにいろいろ小物がたくさんありますよ。ここでは落ち着きませんから、どうぞ中にいらして?」

マダムが優雅な仕草で店内へと誘導するので、

「では、まあ……」

渋々ながら、満面の笑みでウェルカムする店員さんの花道を通り、人生初の超高級ブティックに足を踏み入れたのでした。


「今日はどんなドレスを作りましょう?」

「そうですね。やはりヴィオラの美しさを引き立てるデザイン優先ですね。マダムの腕は確かですから」

「まあ、おほほ公爵様はお口が上手くてイラッしゃる」

ずいずいと店内に案内されて、奥のほう、来賓用と思しき豪華なソファに二人並んで着席するや否や、お茶のもてなしもそこそこに、そんな不穏な(ってワタシ的にですけどね)会話が旦那様とマダムの間で繰り広げられました。おいおい旦那様。まだドレスを作ろうってんですか? 何度も申し上げますが、クローゼットの中は……こほん、くどいですね、以下略。

まあとにかく、このまま黙っていては流されて要らないドレスを作らされる羽目になります! 余計な出費は要りません! 気を取り直し、二人の会話が切れたところを見計らって旦那様に話しかけました。

「あ、旦那様? 先ほど素敵なシャツが飾ってありましたけど、旦那様いかがですか? とってもお似合いになると思ったのですけど」

店内を通り過ぎた時にパッと目に入った黒のシックなシルクシャツ。私に出費は不必要なので、ここは私から旦那様にシフトチェンジしていこうではありませんか!

「そうですか?」

「ええ! いつも旦那様はお忙しくて服を選ぶ時間もございませんでしょう? ぜひともこの機会に見て行かれてはいかがです?」

気分はブティックの店員さんです。ニコッとゼロ円スマイルは忘れずに!

「ヴィオラがそう言うのであれば……」

ちょっと不服そうにしていますが、まんざらでもない様子。もうひと押し、それいけ!

「ぜひ見ていきましょう! ね、マダム?」

「どうぞどうぞ。お時間がよろしければお仕立てしても構いませんわ」

と、マダムも援護射撃をくれます。

「では、少し見せてもらいましょうか……」

やっと腰を上げた旦那様。私も一緒に店内へと戻りました。

すっかり私のドレスから旦那様の服を見ることに話しの流れは変わってしまいました。よくやったよ、私!!


結局旦那様は先程私がおススメしたものと他にもう一点、色も形も違うものを選びました。他にもボトムもお買い上げしましたし、ジャケットも買ってるし、って、乗り気じゃなかったわりにはしっかり散財していました。

「ヴィオラが見立ててくれてうれしいよ」

とまたまばゆい微笑みでおっしゃってますが、私が自主的におススメしたのは最初の黒いシャツ(万人受けする無難なデザインです!)だけで、残りはほぼマダムの言ったことを後追いして言っただけです。はい。

「ソ、ソウデスカ? おほほほほ~」

私はミモザのようにセンスも何もあったもんじゃありませんからね~。


「ではそろそろお暇致しましょう」


荷物が馬車に積み込まれた後から、私たちは馬車に乗り込みました。




次の目的地はすぐに着きました。


「前王宮総料理長が引退後に始めたレストランなんですよ」


と案内されたのは、こちらも誰もが知る超高級有名レストランです。格式も高けりゃお値段も高い。王族様もちょいちょいお忍びで来られるというお店です。

ハイ、ここも素通りコースですよ、今までの私ですと。

「……」

元貴族の離宮を改装して作られたというこの店は『一見いちげんさんお断り』な雰囲気をビシバシ醸し出しています。そんな空気を感じているのはどうやら私だけのようで、旦那様は平気の平左です。

「フィサリス公爵様、奥様、お待ち申しておりました」

鉄格子の門のところで執事風の男性がこちらに向かって声をかけてきました。艶のある短めの金髪を綺麗に撫でつけた素敵なお兄様です。旦那様よりは年上でしょうか。声も低くて耳に心地よいです。……って、執事さん風味のお兄様を鑑賞している場合ではありませんです。お待ちされていたということは予約されているということですね。

「あ!!」

思い当たった節に、思わず声を上げてしまいました。

「どうかしたんですか?」

驚いて私を見る旦那様。

「い、いえ、なんでもないんです。ごめんなさい」

「?」

そうか。そういうことだったのですか。


*** 回想・公爵家出発直前 ***


「奥様、これをお持ちくださいませ」

そう言ってダリアが手渡してきたのは小さな紙の薬包ふたつ。

「なあに?」

「だめだ、と思った時にこれをお使いくださいませ」

「だめだ?」

「はい」

「……なんとなくわかった気がするけど」

クンクン匂いを嗅げば、アノ時のアノ薬草の匂いがしました。

「最初にひとつ飲んでおいてくださいませ。そしてそれでもだめだと思った時にもう一つをお飲みください」

ダリアが用法を教えてくれました。うん、用法用量は正しくですね!

