疑問解決
ロータスに隠し子発覚!?
いやいやまだそれは確定ではありませんが、私と旦那様はロータスが子供を連れて公園にいるところを偶然目撃してしまいました。
いったいあの子は何者なんでしょうか?
私と旦那様がお屋敷に帰ってきたときには、もうロータスは帰ってきているようでした。
「ただいま帰った。−−ロータスは?」
「ロータスでございますか? 先ほど外出から帰ってきて自室におりますが何かご用でも? 呼んでまいりましょうか?」
旦那様がロータスのことをうっかり聞いちゃうから、出迎えのダリアが不思議そうな顔をしています。
「あ、ロータスは休みだったな。うっかりしていた。呼ばなくていい」
「そうでございますか?」
「そうですよ〜。せっかくのお休みですから!」
旦那様が慌てて繕ったので、私もフォローしときます!
サロンに入ってひと息入れるのですが、私たちの頭から昼間の光景が離れません。
「あの子供は何者だ……」
「すごく、ものすご〜く気になります」
「変わった様子は見られないよな?」
「ええ、特に変わった様子などありませんよ?」
ヒソヒソゴソゴソ、私たちは周りに聞こえないよう気をつけて話をします。もちろんロータスの名前は出しませんよ壁に耳あり障子にメアリー! どこで誰が聞いてるかわかりません、うちの使用人さんなめちゃいけませんから。
「もう少し様子を見てみるか」
「そうですね。あ、次のお休みのときも出かけるかもしれませんよ! サーシス様、次のお休みはいつですか?」
「なんで僕?」
「だって、最近サーシス様のお休みにかぶせてくるから」
「そうだったね……。五日後かな」
「じゃあまたその日に尾行しましょう!」
「やけに張り切ってるね」
「ことがことなら由々しき問題ですからね!」
アマリリスになんと言えばいいのでしょう? ……って、私が言う必要はないですけどね☆
そしてまたロータスのお休みの日がきました。もちろん旦那様のお休みの日です。もはやこれは完全に意図してますねロータス!
「くそっ、ロータスめ!」
「まあまあサーシス様、仕事は帰ってから頑張りましょう! それよりもちゃんと見張っとかなきゃです」
今私たちはお屋敷と道路をはさんだ向かいの街路樹の陰に潜んでいます。腰高の低木なので身を隠すにはもってこい!
そこからお屋敷の門を見張っているのです。なんのためにって? それはロータスが出てくるのを待ってるからじゃないですか!
公爵家にもちゃんと裏門や勝手口のような門もありますが、みんなだいたいここを通ります。使用人だからって正門使っちゃダメとか、公爵家にはありません。ロータスも、外出するときはここを使ってます。以前に私がロータスとアマリリスとのツーショットを目撃したのもこの門でした。
朝からロータスを尾行して「今日こそあの子供の謎を解くんだ!」と張り切っている私たちは、だから、ロータスより先に屋敷を出て、そのまま街路樹に身を隠し出てくるのを待っているのです。
「あ、来ました!」
「隠れて!」
私服のロータスが門から出てきたので慌てて頭を下げます。
木の隙間から様子を伺い(見えにくいけどね!)、適度に距離が開いたところで尾行開始です。
こそこそ街路樹に身を隠しながらついていきます。
「サーシス様も前の部署ではこんな尾行とかやってたんですか?」
「さすがに最近はないけどね。騎士団に入りたての頃はやったかな。そんな部署だったからね」
「さすがに近衞には要らないスキル」
「でもそうは言えないよ? うちは近衞と言いつつ公安部隊だから」
「でしたねー」
調査対象が国外から国内に変わっただけでしたね。失礼いたしました。
こそこそおしゃべりなんてしていたらいつの間にか文教地区に着いていて、ロータスは前と同じく専門学校に入って行きました。
「やっぱりここに来たね」
「休みごとに来てるんでしょうか? きっちり休みを取れるようになったのが最近ですから、そんなに長期間通ってないってことですかね?」
「うん、軽く責められてる気がするのは僕だけかな……」
「大丈夫、気のせいですよ! 休みが取れなかった頃は、あの子を放置してたってことかしら?」
「う〜ん、どうだろうね」
正門に身を隠してこっそりと中の様子を覗く私たち。ちょっと不審者ですけど気にしないでくださいね学生のみなさん!
ロータスはいくつかある建物のうちの一つに入って行き、またあの子供を連れて出てきました。
今日はローニュの森ではなく王宮の方に行ったロータスたち。王宮の、一般庶民に解放されているお庭や部屋を見学したり、騎士団の屯所を外から見たりして過ごしていました。今日のテーマは社会見学か何かだったのでしょうか。
結局今日も、二人の関係はよくわからないまま尾行は終了しました。もやっと感だけが残ってるんですけど〜!?
