解決したけどまた問題
ステラリアの王宮移籍問題。
旦那様とユリダリス様が国王様(もしくは王妃様?)と話をつけてくれることになりましたが……一抹の不安を覚えるのは私だけ?
「大丈夫かな、二人に任せて」
旦那様たちがいない隙にこっそり不安を口にすると、
「旦那様もユリダリス様もお仕事は大変有能でいらっしゃいますから、多分大丈夫でしょうけど……」
そのまま口ごもるステラリア。そんなところで止まられると後が気になるでしょ〜!
「けど?」
「……姫様たちはお口が達者でいらっしゃいますから、言いくるめられてしまうんじゃないかなぁとも思ってみたり、ですね」
「あら〜、それは心配だわ」
旦那様は王女様だろうが平気で言い返せそうですけど、ユリダリス様はそんなことしないですしね。
あ〜やっぱり、私も一緒に行こうかな。
不安がよぎったので、やっぱり私も無理やりついて行こうかなと考えた時。
「明日はわたくしも一緒に参上しますわ」
ステラリアが言いました。
「ステラリアが?」
「はい。どうせわたくしが呼ばれているんですから、当人が参上してもおかしくはございませんでしょう?」
「確かに」
「旦那様たちと一緒に参上して、姫様にはお仕えできないことを説明してまいりますわ。わたくしでしたら、姫様の扱いにも慣れておりますし」
「すごく頼もしい!」
何か考えがあるのか、その緑の瞳が勝気に輝いています。
なんだろう……めっちゃ勝てる(?)気がしてきた。
ステラリアの参戦で、『これはなんとかなりそうだ』と思ってしまった。旦那様たち、ごめんあそばせ!
そして次の日。
「じゃあステラリア。旦那様たちをよろしくね」
「かしこまりました」
出仕する旦那様たちと一緒に出かけていくステラリアをお見送り——
「違う! ヴィー、そうじゃない。逆逆」
旦那様からツッコミきました。そうだそうだ。つい本音が……じゃなくて。
「ああ、失礼しました。サーシス様、交渉頑張ってください」
「わかった」
「ユリダリス様も、ステラリアをよろしくお願いします」
「もちろんです」
頼もしい騎士(文字通りだ〜!)に守られ、ステラリアは王宮へ参上したのでした。
「大丈夫かしら? うまくやってるかしら?」
ソワソワソワソワ。
もう王宮に着いてる頃よね? すぐに国王様(王妃様?)に会えたかしら? もうお話は始まってるかしら?
落ち着かなくてサロンを行ったり来たりしています。
「お茶でも飲んで落ち着きましょうか。それともお仕事でもされますか?」
ダリアが珍しく笑っています。
「やっぱり私も、無理矢理にでもくっついて行けばよかったわ」
「それは旦那様に止められましたでしょう」
「はいそうです。あ〜でも、どうなるか……考えたら落ち着かないわ」
「大丈夫でございますよ。旦那様もユリダリス様もご一緒ですから。それに……」
「それに?」
「ステラリアが負けるとお考えですか?」
にっこり。
強気な微笑みを見せるダリア。
ステラリアはフィサリス家に来る前、散々王宮で荒波(主に姫・王子のせい)に揉まれてきたんだもん、そう簡単に引き下がるとは思えない。
きっと姫君たちの弱みの一つや二つくらいは……じゃなくて。
強気なダリアの笑顔や、ステラリアの性格のことを考えたら、急に不安が消えました。
「ないわ。うん、大丈夫ね」
「そうでございましょう。さ、お茶でも召し上がれ」
「は〜い、いただきま〜す」
私は素直にお茶の用意されたテーブルに着きました。
「ステラリアも、すぐに帰ってくると思いますよ」
「そうね〜」
なるようになるさ。ここでイライラしててもしようがない。
交渉が難航したらどうしようかとも思いましたが、ステラリアは昼前にあっさり帰ってきました。え? 早すぎじゃね?
