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お姉様たちとデート

 ロータスがクインスという養子をもらい、ミモザたちにデイジーという赤ちゃんが誕生し、子どもに接することが増えたからでしょうか、最近『子どもかわいい病』に罹っている私です。

 前から子どもは好きでしたけどね、結婚したら子どもは欲しいなぁとは思って……あ、結婚するとは考えてなかったか☆ ま、まあ結婚したんですからいいとしましょう! ん〜でもこの結婚、いろいろ条件付きだったからなぁ。まさか後継を望まれる立場になるなんて思ってもみなかったなぁ……。




「そうそう、首の後ろとお尻の下を支えてね……上手よ〜!」

「わぁ……」

 ミモザから渡されたデイジーを、おっかなびっくり抱っこするクインス。

 ドキドキしているのが丸わかりな表情だったのが、デイジーが機嫌よくニコッと笑うと、つられてクインスも笑っています。

 旦那様のお仕事が終わるのをサロンで待っている間、ミモザとクインスとおしゃべりして過ごしていたのですが、デイジーがぐずったので抱っこしてあやしたりしていたのです。

 デイジーのことを物珍しそうに見ていたクインスに『抱っこしてみる?』とミモザが聞き『いいんですか?』と顔を輝かせたクインスです。


 あ〜かわいいわ! デイジーもクインスもかわいいわ!


 二人のほのぼのとした空気に癒されている私ですが。


 私は自分の子どもを抱っこする時がくるのでしょうか??


 そんな疑問がふと頭をよぎりました。……なんつーか、想像できない。

 そんなことをぼーっと考えながらクインスとデイジーの姿を見ていると、


「後継ぎができればそれに越したことはないけど、できなかったらできなかったで養子を貰えばいいんだし」

「ひゃっ!」


 いつの間にか私の背後に立っていた旦那様が、私の耳元に囁きました。

 うおっ。旦那様! いつの間にそこにいた!?

 驚きすぎて飛び上がりましたよ。

「サーシス様! あ〜びっくりした。もうお仕事は終わられたんですか?」

「うん。終わったよ」

 そう言って旦那様が私の横に座ると、侍女さんたちが素早くお茶を用意しました。それを優雅な仕草で飲む旦那様。滲み出るお育ちというものでしょうか? 旦那様ってばほんとに仕草ひとつひとつが洗練されてます。……っと、それは今どうでもいい。

「でも、サーシス様だって後継ぎは欲しいでしょう?」

「後継ぎというよりヴィーの子どもが欲しいかな。男でも女でもどっちでもいいよ」

「でもでもっ!」

「できなかったら二人だけで仲良く暮らせると思えば、それでもいいかなって思う」

 旦那様はことも無げにそう言うけど、義父母はどう思うでしょうねぇ。あの義父母のことですから、旦那様と同じことを言うと思うんですけど、やっぱり内心では孫は欲しいだろうしなぁ。

 釈然としないまま旦那様を見ていると、

「そんな焦る必要はないんじゃないかなぁ。ヴィーもまだ若いんだから」

 そう言ってから、『ま、これからだしね』なんてこっそり耳元で囁きました。しかもそのあと意味深にニコって笑うのやめていただきたい!




 それから数日後。


「失礼いたします。奥様にお手紙がきております」


 私がサロンでまったりしているところに、ロータスが手紙を持ってきました。

「手紙? 珍しいですね〜」

 手紙をやり取りするような友達いないんだけどなぁ〜なんて思いながら受け取ると、差出人はカモミールってなってて……ああ、旦那様の部下さんのお姉様じゃないですか!

 わざわざ手紙をよこすなんて、何か大事な用件でもあるのでしょうか? 旦那様への苦情ならば、直接本人に申し立ててください。

 ややこしいお手紙じゃありませんようにと祈りながら封を開け中身を取り出すと、爽やかな淡いミントグリーンの便箋には綺麗な文字で『今度の休みに私たちと一緒にお出かけしませんか?(要約)』てなことが書いてありました。