次の日も、いつもと変わりないロータスがいつも通りに仕事をしていました。
「昨日も仲良さげでしたね」
「うん、昨日今日知り合った感じではなさそうだった」
「このことをアマリリスは知ってるのでしょうか?」
「今日と前回だけではなんとも言えないけど」
お屋敷の中、旦那様と私はこっそり柱に隠れてアマリリスとロータスの様子を観察しています。
廊下で何か話しているロータスとアマリリスは、別にイチャイチャベタベタしてるわけではないのですが、なんとなくいい雰囲気というか。とりあえずぎくしゃくした感じは全くありません。
ロータスが何かひとこと言ったのに対してアマリリスがふんわりと微笑んでいます。
「うう……アマリリスのあの優しい笑顔を曇らせるようなことしてはいけませんロータス!」
ぐぎぎ……と私が思わず柱に爪を立てていると、
「いやいや、まだ隠し子とは決まってないからね。ヴィー、落ち着いて! 早まらないで」
旦那様に手を握られて止められました。
「でも〜」
「あの子供については僕が調べてくるから、ちょっと待って」
「……わかりました」
旦那様ならいろんな手を使ってでもあの子のことを調べてくるでしょう。とりあえずその報告を待ちますか。
「例の子供は名前をクインスと言って、現在八歳。ロータスの遠縁にあたるらしいが、親はいない。今は専門学校の寄宿舎に入っている。とても優秀な子らしく、学費は免除だそう」
あれから二日後、旦那様が調査結果を教えてくれました。
「わぁ……特徴だけでここまで調べられるんですねぇ。すご〜い!」
「手の空いてる部下に調べてもらったんですが、これくらい朝飯前ですよ」
旦那様の部下さん、やっぱり優秀なんですね!
「親がいないというところが気になりますね」
「そうだね」
「ロータスの隠し子でないという確証にはならない!」
「今日のヴィーはやけに疑い深いね」
「アマリリスのためです!」
とりあえず子供—クインスのことはわかりましたが、まだこう、はっきりしないのがモヤモヤします。
そうしてモヤモヤすることしばらく。
「旦那様に相談がございます」
改まったロータスとアマリリスが、サロンでくつろぐ旦那様の元にやってきました。
すわ、修羅場!? 隠し子認知の仲裁してもらうために旦那様のとこに来たとか!?
……落ち着こう、私。よーく見てごらん、アマリリスも普通だよ?
一瞬暴走しかけた私でしたが深呼吸して落ち着きを取り戻し、旦那様たちの様子を見守ることにしました。
「なんだ?」
くいっと眉を上げて旦那様が聞き返しました。
「はい。実は子供のことでございまして−−」
「ええーと、サロンでそんな話しちゃっていいんですか〜? サーシス様の書斎の方がよろしいのでは? あはははは!」
「? どうかされましたか、奥様? 別にサロンでも大丈夫な話でございますよ?」
きっとこれクインスのことですよね。そんなの他の使用人さんたちがいる前で話していいことですか!?
焦った私が場所移動を提案したのに、ロータスったらキョトンとしちゃって!
「そ、そうなの?」
「はい。子供というのは私の遠縁のクインスという者なのですが。今専門学校で学んでいる八歳になる男の子です。しばらく前に両親を病で相次いで亡くしてしまいまして身寄りがなくなってしまいました」
「それは気の毒な」
「まだ幼いのに」
そうか、彼は両親と死別してしまっていたのですね。ロータス、ここで隠し子疑惑払拭! 疑ってごめん!
「はい。近い縁者もいないので、遠縁だからと私が学校長から相談されたのです。幸い学業の成績はいいので学費はいらないのですが、やはり幼い子供、精神的な支えがいるだろうと」
「そうだな」
「うんうん、同意します!」
妹のフリージアと同い年で両親いないとか、どんだけ辛いでしょう! うう、ぎゅっと抱きしめてあげたいです。
「そこで彼を養子にしようと思うのです」
ロータスが静かに宣言しました。
「養子? 別に構わないが」
「ありがとうございます。私とアマリリスで何度か彼に面会していますが、クインスは賢い子供でございます。自分の年齢の学習はすでにマスターし、上の学年のことを学び始めております」
クインス、ロータスの遠縁だけあって優秀なんですね!
「学校長からも彼に関してはお墨付きをもらっております。このまま行けば執事コースを首席で卒業できるでしょう。私も後継者を探していたところなので、願ったり叶ったりと考えているのですが」
クインスは未来の公爵家執事候補なんですね!
「なるほど。ロータスがいいと思うならそれでいいんじゃないか?」
旦那様はあっさりオッケーです。
ロータスはこう言ってるけど、アマリリスは複雑なんじゃないかなぁって思うんですけど、どうなんだろう?
「アマリリスはどうなの?」
「わたくしも賛成しております」
アマリリスも曇りない微笑みで頷きました。真っ直ぐ私の目を見ています。
アマリリスの返事を聞いたロータスがそれまでの硬い表情を和らげると、それを見てまたアマリリスが微笑みました。ふぅぅぅ〜見せつけてくれますね!
「じゃあ問題なしですね!」
隠し子発覚とかじゃなくてマジよかった〜!!
しばらく続いていたモヤモヤが晴れた瞬間でした。
養子にするといってもクインスは寄宿舎に住んでいるので、お屋敷に人が増えた感じはありません。ロータスたちの部屋にクインスの荷物が少し増えたくらいです。クインス自身は専門学校の休暇の時にお屋敷に来るくらいです。
「お休みごとに公爵家にくればいいわ! 早く慣れてね」
「ありがとうございます」
ぺこりと礼儀正しく頭をさげるクインス。素直でいい子のようです。
近くでクインスをよく見ると、青い瞳が印象的なきれいな顔をしています。これは将来イケメン間違いなしですね! あ、もちろんうちの旦那様の方がイケメンですよ?
「ロータスが『お父さん』かぁ〜」
クインスにお屋敷の中を案内するロータスを見ながら私がしみじみつぶやいていると、
「奥様も早く『お母様』になりましょうね」
にっこり笑ったダリアから、思わぬ反撃をくらいました。
今日もありがとうございましt(*^ー^*)