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お誘い

初めて旦那様とまったりした時間を過ごしたその夜。晩餐後に私室で寛いでいると、


「ヴィオラ! 明日は外出でもしませんか?」


そう言って旦那様がわざわざお誘いに来ました。

「へ? 外出、ですか?」

いきなりのことに座っていたいつものソファから転げ落ちそうになりました。すんでのところで踏ん張り肘掛けにしがみついて目をぱちくりさせながらなんとかお答えしました。しかし驚いているのは私だけで、お茶を淹れていたダリアも、入浴の用意をしてくれていたミモザもいつも通りで、しかも素知らぬ顔です。

「そう、たまには外に出るのもいいかなと思いまして」

その長いコンパスでサクサクとこちらに近付いてきたかと思うと、おもむろに私の横に座りにこーっと笑いかけてくる旦那様。周りに星がちらついて見えます。眩しすぎてチカチカします。

『たまには』どころか『初めて』ですけど。

『まあ、私以外のどなたと外出なさったの?! むき~~~!!』などという野暮なツッコミはいたしませんが。

「いえ~? 特に外出したいとは思ってないのですが?」

むしろおうち大好きっ子です、私。今頃なんで外出しようなんて言うんでしょうね? 小首を傾げて旦那様に答えれば、

「いやいや、うちにきてからずっと外出なんてしていないでしょ? 菓子屋や美味しいと評判の食事を出す新しいお店も色々できていますし、ぜひ行きましょう」

ますます熱心に誘ってくる旦那様。

別に美味しい食事処といったお店に興味はないですけどね? 美食食べて腸内テロに遭うのもごめんですし、カルタムがいれば十二分に満足です。むしろ私的には安くて新鮮な八百屋さんができたと言われる方がググッと魅かれますけど。あ、でもちょっと菓子屋には魅かれちゃうかもです。

「う~ん……」

菓子屋の言葉に一瞬視線を泳がせた私を見逃さなかった旦那様は、

「コースは明日になってからのお楽しみということで。ミモザ、明日はいつも以上に腕によりをかけてヴィオラを支度させてくれ」

「かしこまりました!!」

何にも答えていない私を他所に、どうやら旦那様の中では外出が決定したらしくミモザに明日のことを指示しています。この手の依頼(私を着飾らせること)は嬉々として受諾するミモザ。満面の笑みでお返事していますよ。


「じゃあ、明日」

「はい。おやすみなさいませ」

不本意ながら明日の予定が決まったところで旦那様が自室に引き上げるようなので、扉のところまでお見送りします。

出て行きがてら私を振り返ると、

「明日は朝、キチンと起きますから」

チラチラッとこちらを見てくる旦那様。ん? なんでしょう? 

「はい? では朝ごはんの用意をカルタムに言っておきますね?」

ですので心置きなくロータスにたたき起こされてくださいね!

私の返事に軽く目をつむった旦那様は、

「……はい」

若干しょんぼりした感じで自室に帰って行かれました。




旦那様が自室に入るまでを見届けてから、私たちも部屋に戻りました。明日のことを打ち合わせなければなりません。って、特に元から何も用事なんてないんですけどね~。

「急に明日外出なんて、どういうおつもりなのかしらねぇ?」

旦那様の発言の意図をはかりかねてポツリと漏らせば、

「それはもちろんデートでございましょう! デ・エ・ト!」

「はああ? デートォ?!」

いつもの定位置ソファに座った私にノリノリで迫ってくるミモザ。

「そうでございますわ! いつも以上に磨いてくれっておっしゃってましたしね? ああ、もうワキワキいたしますわ~! ドレスは何にいたしましょう? やはり動きやすくかつ若奥様らしい清楚系で攻めましょうね。ああ、エステ隊も緊急招集しなくちゃ! うちの奥様はこんなに美しくていらっしゃるんだぞということを世間に見せつけねば!!」

ぎゅっと拳を握り熱弁をふるうミモザ。うん、誰か止めて?!

「ちょ、ミモザさん? 朝からエステとかやめてね?」

願いむなしく誰も止めてくれなかったので自分で止めたのですが、どうやらベクトルは違う方を向いたようで、

「では朝がだめなら今からやっときましょう!」

「ええっ? あ、ミモザ?! みーもーざぁ!」

妄想爆発したミモザは、私の引き留める声など耳にも入らない様子で、いつものエステ隊を緊急招集しに部屋を飛び出して行ってしまいました。

「行っちゃった~」

慌ただしく部屋を出て行ったミモザの背中を見送っていると、

「ミモザは奥様のことになると一所懸命ですからね。させてやってくださいませ」

「って、そこ?!」

微苦笑しながらダリアが言いましたが『旦那様のために綺麗になりましょうね』とかじゃないのね。でもなんだかみょーに納得しちゃうんですけど……。


それからしばらくして戻ってきたミモザwithエステ隊によって美しく磨き上げられ、そのおかげでぐっすり眠れた私は翌日、

「わ~、お肌もちもち~! すべすべ~!」

「そうでしょうともそうでしょうとも!」

ドヤ顔のミモザの前で、鏡をまじまじと見つめてしまいました。




今日はキチンと起きてきた旦那様と一緒に朝食をいただき、支度をしてから出かけることになりました。

今日のお出かけのために淡いヴァイオレットのワンピースをセレクトしたミモザ。すっきしとしたシルエットは私の薄っぺらい身体を清楚へと導いてくれます! パーティーやお茶会ではないので、お飾りも華美なものではなく、紫色の石のグラデーションが美しいチョーカーです。髪は総て結い上げず、ハーフアップ。

あっさりだけどそこかしこに上品さが漂う若妻の出来上がりです!

「やっぱりミモザはすごいわねぇ~!」

鏡の向こうの別人のような自分を見ながら、背後にいるミモザに惜しげもない賛辞を贈っておきましょう!

「元がよろしいからですよ。私は少しお手伝いしたにすぎませんから」

そう言って鏡越しに微笑むミモザです。


エントランスにはすでに旦那様が待っていました。

今日の旦那様は黒いシャツに薄いグレイのジャケット、白いキュロットにジャケットと同じグレイのブーツというシックないでたちです。いつもの騎士様の制服も素敵なのですが、今日の私服はシンプルゆえに、さらに旦那様の素敵を引き立てています。締まった体躯はタイトなシルエットの服を着ることで、その美しさを余すことなく伝えています。私のようにドレスでスタイルをカバーしているのではないのです。くそう。やさぐれちゃいます。

旦那様の素敵さに若干引き気味の私を見つけると、

「ああ、今日はいつもにも増して綺麗ですね! 僕が霞んでしまうな」

そう言って笑いかけてきましたが、やさぐれ中の私は思わず『ウソツケ! 私が霞だ!』と心の中でつっこんでしまいました。まあでも所詮は心の声。旦那様に届くでもなく、

「さ、ではそろそろ行きましょうか」

と嬉しそうに寄ってきてエスコートしてくれます。今までされたことのない扱いに『なんだぁ?』といぶかしく思いながらも、

「はい」

と差し出された腕に素直に手を預けました。






今日もありがとうございました(*^-^*)

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