バイオレット囲んで、一家団欒
※ロータスが若干キャラ崩壊します m(_ _)m
フィサリス家待望の赤ちゃんは女の子でした。
旦那様の命名で『バイオレット』と名付けられた赤ちゃんは、あっという間にみんなをメロメロにしてしまいました。
バイオレットが生まれたその夕方。
うちの実家の両親と弟妹がお見舞いに来てくれました。
「か〜わ〜い〜い〜!」
自分よりも年下を知らないフリージアが目を輝かせてバイオレットを見ています。
ベビーベッドにかぶりついて覗き込んでいるフリージア自体もかわいくて、周りのみんながほっこりしてるとも気付かないところもまたかわいい。
「フリージアもお姉ちゃまよ。レティと呼んであげてね」
「レティちゃんね! レティちゃん、フリージアお姉ちゃんだよ〜」
厳密には『叔母さん』だけど、こんな子供を叔母さんなんて呼ばせられないでしょ!
うれしそうにまだ目も開かないバイオレットに話しかけています。
そんなフリージアをニコニコしながら見守るシスル。シスルにとっても、もう一人妹ができたと思って欲しいなぁ。
「シスルも、新しい妹だと思ってね」
「うん! 僕も、レティとたくさん一緒に遊びたいな」
「ええ、ぜひそうしてあげて。もっとうちに遊びに来てね。いいですよね、サーシス様?」
そう言って私の側——ベッドの横に立っている旦那様を見上げたら。
「…………もちろんだよ」
なんでしょうね、今の間は。
義父母たちにもバイオレットが生まれてすぐに連絡をしていたのですが、なにせ王都から半日離れた領地住まい。連絡が届くのはおそらく夜ですから、さすがにその時間から出発するのは危ないので、次の日の朝早くに出発するという連絡が折り返し来ていました。
ということで、義父母は次の日の昼過ぎにやってきました。
「ヴィーちゃん、ヴィーちゃん、お疲れ様! よく頑張ったわねぇ」
「大変だっただろう? ああ、そのままで」
私が起き上がろうとするのを制するお義父様。
というのも、『しばらくは安静にしていてくださいね』とおばあちゃん医師様に言われているので、ずっとベッドから出てないからです。ご飯だって、時間になったらベッドまで運んできてくれるんです。
余談ですが、『お母さんは美味しいものをたくさん食べないと。体力勝負ですからね、マダ〜ム!』そう言ってカルタムはいつも以上に美味しいご飯を作ってくれています。
義父母が来たというのに寝たままじゃさすがに失礼かと思ったんですけど、ここは甘えておきましょう。
「かわいいわねぇ! 髪はサーシスに似てるのね。目は?」
眠るバイオレットをベビーベッド越しに見ながら、お義母様が聞いてきました。早く抱っこしたくてうずうずしているように見えます。
「あ、目もサーシス様と同じ、綺麗な濃茶色です」
何度か開いたその目は、旦那様と同じ色。
「そうなの! 早く見たいわ〜。いつになったら『おばあちゃま』って呼んでくれるかしら?」
ワクワクしているお義母様。いや、さすがに昨日生まれたばかりですし『おばあちゃま』って呼んでくれるのはかなり先だと思いますよ……。しかし、こんなに若くて美しいおばあちゃまって、詐欺だわ。
『色は僕に似て、顔立ちはヴィーに似てるのか。これは将来が楽しみだね』
なんて旦那様は言ってたけど、絶対旦那様に似たほうが美人になると思います。レティ、ごめんね。
出産直後なので親族以外の直接のお見舞いはありませんが、いろんなところからお祝いの品が続々と届けられています。さすがフルール王国で一番のお貴族様、祝いの数もハンパねぇ。
王宮から、お貴族様から、国中から集まってきてるんじゃないでしょうか?
バーベナ様のところなんて、お父様であるアルゲンテア公爵様とは別に、バーベナ様個人でも贈ってきてくれてるし。アイリス様たちもそうです。
部屋の隅に積み上げられていく祝いの数々。
「…………この光景、どこかで見たことある」
思わず呟くと、
「そういえば、奥様たちのご結婚の際にも、これと同じくらい祝いの品が届けられてましたねぇ」
ミモザが贈り物の山を見上げながら言ってます。
そうでした。
でもさすがに今回シャケクマの置物送ってきてるやつはいないよね?
「余裕ができたらお礼のお手紙書かなくちゃ」
「今回はゆっくりで大丈夫ですよ〜。産後はゆったり過ごさなくちゃですからね」
「は〜い」
確かに結婚当初は暇で暇で仕方なかったのでさっさとお礼状に取り掛かったのですが(むしろやることできたと喜んだ)、今はバイオレットのお世話でいっぱいいっぱいですもん。
数時間ごとのお乳、汚れたおむつの着替え、ご機嫌斜めになったら抱っこしてあやして寝かしつけて。
シスルたちで慣れてるとは思ってたけど、やっぱり弟妹と我が子は違う気がする。
新米ママはなかなか大変ですね。
そりゃ、ミモザもダリアも手伝ってくれるけど、やっぱり自分の子は自分で面倒見たいんです。夜中だって頑張って起きますよ!
