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喧嘩のわけ 

 旦那様に『出て行く宣言』をしてから、後ろを振り返ることなく別棟に移動した私と侍女さんたち。

 先日まで義父母が使っていましたが、今は綺麗に片付けられています。


「まずは寛ぎましょうか……って、私、パーティーから帰って来たまんまじゃない」

「そうですよ。まずはお着替えしましょうね」

 疲れた〜とソファにどさっと座り込んだものの、そうだそうだ、帰りの馬車の中からずーっと旦那様と喧嘩してたんですよ、本館に入ることなくエントランスで喧嘩してたんですよ、だからまだ盛装のままだったんですよ。

 それにようやく気付いた私をクスクス笑うステラリアです。

別棟こっちのクローゼットの中に何かある?」

「ええ、もちろんご用意しておりますわ」

 別棟の寝室にもクローゼットがあって、そちらにも何着か私たち(旦那様のも含む)の着替えが置いてありますので、くつろぐ前にとりあえず楽な服に着替えるとしましょう。

「奥様がお着替えの間に、こちらでお茶を淹れておきますね」

 着替えるために腰を上げた私にダリアが声をかけてきたので、

「あ、ダリア! せっかくだからみんなでお茶しましょ。侍女さんたちの分も一緒に淹れてくれる?」

「かしこまりました。では、ミモザとあと何人か手伝いを」

「「「はい!」」」

 侍女さんたちの分もお茶の用意をお願いして、私はステラリアと一緒に寝室に入りました。




「――で、ステラリア。ダリアは何であんなに機嫌が悪いの?」


 寝室に入ると同時にドレスを脱ぎつつ、早速ステラリアに質問しました。ここのところ、ダリアの機嫌が悪かったですからねぇ、ずっと気になってましたよ! でもダリアのいるところじゃ聞けないでしょ?

「まあ、いろいろあるのでしょう。あ、こちらの服をどうぞ」

 しかしなんでもない風を装って、しれっと流そうとするステラリアです。むむ、その手には乗らないよ!

「ありがとう。って、その『イロイロ』が聞きたいの! いつも冷静なダリアをしてあんなことになるなんて。よっぽどのことなんだわ」

 主人たちの前で私情なんて一切見せないダリアが、今日に限ってカルタムと睨み合ってましたからね。これは一大事です。

「いえいえ、そんなよっぽどのことなんてことは……」

「じゃあ教えて! ねっ? ステラリアから聞いたって言わないし。聞いたことも内緒にしておくから!」

「…………。実は――」

 渋るステラリアに迫り、ようやくダリアたちの喧嘩の理由を聞き出しました。


「お屋敷に野菜を納入している業者が、修行だとか言って自分の娘をこちらに派遣するようになったのですが」

「あ〜! それちょっと前に私も見かけた、甘ったるい声で話す女の人?」

「それですそれです。その娘が……」

 辟易した顔でステラリアが話し出しました。


 ステラリアが言うには、店を継ぐための修行だとか言ってうちの厨房に出入りしている業者さんの娘さんが、カルタムに猛アタックしているんだそうです。優しいカルタムが相手するから余計に調子に乗るのでしょうね。

 フェミニストなカルタムは、最初やんわりと断りを入れていたのですがそれでは通じなかったようで、アタックは続きました。通じないふりをしたのかそうでないのかはわかりませんが、とにかくやんわりだと通じなかったので、仕方なくきつめに言ったのですがそれでもダメだったそうです。じゃあもう相手しないでおこうということで、今は冷たい態度を取っているそうです。そういや使用人さん用ダイニングでその人に遭遇した時、カルタムの態度に違和感覚えたんですよね。フェミニストなカルタムが珍しいって。ふふーん、そういうことだったんですか。

 しかしそれでもグイグイくる娘さん。あなた、メンタル強いね!

