曇りのち、晴れ
ステラリアとユリダリス様の結婚式と隣国アンバー王国使節団の来訪が、まさかの日にちかぶり!
別の日にしてくれたっていいじゃないですか!(完全に逆恨み)
旦那様の片腕でもある有能なユリダリス様が仕事に行っちゃう(駆り出されちゃう)のなんて目に見えてますよね。
「このこと、ユリダリス様はご存知なんですか?」
「いや、まだ。部下たちには明日の近衛隊ミーティングで伝えることになってる」
「うう……さすがに使節団の来訪日を変えるわけにはいかないし」
「そうだね」
しーん。
旦那様と私の間に沈黙が流れました。
「……結婚式の準備は着々と進められてるのに、肝心の花婿不在とかありえないです」
「確かに」
「きっとユリダリス様はお仕事優先でしょうし——」
うちの旦那様なら仕事ボイコットしかねませんけど。そしてむしろ私やみんなに『仕事行け』と追い出されるタイプ。
というのは置いといて。
ユリダリス様はきちんとお仕事に行かれるでしょう。そしてステラリアも、ユリダリス様のお仕事を優先させるでしょう。
ならばこちらの予定をずらすのみ。
「教会の予約をずらしてもらえないでしょうか?」
「う〜ん、聞いてみよう」
「大丈夫、ここはサーシス様の力を存分に見せるところですよ!」
「はいはい」
いつもやってる職権乱用、今回は止めませんよ、思いっきりやっちゃってください!
それから数日、私はこっそりとステラリアを観察していました。
ショックを受けてないかしら。落ち込んでないかしら。
もしそうならフォローをしないといけませんからね。
それでもあまり普段と変わらない様子のステラリア。もしやまだ聞いてない、とか?
我慢できなくなった私は直接聞くことにしました。
「ねえ、ステラリア」
「はい、なんでございましょう?」
「あの〜、結婚式のことなんだけど……」
この先をどう言おうか口ごもっていると、
「ああ、そのことでございますか。申し訳ございません、ユリダリス様のお仕事の都合で延期になってしまったんです」
なんでもないことのようにサラリと言うステラリア。あまりに普通すぎてこっちがびっくりするわ。
「え? お仕事入ったこと、知ってたの?」
「はい」
「ステラリアがあまりにいつも通りすぎるから全然わからなかったわ」
「まあ、うふふ。せっかくいろいろお支度していただいていましたが、今回はキャンセルということで——」
ステラリアが簡単にキャンセルなんて言うから、私はとっさに遮りました。
「いや、まだ早まらないで! 旦那様に教会の都合を聞いてもらってるから、式の日にちを変えましょうよ」
「しかし教会の方にもご都合がございましょう?」
「まだダメとは決まってない!」
「はあ……ありがとうございます。ですが、別にこだわってませんのよ? せっかくドレスも作っていただきましたので、二人だけで式を挙げてもいいかなって申しておりますの」
「なにそれ絶対参加したい」
「まあ!」
「とにかく、キャンセルするのはもうちょっと待って」
「わかりました」
とりあえずキャンセルはいったん思い止まってもらって、日程調整を待ってもらうことにしました。
「ああは言ってるけど、本当はショックじゃないのかなぁ」
使用人さん用ダイニングで休憩取りながら、カルタムに聞いてみました。
「ああ、というのは?」
仕込みの手は止めずに私の話を聞いてくれるカルタム。
「ユリダリス様のお仕事が入っちゃって、結婚式ができなくなるかもって話。ステラリアったら平気な顔して『結婚式はしなくてもいい』なんて言うんだもの」
「はははは。マダ〜ムがそんな落ち込むことはないでしょう。マダ〜ムはお優しいですね〜」
「だって……あんなふうには言ってるけど、ほんとは楽しみにしてたかもしれないでしょ?」
うちの使用人さんですから、プライベートのことで浮かれて仕事が手につかなくなるということもなければ逆も然りです。
「そうですね〜。楽しみにしてなかったといえば嘘になりますね〜」
おしゃべりはいつも通りだけど、カルタムがふっと一瞬寂しそうな微笑みになりました。ヴィーちゃんは見逃さなかったよ! これはやっぱりステラリアを心配してる顔ですね。
「やっぱりショックだよね〜」
「でもそれを見せないのも一流の使用人のプライドですよ〜」
「そだねー」
ああ、早く旦那様、教会の都合聞いてこないかなぁ。
「え? 他の日にちは空いてなかったんですか?」
その日の夜。
旦那様から聞いたのは『教会の都合がつかない』という返事でした。
そもそも初めから若干ごり押し気味に結婚式をねじ込んだ感はありましたが、旦那様のお力(そしてプルケリマ侯爵様のお力)をもってしてもダメでしたか。
「残念ながら。ユリダリスも仕事モードに切り替わってるよ」
「でしょうね。ステラリアも割り切ってました」
あ〜あ。自分の結婚式じゃないのにすごくがっかりしている私がいます。
あれ? てゆーか自分の結婚式が延期になった時って……落ち込みすらしなかったね! 旦那様の顔すら忘れてたという体たらくだったし? ごめんね旦那様☆
それよりも。
なんとか他の方法、ないでしょうか?
