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いろいろ会話

夜。

義父母夫妻を客間まで送った後、私と旦那様も私室に下がりました。あ~、ご両親がいる間は旦那様と同室なんですよね。ちっとも気が休まらないなぁとは思いますが、これもミッションです。どうこう言ってる余地などありません。

無言で私の前を歩く旦那様に大人しくついて行きました。




がちょっ。

私室のドアを開けて、そのまま固まる旦那様。


「……これは?」


さっさと中に入ればいいものを、ドアノブに手をかけたまま、そこで立ち止まって部屋の中を見渡していおられます。

「はい?」

何か不都合でもありましたでしょうか? 簡易ベッドは運び込まれていますよ?

少し高い位置にある旦那様の顔を、斜め後ろから見上げるように問えば、

「ずいぶんと印象が違う部屋になりましたね……」

ぽつり旦那様が言いました。ああ、お部屋の印象のことでしたか。そういえば旦那様がここに来るのは結婚式当日以来ですもんね。あれからずいぶんと私好みに手入れをさせていただきました! 家具調度はそのままですけどね。


旦那様が見ているのは、部屋の中に点在しているパッチワークでできた作品の数々。ベッドカバーやひざ掛けやクッションなどなど。刺繍などという非生産的なことはしませんでしたが、こういう実用的なことはすすんでやっていました。あ、カーテンとかもみんなで縫いましたね~。その時に余った布でこれらを作ったのですが。我ながらなかなか力作ぞろいなんですよ!

「ああ、ええと、綺麗な布がたくさんあったので、時間のある時につぎはぎして作りましたの!」

そんなことを心内で自慢していた私ですが、旦那様がふと思い出したように、

「そういえば貴女からいただいたポケットチーフもお上手でしたね」

ポツリとおっしゃいました。

「まあ、そう言っていただき光栄ですわ!」

ああ、あれ。一応見ていただいたんですね。そんなものも作りましたねぇ。

「しかし本当に印象ががらりと変わりましたね……」

旦那様はもう一度しみじみとつぶやきました。拳を口に当て、考えています。

「いけませんでしたか?」

今更気にくわねぇと言われても困りますが。

「いいえ、そうではありませんよ」

少し怜悧な目元を緩めて私の方を見る旦那様。

もともと白を基調としたシンプルなお部屋だったのが、パッチワークの存在のおかげでかなりカントリー調に仕上がっております。白よりも木目の方がもっと温かくていいんですけどね、贅沢は言えません! お気に入りの花も飾って、快適な私室へとカスタマイズさせていただきました。


「入り口で立ち話もなんですから、中にお入りくださいませ」


ダリアが中へと誘います。ソファの横ではミモザがお茶の用意をしていました。

旦那様とお茶を飲みながら語らうようなことはないんですけどねぇ。用意してくれているものを無碍にできないのはきっと私の長所ですよ!

旦那様が先にソファに座られたので、私はちょっと考えたすえ、斜め前の椅子に腰かけました。対面はないな~と思いまして。

「今日は驚かされてばかりです」

またしても旦那様が先に話し出しました。驚いたと言ってる割にはいつものように爽やかなアルカイックスマイルです。まあ、これがきっと基本仕様なんでしょう。

「そうですか?」

でもそういえばよく固まって空気化して情報処理されていましたっけ。

「ええ。こちらに来るのはたしかに久しぶりですが、なんだかあちこちが様変わりしていて驚きました」

まだあちこちと視線をさまよわせる旦那様。

あちこち無断でさわらせていただきましたからね~。家具の総入れ替えとか、飾り付けとか。ちょっとやりすぎましたでしょうか?

ミモザがお茶を運んできました。それに手を伸ばす旦那様は、騎士様らしい少しゴツッとした手ですが、指も長く動きは繊細かつしなやかです。優雅にカップを口に運ぶ旦那様を少し上目遣いに見ながら、

「いけませんでしたか?」

もう一度おずおずと問えば、

「いいえ、好きにしていいと言ったのは私ですから、何の差しさわりもありません」

こちらを見ることもなく答えました。目をつぶり、お茶の余韻を楽しんでいるようです。綺麗な長い睫が頬に影を落としています。くそう、なんで私よりも長くて量も多いのよ?!

「ならよかったです」

「使用人も、最近はなんだか楽しそうで……」

「?」

やっと目を開け、こちらを見る旦那様。

最近? いやぁ、ずっと楽しそうでしたけどねぇ?

私が小首を傾げたのを見て、

「別棟の方にも花が飾られたりしているのですよ。以前では考えられませんでした。淡々と仕事をこなす侍女たちだったのが、そんなことをするなんて、ね」

旦那様は説明してくださいました。

「はあ」

そういえば、旦那様付の侍女さんが余ったお花を持っていってましたっけね。

「カレンが驚いていました」

あ~、結局彼女さんの話に持っていくのですね。てことは旦那様が変化に気付いたんじゃなくて、彼女さんが変化に気付いたってことですね。はいはい、聞きますとも!

