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体調が悪い?

「先日の詐欺師二人ですが、無事に取り調べを終えたそうですわ」

「そうなのね……」

「過去に犯した罪も全て騎士様たちが調べ上げて追求したそうですわ」

「騎士様たち、さすがですね……」

「詐欺師二人は辺境の収容所に行くことが決まりました。厳しいことで有名なところでございます。ああ、それから、誘拐されていた子供たちは全員無事親元に返されました」

「それはよかったわ! ……うぇっ」

「奥様!? 大丈夫でございますか?」

「ごめん、あんまり大丈夫じゃない……」


 私はベッドに寝たままステラリアの話を聞いていました。めまいと吐き気がひどいんでね!


 モンクシュッド男爵と名乗る男とその娘がフィサリス公爵家に現れたのが十日ほど前。うちの旦那様との間に子供ができたから認知するか養育費をよこせと言ってきたのです。

 しかしその話はうちの優秀な使用人さんたちとユリダリス様(と騎士様方)、そして急遽帰ってきた旦那様によって詐欺だと判明し、モンクシュッド男爵とその娘はその場で御用となりました。

 私はというとずっと蚊帳の外……というか、体調が優れなくて寝室で寝ていただけだったんですけどね☆


 愛人・隠し子発覚で『フィサリス公爵夫人』解任(・・)の危機かと思いきや、なぜか懐妊(・・)発覚するし!


 ビックリしました。

 確かに体調は悪かったけど、すっかり風邪だと思い込んでましたからね。

 旦那様も『偽物の後に本物の子供がわかるなんて……!!』と驚いてましたけど。


 とにかく騒動は無事に解決しました。


 詐欺の巻き添えくらった子供たちが無事に親御さんのところに帰れたというのを聞いて思わず興奮したら吐きそうになり、ステラリアが慌ててタライを持ってきました。


「とにかく解決してよかったけど……この気持ち悪さも解決しないものかしら……」

 懐妊が発覚してからというもの、四六時中胸がムカついて気持ち悪いわ、やたら眠いわで大変です。病気じゃないのに思うように動けなくてツライ。


 朝も起きれなくて旦那様をお見送りできていません。

 旦那様も私を起こさなくていいと言っているらしくて、誰も私を起こしてくれないし。自然と目が覚めたなぁと思ったらお昼前だったなんてしょっちゅうです。なんというか罪悪感……。

 夜は夜で、食事の匂いがダメなもんだから、旦那様と一緒に晩餐を食べることもできません。てゆーかそもそもダイニングに入ることすらできない!

 口にできるものといえば果物くらい。

「食べられる時に食べないと」

「はあい」

 晩餐のデザートの果物をサロンに運んでもらって、旦那様と一緒に食べるくらいです。


「最初はそんなものですよ〜。落ち着いてきたら治まってきますから」

 ミモザはニコニコしています。

 そうね、ミモザは経験者だもんね。

「落ち着くっていつ? 明日? 明後日?」

「さすがにそんな早くないですよ〜。ああでも、産む間際まで治らない人もいるとか?」

「えええええっ!?」

「人それぞれですから」

「ああ、そうなのね……」

 なんか不安しか残らない……。

「まあとりあえず今はゆっくりと安静になさってくださいませ」

「はあい」


 そもそも動いたらめまいするし吐き気もするから、動こうという気にもなれないです。




 そんな体調最悪な日々は続き。

 

 いつも通り旦那様と一緒にベッドに入ったものの、気分の悪さから寝付けないでいました。うとうとしては目を覚まし、またうとうとする……の繰り返しです。モゾモゾして旦那様の睡眠の邪魔になってはいけないのでじっとしていました。




 * * * * * *




「フィサリス公爵様、また離婚されたんですって」


 お母様が買い物から帰ってきて、開口一番にそんなことを言いました。またそれ、八百屋のマダムから聞いたんでしょ。あそこのマダムはうわさ好きですからねぇ。


「ふうん」


 私には別段関係ないことですし、ましてや興味のないことですので、適当に相槌を打ちました。


「もう三回目でしょ? どの方とも長続きしないっていうのもどうなのかしら。それに、公爵様は一人っ子でいらっしゃるから、お世継ぎができないと困っちゃうわよねぇ。どの奥様ともお子様はいらっしゃられないし、愛人にも子供はいないみたいだし」


 お母様は私の反応など気にせず、買ってきたものを籠から出しながら話し続けています。


「大変ねぇ」

「最初の奥様はアルゲンテア家のバーベナ様だったわね。気の強いお方だから、愛人に我慢ができなかったみたいね。次の奥様たちも『愛人がいても気にしませんわ』とか言ってたらしいけど、やっぱり我慢できなくなったみたいだし」

「……よく知ってるね、お母様」

「マルシェ仲間の情報網舐めてもらっちゃ困るわ」

「そうね……」


 よくもまあ、会ったこともない人の話を詳しく知ってるものだなぁと感心しちゃいますよ。

 フィサリス公爵様ねぇ。

 一度もお会いしたことないから噂でしか知らないけど、超お金持ちで超美形、そして超エリートだからモッテモテらしい。でも長いこと付き合ってる愛人さんがいてそっちばかりを構うらしくて、公爵様の愛に飢えた奥様が耐えられなくなって出ていくらしい。あ、これは全て八百屋のマダム談ね。

 一人目の奥様、アルゲンテア公爵家のバーベナ様は「どうしてもサーシス様がいいの!」とかおっしゃって、強引に縁談を推し進めたそうです。アグレッシブですね。で、正面から愛人さんに女の戦いを挑んだそうなんですが、ドロドロとした愛憎劇を繰り広げた結果敗北。心折れてご実家に帰られたとか。

