ミッション!
やっと長雨のシーズンが終わりました。これほど晴れの日を切望したことはなかったですね!
ロータス先生の鬼コーチにより、ダンスのレベルはぐんぐん上達し、ミモザ率いるエステ隊(いつの間にか結成されていた!)によるフルコースエステのブラッシュアップのおかげで、長雨シーズン終了時には一皮むけた気がしています。ええ、前よりも顔色が良くなりましたとも! ほっぺたもぷりぷりですよ? ダンスレッスンのおかげで普段からの姿勢もよくなったし? はい、とってもとーっても感謝しています。誰にも見せることがないことが残念なところですかね? 見せる必要ありませんが。
そうこうしているうちにまたひと月が経っていて、公爵家に来て3ヶ月になろうとしていました。
コンコンコン。
「失礼します」
私がベリスのところから調達してきた花をサロンに飾っていると、軽快なノックの音とともにロータスが姿を現しました。
「あら、どうしたの?」
いつもなら自分の執務室にこもって仕事をしているロータスが、わざわざ私のところに来ましたよ。一体何の用事でしょうか? 今までのことを思うと、あまりいい知らせではなさそうですが。
「はい、奥様。先程こちらのお手紙が届けられましたので、目を通していただきたいと思い持ってまいりました」
そう言いながら手渡してくるのは、前にも見たフィサリス公爵家の家紋入りの特製便箋です。……見ただけでも右腕の腱が痛む気がします! ……いや、じゃなくて。あ~、あのシャケクマの置物どこいったけな~。……それも違うくて。
じーっとトラウマな封筒を睨んでいると、
「先代様からでございます。こちらの様子見がてら遊びに行きたいからいつがよろしいかという問い合わせでございます」
ロータスが説明してくれました。
「まあ、そうでしたの! でもこれ、私では決められませんね」
義父母夫妻が来るということは、『旦那様と上手くやってますよ~』という演技をしないといけないっちゅーことですよね。
「はい」
「旦那様が帰ってきた時にでも相談しましょうか」
って、未だ社交辞令的な会話しかしことないんですけどね~。でもこれは契約に関わることでしょうから、旦那様ときちんと擦り合わせておかねばなりません! 莫大な借金を払っていただいたのですから、しっかりきっちり仕事はさせていてただく所存です!!
夕刻。
旦那様が帰ってきたことをミモザから聞いた私は、いつものように簡素な服に着替えてエントランスに急ぎました。
そこではすでにロータスが報告を済ませていたようで、
「手紙の件はロータスから聞きました。こちらの都合で申し訳ないですが1週間後ということで返事をします」
「はい」
旦那様の都合も何も、私はお気楽使用人ライフですからね。社交もしていませんから、いつでもお暇、いつ予定を入れてくださってもバッチコイですよ!
「多分2、3日はこちらに滞在するでしょうから、私もこちらに帰ってくるようにします」
「えっ?!」
義父母夫妻、やっぱり滞在しますか。まあそれは想定内ですが、旦那様までこちらに帰ってくると言い出すなんて完全に想定外ですよ!
思わず口にした返事に、旦那様はきゅっと片眉をあげて、
「何か?」
と聞いてこられました。不都合は……ありまくりですが、それは言えません!
「い、いえいえいえいえ! 大丈夫です!」
慌てて肯定しておきました。そして私の肯定を確認してひとつ肯くと、旦那様は具体的な計画を立てていきました。
「両親は客間に泊めるとして。私は夫婦の寝室に泊まることになるでしょうね……」
ちょっと気まずそうな旦那様です。拳を口に当て思案顔ですが、何を考えることがありましょうか!
「そうですね。では寝室の方に簡易ベットを搬入しておきますので、私はそこで休みますね。旦那様はベッドをお使いください」
仲よさげに見せるなら、夫婦別室は問題外です。それくらい私も理解していますから、旦那様と同室と言われても動揺なんてしませんよ! ただ同衾は勘弁してください。
相変わらずさばさばとした私の反応にびみょ~な表情をする旦那様です。
「……私がそちらで」
一応遠慮しようとする旦那様ですが、
「いいえ、大丈夫ですから」
自慢じゃありませんが、放っておいたらソファでもどこでも眠れちゃう実力の持ち主なんですよ、私。
しっかり笑顔で押し切っておきました。
「……申し訳ない。ところで、貴女の愛称は何ですか?」
寝室問題が片付いた後、旦那様がおもむろに聞いてこられました。ナンデスカ? いきなり話題が飛んだ気がするのですが?
「ヴィー、ですけどそれがどうかされましたか?」
「愛称で呼んでいる方が仲良く見えるのではないかと思いましてね」
おおう! さすがは旦那様。知略に富んでいらっしゃる。確かに愛称で呼ぶ方が親密度アップ間違いなしですからね!
「そうですね」
「では当日はそう呼ばせていただきます」
「わかりました」
「貴女は……」
「私ですか? 私はいつも通り旦那様と呼ばせていただきますけれど?」
それが何か? こんないろいろ格差婚あーんどガキンチョに愛称で呼ばれるなんて片腹痛いでしょう?
「……わかりました。では、私はこれで」
苦笑いをされた旦那様でした。
義父母の襲来に関する打ち合わせを終えると、旦那様はいつも通りさっさと別棟にお戻りになられるべく踵を返しました。
「では、客室を整えることと奥様のお部屋のベッドの手配をしておきます」
旦那様が出て行かれるのを見送ってから、ロータスが口を開きました。さすがは優秀な執事です。私たちが打ち合わせしている間何も言わず、黙って控えていました。あまりの空気感に本当に消えてしまったのかと思いましたよ。しかも、聞かないふりをしているのに、一言一句しっかり覚えているんですよ! いい仕事してます!
「客室はせっかくだから私が整えるわ! ベッドはどうでもよくてよ。なかったらソファを二個くっつけちゃうくらいでいいし」
「……」
ロータスが黙ってしまいました。
「どうしたの?」
「ベッドは用意させてくださいませ!」
笑顔ですが、また有無を言わせてもらえるような雰囲気ではありません。
「は、はい。わかりました!」
タジタジっとなってしまいました。
今日もありがとうございました(*^-^*)
久しぶりに旦那様の登場でした(笑)しばらくは出ずっぱりです(笑)
いや、これからどんどん出てきてもらわねば……( ̄▽ ̄;)
1/31 表現を訂正しました。