ビッグニュース!
騎士団のみなさまがバイオレットに会いに来たという情報があっという間に伝わったのか、今度はアイリス様、バーベナ様、いつも私と仲良くしてくださっている方からの『レティに会いたい』猛攻が始まりました。
フルールでは、王子王女でもない限り生誕のお披露目など特別にやりません。『どこどこのお家におぼっちゃま(もしくはお嬢様)が生まれたよ〜』という知らせは駆け巡りますが。そしてお祝いの数は、その家の地位や繁栄次第です。
「バーベナたちがレティに会いに来たいって? ——そうだね、もういいでしょう」
旦那様も許可してくださったので、徐々にバイオレットをお披露目していくことになりました。
バイオレットと私の負担を考えてくださったアイリス様たちは、みんなでお伺いしますね、と言ってきてくださいました。回数重ねるとバイオレットが疲れてしまうんじゃないかって。
そこで、うちでお茶がてら、バイオレットを囲みましょうということになりました。
そしてお約束の日。
いつもの夜会四人組——アイリス様、アマランス様(ナスターシャム侯爵令嬢)、サティ様(クロッカス伯爵令嬢)、ピーアニー様(コーラムバイン伯爵令嬢)——に、バーベナ様を加えた五人でのお越し。
「ようこそおいでくださいました」
私がバイオレットと一緒にお出迎えすると、
「ヴィーちゃんに会いたくて会いたくてどうにかなりそうでしたわ。バイオレット様もご機嫌麗しゅう」
アイリス様、大げさですね! バイオレットには、驚かせてはいけないと思ったのか、控えめに挨拶していました。バイオレットにとってはまだ知らない人なので、アイリス様たちをじっと見てるだけですが。人見知りして泣かれなくてよかったです。
サロンに置いたクーハンで、機嫌よくおもちゃをいじって遊んでいるバイオレットを覗き込むお嬢様方。
「顔立ちはヴィーちゃんに似てるけど、瞳の色や髪の色は公爵様に似てるんですね」
「そうみたいです」
「どっちに似ても将来美人になることが約束されてるなんて……うらやましい限りですわ」
「旦那様に似たら美人でしょうけど、私に似ちゃったら地味でかわいそうな子になりますよ!」
「はぁ……またヴィーちゃんは……」
みなさんにため息をつかれましたが、おかしなことは言ってないはず。
「公爵家のお嬢様で美人ときたら、きっと引く手数多でしょうねえ」
お金もあって美貌もあって、なんでもありか〜! とバーベナ様が吠えています。まあ、『美人』かどうかは旦那様に似ればの話ですけど。
「小さい頃から縁談がバンバン来るんでしょうねぇ」
「でもそれは公爵様が蹴散らしちゃう?」
「あ〜、そうでしょうねぇ」
くすくす笑うアイリス様たちですが、あながちハズレではなさそう。
私も、釣書の山の前でご機嫌斜めな旦那様が目に浮かびます。
「ちょっと抱っこしてもいい?」
「はい」
アイリス様が聞いてきたので私はバイオレットを抱き上げ、アイリス様の腕に委ねました。さすがにぎこちないですが、大事そうに抱っこしてくれます。
「それにしてもかわいらしいですわね〜」
じっとアイリス様を見ているバイオレットに笑いかけるアイリス様に、
「あら、ご自分のお子様を抱く日も、そう遠くないんじゃありませんこと?」
ニヤニヤしながらバーベナ様が言いました。……んんん? え、それどういうことですか?
「バーベナ様? それはどういうことですか?」
「そのままですわよ。アイリスさんのご結婚が近いということです」
「ええええ〜〜〜!! おっと、レティごめんね」
バーベナ様の言葉に絶叫! バイオレットが私の大声にビクッとしたので口を押さえましたが、アイリス様がご結婚!?
私が社交をサボって……ゲフゲフ、お休みしている間に動きがあったなんて……!
「バーベナさん、それはまだ正式に発表してないのに」
「あら、ヴィオラ様には伝えてもいいんじゃなくて?」
「まあそうですけど」
バーベナ様とアイリス様が言い合っているのを他の人たちはニコニコと見守っているだけ。ということは、みなさん事情をご存知だということですね? なにそれくわしく!
てゆーか、バーベナ様とアイリス様、いつの間にかそんな恋バナ(?)をするような仲良しになってたんですねぇ。
違くて。今は二人の仲ではなく、アイリス様のお話ですよ。
「それで、アイリス様はどなたとご結婚されるんですか?」
「結婚というか、正式な婚約を発表するだけなんですけど……セロシア様ですわ」
「セロシア様ぁぁぁぁ!? ……おっと、レティごめん」
またまた驚きのあまり声が大きくなってしまいました。
アイリス様とセロシア様——バーベナ様のお兄様ですね——が、ご婚約!?
まさかのカップリング。どこでどうしてどうなった。
「アイリス様とセロシア様……。詳しく聞きたいです」
「ええ、と……まあ、趣味や興味が一緒だったってところが大きなところでしょうか」
「まあ〜! きっかけは縁談ですか? それとも自然に?」
「ヴィーちゃん、えらく今日はグイグイきますのね……まあ、きっかけはバーベナさんだったんですけどね」
「バーベナ様!?」
「ええ」
少し頬を赤らめながらアイリス様が答えてくれましたが、きっかけは縁談でもなくバーベナ様?? 全然わからん。
「ここにいるみなさまは様子からして全部ご存知のようなんですが、私は全くわからないのでぜひ話をお聞かせいただきたいです」
「恥ずかしいんですけど」
「大丈夫、私は照れません。一から十まで全部お聞きしたいです」
「ぐいぐいきますねぇ」
私が珍しく積極的につっこんでいくからか、アイリス様が苦笑いしていると、
「バーベナさんがわたくしの弟と仲良くしてくださっていましてね」
アマランス様が代わりに口を開きました。ナスターシャム家は二人姉弟でしたね。
ん? バーベナ様に仲良しの男性現る? ここにも恋バナの匂い!?
