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心配事ができました

 早いもので妊婦さんになってから六ヶ月が経ちました。

 きつかった悪阻もずいぶんおさまり、食欲もずいぶん戻ってきました。まだ臭いのキツイものはダメですけど、それでもほぼいつも通り食べられるようになっています。

 でも何より一番の変化はお腹ですね。ずいぶん目立つようになりました。

 ポッコリしてるんです。なんか不思議ですねぇ。局所的に太るって。

「常に満腹状態!」

「違います」

 ふざけて言ったらダリアが冷静にツッコミ入れてきました。

 ですね。お腹に入ってるのは食べ物じゃなくて赤ちゃんですね。

 それと、変化はお腹だけじゃないんですよねぇ……。

「人生初&最大のきょぬー!」

「……それは否定いたしません」

 えっへん。胸を張って言ってみました! 周りの侍女さんたちが生暖かい目になったって気にしなーい☆

 自分の体のはずなのに、急激に変化していく。まったく、ついていくのが大変です。

 今まで着ていたお仕着せ……じゃなかった、普段着は着れなくなったので、新しく作ってもらった妊婦さんサイズのドレスを愛用しています。


「奥様もお子様もお元気で。順調でございますよ」


 おじいちゃんな医師様が定期的に診察してくれて、ニコニコしながら言ってくれました。


 体調的にも特に問題なく、社交界にも顔出さなくていいから精神的にもお気楽で、妊婦生活ってなんて素敵なんでしょう! と思っていた時期もありました。


 ノンプレッシャーで最後まで行けると思っていた私ってば、本当にお気楽でした。




 使用人さんたちも寝静まったある夜更け。


「うわぁぁぁぁ!」


 しんと静まり返った寝室に、旦那様の叫び声が響き渡りました。


 ふおおおお。びっくりした。


 ぐっすり寝ていた私も、横で叫ばれちゃたまりません。さすがに目を覚ましました。


 あ〜またか。これはまた悪い夢を見たパターンですね。


 このパターンで夜中に起こされたことがこれまでに何度もありますからね、さすがに学習済みです。

「サーシス様、またですか?」

「はぁっ……はぁっ……」

 自分でもびっくりするほどものすごい冷静な声が出ました。

 冷たいとかじゃないですよ? 慣れですよ慣れ。

 当の旦那様はといえば、体を起こして焦点の合わない目でどこかを見ています。肩で息をして。

 う〜ん、そんなに嫌な(怖い?)夢だったんでしょうか?

「サーシス様、サーシス様」

 私も起き上がって旦那様の肩を揺すぶります。寝ぼけているならはっきり起こした方がいいですからね。

「……ハッ、ヴィオラ……?」

「はいはいヴィオラですよ〜。大丈夫ですか? どこか痛いとか苦しいんですか?」

 焦点の合った濃茶の瞳が私を捉えました。どうやら目が覚めたみたいです。

 薄暗いので顔色がわかりにくいのですが、急病とかではなさそう。でもいちおう体調は気をつけないとね。

 おでこに手を当て……熱なーし! 軽く体を叩いて……骨に異常なーし。

 私が心配してあちこち点検していると、

「いや、ごめん。大丈夫。どこも悪くないし痛くもない。ちょっと夢見が悪かっただけだよ」

 そう言ってアハハハハ……と笑う旦那様ですが、その笑いが乾いてますよ。

「ほんとですか?」

「ああ」

「ちょくちょく夢見が悪くて目を覚まされますけど、ご自分では気付かないどこかがお悪いとかじゃないでしょうか……? 明るくなったら医師様に診てもらった方がいいかもしれませんね?」

「いやいやいやいや、ほんと大丈夫だから! どっこも悪くないから!!」

「でも叫んでしまうなんて……」

 隠れた病が悪さをしてるのでは? もしくは仕事が忙しくてストレスフルな生活をしているとか?

 旦那様の体のSOSを見逃すまいと、目を凝らして旦那様を見ていたのですが。

 そんな私に向かって。


「だって、僕のかわいい娘があの王太子ガキンチョのお妃になるとか言い出すから!!」

「はい?」


 旦那様。まさかの隠し子(娘)発覚?




「ええ、と。話をまとめると、サーシス様にはディアンツ様と同じくらいの娘さんがいて、その娘さんがディンツ様が初恋とかなんとかで、お妃になりたいと言いだした、と。そういうことですね?」


 私たちは今、ベッドの上で正座で向き合っています。

 さっきの旦那様の一言(僕の娘が〜云々)について取り調べ……ではなく、説明をしてもらっているのです。

「まるっと一から十まで、まったく違う話になってる! 全然話がまとまってないよ!」

 私のヒアリング能力を全否定した旦那様。あらやだ違うんですか? まあ私も寝起きなので若干頭が回ってないのは否めませんけど。

「じゃあもう一度話してください。隠し子の母親は誰ですか?」

「ヴィー……。いったん隠し子のことは忘れようか?」

「わかりました。では続きをどうぞ」

「今度はよーく聞いてくださいよ。夢の中で——」


 旦那様が語った夢の内容は、今私のお腹にいる赤ちゃんが女の子で(なぜか仮の名前がプチ)、そのプチさんがお年頃になった時にディアンツ様から『ぜひ王太子妃に』と請われたそうです。

