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そして、ハレの日

「じゃあ、教会で」

「はい! ユリダリス様を無事にお連れしてくださいませね」


 そしていよいよ結婚式の朝。

 特に邪魔……違う、急な予定変更もなく無事に当日を迎えることができました。

 新郎ユリダリス様の付き人をする旦那様を送り出したら、私は自分のお仕事に取り掛かります。


「さあみなさん、今日は全力でステラリアを磨き上げてね!」

「「「「「任せてくださいっ!」」」」」


 今日の主役はステラリア。

 いつもは私を磨き上げることに燃えている愉快なエステ隊の力を借りて、ステラリアをピッカピカに磨き上げましょう! これが私のお仕事です。

「私は今日、めっちゃ忙しいのでレティのお世話、ミモザ、よろしくね」

「かしこまりました。うふふ、レティ様、私たちはここで綺麗な花嫁様を見ていましょうね〜」

 バイオレットのお世話は、今日は全面的にミモザにお願いしました。一緒に行きたいけど、途中で泣き出したりしたら大変ですからね。

 そして、式には使用人さん全員が参加するわけではありません。

 ステラリアたちは『ささやかな式』がいいと言うので、両家のご両親と兄弟、そして旦那様と私、フラワーシャワーなどのお手伝いをする数名の使用人さんだけが今日の参列者です。

 参列しないみんなのために花嫁姿をお披露目しようね、ということで、ステラリアの支度はお屋敷でしていくことになりました。みんなに見せてから教会へ出発です。


 湯浴みからマッサージ。いつもの手順でどんどん美貌に磨きがかかっていくステラリア。

「頭のてっぺんからつま先まで、隈なくピッカピカにしてね!」

「「「「「もっちろんです!」」」」」

 私の指示に〝ぴっ〟と親指を立ててキリッとお返事してくれるエステ隊のみなさん。心強いですね。

「逆の立場だとなんだかこそばゆいですわ」

 普段は〝する〟側、今日は〝される〟側。くすぐったそうに笑うステラリアです。

「あら、少しは私の気持ちがわかった?」

「それとこれとは話が別ですわ」


 そしてピッカピカに仕上がったステラリア。


「あとはドレスね。ドレスはどこにあるのかしら?」

「こちらでございますわ」

「ああ、持ってきてくれる?」

「はい」

「ステラリア、さ、ドレスを——」

 私たちが離れたところにかけてあったドレスを取りに行ってるほんの少しの時間に、ステラリアが珍しくぼーっとしていました。少し憂いを帯びたような?