 そしてとうとう、「あなたがはっきりしないから熱心に迫ってくるんです。若い人がいいのならそっちへ行ってください。結構です」と、ダリアがカルタムにキレたそうです。


「そうだったんだ」

「ええ。まあ、こんな風に両親の仲違いにまで発展してしまったんですから、次に来た時、私がきっぱりと追い払ってやろうと思っていますの。容赦なんていたしませんわよ、うふふ! おかしいですわよねぇ、お屋敷には仕事をしに来ているはずですのにねぇ?」

 顔は笑ってるけど目が笑ってないよステラリアさん! 怖いよ、ステラリアさん! でも業者の娘には『逃げて〜』とは言いませんけどね☆

「ロータスはそのこと知ってるの?」

「いちおう知ってます」

「ならよかったわ。きっとロータスがなんとかしてくれるわよ。ああ、これからその業者さんとのお付き合いも考えなくちゃいけないわね」

「ええ、もちろん。これに関しましてはロータスと私が(・・)なんとかいたしますわ!」

「そうね……」

 今日のステラリアは頼もしいですね!

 そして業者の娘! うちには仕事をしに来ているのであって、男漁りに来られちゃ困るんですよ!



 

 着替えを終えて再びリビングに戻ると、ダリアたちによってお茶の用意はすっかり整い、お茶とお菓子のいい香りがしていました。

 カップを手に取り香りを堪能してから温かいお茶を口に含めば、ささくれだっていた気分も癒されていきます。

「それで、旦那様と奥様はどうなされたのですか? 今日はやけに荒れておられましたが」

 ミモザが私に、今日の喧嘩のわけを聞いてきました。周りの侍女さんたちも興味津々でこちらを見ています。

「どうもこうも、サーシス様のヤキモチがひどくてね。今日のパーティーで、アルストロメリア伯爵家のアウレア様という方とお話をしていたんだけど」

「ああ、アルストロメリア執務官見習い様、留学から帰ってこられていたんですね」

 私がアウレア様の名前を出すと、ステラリアが声をあげました。さすがは王宮女官、お貴族様をよくご存知で。

「ステラリア、アウレア様を知ってるの?」

「ええ、少し。留学前は、王宮で執務官見習いとしてお勤めでございましたから。ヒイズル皇国に行かれていたのは三年ほどでしょうか。三年前はまだ少し幼さの残る顔立ちでございましたが、もう二十歳でございますもの、また雰囲気も変わられたのではないでしょうか?」

 いや、アウレア様の年齢今初めて知ったし。つか、留学前のアウレア様を知らないし。

 やっぱり旦那様よりも年下でしたか。

 そっか、旦那様が知ってるのは『十七歳のアウレア様』だから、初め『誰だ?』って顔していたんですね。

「有名人だったの?」

「国費で留学するくらい優秀でございますからね。それに、旦那様ほどではございませんが、それでも美形ですから、王宮女官の間で騒ぐ者が大勢おりました」

「ふうん。確かに、旦那様ほどじゃないけど綺麗なお顔だったわ。まあ、そのアウレア様とお話をしてたんですけどね––」


 それから私は、サングイネア家でのことから馬車の中のことまでを詳しく話しました。


「……ほんと、サーシス様にも困ったもんです」

「まあ、そう言わずに。旦那様はそれだけ奥様のことがお好きなんですよ~。うらやましいです」

「いやいや、ベリスの方が、こう、なんていうの? どっしりと構えてるっていうか、何でも受け止めてくれるって感じでいいじゃない」

 いちいちヤキモチ焼かれてたらたまったもんじゃないですよ!