「よかった、旦那様への苦情じゃなかった」

「なぜそうなるんですか」

 私が安堵の吐息を漏らすと、ロータスが苦笑して言いました。

「お手紙、お姉様方が、一緒にお出かけしませんかというお誘いだったわ」

「そうでございましたか。それはよろしゅうございました」

「私、家族以外の方と一緒に外出とかしたことないから、ちょっとうれしいかも! 行っていいかなぁ? 今夜旦那様が帰ってきたら聞いてみよう」

「楽しみでございますね。奥様のうれしそうなご様子を見れば、旦那様も了解されるのではございませんか」

「…………だといいけど」


 あの旦那様ですよ。『僕も一緒に〜』とか言い出しかねない。




「お姉様方からデートのお誘いがあったんです。行ってもいいですか?」


 私は旦那様が帰ってきて開口一番、お姉様方との外出の件を旦那様に聞きました。

「え? ヴィーに姉などいましたっけ」

 ちょっと眉をピクッと動かしてから、旦那様が言いました。これは確信犯ですよね。

「とぼけないでください。サーシス様の部下の綺麗どころトリオのことですよ。今度三人そろってお休みが取れたので、一緒にお出かけしませんかって誘ってくださったんです」

 私が手紙のことを説明すると、

「あ〜うん、まあ、いいよ」

 意外とあっさりオッケーがもらえました。

「ありがとうございます!」

 うれしくてつい旦那様に抱きついてしまいましたよ!


「それで、いつ出かけるの?」

「え〜と、明後日ですね」

 晩餐の席で旦那様が聞いてきたので、私は手紙の内容を思い出しながら答えました。多分あってるはず。後でちゃんと確かめますが。

「ええっ! その日は僕も休みなんだけど。ああ、じゃあ僕も一緒に……」

「却下です」

 やっぱりコノヒト予想通りのこと言いましたよ。

 もちろん私は真顔でお断りしました。

「だよね」

 シュンとしたってダメなものはダメなんですよ、旦那様! お姉様方とデート、女子会なんです、じょ・し・か・い! お姉様方だって、せっかくの休みに上司と一緒に遊びに行きたいなんて思いませんよ。

「そんなことよりサーシス様、お休みの日にたまったお家の仕事を片付けないと。ロータスがた〜くさん書類を持って待ち構えてますよ?」

 そう言って私がロータスの方を指すと、旦那様に向かってにっこり微笑んで頷くロータス。

「マジか。ヴィオラはいないわ仕事は山積みだわ、辛い休みだ……」

 ロータスのいい笑顔に反してげんなりする旦那様。

 まあ確かに、休みの日までお仕事はかわいそうですよね。

 凹んでる旦那様って、ちょっとかわいいかもなんて思いながら、

「お土産買ってきますから、お仕事頑張ってくださいね」

 フォローいれてみると、

「わかった」

 うなだれながらもなんとか納得したようです。




 お出かけ当日。

「こんにちは〜。奥様、ご機嫌いかがですか?」

 お姉様方はわざわざ公爵家までお迎えに来てくださいました。

 アルカネット様は濃い青、カモミール様はボルドー、アンゼリカ様はローズピンクのお召し物でとっても素敵です。

 制服姿も凛々しくてカッコイイんですけど、普段着だとお姉様方の違った魅力が溢れるというかなんというか。とにかく素敵でキュンキュンしちゃいます。あ、でもこんな素敵な人たちの横に平凡な私が並んでいいのでしょうか!? ……ま、いっか。気にすんな!

「わざわざうちまで迎えに来てくださってありがとうございます!」

「そりゃあどこかで待ち合わせなんかしてる間にヴィーに何かあったら大変だからな」

 私がお姉様方にお礼を言ってる後ろで旦那様がボソボソとつぶやいているので、グイッと肘で押しやっておきます。もう、今日は朝から不機嫌なんだから。

 でもさすがお姉様方、旦那様の不機嫌なんて慣れているのか、

「「「奥様お借りしま〜す!」」」

 めっちゃ笑顔でスルーしてるし! さすがです!

「…………」

「旦那様、行ってきますね〜!」

 私もお姉様方に倣ってじとんとこちらを見ている旦那様に向かってさっさと手を振ると、お姉様方と一緒に街へと繰り出しました。




 お姉様方の行きつけだというおしゃれなレストランでランチをいただき、その後はレモンマートルのお菓子屋さん併設のカフェに行くことになりました。

「カフェ限定のタルトでしょ、ムースでしょ、スポンジケーキでしょ……」

 メニューを見ながらあれもこれもと悩むアンゼリカ様に、

「もういっそ全種類頼んじゃお。みんなでシェアしたらいいじゃない。それでいいですか? 奥様」

「え? 全種類!?」

「そうですよ。十個くらい?」

「わぁ……。あ、はい、多分食べられませんが」

「全然オッケーです。じゃ、それでいきましょ」

 そう言ってさっさとオーダーを決めてしまうカモミール様。何が全然オッケーなのかわかんない。

「そおね〜。じゃあ限定スイーツだけは一人一個で、それ以外は一個ずつ全種類ってことで。お茶はどうしましょ。奥様は何がお好みですか?」

「あ、ミルクティでお願いします」

 アルカネット様がチャチャッとまとめてくれました。

 サクサク決まりましたね〜。そして女子とは思えないケーキの量!