 バーベナ様との間にお子様がいらっしゃらなかったから、お世継ぎをもうけるために次の奥様を娶られたのですが、ドロドロとした愛憎劇を……以下略。そして次の奥様も。ちなみにこちらは肉屋のマダム情報です。


 そしてバツ三になった公爵様。


 ちなみにこの「バツ〜」というのは、結婚証明書に大きくバツ印をつけるところからきています。印をつけてから廃棄するんだそうです。まあどうでもいい情報ですが。


「名門公爵家の血を途切れさせないためにも絶対にお世継ぎは要るから、やっぱり再再々婚するのかしらねぇ」

「するんじゃな〜い〜? それともしないかも〜? もういっそ、愛人さんと結婚しちゃうとか〜?」


 世継ぎだの愛人だの、なんだかお金持ちの世界は大変ですねぇ。めんどくさいヤダヤダ。地味な貧乏伯爵家に生まれてきてよかった。

 公爵様の噂を思い出しながらお母様の話を適当に聞き流していたら、


「……ヴィオラ。あなたとっても他人事に聞いてるけど、嫁に行く気はないの?」

「え? フィサリス公爵家に?」

「まさか」

「デスヨネ〜。まあ、行く気もなければ貰い手もありませんよ今頃どーしてどんなこと言うんですかねお母様?」


 お母様がこっちをじとんと見ています。やば。風向き変わった?

 つーか、どこのもの好きが二十六にもなった嫁き遅れ、しかも貧乏伯爵家の地味娘をもらおうっていうんですか。いませんよそんな奇特な人!


「やっとうちの借金も減ってきて、持参金が持たせられそうなのに」


 首を振り振りため息をつくお母様。


「すっかりとうが立っちゃってるじゃない! 雀の涙程しかない持参金出したって、もらってやろうって思うのはどうせ先妻と死別したとかいう男やもめさんとか、貴族の親戚が欲しい脂ぎった商人さんとか、それくらいなもんよ、それなら家にいて家事手伝いしてるほうがよっぽどいいわ!」


 とある事情で十年ほど前にできた膨大な借金は、シスルが働き出してからみるみる減っていきました。なかなかやり手なんですよあの弟は! イケメンだし家族思いだし、ほんと、自慢の弟です。


「聞いた私が馬鹿だったわ」

「私よりフリージアの心配をしてあげてよお母様」

「フリージアはまだ若くてピチピチしてるからぽちぽち縁談もきてるのよ! 問題は貴女です!」

「え!? そうなの!?」


 こめかみを押さえたお母様がつぶやきます。フリージアに縁談がきてたのか。しらなんださ。

 

「せっかくフリージアにいい縁談が来ているというのに『き遅れの姉が家にいる』なんて、悪い評判立っちゃうでしょ」

「うっ……」

「貴女のせいでフリージアまでお嫁にいけなくなったらどうするんですか!」

「ううっ……」


 えらい剣幕でまくしたてるお母様。ちょ、今日はなんだかキャラが違くね!?

 いつもは諦めモードだったのに。今日に限ってなんでここまで責められる!?


 お母様、どうしたの!?




 * * * * * *




「う〜ん、お母様〜、嫁き遅れの娘でごめんなさい〜」


「ヴィー? ……ヴィー……ヴィオラ!」


「ん〜? …………はっ!?」


 遠くで呼ばれる声がして、おまけに体が揺さぶられ、そこでハッと我に帰りました。


 ここはどこ? 私は誰? ……じゃなくて。 


 どうやら私、寝てたみたいですね。しかもえらく立派なベッドだし。天蓋なんかもついちゃってるけど、うちのベッド、こんなに広かったっけ? つか、お母様どこいった?

 右を見、左を見る。オッケー、全然今の状況が把握できないよ。まだ寝ぼけてるね、私☆

 目だけを動かし、まだぼんやりしている私でしたが。


「うなされてたけど、どうした? 具合でも悪い?」


 そう言って心配そうに私の顔を覗き込んでいるのは超絶美形。誰だ……って、おお、旦那様じゃないですか!

 そっか、いつの間にか眠ってたんだわ。


 え、じゃあ何? 私、夢見てたの? ……しれにしちゃあやけにリアルな夢だったよね……。


 気がつけば寝汗でびっしょりです。

 冷静になって周りを見ると、ここはフィサリス家のお屋敷—今となっては私の家でもありますが−−の寝室。でっかいベッドの上です。私の家だよね? まさかまだ夢の中とか?


「いででででで! 何ひゅるんでひゅか!?」


 夢かどうか調べるためにつねってみました。……あ、間違えて旦那様のほっぺたをつねっちゃった☆ 涙目になってる旦那様ですが、痛そうなのでどうやら現実のようです。

「……バツ三公爵様じゃなかった……」

「はあ? で、気分が悪いんですか? ステラリアを呼ぼうか?」

「あ、ごめんなさい大丈夫です。ちょっとおかしな夢を見ただけですから」

「本当に?」

「本当ですって」

「我慢は禁物ですよ。今はヴィオラ一人の身体ではないんですから」

「はーい」


 懐妊がわかってからというもの、旦那様はさらに過保護になっています。ちょっとばかり(お母様が)怖い夢を見ただけなんですけどね。


 ……あれ。正妻だのお世継ぎだの、お金持ちの大変な世界に巻き込まれてるの私じゃね!?


今日もありがとうございました(*^ー^*)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 懐妊は突然でしたね。 そんな仲良しだったんですね。 どこかに書いてたのかな。 読めてなかったです。
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