「その、結婚式の日は、使節団の来訪日と重なってるんですよね?」
私が使節団のスケジュールを旦那様に確認すると、
「厳密に言えば、その前日にはロージアの王宮に到着してるんだよね。で、挙式の日に歓迎の記念式典をやろうかって話になってる」
との答え。
ん? でも旦那様の口ぶりからすると、その予定、確定じゃないみたい?
「それは確定ですか?」
「いや、まだスケジュールを組んでるところだから、確定じゃないよ」
やはり確定ではありませんでした。ということは、まだ変更の余地あり?
「そこだ!」
「えっ!?」
私が大きな声をあげたので旦那様がびっくりしてます。すみません、自分のひらめきに興奮しちゃいました。
「到着早々記念式典とか、大変だと思うんですよ」
「ヴィー、いきなりどうしたの」
「まあまあ。使節団のみなさまは、遠路はるばる来てくださったのでしょう?」
「向こうは魔法のある国だからうまく疲れないようにはしてるだろうけど?」
「それでも遠方から来てくださったのには変わりありません!」
「確かに」
とは言いつつ、旦那様は私の言いたいことがわかってないようで首を傾げています。大丈夫、今からちゃーんと説明しますから。
「やっと着いたと思ったところですぐさま堅苦しい式典とか、もう拷問だと思うんですよ」
「それはヴィー基準では?」
「いやみんなそうです!」
「まあ確かに、言われてみればそうかも。長旅で疲れてるのにやたら行事が詰まってるのは勘弁してほしいって思う」
そう言って何か思い出したような、うんざり顏になる旦那様。
「実感こもってますね」
「まあね」
さすが旦那様。伊達に国王様や王太子様と一緒に他国へ行ってませんね。
「ですから、滞在日程に余裕があるなら、到着した次の日は一日休養日ということでゆっくりしてもらうっていうのはどうでしょうか?」
使節団にも優しく、ステラリアたちにも優しいこの案、いかがでしょう?
「というのは?」
旦那様の眉がくいっと上がりました。ふふふ、食いつきましたね。
「休養日を挟んで次の日に式典をするんです。休養日ですから、せいぜい晩餐会くらいなら開催オッケーですけど。そして、使節団のみなさまにお寛ぎいただいてる間にサクッと結婚式やっちゃうんです。王宮で休んで頂くだけでしたら、警備や警護にユリダリス様が一人くらいいなくても大丈夫だと思うんですけどどうでしょう?」
「ふむ。式典の警護ほど人はいらないし」
「でしょう?」
「なるほど……できないことはない、か」
「ね? いかがです? ここはサーシス様の手腕の見せ所ですよ!」
「そうかな〜」
いつも貴方職権乱用しまくってるじゃないですか。こういう時こそ発揮してくださいよ。
「サーシス様のお力、今見せなくていつ見せるんですか!」
「——わかったよ。明日、会議で提案してみる」
「さっすがサーシス様!」
きっとなんとかしてくれるでしょう。
国王様、ユリダリス様の抜けた分はうちの旦那様がばっちり働きますからご安心を!
「ということで、旦那様に調整をお願いしてるから」
「ええ……ありがとうございます」
旦那様のお帰りを、今日はエントランスで待ち構えています。
いつもなら侍女さんかロータスに呼びに来られてから出迎えるんだけど、今日は一刻も早く国王様のお返事が聞きたかったのでね!
待ってる間に、昨日の旦那様との会話をステラリアに伝えておきました。
旦那様の帰りをこんなに待ち遠しいと思うのは久しぶりです。
「それで、今日の首尾はどうでしたか!」
そして帰ってきた旦那様に開口一番かけた声がこれ。お帰りなさいより前に言っちゃった。だって気になって気になって仕方なかったんですもん。
「ただいま。端的に言うとオッケー出たよ」
「さすがですね!! あ、お帰りなさいませ」
「うん」
旦那様、私の勢いに苦笑していますが、うれしいものはうれしいんです。
「ねえステラリア、聞いた? 結婚式は予定通りできるわよ!」
「はい! ありがとうございます!」
ステラリアを振り返ってみれば、うれしそうに微笑んでいるステラリアの後ろで、ダリアが静かに頭を下げていました。ダリアもあまり顔には出さないけど心配してたんだろうなぁ。よかったよかった。
「王宮の警備人員は十分手配できるので心配しなくてもいいって、陛下も近衛隊長も許可してくれたよ」
「私の『お客様ねぎらい案』は通ったんですね?」
「ああ、もちろんだとも。ついでに僕も休暇もらってきたし」
「え?」
「休暇」
「なぜ?」
「もちろん、式に参加するためだけど?」
いや貴方はユリダリス様の分まで働いていただくはずだったんですけど?
やっぱり自分の休みももぎ取ってきたか、コノヒトは!
今日もありがとうございました(*^ー^*)