かわいい王子様
『周辺状況~』10話目『王太子とヴィオラと夜会』のヴィオラ視点です♪
足の怪我もすっかり治って日常生活に不自由がなくなった頃。
「王太子殿下のお誕生日パーティー、ですか」
「はい。来週」
旦那様が帰ってきて早々、もはや何度も目にしたことのある白い封筒を見せながら言いました。もちろん裏には王家の紋章の封蝋付き☆
現国王様には四人のお子様がいて、上から一の姫様アルテミシア様、二の姫様エレタリア様、三の姫様ミリスティカ様、そして一番下が待望の男の子でディアンツ様。大丈夫、このあたりは国民の常識。名前くらい知ってますよ!
お子様方のお誕生日には盛大なパーティーが王宮で開かれています。国中の貴族が招待されるのでうちの両親も参加していましたが、もちろん私は不参加です。今まで一度も行ったことないんです。
そんな盛大なお誕生日会。
「王太子様は、今年六歳になられるのでしたっけ?」
「そうです」
「行かないといけない系のパーティーですよね」
「そうですねぇ」
「観念します」
「ごめんね」
社交は最低限ですが、断れないパーティーは行くという決まりは健在。貧乏伯爵令嬢ではなくなった今、王宮主催とあっちゃ、行かないわけにはいきませんよねぇ。
私が渋々オッケーすると、旦那様が苦笑いしました。
そして迎えた当日。
お姫様たちや王太子様は『遠目に見るもの』でしたので、近付くのは初めてかも。
どの方もきれいな方ばかりなのですがいつもツンと取り澄ましていらっしゃるので、ちょっと気難しそうに見えます。美形がお澄まししてると冷たく見えるでしょ? そんな感じです。まあ、挨拶を終えれば、後はお話することもないでしょうから関係ないですけどね。
「フィサリス公爵ご夫妻、到着されました」
という侍従さんの声に、会場内から視線が飛んできます。
「毎回ですけど、この瞬間が一番嫌いです」
こっそり旦那様に囁きます。もちろん笑顔の仮面はつけたままですよ!
「緊張しますか?」
「じゃなくて~」
いろんな人からの視線のビームが痛いんですってば!
こそこそお話しながら、でもそれとは見せず、今日の主役の王太子様たちのいる玉座に向かって歩を進めます。
「今日こそは離れないでくださいね」
旦那様は握る手に力を込めながらニッコリ笑ってきますが、う~ん、これはどういう意味ですかね? 今日は特に危険もないと思うんですけど。
オーランティア王太子の件から過保護に輪がかかった旦那様なので、今日もそれかしら。私としても、旦那様と離れたらダンスのお誘いがひっきりなしに来るので、できれば一緒にいる方が楽……あわわ、断りやすいのでいいですけどね。
「はい、もちろんですわ」
ニコッと笑い返しておきます。ええ、笑顔が負けてるのはもうデフォですよ。
王太子様の前で、旦那様と一緒にご挨拶をします。
間近で見る王太子様はまだお小さくて、まるで弟のシスルの小さい時を見ているようで、思わず笑みがこぼれてしまいました。
シスルもとってもかわいかったんですけど、王太子様ったら水の流れるようなサラッサラの金髪には、シャンデリアの光に反射して光の輪が見えます。わぁ、もうこれリアル天使の輪!
薔薇色の頬は健康そうで、こちらを上目遣いに見てくるそのエメラルドはもう宝石……! くっ、もはや王太子様が天使じゃないですか!!
このかわいい生き物(畏れ多い!)に内心悶えまくっていると、天使と目が合いました。
あ、ごめ。ちょっとかわいすぎてじろじろ見過ぎたかも。怯えちゃったかしら。
慌てて控え目に微笑むと、な ん と それまで無表情に私を見ていた王太子様がニコッと微笑んでくれたのです! ギャ~!! もう鼻血出る!
私が王太子様を愛でまくっている横で、
「ご機嫌麗しゅう、ディアンツ殿下。六歳のお誕生日、おめでとうございます」
旦那様が王太子様に向かってご挨拶する声でハッと我に返りました。いかんいかん、ただのおかしなお姉さん(おばさん?!)になるところでした。
「おめでとうございます、殿下」
私も旦那様に倣ってご挨拶をします。
すると、
「フィサリスこーしゃくふじんのヴィオラだよね? こんばんは」
またまたニコーって微笑みながら私の名前を言ってくれました。わぁ! 天使に名前を覚えてもらってたなんて、感激です!
しかもしかも、トコトコと私のところにやってきてギュって手を握ってきて、
「あっちでおはなししたいな。いい?」
ちょこんと首を傾げてそんなこと言われたら、断れる大人はいないと思います! そのかわいさ、反則!!