 プチさんは王太子様に密かに憧れていたので喜んで縁談を受けると言ったそうです。

 でもプチさんを王太子妃にしたくない旦那様が縁談に反対したら、プチさんには『お父様なんて大っ嫌い!』と泣かれーの、私には『娘の恋路を邪魔するな』と鞭を振るわれーの(!)。

 ——ということだそうです。


 …………いろいろツッコミどころはあるんだけど、とりあえずこれだけは言わせてください。


「私、鞭なんて振るいませんから」

「ツッコミそこ!?」


 ガクッと力の抜けた旦那様は放っておいて。


「では〝隠し子〟ではなく、この子(・・・)のことなんですね? プチさんって」

 私がふっくらとした自分のお腹を撫でながら言うと、

「隠し子なんているわけないでしょう! 当然です。この子です」

 旦那様も私のお腹を撫でて言いました。

「で、でも、この子が女の子と決まったわけじゃないからさ、男の子だったら王太子妃になんてなれないからさ」

 旦那様は『まだ決まったわけじゃないから』と、自分に言い聞かせるように言ってます。

「そりゃそうですよ」

「というわけだから、病気でも体調悪いのでもないし、隠し子なんてもってのほか。ほんと、こんな夜中に起こしてごめん。ヴィーは眠たいでしょ? 僕も安心したらまた眠くなったから、もう一度寝よう」

「そうしましょう」

 妊婦になってからずっと続く眠気。横になればすぐに眠れる自信アリです。

 また布団の中に潜り込めば時間の問題です。

 私はまたすぐにウトウトしかけたというのに、旦那様は違ったようで、


「鞭を振るうヴィーもなんかよかった……」

「寝言は寝てから言ってください」


 勝手におかしな扉開けないでください。はよ寝ろ。




 本当に体調が悪かったわけではなかったようで、旦那様はいつも通りに朝起きて、出仕していきました。

「昨夜も旦那様が目を覚ましになられたようでございますね」

 元気に出て行った旦那様の背中を見送っていると、ロータスが聞いてきました。

「そうなんですよ〜。また悪い夢を見たとか言って。本当にどこかお悪いとかじゃないかしら?」

「大丈夫でしょう。どこもお悪いようには見えませんが……。気になるようでございましたら、一度抜き打ちで医師様に診ていただきましょうか?」

「そうですね〜。それがいいかも」

 なんでもないのに医師様に診てもらいましょうねって言ったら、旦那様、すごく嫌がりそうですもんね。

「しかし、そんな叫ぶほどの悪夢とは、一体なんだったのでございましょう」

「まあ、毎回おかしな夢を見た時は叫んで飛び起きる人ですけどね。昨夜の夢は、この子が女の子で、お年頃になった時に王太子様のお妃様になりたいと言い出したので猛反対した、って言ってました」

「お子様がお嬢様で、王太子妃でございますか……。なきにしもあらずな未来ですね」

 私がお腹を撫でながら旦那様の夢の話をすると、ロータスがクスクス笑いました。


 そっか〜。『なきにしもあらず』な未来か〜。


 だってフィサリス家は名門公爵家ですもんね。未来の王様のお妃様のご実家としては申し分ないですもんね。つか、これ以上ないってゆ〜か。


 ん、待って。

 もしも本当に女の子だったら……フィサリス家の後継者、どうなるんでしょうか!?




 せっかく赤ちゃんができたというのに、まさかの後継者問題が残ってたなんて……。いや、ちょっと考えたら簡単に気付くでしょ、私。

 男の子だったらなんの問題もありませんが、女の子だったらどこかにお嫁に行っちゃうかもしれません。なら婿養子を取ればいいじゃない、と思いますが、昨夜の旦那様の夢のように、王太子様のような断れない方に見初められてしまったら……。さすがに『婿入りして!』なんて言えませんからね。

 はっきりとは明言してはいませんでしたが、義両親も『孫』には期待してると思うんですよ。ミモザが懐妊した時にお義母様が悪阻ってしんどいのよ〜という話から『まあ、そのうちヴィーちゃんにもわかる日が来るから! うっふっふ~』なんて意味深に微笑まれたましたからね。


 せっかくできた後継ぎが、跡継げないかもしれないピンチ。おお……。


「…………」

「奥様? どうかなさいましたか? ご気分が悪くなられましたか?」

 ロータスが私の顔色を窺いながら声をかけてきました。

 さっきまで元気よく旦那様の夢の話をしていたのに、後継問題のことが気になりだした私が、おしゃべりを急にやめてしまったので心配したのでしょう。

「あ、ごめんなさい、大丈夫。ちょっと気になることがあっただけ」

「気になること……でございますか?」

「はい……」

 やっぱり気になってしまって、返事も元気が出ません。

 すると気遣ったロータスが、

「温かいお茶でもお飲みください。少し休みましょう。昨夜、おかしな時間に目を覚ましてしまってお疲れなのかもしれません」

 そう言ってステラリアとミモザを呼び、私をサロンへと連れて行ったのでした。



今日もありがとうございました(*^ー^*)


《追記》活動報告にて書籍第7巻発売記念リクエスト小話企画やってます♪

よろしければのぞいて行ってやってくださいませ!

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