「バーベナ様とアマランス様の弟様が仲良しなんですね。それがアイリス様とセロシア様にどういう関係が?」
「仲良しじゃありませんわ! 向こうが纏わりついてくるだけです。誤解なさらないでくださいませ」
私の言葉にすぐさま反応を見せたバーベナ様。ピシャッとシャットダウン、取りつく島もありません。
ええ〜。仲良しじゃないの? 情報錯綜で整理が追いつかないよう。
バーベナ様と弟くんの話が関係してるというけど、何がどこでどうなってるかさっぱりわからなくて眉間にしわを寄せていたら、
「いえいえ、周りから見ているととても仲良く見えますのよ! それをセロシア様とお話ししていたら気が合ったというか意気投合したというか……」
アイリス様が語り出しました。
アイリス様とセロシア様の馴れ初めは。
「あるパーティーで、バーベナさんとアマランスさんの弟——サージェントさん——が一緒にいるのを温かい目で見ていると、同じように二人を見ているセロシア様と目が合ったんです」
「え!? やっぱりバーベナ様にも恋バナ!?」
「わたくしのはどうでもいいですってば。アイリスさんの続きを聞いてください」
「あ、はい」
「『最近バーベナさん、サージェントさんと仲良しですね』みたいなことを私が言ったら、『バーベナはわがままで気が強いから、彼は大丈夫かなぁ? 優しそうな子だけど』ってセロシア様がおっしゃるので、『いえいえ。サージェントさんはああ見えてなかなか懐深い子なんですよ』って教えてあげたんです。サージェントさんは小さい頃から知ってますからね。」
アイリス様とアマランス様(と他の二人も)は幼馴染なので、だから弟のサージェント様のことも小さい頃からよく知ってるんだそうです。
私はお会いしたことがないのでわかりませんが、サージェント様って優しいだけじゃないのでしょうか。どんな人なのか興味出てきました。
「わたくしのいないところでそんな会話がされてたなんて。セロシア兄様ったらひどい」
バーベナ様がじとんとアイリス様を見ていますが、ここにいるみんながセロシア様の言葉に内心で同意してるのは秘密です。
「まあまあ。それはそうと、ヴィーちゃんと公爵様の影響で、最近は婚活にいそしむ人が増えたんですのよ」
「え? なぜです?」
私たちの影響? 何かしましたっけ?
ピーアニー様の言葉に、私が首を傾げていると、
「ヴィーちゃんが彗星の如く社交界に現れて、公爵様とあんなに仲のいいところを見せつけてるから〝政略結婚も悪くないかもしれない〟って思う人が増えたんですの」
「ソーナンデスカ……」
彗星の如くって……。確かに注目浴びたのは結婚後ですけど、社交デビューはもっと前なんだけどね……って、それはどうでもいいか。仲の良いところを見せつけ……てる、のか? そんな気さらさらないですけど。
そして何度も言いますが、『政略結婚』ではありません『契約結婚』です。
「セロシア様も、お二人のことを『楽しそうだよね』って言ってましたわ」
「〝幸せそう〟じゃなくて、ですか?」
「はい」
そこで吹き出したアイリス様とセロシア様は一気に距離が縮んだようで、お互いの趣味の話や興味のある話になったそうです。
「他にも話してみると、とても話が合ったんですよ。音楽を聴くのが好きで、特に同じ作曲家の方のファンだとわかってからはその話で盛り上がっちゃって」
二人で時間を合わせては演奏会に足を運んだりして愛を育んだようです。
「ということは恋愛結婚、ということですね?」
「まあ、縁談ではないので」
「ロマンスです〜! なにはともあれ、おめでとうございます! それで、ご婚約の発表はいつなんですか?」
「実は、明日……」
「あまりの近日中にびっくりです」
「私の嫁ぎ先よりものんびりしていたお兄様の縁談の方が先にまとまるなんて、両親も私も驚いたわ。それに今後、アイリス様のことを〝お義姉様〟って呼ばなきゃいけないなんてねぇ——同い年なのに」
バーベナ様が切ないため息をついていました。
「サーシス様! セロシア様がご婚約されるってご存知でした?」
その夜、旦那様が帰ってきて開口一番に聞きました。
セロシア様は旦那様とは幼馴染で仲良しだったはず。ならばきっと今回のことも知ってるのでは、と思ったんです。
知ってるのに黙ってたなんて〜! と、抗議しようとしてたんですが。
「ああそれね。僕も最近知ったばかりだったんだよ」
「え? サーシス様もですか? セロシア様とは仲良しでしたよね?」
「なんか、サングイネア侯爵令嬢と親密になったのが最近だったようなんだ」
「まさかのスピード婚!?」
「そうだね。だから、僕が聞いたのもついこの間だったんだ。明日婚約発表らしい」
「そうらしいですね」
旦那様の話では、アイリス様たちが急接近したのはほんの数ヶ月前だったそう。急展開だけど、お互いの素性ははっきりしてるし、地位も身分も財政状況もなんの障害もないので、あれよあれよという間に婚約が決まったそうです。
「ヴィーがお世話になってるし、お祝いを贈らなくちゃ」
「はい!」
何を贈りましょうか?
ここはひとつシャケクマの置物——おっと、これはよそ様領地の特産品だった——じゃなくて、公爵家の特産品を何か贈りましょう!
ピジョンブラッド? サファイア?
——他にもいろいろたくさんあるから悩むなぁ。
今日もありがとうございました(*^ー^*)
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