「サ、サーシス様~! かわいいですね!! 天使みたい!」
デレデレしながら王太子様に連行される私に、
「……見た目はね」
「?」
私の、反対側の手を死守した旦那様もついてきます。王太子様を絶賛する私と違ってじと目なのはなぜでしょう? まあいいけど。
一人で玉座に行くのは心細いのでありがたいですが。
「さ、はやくいこう!」
「あ、はい。そんなに急がなくても大丈夫デスヨ」
「むしろ早く帰りたいですよ」
「サーシス様?」
「いや?」
私の手を握ってグイグイ引っ張っていく王太子様と、私の手を離さない旦那様。しかもちょくちょく毒吐いてない?
う~ん、しかしこの状況、私が王太子様と旦那様を独占しているように見えますよねぇ、これ。いや、実際してるか。……お嬢様方の視線がコワイ!!
王太子様の席の横に特別に椅子が持ってこられ、そこに座らされた私。ちょー目立ってます。いつもならこんなお席、全身全霊で辞退させていただくんですけど、何しろ王太子命令。いや、王太子様の曇りないきれいなエメラルドグリーンの瞳に見つめられたら、「じゃ、あっちで踊ってきま~す!」とか言えないですよ!
しかもさっきから私の手を離さないし。もうかわいいったらありゃしません。
デレデレしている私のすぐ後ろには、旦那様が無表情で立ってます。旦那様のお椅子も用意した方がいいでしょうか。王太子様にお願いしようかしら。
「王太子様、もう一脚椅子を――」
私がお願いしようとしたら、
「ディアンツってよんで!」
かぶせてきました。名前ですね、了解です!
「ディアンツ様、椅子を――」
今度は名前をちゃんと呼んだんですけどねぇ、
「ヴィオラはどれがすき? スポンジケーキ? タルト? ムース?」
またかぶせてきました。あ~もう、なんか一生懸命に話しかけてくる姿がいじらしくて、ついつい甘くなってしまいます。はいはい、なんですか、ケーキのことですか。
「そうでございますわね、う~ん、タルト、でございましょうか」
少し離れたところにお食事や色とりどりのケーキが用意されています。私がそれを見ながら適当に答えると、
「わかった! フィサリスこーしゃく、タルトをもってきて」
「…………」
ニコ。王太子様は旦那様に向かって微笑みかけました。
天使に微笑みかけられたのに、旦那様ったらピクッて引きつりましたよ。そうですよ、自分の食べたいものは自分で取りに行く、ハイこれ当たり前~!
「滅相もございませんわ! 私が自分で取ってきますので!」
旦那様をそんなパシリみたいに使えませんよ! 私は慌てて立ち上がろうとしたんですが、一瞬で天使にも負けないくらいのキラキラスマイルに変わった旦那様が私を制し、
「かしこまりました。ヴィー、タルトはフルーツのでいい?」
「え、あ、はい」
そっと押し戻してから私の指輪に軽くキスをすると、ケーキのところに取りに行ってくださいました。うう、モウシワケゴザイマセン。
旦那様が取ってきてくれたケーキを一緒に食べながら、王太子様の話に耳を傾けます。
ふふふ、小さい子が一生懸命にお話してる姿ってかわいいですよね。シスルもこれくらいの頃はかわいかったなぁ。あ、今でも十分にかわいいですよ? それにしても、妹のフリージアよりも幼い子って、久しぶりだから新鮮だなぁ。
キラキラ金髪天使を思う存分愛でていると、
「ヴィオラ、ヴィオラ、ぼくが大きくなったらおよめさんになってね」
な~んてかわいいことを言ってくれましたよ! こういうことを言う時期ですよね! シスルも言ってましたねぇ懐かしい。
「まあ、うふふ。その頃にはおばさんになってしまってますわ」
ここはやんわり流しましょう。大人だもの。
「ヴィオラならだいじょーぶ!」
そう言って私の腰にしがみついてくるこのかわいい生き物!! 私を萌え殺す気ですね!
またまた必死になるのもかわいいです。ああ、もう私、さっきからかわいいかわいいしか言ってませんね。いや、それしか言えないっつの。
王太子様のかわいさにデレデレしていると、
「残念でございますが殿下。ヴィオラは私の奥さんですからね」
悪しからず――と言いながら王太子様を私から引き剥がす旦那様。あ、微笑んでるけど目が笑ってない。しかもなんかブリザードが吹き出してる? ちょっとここだけ気温下がったよ旦那様!!
旦那様の黒いオーラに引きつっている私なのに、王太子様は全然意に介さず、
「え~? ヴィオラだってオッサンよりもわかくてピチピチしててかっこいいおとこのほうがいいとおもうんだ~」
なんて、口を尖らせながら言ってる姿も愛くるしい! アナタ確かに若くてピチピチしてるけど、カッコイイっていうよりかわいいですからね! しかも旦那様のことオッサンとか言っちゃってるし! 思わず吹き出しそうになりましたよ!
あ、旦那様からまたブリザードが吹き出してきた……。
今日もありがとうございました(*^-^*)