サングイネア家でパーティー
ロータスとアマリリスの結婚式を無事終えた翌日、
「思ったより長居しちゃったね」
「これからは、こちらにもちょくちょくお邪魔させていただくわね。だからヴィーちゃんたちも気兼ねなくピエドラに来てね」
そう言って義父母たちはピエドラのお屋敷に帰って行きました。
仕事に行く時間を少し遅らせた旦那様と一緒にお見送りします。
「父上たち、こっちに来たのが戦の前だったから、今回は結構長い滞在だったね」
「そうですねぇ。でもなんやかんやとお忙しそうになさっていたから、お疲れでしょう」
「そういうヴィーもお疲れ様でした。しばらく向こうも忙しいだろうけど、落ち着いた頃にまた顔を出しに行こう」
「はい! 確かにお義父様たち、しばらくは忙しそうですよね……」
「やることが山積みですからねぇ……」
義父母を乗せた馬車に手を振りながら、旦那様と二人でピエドラの町を思い出しました。……短い滞在でしたが、その間にいろいろありましたよね。ほんと、濃厚な時間だったよ。
ピエドラに戻ったら、新しい鉱物資源のことや工芸品のこと、それから最重要課題の治安の回復とか、不在にしていた間に溜まった問題解決に奔走するんでしょうねぇ。まあお義父様たちのことだから、そんな問題サクッと解決してしまうでしょう!
義父母を見送ってから旦那様を仕事に送り出したらこっちのもの。やっとのびのびお一人様時間がやってきました。
心も体も足取りも軽く、さあ、今日は別棟のお片づけとかしないとねぇ、とか考えていると、
「アマリリスのドレスと一緒に、奥様のドレスも仕上がってきておりましたのよ。一度袖を通しておかれてはいかがですか?」
ステラリアがにっこり笑っていました。
お〜、そうだった。アマリリスのドレスを作った時に、なぜか一緒に作らされたんだった。
アイリス様んちのパーティーにお呼ばれしてたんでしたっけ? すっかり忘れてたよ。
「そうだったわねぇ。じゃあ別棟のお片付けが終わってから……」
「お片付けは使用人におまかせください」
「はい」
久しぶりにのびのびお掃除したかったんだけどなぁ。真顔のダリアに一刀両断されました。今日のダリアは取りつく島もありませんね。
渋々戻った寝室には、いつの間にかドレスがバッチリ用意されてるし。ほんと、仕事早いですうちの使用人さんたち。
今回のドレスは水色です。スレンダーラインですが白糸で大きなバラの花がいくつも刺繍されている凝った作りです。
前から見ると一見シンプル、でも後ろにまわると大きなリボンが……。
「マダムってば、次はこのバックのリボンスタイルを流行らせる気ですかね?」
アルゲンテア家でのパーティーの時も、確かこれと同じようなデザインだった気が。旦那様がいたく気に入ってクルクルクルクル、何回もターンさせられましたっけ。
私がふわふわとリボンをゆらしながら呟いていると、
「マダムもそうなのですが、誰より旦那様がとても気に入られましたので」
微苦笑しながらステラリアが教えてくれました。
やっぱり旦那様か! あの時も『かわいい、かわいい』って大絶賛でしたからねぇ。
「ああ、そういうことなのね……。それはさておき、ドレスのサイズはぴったりだったからこれでいいかな。お飾りは、最近お約束のアレでしょ?」
絶賛売り出し中のヴィオラ・サファイア〜☆ ……ふう。
「はい」
頷き、ステラリアが重厚な箱を開いて、中のお飾りを見せてきました。ヴィオラ・サファイアの首飾りと耳飾り、いつ見ても素晴らしいです私には豚に真珠……もとい、ヴィオラにサファイアです。
「じゃあ、もう他に準備はなさそうね。パーティーはいつだった? 明後日だったかしら、明々後日だったかしら?」
「明後日でございます」
「そう、わかったわ。ちなみに今回のパーティーの趣旨は何?」
「今回はアイリスお嬢様のお誕生日を祝う会でございます」
「え? そうなの?」
「はい」
ダリアが招待状を見せてくれました。
今回のパーティー、また誰かさんのように婚活パーティーかと思ったのですが、アイリス様のお誕生日パーティーでしたか! 王太子様の誕生日パーティとは違ってアイリス様のは個人的なものなので、プレゼントとか用意しといたほうがいいんじゃないの?
「あら、それなら贈り物とか用意した方がよくない?」
「そうおっしゃると思いまして、用意しておりますわ。まだ申し上げておりませんでしたが、先日ピエドラの鉱山でいいサファイアが出たそうでこちらに届いておりましたのを、ブレスレットに仕立てるようポミエールに注文を出しております。今日明日には出来上がると思いますわ」
さすがはできる侍女ステラリア。私の思考を先取りしてましたか!