「どっしり構えてるっていうよりも、私が何をしようが関心がないからですよ。何をしても放置なんですよ」

 そう言って暗い目をして遠くを見つめるミモザ。お〜い、帰ってこ〜い。

「そんなことないわよ。私みたいに、好きでもない社交に駆り出されて仕方なく頑張ってるっていうのに、愛想笑いしただけで拗ねられてたらたまったもんじゃないですよ?」

「ちょっとばかし束縛が強いくらい、そんなの贅沢な悩みです!」

「え~。それは違うと思うけどなぁ。ところで、ベリスは何をしたの?」

 ミモザたちの喧嘩のわけを聞いてなかったなぁと思って聞いてみると、


「最近出入りしている業者の娘さんが、やたらとベリスに懐いていて。必要以上にべたべた引っ付いてるから『それは嫌だからやめて』と言ったのに無視ですよ無視!! ベリスはあっちの方がいいのですよ、きっと!!」


 そう言ったかと思うと急にポロポロと涙をこぼすミモザ。

 

「えっ!?」


(((それって…………)))


 私とダリアとステラリアの心の声がハモった気がします。

 その娘さん、カルタムにアタックしてたんじゃなかったっけ?? 

「でも、庭園は業者なんかは立ち入り禁止じゃないの」

 庭園はプライベートな場所なので、公爵家の関係者以外入れないはずなんですが? ベリスは基本庭園に棲んで……もとい、過ごしていますから、業者の娘と会う機会などないはずなんですけど?

「迷った〜とか言って入ってくるそうです」

「……無性にイラっとするのは私だけ……?」

 ミモザの話を聞いて、私の中で何かがブチンとキレる音がしました。

「大丈夫です、私もイラッとしておりますから」

 笑顔のままでステラリアが賛同してくれました。よかった。

 つか、その業者の娘、カルタムだけじゃなくてベリスにも粉掛けてんの!? ――ふざけんなよ!!


「もう、出入り禁止ね」

「そうですね。お任せください」


 コソコソと耳打ちする私とステラリア。これはロータスに報告しなくちゃ!!

 あ、またステラリアの目が光りました……。




 それぞれ喧嘩のわけもわかったことだし、しばらくレジスタンスだ本館むこうには帰ってやらんぞ! と決意して。

「別棟にはキッチンもついてるし、当分ここで暮らせるわね。あ、でも食材は……」

「「「「私たちが厨房から失敬してきます☆」」」」

 私がリビングをぐるっと見回しながら当分のことを考えていると、侍女さんたちがいい笑顔で胸を叩いています。頼もしい!

 リビングの横には大きくはありませんがきちんとしたキッチンが付いているので、自炊可能なのです。

「ありがとう! じゃあ、別棟暮らしは、私とダリアとステラリアとミモザかしらね」

『絶対に本館に帰りたくない組』の名前を挙げます。ステラリアはそうじゃないけど、私付き侍女さんだからね。

 別棟はもともと部屋数が少ないので、さすがに十五人もの侍女さんは入りません。ああでも、みんなでリビングで雑魚寝っていうのも楽しそうだけど。


「私たちは自分の部屋からここに通いますから、ご心配なく!」

「こっちに来る時に食材とか要るものを調達してきますね~!」


 楽しそうに言う侍女さんたち。ではお願いします。

「でも、本館に侍女さんたちがいなくても大丈夫かしら? ローザたちはサーシス様付きじゃないの」

 私たちの喧嘩に巻き込んでおいてなんですが、日常業務は大丈夫? 少なくともローザを含めて三人は旦那様付きの侍女さんです。旦那様の身の回りのお世話とかしないといけません。

 しかし、

「「「女手はなくても男手はありますから大丈夫ですよ!」」」

 そうですね。使用人さんは侍女さんたちだけではありませんものね!


「じゃあ、久しぶりにお料理してみよっかなぁ。いい? ダリア?」

「どうぞ」

「やったぁ! みんなも手伝ってね!」

「「「「「はいっ!」」」」」


 喧嘩して家(本館?)を出てきたはずなんですが、ちょっと楽しくなってきましたよ。

今日もありがとうございました(*^ー^*)


143〜145話目の裏側というか続きの様なものを番外編集『裏側からこの状況を説明します』に載せております。

よろしければそちらも覗いてみてくださいませ!

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