「ステラリア? どうしたの?」

「あっ、奥様。なんでもありませんわ」

 私が声をかけるとハッとなり、いつもの微笑みに変わりましたが。何か気がかりでもある……ああ、そういえば。

「ひょっとして、弟さんのこと?」

「え? ええ、まあ……」

 ステラリアの弟さん、どこかに修行に出たままなんでした。

 ダリアたちが結婚式だから帰ってこいと連絡はしていたのですが、返事もなければ本人も登場していません。

「う〜ん、そればっかりはどうしようもないなぁ」

「いいんですのよ。別に今帰ってこなくても生きてますし」

「イヤイヤ生死確認じゃなくてね。一度きりの花嫁姿だからぜひ弟さんにも見てほしいのですよ」

 私ですら、嘘っぱちの結婚式だったけど、それでも弟妹に花嫁姿を見せられてよかったと思ってるんですよ? 馬子にも衣装だったけど。

「奥様、もういいんです。勝手にセンチメンタルになってしまってすみませんでした」

「そう? じゃあ、ドレスを着てね」

「はい」

 ユリダリス様がこの日のためにと誂えてくださった、とっても素敵なウェディングドレス。スタイルもいいからとても似合っています。

 なんの憂いもなく心からの晴れやかな笑顔で着てほしかったけど……こればっかりは仕方ないか。

 ステラリアももういいと言っているので、いつまでもぐずぐず考えるのは止めにしましょう。

「じゃあ、お化粧して、髪を結って——」


 コンコン。


 仕上げのヴェールを被ろうとしたところで……部屋の扉がノックされました。

「は〜い。どうかした?」

 侍女さんが扉を開けると、いつものお仕着せでない、シックな黒いワンピースに身を包んだダリアが立っていました。 

「奥様、愚息が帰ってまいりました」

「え? 弟さん?」

「はい」

「間に合ったのね!」

「はい、なんとか」

 ダリアもホッとしたのか、いつもよりやわらかい表情をしています。

「ステラリア、聞こえた? 弟さん、帰ってきたって!」

「はい! ああもう、ティンってば……!」

 バッと振り返っていいニュースを伝えたら、さっきよりもさらにステラリアが輝きを増したように見えました。

「うお〜。まばゆい」

「うふふ。ありがとうございます」




 花嫁姿をお披露目にサロンへ行くと、キリリと凛々しい感じの男の人がいました。雰囲気がダリアに似てる気がするけど……彼が弟さんかな?

 見知らぬ男の人に私が戸惑っていると、彼の方から私に近付いてきて、


「カルタムとダリアの息子、ティンクトリウスにございます。奥様にはお初にお目にかかります」


 爽やかにニッコリ微笑むと流れるような仕草で私の手を取り手の甲にチュッ……って、ああ、カルタムと同じだ。同じ血を感じる。

「貴方がステラリアの弟さんね? ヴィオラです。よろしく」

「わぁ〜ほんと、奥様ってかわいい人ですね〜! 聞いていた以上だ〜!」

 ステラリアの弟さん——ティンクトリウスは、見た目はダリアでしたけど、口を開けばカルタムでした。

 さっきまでの凛々しい雰囲気は霧散し、ふわっと人懐こそうな笑顔を振りまいてますが。


「「ティン!!」」

「あいたっ!」


 ステラリアとダリアの鉄拳がティンクトリウスにヒットしました。

「奥様、愚息が失礼いたしました」

「あらら、大丈夫よ! カルタムで慣れてるもの」

「…………」

 そんな謝るようなことじゃないわ〜って思って言ったんだけど、ダリアが苦笑いになりました。


 サロンに集まった使用人さんたちに花嫁姿をお披露目するステラリア。

「はい、これ。今日のブーケよ」

「ベリスの渾身の作だからね」

「わぁ。綺麗! ありがとう」

 侍女さんたちから豪華なブーケを受け取りました。白と緑の花と葉を組み合わせて上品に仕上げています。むむ……いつもながらベリスのこの仕事。ギャップだわ。


「これで全員揃ったし、ブーケも持ったし忘れものない? さあ教会に行きましょう! ユリダリス様が首をなが〜〜〜くして花嫁の到着をお待ちよ」


 さあ、教会へ出発です!


 ぞろぞろとエントランスを出ようと扉を開けると——。


「きゃ〜! 綺麗な花嫁さん!」

「お待ちしておりましたのよ」

「小隊長にはもったいないな〜」


 聞きなれた声と共にもはや見慣れた顔ぶれが現れました。

「お姉様方! どうしてここに?」

 制服をビシッと着た綺麗どころトリオが馬車のそばで待機していました。

 カモミール様とアンゼリカ様が馬車の扉を開けて中に誘うような仕草を見せています。

「もちろん花嫁様の護衛ですわ」

 アルカネット様がステラリアの手を取り、馬車へとエスコートします。めっちゃスマートすぎて惚れてしまいそう。

「お仕事はいいんですか?」

 ただでさえ副隊長・小隊長がお休みしてるのに、その上お姉様方のようなデキる騎士様が抜けてしまっては大変なのでは?

「ご心配なく! ちゃんと隊長から許可もらってきてますから」

「今日は重要人物の警護ですのよ!」

 そう言って見事なウィンクを見せるカモミール様です。

「ああ、なるほど」

 お姉様方、旦那様とユリダリス様の『肩書き』を上手く利用しましたね!

