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妊婦生活満喫中?

 体の変化にもかなり慣れてきて、体調のいい日にはこれまでと変わらない生活を送れるようになりました。

 ゆったり目のお仕着せ(新調)を着て、お掃除もします。


「高いところは絶対ダメです手の届く範囲にしてくださいね」

「走らないでください、ゆっくりにしてください」

「重いものは持たないでください、後で私たちがやりますから置いといてください」


「ほとんど何もできないじゃん」

 

 これまでよりさらに制約が増えましたが。

 だから、掃除洗濯よりももっぱら食器磨きやワタシ庭園の手入ればかりになっています。シルバーなんてね、指紋ひとつないくらいピッカピカに磨けるようになったんですからね!

 前よりは制限ありますが、それでも寝込んでいた時よりかはよく動くようになったので寝つきもよくなり、おかしな夢も見なくなりました。やっぱり運動って大事ですね。

 でもまだ朝は辛くて、眠気がすごかったりムカムカしたりするので、旦那様と一緒にいる時が一番調子悪いかも。

 だからか旦那様は、

「無理はしちゃダメだよ? ずっと寝ててもいいくらいだ。外出もしなくていいし、お客も断ればいいから」

 と、かなり過保護になっています。それどころか、


「王宮の薬草庭園で、妊婦が飲むといい薬草をもらってきたよ」

「足がだるい? じゃあ僕がマッサージをしてあげよう」


 などなど、仕事に行く前、帰ってきてからと、ず〜っと構い続けてきます。

 ちょっとした移動ですらお姫様抱っこしようとするので、

「サーシス様! 構いすぎです! 自分で動けますぅ」

「いやいや、僕がいるときは目いっぱい甘えてだねぇ……」

「大丈夫です、間に合ってます! ……うざいくらいに」

「え、うそ!?」

 反省したのかしてないのか、よくわからない旦那様。

 なんでまた急にこんな? と首を傾げていたら、


「奥様があんな夢(・・・・)を見たのは、自分の愛情が足らないからだと旦那様がおっしゃって……」

「はぁぁ??」

 

 ロータスがクスクス笑いながら教えてくれました。

 そうじゃないと思うんだけど。


 


 社交もしなくていい、お屋敷で気ままに過ごしてオッケーと言われて『妊婦サイコー』と思ってすごしていたある日。

「サングイネア家のアイリス様からお手紙がきております」

 ロータスがかわいらしい封筒に入った手紙を持ってきてくれました。


 アイリス様、ちょっとお久しぶりですね!