旦那様やユリダリス様はまだお仕事があるのでそのまま残り、ステラリアだけの帰館です。
「ステラリア! 首尾はどうだった?」
姿を見せたステラリアに私は飛びつき、開口一番に聞きました。
「ご心配おかけしましたが無事解決してきましたわ! うふふ」
ステラリア、余裕の笑みで勝利宣言です。
「じゃあ王宮にはいかなくてよくなったのね?」
「はい」
「ずっとここにいてくれるのね?」
「もちろんですわ!」
「よかったぁ〜!!」
姫君には申し訳ないけど、私もうれしい、ユリダリス様もうれしい、そしてやっぱりカルタムたちもうれしい、まさにハッピーな結果です。
「しかし結論早かったのね。もっと長引くかと思ってたのに」
「長引かせても意味ありませんわ。何を言われても姫様付きの侍女に戻るつもりはありませんもの」
「そうね」
「いろいろお話をさせていただきまして、あちらも納得していただきましたわ」
「いろいろ?」
『いろいろ』って言葉に今回の交渉の核を隠しましたよね?
私が聞き返すと、
「うふふふふ。まあ、いろいろですわ」
「…………」
意味深に笑うステラリア。まあ、いっか。交渉はうまくいったんだし。
「ああ、そうそう。わたくしの代わりにティンクトリウスが王宮で働くことになりましたの」
「はぁ? ティンクトリウス〜?」
どこから出てきた!?
ティンクトリウスというのはステラリアの弟。つまりカルタムとダリアの息子さんで、料理の修行と称した放浪旅を続けている人です。
私も、ステラリアたちの結婚式の時にフラッと(?)帰ってきた時に会ったっきりなんだけど……。
そんなどこにいるかもわからない弟を!?
しかも姫君側が欲していたのは侍女じゃなかったっけ!?
この交渉、どこでどうしてどうやったら、『侍女』の代わりが『料理人』になるのよ??
「サーシス様! ステラリアが姫様付きの侍女に返り咲くのはなくなったのはよかったんですが、どこがどうなってティンクトリウスが身代わりになるって話になったんですか?」
夕方になり、ようやく旦那様がお仕事から帰ってきました。
今日の顛末が聞きたすぎた私は、『お帰りなさい』よりも先に聞いちゃいましたよ。
「う〜ん、ステラリアの見事な交渉術が炸裂したというべきだろう」
「そこが聞きたいんですってば〜。感心してないで話してください!」
まあまあそう焦らず、と旦那様になだめられ、とりあえずサロンでゆっくり話そうということになりました。
「僕たちが何か助け舟を出すこともなく、ほとんどステラリアが交渉してしまったんだよなぁ」
「あら、そうだったの?」
「交渉なんて、そんな大したものではございませんでしたわ」
「いやいや、大したものだった」
旦那様絶賛のステラリアの交渉術。その場に入れなかった分、今聞きたいのです。
「実際どうだったの?」
「とにかくわたくしが姫様付きになれないことをお伝えしましたの。結婚したこともそうですし、何より公爵家から出て行きたくないと」
「ふむふむ」
「今回の輿入れには侍女がついて行きますが、料理人もついていくんですよ」
「そう聞いてるわ」
輿入れ先にも料理人はいるはずなのに、なぜこちらからわざわざ? と思ってたんですよね。
「姫様の好き嫌いが激しいから、とりあえず慣れるまで今までと同じように過ごせるようにとの配慮だそうです」
「え? 優しすぎないそれ??」
偏食のためにって……姫君、そこは頑張ろうよ。
まあ、周りが甘やかし……ゲフゲフ、認めてるなら、私がどうこういうことでもないけど。
「そこで、何人か姫様のお気に入り料理人がついていくので、フルール王宮としては料理人も足りなくなってるんです」
「ほうほう」
「わたくしのかわりにティンクトリウスを料理人として王宮にお仕えさせる……ということで納得していただきました」
「今の説明、私の頭では全然理解できなかったけど!? とりあえずティンクトリウスは王宮に就職しちゃったのね」
「はい」
ティンくーん。貴方のいないところで就職先が勝手に決められてますよ〜!
「でも、肝心のティンクトリウスがどこにいるかわからないじゃない?」
「それはすでに捜索に入っていますわ」
「仕事早い!」
ずっとロータスの姿が見えなかったのはそのせいかな?
とにかくステラリア移籍問題は阻止できたけど……ティンクトリスはこの就職を受け入れてくれるのでしょうか??
今日もありがとうございました(*^ー^*)