 接客のお姉さんは(いつもの人ね)ケーキ全種類というオーダーを聞いて目を丸くしていました。そうですよね、女子四人で全種類制覇とかね、びっくりしますよね。


 しばらくするとケーキがどんどん運ばれてきました。テーブルの上はケーキの乗ったお皿でひしめき合っています。結構圧巻です。

 それをひょいぱくひょいぱくと、どんどん食べていくお姉様方。

 食べるスピードは早いのに全然下品じゃない、むしろ上品なのはやはりお育ちがいいからでしょうか?

「ほんっっと、ここの限定スイーツは何度食べても美味しいわぁ」

「定期的に種類が変わるから飽きないしねえ。あ、奥様、どれでも好きなもの味見してくださいね〜」

 アンゼリカ様とアルカネット様が、カフェ限定のスイーツを口にしながらうっとりとしています。

「ありがとうございます! 他のケーキもすっごく美味しいですよねぇ。全部食べきれないのが悲しいです。だから毎回違うケーキを頼むことにしてるんです」

 そう言う私の前には限定スイーツのみ。お姉様方のようにいっぱい食べたいけど、あまりたくさん食べてこんなとこで腸内テロでも起こしたら……と、苦渋の選択をしたのです。

「あら毎回って、奥様も、あれから何回か来られてますの?」

 私の言葉に『おや?』という顔をしたカモミール様が、二皿目をペロリと平らげてから私に聞いてきました。

 〝あれから〟というのは、ここで騎士団のみなさまとスイーツパーティーになった時ですよね。ええ、あれから何回も旦那様とここに来ていますよ。

「そうですね。旦那様と街中をお散歩する時とかに来てます」

「「「ふぅぅぅぅ〜」」」

 何回もデートしてますよって白状するみたいで恥ずかしいのに、お姉様方ったら容赦なく冷やかしてくるし! もうっ!

 じゃあ、私だって質問させてもらうんですからね!

「いやいや、みなさまも旦那様と来るんですよね?」

 顔が赤いのを自覚しながらお姉様方に反撃とばかりに聞き返せば、

「まあ、それが多いかな?」

「あとは友達と来たり?」

 それぞれ顔を見合わせながら答えてくれます。ほらほらやっぱりお姉様方だって旦那様と一緒に来るんじゃないですか〜。

 あ、でも、お姉様方が結婚しているというのは知ってましたが、旦那様のことって全然知りませんね。そういえばこうしてプライベートなお話をするのも初めてですし。

 せっかくだから聞いちゃおうかな。

「お姉様たちの旦那様ってどんな方なんですか?」

「おお……奥様、今日は積極的に質問ですね」

 私が思い切って質問してみるとなぜか驚かれました。

「う〜ん、うちはインテリ眼鏡? 王宮で図書館司書をやっていて、本の虫なんです。本を読んでる時が一番幸せなんですよあの人は」

 そう言うのはカモミール様。ふむふむ、カモミール様の旦那様はインテリ眼鏡っと、メモメモ。

 カモミール様は大人っぽい方だから、なんかお似合いだなぁ。

「カモミールの旦那さんて、幾つ年上だっけ?」

「10かな。司書だしおとなしい感じの人ですよ」

 おお、年上の包容力ってやつですね!

「年下なのはアンゼリカのとこだっけ」

「そう。二つ下で、騎士団で事務してます。騎士団って言っても事務だから、私の方が強いのよねぇ」

 ふふふと笑ってアンゼリカ様は銀糸の髪をかきあげました。う〜ん、腕の立つ奥さんをもらうと大変ですね!

「そうなんですね〜。カモミール様の旦那様が司書様で、アンゼリカ様の旦那様が騎士団事務かぁ。じゃあ、アルカネット様の旦那様はどんな方なんですか?」

「うちは執政官秘書をやってる真面目くんですのよ。どちらかというとインテリ系? 仕事大好き人間で、泊まり込みとかしょっちゅうなんですよ」

 そう言って肩をすくめるアルカネット様。そうですか、旦那様はワーカホリック気味ですか。

 ここまで三人の旦那様を聞いてきて、意外とおとなしい目なのに驚きました。もっとむきむきマッチョが好き! とか言いそうな方達だから……あはっ!

「お姉様たちの旦那様って、意外と文系なんですね! もっと『自分より強くなきゃ!』かと思ってました」

 私が率直な意見を述べると、


「「「同じ職場はちょっと……」」」


 毎日顔をつき合わせてるからトキメキとか全然ないのよねぇ、と三人の声が揃いました。


 毎日一緒にいたらいいところが見えてきたり、危険な場面を一緒にくぐり抜けたら特別な感情が生まれそうな気もするんですが……そうでもないんですね。

今日もありがとうございました(*^ー^*)



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