 いそいそと手紙を開け中を確認すると、『お加減いかが? 近々会いに行きたいんですけど、どうですか』的なことが書かれてありました。

「アイリス様が私に会いたいと言ってくださってるわ」

 私も久しぶりですし、アイリス様に会いたいですけどね。旦那様がどう言うか……。

「たまには気分転換になってよろしいのでは? ご体調に合わせて会われてはいかがでしょう」

 ダリアが言いました。

「私の都合でいいのかしら?」

「もちろん、侯爵令嬢もそこは十分ご承知でございましょう。先にお伝えしておけば問題ないのでは?」

「そうね! いちおう、旦那様にも相談してみます」

 勝手に人と会う約束したら拗ねちゃいそうですからね。

「ぜひそうなさってくださいませ」

 みんなが笑顔で頷いてくれました。


 旦那様にも相談したら『サングイネア侯爵令嬢なら大丈夫でしょう』ということだったので(何が?)、お屋敷(こちら)に来ていただくことになりました。


 私はいつでも暇人なのでアイリス様のご都合よろしい時にどうぞ〜とお返事したら、早速二日後にと決まりました。




 アイリス様とのお約束の日は雲ひとつない晴天。

 絶好のお茶日和だったので、無理を言って庭園にお茶席をしつらえてもらいました。


 ワタシ庭園の東屋にお茶セットを持ち込んで、二人だけのお茶会。


「アイリス様、お久しぶりでございます」

 久しぶりにアイリス様……いや、公爵家関係者以外の人に会いました。

「ヴィーちゃんたら、堅苦しいのはやめてね。ところでお加減はいかが? 辛くなったら遠慮なく言ってね」

 優しいアイリス様は、私の体調を気遣ってくださいます。

「朝は調子があまり良くないのですが、それを越えさえすれば大丈夫なんです」

「じゃあ、公爵様は体調の悪いヴィーちゃんばかり見てる……と」

「そうなりますね」

「だからね! いくらわたくしたちが『ヴィーちゃんに会いたい』と言っても、『今は体調が悪いのでダメです』の一点張りなんですのよ」

「なんかスミマセン……」

 旦那様、最近とっても過保護なもんで。

 旦那様に代わって謝っておきます。

「公爵様にお願いしても聞いてもらえないから、直接ヴィーちゃんにお願いしちゃったけど」

 ペロッと舌を出すアイリス様かわいい。

「私も、外出するのはまだしんどいなぁって思うんですけど、こうしてお屋敷に遊びに来てくださるのは大歓迎です。なのに旦那様ったら、最近とっても過保護なんです。すみません」

「ヴィーちゃんに会いたいのはわたくしだけじゃないんですのよ? バーベナ様や、他のみなさんたちも会いたがってますわ」

「私もお会いしたいですわ」

「じゃあ、伝えておきますね。さすがに姫様たちやディアンツ殿下が直々に来られるのは無理だと思うけど」

「それはダメなやつでしょう!」

 王女様や王子様がわざわざ私に会いにお出ましとか……ありえない!

 でもやりそうな行動力とワガママを持ち合わせてる人たちだから、ここは旦那様、全力で阻止してくださいね!

「ディアンツ殿下なんて、この間公爵様に『ヴィオラに会いたい』って突撃して、『懐妊中だからダメ』と一蹴されたんですよ」

「あら!」

 旦那様、王太子様にはやけに冷たいですからね。あら、でも、喧嘩するほどナントヤラ? ……それはないか。

「そしたら殿下ったら『誰の子だ?』って公爵様に聞いたんですのよ! うふふ」

「ぶふっ!」

 その場面を想像したのか、アイリス様が吹き出しました。


 ちょ、殿下〜!!


 私も思わず笑ってしまいましたけど。

「旦那様以外の子供なら大問題でしょう」

「ねえ、まったく。もちろん公爵様にキレられてましたけど」

「ですよね〜」

 ほんとにあの二人は。

「最後は教育係に言い含められてましたけど、あれから殿下のお守りが増えてシフトが大変だと近衛の誰かが申しておりましたわ」

「お守り?」

「ええ。殿下ならこっそり王宮を抜け出して……なんてことをやりかねませんからね!」

「あ〜……」

 想像つきました。

 それって〝お守り〟ではなく、こっそり王宮を抜け出しそうな殿下の〝見張り〟ですよね。


 これは、体調が落ち着いたら王宮に顔を出した方がよさそうな気がしてきました。決して行きたくはないけど。


「他には何か変わりはございませんか?」

 みなさんの婚活はちゃんと進んでますか? とは言えませんので、やんわりオブラートに包んで近況を聞く感じで。

「え〜と、そうですわねぇ。特に変わりはないのだけど、一の姫様の降嫁が決まったくらいかしら?」

「まあ! エレタリア様の? それはおめでとうございます」

「辺境伯のところに嫁ぐそうですわ」

 ふむふむ、辺境伯ですか。

 アイリス様の話に相槌を打ちながら、私は頭の中で貴族年鑑(似顔絵付き)を大至急めくります。

 確か、王族に連なる一族の方で、結構イケメンでしたよね。一の姫様、なかなかいい旦那さんを選びましたね!

「そうでございましたの。他には?」

「そうねぇ、バーベナ様がナスターシャム侯爵……アマランスさんのところの弟くんにアプローチされてるとか、かしら?」

「えっ!?」


 バーベナ様にアプローチする猛者出現とか! なにそれ超聞きたい!


「まだ詳しくは聞いてないんですけどね、そんな噂をちらりと」

「その話、ものすごく知りたいです」

「今度姫様たちのお茶会にバーベナ様も一緒に呼ばれているから、そこで掘り下げてきますわ」

「よろしくお願いします」

 そして私に聞かせてください!