そして、バイオレットが生まれてから七日が経ちました。
私も少しずつベッドから出る生活を始めました。少なくともご飯はちゃんとダイニングで食べるようにしています。
義父母はまだ別棟にいて、王都生活をエンジョイしています。
領地に隠居してからは、王都ではすっかりレアキャラ化した義父母。王宮だのどこかのお貴族様のお茶会だの、旧知のところにせっせとお出かけしていますが、帰ってきたらずっとバイオレットをあやしています。
「レティ、レティ」
せっせと音の出るおもちゃを振ってあやすお義父様。
「ん〜……」
と言って顔を真っ赤にしたレティを見たお義母様は、
「あらあら、オムツを汚しちゃったかしらね? どれどれ、ばあばがお着替えさせてあげましょうね〜。ダリア、新しいオムツをとって」
なんて自らお世話をしようとするので、
「お義母様、私がやりますから〜」
慌てて代わろうとしても、
「いいの、いいの、今だけなんだからぁ。領地に帰ったらまたしばらく会えないんだもの、ね〜」
と言って、率先してバイオレットのお世話をしてくれます。まあ、これもじいじ・ばあば孝行なのかな?
お乳以外、私、用無し状態です。
今日も旦那様、義父母も一緒に晩餐のあと、サロンでくつろいでいました。
私たちがお茶をいただいている横では、バイオレットが、サロンにも用意されているベビーベッドでおりこうに一人遊びをしています。遊びって言っても指しゃぶりとかそんなのですけど。
「父上、そういえば気になっていたのですが、サファイアの産出はどうなっていますか? ルビーの出が悪くなったような気がしているのですが」
旦那様がお義父様に領地の、鉱山のことを聞いています。
いつだったか、旦那様がロータスと資料を見ながら議論していたのを聞いた覚えがあります。
『父上に直接聞くほうが早いかな』
『ピエドラに行かれますか?』
『いや、今はロージアを離れるわけにいかないだろ。いつヴィオラが産気づくかわからないというのに』
とかなんとか。
お義父様が向こうからやってきてくれたんですから、これは渡りに船なんでしょう。
「ああ、ルビーの新しい穴を掘削中でな、そっちに注力してるから一時的に産出量が減っているだけだ、心配ない。サファイアも順調だ」
「そうだったんですね。それはきちっとこちらにも報告をあげてください」
「お、おう。すまんかった」
珍しく旦那様がビシッと意見したので、お義父様がタジタジになっています。それを見ていたお義母様の肩が震えていますね。おたくの息子さんが真面目に仕事してるんですよ、笑っちゃだめですよ〜!
お義父様と旦那様、それを見ているお義母様。仲良し家族ですねぇ。
そんなほのぼのとしたフィサリス親子の姿を見て私がほっこりした気分になっていると、
「ヴィー。この話が済んだら、僕がレティを寝かしつけてこようか?」
旦那様が私の方を振り返りました。
もうそろそろバイオレットはおねむの時間ですね。
「大丈夫ですよ〜。サーシス様はお仕事に専念してください」
気持ちだけありがたく受け取っておきますが、今はこっちのほうが大事でしょう? お義父様はずっとここにいないんですから。
「いやいや、レティをヴィーにばかり任せっきりはダメでしょ。それに僕だって、たまにはレティと一緒にゆっくりしたいし」
なんて言ってますが、時間があれば旦那様だってバイオレットのお世話——主に寝かしつけですが——してくれるんですよ。
「あら、そういうことでしたらお願いしてもいいですか?」
「うん。じゃあちょっと待ってて」
そう言って旦那様がまたお義父様と話しだした時でした。
「う〜……にゃぁ……」
それまで静かだったバイオレットの機嫌の雲行きが怪しくなってきました。あら、本格的に眠たくなってきたかな?
これは旦那様のお仕事終了までもちそうにないですねぇ。ここは私が部屋に連れて行く方がよさそうです。
そう考えて私が立ち上がりかけたところで、
「おやおやレティ様、ご機嫌ななめでちゅね〜。オムツが気持ち悪いでちゅか? それともおねむでちゅか?」
バイオレットの近くにいたロータスが、バイオレットの枕元に置いたガラガラを振ってあやしながら声をかけてたんですけど。
ロータスぅぅぅぅ!? 今、『〜でちゅね』って、言ったぁ!?
全員の視線がロータスに集中するのが感じられました。
多分みんな、私と同じこと思ったよね。
旦那様、お義父様、お義母様、使用人さんたち、……もちろん私も。みんなあっけにとられた顔してロータスを見てるんだけど、肝心のロータスはその視線に気付かず、バイオレットをニコニコしながらあやしてくれてます。
どうしよう、面白すぎる……っ!
誰もおしゃべりを止めてしまい、しんと静まったのに気が付いたロータスが顔を上げ、その静けさの意味を瞬時に悟ったようです。
一瞬『しまった』って顔したの、見逃してないからね!
でもさすがロータス。すぐにいつもの冷静な顔に戻るとこほんと咳払いを一つしてから、
「レティ様をお部屋にお連れいたしますか?」
なんて、中腰のまま固まっていた私に聞いてきました。
ヤバい。吹き出しそう。
でもこれ笑ったら、次のお稽古の時に地獄のしごきが待ってる気がする。ここは我慢だ、がんばれ私!
「……グフッ……う、え、サーシス様が連れて行ってくれるから……ブフッ……」
ダメだ。堪えきれてないのが丸わかりだ。もう涙目。
「話も済んだし、僕が連れて行くよ」
旦那様は明らかにニヤニヤしています。ああ、旦那様は仕事増量確実だなこりゃ。
そんなレアなロータスが見られたのもその日だけでした。
それ以降、絶対にロータスは崩れてくれません!
今日もありがとうございました(*^ー^*)
以前に書籍発売記念リクエストで募集したセリフお題から書きました。