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子供はかわいい

 公爵家に新しい仲間が増えました。ベリスとミモザ夫妻の赤ちゃんです。


 ベリスに似たこの女の子は『デイジー』と名付けられ、公爵家のみんなにかわいがられまくっています。

 かくいう私も、暇さえあればミモザの部屋に入り浸ってます☆

 いやぁ、あの無口強面魔王様……ゲフゲフ、ベリスが、せっせとデイジーのオムツを替えたり抱っこしてあやしたりするとは思いませんでした。『女は黙って男についてこい』とかいうタイプ……でもないか。ミモザのこと、大事にしてるもんね。

 デイジーを抱っこして寝かしつけているベリスをじーっと見てたら、私をチラッと見て、顔を赤くしたかと思うと、

「ミモザの小さい時も世話をしましたから」

「きゃ〜!! それはもう忘れてよ〜!!」

 だそうです。はいはいごちそうさまです。

 でもベリス、私と同じだね☆ 私も弟妹の面倒見てきましたから、子育てバッチコイですよ!




「かわいい。食べちゃいたいくらいかわいい。かわいくてかわいくてどうしたらいいの……」


 そっとつつけば私の指をキュッと握る小さな手を食べてしまいたい。くすぐればもぞもぞと動かす小さな足を食べてしまいたい。ふくふくしたほっぺをつつけばチュッチュと動かすちっちゃなお口にチューしたい。……おっと、いかんいかん、ついうっかりヨダレ出ちゃったよ。

 ジュルッとヨダレを拭いていると、

「あ、奥様、デイジーを食べないで下さいよぉ〜。クスクス」

 おかしそうにミモザが笑っています。

「だってね、ちっちゃくてプニプニしてて、ちょーかわいいんだもん」

「奥様、二言目には『かわいい』ですね。よその子でこれだけかわいいを連発していたら、ご自分の時は……」

「どうなっちゃうんだろう?? 想像つかないわ」

 というか、自分の子供を抱いている自分が想像できないというか……。

 私が難しい顔をしていたのでしょう、ミモザがまたクスクス笑うと、

「きっとそう遠くない将来ですよ〜。旦那様も欲しいとおっしゃっているのでございましょう?」

「うん、そう」

「じゃあ、きっとすぐですわ〜。奥様と旦那様のお子様、どっちに似ても美人さん間違いなしですよ〜」

 なんてことを言ってますが。

 って、ミモザさん? 旦那様に似ればそりゃあ男の子でも女の子でも美人さんでしょうけど、もし私に似ちゃったら……。

 旦那様はもはや言うのも飽きちゃったくらいの超美形。お義母様は旦那様と同じくキラキラお美しい美貌、お義父様もダンディなイケメン。そんな美貌を誇るキラキラ一家の中で私だけが平凡、フツー、むしろ地味。いたたまれなさったら半端ない中で、待望のベビーが私に似ちゃってみ? 取り返しつかないよ?

「旦那様に似ればいいけど……」

「何をおっしゃってるんですか〜! 奥様に似たら男の子はかわいいし、女の子は清楚で可憐になりますよぉ。奥様は旦那様たちとは違う系統の美しさなのに。わかってませんねぇ」

 ミモザに呆れのため息を吐かれてしまいました。

 それは美化しすぎだと思います。わかってないのはミモザの方だわ。

 大丈夫、私はちゃんと自分の容姿を把握していますからね!!




 そんなこんなでひと月が経ちました。

 特に問題もなく体調も回復したので、ミモザとデイジーも部屋から出てくるようになりました。でも侍女のお仕事をさせるにはデイジーが小さすぎるので、二人セットで私の話し相手です。


「体調も落ち着いたことだし、ちょっと実家に帰ってみる?」


 生まれてすぐにミモザとベリスのご両親が赤ちゃんに対面に来ましたが(というか私が呼んだ)、それ以来様子を見に来ることがありません。やっぱり公爵家には来にくいですよね。私だったら強制的に呼び出し食らわない限り来ませんね。

 でもきっとデイジーには会いたいはずです。だから私はミモザに帰省を提案しました。

「気楽にいつでも来てちょうだいって言ってるけど、やっぱり遠慮してるでしょ。二、三日帰ってみたらどお? あ、もっと長くてもいいわよ」

 ミモザの実家は仕立て屋さんをしているそうで忙しく、ミモザたちのお世話をする暇がないでしょう。ベリスの家に滞在でもいいけど。

「よろしいんですか? そう言っていだけるとうれしいです〜。ではお言葉に甘えて、三日ほど両方の実家に顔を出してきてもいいですか?」

「もちろんいいわよ!」

「ありがとうございます!」

 びっくりしたような顔をしてからうれしそうに破顔するミモザ。お、ナイスな提案しましたか、私!