「わかったわ」

ダリアの目をしっかりと見ながら大きく肯き、その場で一つを飲みました。


……以上、回想終了。

ダリアたちは今日、私が外食するだろうことは知っていたのですね。それでアノ薬草を粉にしたものを持たせてくれたのです。きっとテロに遭うだろうことが予想されたからでしょう。ダリアたちの気遣いに涙があふれてきます。

「さ、行きましょうか。ここの料理は本当に美味ですよ!」

颯爽とエスコートする旦那様。

「……ワタシ的にはカルタムの料理がいいです」

ごにょごにょ。

「え? 何かおっしゃいましたか?」

「いいえ~?」


どんな料理にしろ私の小食に合わせて(というよりはテロ対策ですが)、ほんの一口二口程づつしか出てきませんでしたがされど美食。されど最高級の食材。文句なく美味しいのですがやはりもう一つの薬を飲む羽目になりました。多分不調は気付かれていないと思います。限界突破にまだ余裕がある間に、旦那様がよそ見をした隙に薬をグラスの水に混ぜ込んで飲み干したので。


なんとかテロをやり過ごし、無事に食事は終了。

そろそろおうちが恋しくなってきたのですが、

「さ、次に行きましょう」

嬉々として告げてくる旦那様。まだ解放してくれない模様。




次に連れてこられたのはいつもとはまた違った宝石商でした。最近若い人たちの間で流行っているお店だそうです。って、貴族の、お金持ちの間ってことですけどね。

もうコノヒトはどんだけ買物がしたいのでしょうか。お飾りだっていっぱいあるのにまだ買う気ですよ。

「この指輪、かわいいですね。ヴィオラ、嵌めてみてはどうですか?」

とか言ってたくさん石のついた指輪を見せてきますが、洗濯するとき邪魔になるし、掃除をするとき邪魔になるし、いろんなシーンで邪魔になるので却下です。

「素敵ですけど、今は結構ですわ」

「そうか。じゃあ、ネックレスは?」

「それもこの間の夜会の時に新調していただきましたわ」

「う~ん、イヤリング……」

「それもネックレスとお揃いで作りましたよ?」

「え~と、では……」

「あ、旦那様? あちらに素敵なカフスボタンがございますよ?」

しつこく……こほん、熱心にあれこれ見せる旦那様の目を、ショウケースに陳列されているカフスボタンに誘導します。

「ああ、ほんとだ」

ちらりと見ただけでまた視線をこちらに戻しかけたので、

「あれなんて今日のシャツにお似合いだと思いますわ! それに今日買われたシャツにも似合いそうですわよ?」

さらに畳み掛けます。今度はなりきり宝石商です!

「つけてみられますか?」

それまで黙って私たちに付き合っていたここのオーナーさんが援護射撃をぶっ放してくれました。マダムといいオーナーといいナイスフォローをありがとう!


ここでもカフスを気に入った旦那様はそれをお買い上げしていました。またもやシフトチェンジ成功です。




その後も会員制のカフェに連れて行かれ、お邸に帰ったのはすっかり夕方でした。

菓子屋……連れて行ってくれなかったなぁ……。遠い目でエントランスをくぐります。

何だかデートと言うよりは旦那様のゴシュミに付き合わされた感がひしひしとします。

でも旦那様は終始ご機嫌よろしかったですね。私は精神的な何かが大きく削れていきましたけど。

「今日は楽しかったです」

ご機嫌ご満悦の旦那様ですが、

「そうですか。ご一緒できてよかったですわ」

素直に肯定はできません。だって疲労困憊ですから。ともすれば疲れて目を閉じそうになるのを叱咤して無理やり笑顔を貼り付けると、

「貴女はドレスや宝石や美味しいものに興味がないのですか?」

お疲れな私の顔を覗き込み、ご機嫌だった顔を一転して心配げに曇らせました。

「そうですね。そんなに興味がございませんね」

「そんな感じがしました」

苦笑する旦那様。ちょっとお返事が直球すぎましたでしょうか? 言いすぎたかしらと気になり旦那様の綺麗な濃茶の瞳を覗きこめば、すっと柔らかく目を細め、

「まあ、今度はちゃんと研究しておきますからまた外出しましょうね」

と、性懲りもなくまたのお誘いです。そして研究って何でしょう?

「はあ」

生返事ですが、お手並み拝見といったところでしょうか……?


今日もありがとうございました(*^-^*)


リサーチは重要ですw

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― 新着の感想 ―
お連れさまはこんなバブリーデートで正解だったんでしょうね
[一言] 少し旦那さんが可哀想になってきました。 物語は面白いのですが…
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