「そうですか」

「それに料理も」

げ。そうだ、旦那様は気付いていましたね。

「あ、あれは……」

「私は変化に気付きませんでしたが、カレンが最初に気付いたのですよ。彼女は色々な土地を巡っていますからね。遠い国の事でもよく知っている」

あ~、はいはいまた彼女さんですか。さっきまで淡々とした表情だったくせに、カレンデュラ様の話になった途端にとろけそうな顔するのやめてもらえませんかね。これは惚気なの? そうなの? あ、壁際で待機しているダリアたちから冷気が漂ってきてますけど、カレンデュラ様のお話をされている旦那様は全く気付きもしてません。私も気付かないふりしとこっと。

「あ、そうですか」

「まあ、これからも貴女の好きなようにしてくださっていい。それは思いました」

やった、お墨付きをいただきました!

「ありがとうございます!」

「では、明日はまた仕事に出ないといけませんので、両親のことは貴女にお任せしますよ。明日滞在してから帰るそうです」

「わかりました」

明日一日辛抱すればまたお気楽使用人ライフに戻れるのですね! 私がんばっちゃいます!

「では、休むとしましょうか」

「はい!」

旦那様はそう言うと、この部屋に隣接するご自分の書斎にあるバスルームへ行かれました。私はいつも通りこの部屋ですべての支度をするということを事前に取り決めていましたので。あくまでも線引きはきっぱりはっきりとです! グレーゾーンはありません!

しかし、こんな会話らしい会話をしたのなんて、商談……もとい婚姻の申し込みに来た時以来じゃないですかね~? ほら、あの鬼畜条件を持ってきた日!




翌日。

またメインダイニングで義父母夫妻と旦那様と一緒に朝食を摂り、仕事に向かう旦那様をお見送りしてから、私たちは庭園に向かいました。すっかり様変わりした庭園を見てみたいとお義母さまがおっしゃったからです。庭園は、まあ一言でいうならば、若返っております。若干渋めな花のチョイスだったのが、私や侍女さんたちのリクエストで、華やかな種類が増えたからです。

天気もよく光あふれる庭園は、濃い緑と色とりどりの花で目にもまぶしいくらいの美しさです。

お義母さまのお好みを外してるかな~とすこし不安だったのですが、


「まあ、庭園も華やかで素敵になったこと!!」


お義母さまは目を輝かせて褒めてくれました。あ~よかった。

魔王様ベリスが毎日丹精込めて世話してくれていますので」

「ぷっ! ベリスとそこまで打ち解けているの? ヴィーちゃんすごいわね。ベリス、綺麗な顔してるのに無愛想だから近寄りがたかったでしょ?」

「ええ、はい、まあ。最初は。でも仕事や、ミモザに接する態度とかを見て、心根はいい人なんだなぁって判りましたから!」

「ああ、もう、なんか、ありがとう! ヴィーちゃん!」

お義母さま、なぜか感激されています。また何か認定されたのでしょうか。そして突然ぎゅうう~っと抱きしめられました。ぐえっ。華奢に見えて案外力持ちなんですね!

「は、はいぃぃぃ~」

げふげふ。

「ほら、そんなに強く抱きしめたらヴィオラが苦しいよ」

クスクス笑いながら言ってますが、見てないで実力行使で嫁さんを止めてください!

「あら、ごめんあそばせ!」

おほほほほ~と少し力を緩めてくれましたが。

「……いえ」

魂持ってかれるところでした。




ぶらぶらと庭園を散歩していたら、いつの間にか別棟付近まで来ていました。


わ、やばくね?


……焦ったついでに取り乱してしまいました。

『ど~しよ~、別棟まで来ちゃったよ~』と、ダリアに目で訴えた時です。


「流浪の踊り子と交際していると聞いた時にはどうしようかと思ったけどね」


お義父さまが別棟を見ながら言い出しました。とおっしゃるということは、お義父さまは彼女さんのことをご存知なのよね?

「え、と」

私はどうお答えしたらいいのかわからずにもごもごしてしまいました。不味い事を言う訳にもいきませんからね。とりあえずはお義父さまのセリフ待ちです。

「どれだけ反対しても頑なに別れようとしなかったから、ほぼ諦めていたんだけどね。急転直下『彼女と別れた。ユーフォルビア家の令嬢と結婚することにした』と手紙で言って寄越した時には何度も目を擦ったなぁ。手紙を何回もひっくり返したりしたし」

あ、旦那様、嘘っぱちの手紙を書いたんですね。ふむふむ。

「まあ!」

とりあえず相槌。

「ロータスにも確認したけどどうやら真実らしいし」

あ、ロータス、おまえもか。横目でロータスを睨むと、わざとらしく目を逸らされました。確信犯ですね!

お義父さまはゆっくりと別棟から私に視線を向けると、

「しかしこんなにいい娘を見つけてくるなんて、あいつもなかなかやるじゃないか」

にっこり。

……いや、面と向かってそう言われてもですねぇ。

「そうよ~。一時はほんと女見る目を疑ってたんだけどね~」

お義母さま、何気にアナタ息子さんにキビシイですよね。めっちゃ笑顔で鬼畜な事を言うところは親子だと確信しますけどね!

つか、旦那様と彼女さんてば絶賛交際中ですけど、きっとこの辺りは旦那様やロータスがうまくごまかしてるのね。私がおかしなことを言ってはいけないところだわ。

でも、女見る目のない旦那様に白羽の矢をぶっ刺された私ってば、ロクでもない女かもしれないって疑われてたってことよね? うわ、地味にへこむわぁ……。


「これからもあいつをよろしく頼むよ」


あ、そこんところは大丈夫ですよ! 契約ばっちりかわしていますからね!


今日もありがとうございました(*^-^*)

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