 ミモザとデイジーだけでは心配なので、ここはベリスもセットで家族仲良くお休みを取ってもらうことにしました。




「デイジーロスだわ。寂しい。めちゃくちゃ寂しい」


 ミモザたちが実家に帰ったその夜。もう私はデイジーロスでしおれていました。

 シュンとしながらモソモソと晩餐を食べていると、旦那様が私を見て苦笑いしています。

「デイジーたちは今日出て行ったばかりでしょう? それに明後日か明々後日には屋敷に帰ってくる……」

「で〜も〜! 寂しいものは寂しいんです!」

 旦那様の言葉に、私は食い気味に反抗します。

「ヴィーはすっかりデイジーに骨抜きにされちゃってるね」

「はいっ! まるっと全部かわいいんですもの!」

 かわいいは正義なのです。

 またデイジーを思い出して私がシュンとしていると、


「では、気を紛らせがてら夜会に参加されてはいかがですか?」


 ロータスがしれっと社交おしごとをぶっこんできました。

「はい?」

「ちょうど一週間後に夜会が開かれるそうで、招待状が届いております」

 そう言って懐から見慣れた封筒を取り出すロータス。それは王宮からきたやつですね! もう何回も見てるからさすがに覚えたよ!

 でも私は今が(・・)寂しいのであってですね。

「うん、その頃にはデイジーも帰ってきているからパスでお願いします」

「いえいえ。これに向けていろいろ調整していれば時間があっという間に過ぎます。デイジーのことを思い出す暇もございませんよ?」

「思い出す暇もないくらい調整しませんて!!」

 にっこり笑顔で恐ろしいこと言わないでくださいロータス!

 ぐぬぬ……とロータスを睨んでいると、

「まあ、今回は王宮からの招待だからね。観念した方がいいよ、ヴィー」

 サラッと招待状を確認していた旦那様がロータスの援護をしました。

 断れない社交は参加する。それは結婚当初からの契約ですもんねぇ。くぅぅ。

「それに、王宮あちらに行けば王太子様もいらっしゃいますよ」

 私が観念しかかっているところに、ロータスが追い打ちをかけてきました。

 そうですよ、王宮にはディアンツ王太子殿下がいらっしゃるんですよ!

 将来美形間違いなしの王太子様はリアル天使。先日のお誕生日会では、間近で思う存分()でさせていただきましたっけ。

「あ! そうですね!」

 王太子様にお会いできるなら行ってもいいかもです。

 せっかく私が乗り気になったというのに、

「……僕は行くのをやめたくなった……」

 旦那様が遠い目をして言っています。おや、どうしたのでしょうか?




 先日旦那様からいただいた『ヴィオラの瞳(ヴィオラ・アイ)』のお飾りをつけ、ドレスも特殊メイクも完璧。

 そんな私に、

「あ〜やっぱり見せびらかすのが惜しい……」

 なんて甘い言葉を囁く旦那様。もうすっかりお出かけ前のお約束ですけどね☆

「では夜会をお休みしましょう!」

 もちろん全力でのっかりますよ! 王太子様に会うのも楽しみですが、もうお屋敷にデイジーは帰ってきてますからね。お出かけする必要な〜し☆

「そうしましょう!」

 旦那様ももちろんのってきます。あわよくばこのまま夜会ボイコット……とは神が許さない。


「またそれをやりますか。毎回毎回よく飽きませんね。いい加減になさってくださいそろそろ怒りますよ」


 ロータスのひく〜い声が聞こえてきました。はい、ソウデスネ〜、行かないといけませんね〜!

 私はビビっているというのに、ひるまない旦那様は、

「あんまり綺麗だから夜会で見せびらかすのが惜しくなるんだ、仕方ないだろう」

 果敢にも反論したのですが、

「はい?」

 とニッコリ笑ったロータス。あ、こめかみに青筋が見えるっ! これはやばいよ旦那様!!

「「スミマセン!!」」

 ロータスから流れ出した冷気に、私と旦那様の声が綺麗にハモったのでした。




 王宮の大広間に着き国王様にご挨拶を終えたところで、


「ヴィーオラー!!」


 王太子様が私を見つけて走ってきてくれました。今日もキラキラ金髪が明かりを反射して綺麗です〜! 薔薇色の頬に笑顔全開とかもうリアル天使〜!! 私を萌え殺す気ですね!