 馬車の前後を守るためお姉様方が馬に乗るんですが、これがまた綺麗な白馬で……なんていうかもう、絵になりすぎてめまいがします。

 白馬に乗った麗しの女性騎士様たちに護衛されて、私たちは教会へ向かいました。



 教会では、ユリダリス様とステラリアは式まで別々の部屋で待機していました。段取り的には、時間になったらユリダリス様がこちらまでステラリアを迎えに来て、一緒に式場に入ることになって——いたのですが。


「あ、ちょっと僕、行ってくるわ」

「はあ? どこに?」

「ちょっと!」


 そう言ってティンクトリウスが部屋を出て行っていまいました。

 ステラリアが慌てて止めたんですけど、彼はすでに扉の向こう。

「ああもう! あの子はすぐふらふらどっか行っちゃうんだから! 捕まえて式場にくくりつけておかなきゃ」

 そう言ってわっさとドレスをたくし上げると、ステラリアはティンクトリウスを追って部屋を出てしまいました。

 ちょ、待って! ステラリアどこ行くの!? 

「おおい! 主役がどこ行くの!! 今日の貴女はいつもの侍女さんじゃないのよ〜」

 私も慌ててその後を追いました。


 ティンクトリウスを探していると、


「うわぁ、でもお義兄さんって、本当に騎士様なんですね〜! 僕はじめて本物見ました〜! 制服もビシッとしていてカッコイイ!!」


 という声が聞こえてきました。どうやらユリダリス様の控え室にいるようですね。

「騎士様だしカッコイイし、お義兄さんモテるでしょう?」

「え? そうですか〜?」

「それにしても、あの、うちの姉でいいんでしょうか?」

 ティンクトリウスの声だけが外に聞こえてきます。ユリダリス様も何か受け答えしてるようだけど、部屋の中にいるから声が聞こえないんですね。


「だって、しっかり者っていう以外全然取り柄のない姉ですよ? 可愛気っていう言葉と対極にあるような…………いった!!」


 ティンクトリウスがそう言うのとステラリアのグーパンが彼の後頭部に炸裂するのは同時でした。

「ティ〜ン〜? ここで何をしてるのかしら、あなたは?」


「ゔ〜〜〜っ……ほら、お義兄さんに挨拶をね、ちょこっとね」

 ステラリアがティンクトリウスの首根っこを掴んでいい笑顔で尋ねると、ぺかーっと笑って答えるティンクトリウス。この弟くん、なかなかやんちゃさんですね。

「挨拶だけじゃなかったわよね?」

「ほらね、こんな姉ちゃんですけど、本当にいいんですか?! すぐ怒るしすぐ殴るし」

 姉を指差し涙目で訴えるティンクトリウスですが、ユリダリス様はブハッと吹き出しました。

「そんな姉ちゃんがいいんだよ! ティンクトリウス……は、ティンでいいのかな?」

「はい!」

「これから、どうぞよろしく」

「こちらこそ、ふつつかな姉ともども、よろしくお願いします!」

 お互いペコペコと頭を下げあっています。

「お初のごあいさつは上手く行ったんじゃない?」

 呆れ顔して二人の様子を見ていたステラリアに耳打ちすれば、

「はあもう……。まあ、そうですね」

 呆れながらもニッコリ微笑むステラリアでした。


「さ、そろそろ時間だ。行こうか、リア」

「はい」


 ユリダリス様がすっと腕をずらせば、そこに腕を絡めるステラリア。

 ちょっとしたアクシデントで段取りは変わってしまいましたが結果オーライ。

 そのまま二人は式場へと向かいました。




〜式場へ向かう二人の後ろを歩きながら〜


「仲良しさんですね。幸せになってほしいです」

「そうだね。ああ、なんなら僕たちも一緒に式挙げる?」

「さすがに三回もしませんて」


今日もありがとうございました(*^ー^*)


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