 他にもいろいろ他愛のないお話をしている間にも、使用人さんがこまめにやってきては『お身体を冷やさないよう、ひざ掛けを』と言ってひざ掛けをかけて行ったり、『日が陰ってまいりましたので、肩掛けを』と言ってストールをかけにきたり、お茶ですら冷めてしまったら『温かいのを淹れなおしましょうね』と言って、常に温かいものに淹れ替えてくれるのを見て、


「公爵家の妊婦さんって、至れり尽くせりなのね」


 と、アイリス様が感心していました。

「いや、ちょっと、旦那様筆頭にみなさんが過保護になりすぎてるんです」

 もうちょっと放置でもいいのにと思うくらいに。

「あらでも、それは愛されてるってことじゃないですか。いいなぁ、ヴィーちゃん。あんな素敵な方が旦那様で、こんなに愛されてるなんて」

 うっとり遠くを見るアイリス様。

 お〜い、戻ってきてくださいよ〜。

 アノヒト、最近でこそとってもいい旦那様ですけど、少し前までは鬼畜そのものでしたよ? 貴女もご存知でしたよね? もう忘れちゃった?

「ま、まあ……オホホホホ!」


 笑ってごまかしておきましょう。




 アイリス様と一緒にお茶をしたその日は、やはり疲れたのか、早くに眠ってしまいました。「僕も明日は休みだから、ゆっくり眠ればいい」という旦那様のお言葉に甘えて。

 それでもいつもの習慣は体に染み付いているもので、いつもの起床時間には目が覚めました。

 目が覚めたと言ってもぼんやり。今日も眠くて眠くてたまりません。

 私は半眠りのまま、ぼんやりしているというのに、

「おはよう」

 隣にいる旦那様はもうすっきり目が覚めているようですね。爽やかな笑み付きの朝のご挨拶。

「…………おはようございます……ふぁぁ……」

「まだ眠い?」

「はい」

「じゃあもう一眠りしようか。今日はゆっくりしよう」

「ロータスに怒られませんかぁ?」

「大丈夫」

 旦那様に抱きしめられたらあったかくて、またうとうと眠りに……ぐぅ。


 結局起きたのは、お日様がかなり高くなってから。

「わぁ〜……。また寝すぎちゃいました」

 なるべくちゃんといつも通りに起きていつも通りの生活をするように心がけてたのに……旦那様が甘やかすから(責任転嫁)。

「別に、たまにはいいじゃない」

「よくないですよ〜。朝寝すぎると夜眠れなくなって、また悪い夢を見る悪循環が待ってます!」

「それは困る」

「でしょう?」

「……というのは冗談。今はゆっくりしろって、お腹の子が言ってるんだよ」

「そうですか〜?」

「そうそう」

 ポジティブシンキングだよ、と。旦那様が頭をポンポンと優しく撫でてくれました。


 朝ごはんには遅すぎて、しかしお昼には少し早い時間。

「じゃあ今日もいい天気だし、ヴィーの庭で少し早いランチを食べようか」

 と旦那様が言ってくださり、ワタシ庭園でブランチを摂ることになりました。


 今日は芝生の上に敷物を敷いて、そこに座ります。

 昨日はたくさんのクッションを敷いていましたが、今日は旦那様が私を背中から包み込むように座っていますのでクッションいらず。背中ほっこりです。

 旦那様は軽く食べられるサンドイッチ。私には食べやすいようにと果物が用意されていました。

「カルタムに聞いたら、果物はよく食べるって言ってたから。食べられるときに食べたいだけ食べればいいよ」

 そう言って私の口に果実を放り込む旦那様。

「もう! 自分で食べられますから、お皿をこっちにください!」

 旦那様ったら、わざと私の届かないところに果物の載ったお皿を置いてるんですよ。自分で食べらるっつの!

「いいからいいから。はい、あ〜ん」

「もうっ!」

 でも食べるけどね!


「あら? お花、増えてます?」


 何気なく庭を見ていたら、新しく掘り返したような区画が目に入りました。そして見たことのない花が植えてあります。私がいじった記憶がないから、ベリスがしたのかしら?

 小首を傾げて見ていたら、

「うん、増えたよ。この間の出張の時にかわいい花を見つけてね。隣国特産の花だっていうから、分けてもらってきたんだ。それが昨日着いて、ベリスに植えてもらっておいたんだよ。ヴィオラへのお土産。遅くなってごめん」

 私のつぶやきをひろった旦那様が教えてくれました。あれは旦那様のお土産だったんですね!

「わあ! うれしいです!! ありがとうございます!!」

 またワタシ庭園のお花コレクションが増えました!


 優しい旦那様と使用人さんたちに囲まれ、面倒くさい社交もしなくていい、妊婦生活ってパラダイスですね!


「あっ…………」

「どうした!?」

「食べ過ぎて気持ち悪いです」


 この悪阻さえなければ…………っ!


今日もありがとうございました(*^ー^*)

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