 駆け寄ってきてぎゅっと抱きつく王太子様を優しく受け止めます。

「覚えていてくださって光栄ですわ。ごきげんよう、ディアンツ様」

「わすれるわけないでしょ! ごきげんよう、ヴィオラ。あっちにおいすをよういしてるから、いっしょに行こう!」

「まあ! ありがとうございます。サーシス様、行きましょうか」

 私の手を取り引っ張っていく王太子様についていきながら、私が旦那様に声をかけると、

「…………ええ」

 いやそうに一緒についてきます。もちろん殿下と反対の手は旦那様と繋がれたままですよ。また私ったら王太子様と旦那様を独り占めしてるみたいになっちゃいました。

「あ、こうしゃくもいたのか。こんばんはー」

「見事な棒読みですね。ずっといましたよこんばんは」

 二人はそんな挨拶を交わしてます。仲良くないのかしら。


「それ、とってもきれいなほうせきだね!」

「まあ! ありがとうございます」

「これはこうしゃくがヴィオラにプレゼントしたの?」

「そうでございますよ。これは滅多に出ない貴重なサファイア、我が妻の美しい瞳になぞらえて『ヴィオラの瞳』と名付けたサファイアでございます」

「へぇ~。ほんと、ヴィオラみたいにきれいなサファイアだね!」


 大きさといい美しさといい、そんじょそこらのサファイアとはわけが違う『ヴィオラの瞳』を、王太子様は興味津々で見ています。こんなお小さいのにもう宝石の良し悪しがわかるんですか? いや、というか、これくらいの子供にすら、その美しさがわかっちゃうということか。すごいね、最上級の宝石は! やっぱり名前ネーミング、変えて欲しいです。

 キラキラした瞳で宝石を見る王太子様に、旦那様がすかさず説明しています。その恥ずかしい例えはやめていただきたい。

「こうしゃくからのプレゼントか~。なかなかいいものをあげたね、こうしゃく」

「お褒めに預かり光栄にございます。殿下も、どなたかに宝石をプレゼントする際には是非こちらをご用命下さい」

 旦那様、すかさずセールスもぶっこんできました。さすがですね。

 私が旦那様に感心していると、


「こうしゃくはカッコイイから、きっとモテるんだろうね」


 王太子様が突拍子もないことを言いだしました。

 小さな子供の話はよく飛ぶからついていくのが大変だけど、またこれはえらい飛びようで。宝石の話からいきなりどうしてそうなった?

「はあ?」

 旦那様もキョトンとしています。私も同じ顔をしているでしょう。

「おんなの人にモテモテだから、おんなの人のお友だちがたくさんいて、だからこういうすてきなプレゼントを思いつくんだね」

 私たちに構わず王太子様は話しました。そっか。そう繋がったんですね。

 旦那様が女の人にプレゼントするのに慣れてるってことが言いたいのかしら? ……あながち間違ってないところがちょっとウケます。

「んくっ……」

「は?」

 私が笑いを堪えている横で、旦那様のお綺麗な顔がピクッと引きつりました。

「あ~、ぼくにはまねできないなぁ。ごめんね、ヴィオラ。もうちょっと大きくなったら、これをこえるくらいのプレゼントあげるからね。ああでもたくさん女の人とお友だちになれるかなぁ。ぼく、だいじょうぶかなぁ」

 それでも構わず続ける王太子様。

「「はあ」」

 さすがに私と旦那様の声がハモりました。王太子様! そんな遊び人にならないで……っ! おっと、げふげふ。旦那様は遊び人じゃないですね! お嬢様方にモテモテなだけですね! 失礼いたしました☆

 王太子様はきっとイケメンになるでしょうから、お嬢様方からさぞおモテになると思いますよ! でもプレゼントは友達の数ではないというか。

 私がそう思っていると、旦那様が笑顔を引きつらせたまま、

「プレゼントというものはセンスでございますよ、王太子殿下」

 それでも優しく諭すように言いました。

「あ、そうなの?」 

「お友だちの多い少ないではありませんよ」

「ふ~ん」

 納得したようなしていないような微妙な顔をしていた王太子様でしたが、ハッとひらめいたように瞳を輝かせると、


「ああ、でもこうしゃくにおしえてもらえば、おんなの人のお友だちたくさんできるね!」


 いや、それ……どうなんでしょう…………?




 そんなこんなで今日は王太子様のお相手でパーティーは終始した感じです。お子ちゃまの相手なんて慣れっこ、楽勝です。

 かわいい王太子様に癒されて、帰りの馬車でもご機嫌な私。

「今日も王太子様はかわいかったですね!」

「え!? あの王太子を見てそれ思うんですか! あれの一体どこがかわいかったんですか!?」

「無邪気じゃないですか」

「いやむしろ真っ黒に思えたんだけど……」

「そうですか? 私にプレゼントしようなんて、かわいいじゃありませんか。もっとも、女の人のお友達をたくさん作るっていうのはいただけませんけど。……サーシス様、そんなこと指南しないでしょうね?」

「するわけないでしょ!!」


 旦那様は否定的ですが、やっぱり子供はかわいいと思います。


「かわいくないのはあの王太子に限ってですよ! 子供は嫌いじゃないからね」

「あ、そうなんですね」


今日もありがとうございました(*^ー^*)

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