「よかった〜! つか、もっと早くにパーティーの趣旨を教えておいてほしかったわ〜」
「申し訳ございません。奥様はロータスたちの結婚式の準備が楽しそうだったので、お邪魔しちゃいけないかなぁと遠慮してしまいました」
「いやいや、そういうことなら全然オッケーよ。じゃあ、後はそのプレゼントの出来上がりを待つばかりね」
「はい」
プレゼントが出来上がれば当日を待つばかり。
そういえば何気にアイリス様のお家に行くの、初めてですよね。よそさまのお屋敷って、アルゲンテア家以外行ったことないわ。お初って、ドキドキします。
そしてパーティー当日。
早めに仕事を終えて帰ってきた旦那様と一緒に馬車に乗り込み、サングイネア侯爵家に向かいました。
お屋敷の両脇にそびえ立つ丸い塔が印象的な、白亜の豪邸がサングイネア家です。
「初めて来ましたけど、アイリス様のお家も大きくて立派ですねぇ」
しみじみ。私が馬車の窓からお屋敷の外観を見て感嘆の言葉をこぼしていると、
「うちやアルゲンテア家ほどの大きさはないですけど、それでもよく手入れの行き届いた綺麗な屋敷ですよね」
旦那様も同意のようです。ああでもやっぱりフィサリス家の方が大きいかぁ。そっかぁ。
家人に案内されて、アイリス様のご両親と本日の主役アイリス様にご挨拶し、持参したプレゼントを手渡しました。
昨日出来上がってきた時に見たのですが、サファイアでできた小さなハートが、華奢なプラチナのチェーンでいくつも繋げられたものです。かわゆいです。もちろんサファイアはヴィオラ・サファイア使用☆
会場はたくさんのお客様で賑わっていました。軽いワルツが流れ、あちこちで談笑する声が聞こえてきます。パッと見た感じ、今日は若い方が多い気がします……って、何これデジャヴ?
「今日も若い男の方が多いのは気のせいでしょうか?」
「気のせいじゃないでしょう」
旦那様も気づいた違のか、二人で苦笑いになります。ああ、これ、バーベナ様の時と同じやつだ。誕生日パーティーと婚活兼ねてるのね、オッケー理解しました。
ということは今日も既婚な私たちは蚊帳の外。
「では、今日も宣伝頑張りますか!」
「お、珍しくヴィーがやる気だ」
「やればできる子なんです」
「あはははは! では、まずは踊りますか−−」
珍しく私がやる気を出してダンスからやるぞ〜! と旦那様と二人意気揚々と、踊っている人たちの方へ足を向けたタイミングで、
「ヴィオラ様、ヴィオラ様!」
「公爵様、ご機嫌麗しゅう」
「今日も素敵なドレスですわね!」
コーラムバイン伯爵令嬢ほか、いつものお嬢様方(ただしアイリス様抜き)がやってきました。
「みなさま、ご機嫌麗しゅう。今日もお会いできてうれしゅうございますわ」
「「「参加してないわけないじゃないですかやだ〜」」」
数少ない知り合いに会えて喜んでいる私に、お嬢様方の息のあったお返事。
デスヨネー。若い人多数のパーティーですもん、逃すはずありませんよね!
「ヴィオラ様も招待したって、アイリス様からお聞きしていましたから、お会いするのを楽しみにしていたんですのよ!」
「サティさんたら、ずっとヴィオラ様に話しかけるタイミングを狙っていたんですよ」
「あら、ピーアニーさんもじゃないですか!」
お嬢様方のお話がどんどん盛り上がっていきます。
ああ、これ、当分解放してもらえないパターンだわ、と、諦めモードで隣の旦那様を見れば、退屈してるのかなぁと思いきや、
「おお、フィサリス公爵!」
と言って寄ってきた恰幅のいいおじさまに捕まっていました。え〜と、この方は……兵部卿様ですね! 頭の中の貴族年鑑を光速でめくりましたよ! 旦那様の上司じゃないですか。いつも主人がお世話になっております、ぺこり。
「こんばんは、って、今日も仕事場でお会いしてますが」
「そうだったそうだった、わはははは〜!」
にこっとキラキラスマイルを浮かべた旦那様に、兵部卿様が上機嫌で笑っています。
「君に報告があってだね。とうとう例のサファイアを手に入れたよ。妻も娘も大喜びだ−−」
なんて。絶好調でおしゃべりしだす兵部卿様。
サーシス様、これはしばらく別行動ですかね?
そうだね。お嬢様たちほどではないけど、兵部卿も話長いからなぁ。適当にキリのいいところまで付き合うか。
らじゃっ!
こっそり二人でアイコンタクト、宣伝はまた後でということになりました。
今日もありがとうございました(*^ー^*)