手土産の内容
今日の旦那様の大きな手土産。
オーランティアが無血開城ですとな!
この二週間で何があったの?!
私の手を取りニコニコ上機嫌な旦那様……ですが、これは確実に何かした顔ですよね。まあそもそも今回の一件、あれだけブチギレていた旦那様が黙って見ているはずありませんよね。
何かエグイことをやってなければいいのですが。
「え~と、その辺り私が詳しく聞いてもいいのでしょうか?」
「もちろんですよ。今から話しましょうか?」
「いえいえ。お仕事から帰ってきてばかりで疲れていらっしゃるでしょう? お話は晩餐の後で結構ですわ」
旦那様ったらまだ制服すら着替えてないんですからね。別に今慌てて話さなくてもいいと伝えると、
「じゃあ食後のお茶でも飲みながらにしようか。あ~今日はいい仕事してきたからお腹が減ったなぁ」
なんて言いながら清々しい感じで伸びなんてしてますけど……。
晩餐を終え、サロンで食後のお茶をいただくことにしました。その方が落ち着いてお話しできますからね。さりげなく旦那様の膝の上に座らされそうになりましたが、猛抗議していつもの隣りあわせに落ち着きました。いくら怪我してるっていっても一人で座れるっつーの!
私の前にはハーブティーが、旦那様の前にはワインがそれぞれ置かれています。ご機嫌だからか、旦那様はお茶ではなくお酒がいいと言ったので。「ワインは水じゃありませんよ」と思わずツッコんだら、「え? 違うんですか?」って、おい。
まあそれはさておき。
「まずは、フルールとオーランティア、双方ともに誰一人として犠牲が出ていないことを報告しますね」
ワインで口を湿してから、旦那様は話し始めました。
「そうなんですね! 犠牲者を出さずに解決できてよかったです。じゃあ、戦のようなドンパチはなかったってことですか?」
「そうです。あくまでも内々に事を進めましたからね」
「どんな過程にしろ、またサーシス様たちが戦に出かけるとか嫌ですからね」
「ああもう、ヴィーはかわいいことを言ってくれますね!」
そう言ってドサマギで抱きついてくる旦那様をしれっと押し戻します。ハイハイ窮屈なんで元の位置に戻ってくださいね~。
しかし、全面戦争とかいうような最悪のシナリオが実現しなくてよかったです。
つか、いつも戦を仕掛けてくるオーランティアが滅んだ(?)ということは、戦のリスクが激減したってことですよね? おお、万々歳じゃないですか。
「でもどうやって無血開城なんてできたんです?」
たった二週間で何ができたのかなと疑問に思って聞きました。
というのも、この間の戦では下準備(とお義父様は言ってました)にひと月もかかってましたからね。それでも早い方だとお義父様が言ってたくらいですよ、二週間なんて早すぎません?
「先だっての戦の時に作ったパイプを利用しただけです」
「パイプ?」
土管? オーランティアのお城の下に地下道でも掘ってたのかしら? それを使ってお城を直接攻めて……って、犠牲者なしって言ってたよね、ドンパチしなかったって言ってたよね。
矛盾してるなぁと首をひねっていると、
「くくっ……要するにオーランティア側の協力者ですよ」
「あ!」
私が斜め上の想像をしていたのがわかったのでしょう。旦那様がくすくす笑いながら説明してくれました。いや、お恥ずかしい。
「いやあ、あの時ユリダリスや部下たちが頑張って協力者を増やしてくれましたからね、それが今回も役に立ちました」
なるほど、そういうことでしたか。旦那様からの指令に奔走するユリダリス様たちの姿がありありと想像できますねぇ。お疲れ様です。
「今回の勝因は、向こうの宰相があっさり投降したことが大きいですね。協力者の説得もよかったのでしょうが、彼はちゃんと頭が使える人物のようです」
旦那様曰く、オーランティアの貴族・軍部で王族シンパはもはや少数派になっていたようで、協力者とともにそれらを確保するだけで事が済んだようです。
宰相様は王家の存続よりも国の存続の方を優先したようで、フルールの使者が呼ばれて行った時には、宰相様以下『非王家派』が平身低頭でお出迎えしてくれたそうです。その足元には、オーランティアの王様と第二王子がすでに縄で縛られた状態で転がっていたとか……。
いちおう罠だった時のことを考えてフルールの軍隊を待機させていたそうなのですが、出番なしだったようです。
「宰相のお蔭であの国はもっていたんでしょうねぇ。いろいろ苦労しているようでした」
旦那様が珍しく遠い目をしています。「バカ王族のせいでツルッパゲとか、たまんねよな」と、小さな声で旦那様が言うのが聞こえましたけど、宰相様、ツルッパゲなんですか? 苦労しすぎて毛が抜けたの?! わぁ……。まあ、あの王太子兄妹から推して知るべし。オーランティア王族の相手をするのはさぞかし大変だったことでしょう!
「それで、オーランティアはどうなるんですか?」
「まず国王ですが、山奥の寺院に入りました。王子王女の命乞いをし、助けてくれるなら王位を返還し大人しく余生を過ごすと言って自ら出家したんですよ。もちろん監視は付けさせていただきますから、事実上の軟禁ですね」
「まあ!」
いいお父様じゃないですか! 涙ものですよ。
「問題の王子王女たちですが、彼らはフルールで預かることになりました。オーランティアに戻しても、また何かやらかしそうなんでね。反省させるのと根性の叩き直しも兼ねて、これまでやらかしたアレコレの賠償金を自ら働いて返してもらうことにしたんですよ」
「おお、ナイスアイデアですね!」
自分の罪は自分で償え、ですね! 国庫は国民のためにあるのであって、バカ王族の尻拭いのためにあるのではない!
「王太子と第二王子は騎士団が、王女は王宮が預かることになりました」
「そこで何をなさいますの?」
「王子たちは下っ端も下っ端、雑用係です。騎士団屯所や宿舎で、炊事から掃除洗濯、ありとあらゆる雑事をするのですよ。もちろん二人が働く場所は別で、監視はつきっきり。自由な時間などありませんし与えません。朝早くから夜遅くまで、みっちり働いてもらいます」
騎士様の監視の下、これまでやったことなどない雑事をするのですね。下の人たちの支えがあるからこそ、自分たちの生活があるってことを知るのにいいと思います! そこでしっかり働いて、ついでに反省しやがれ。
「王女は王宮の使用人です。まあ、使用人というより雑仕女に近いでしょうが。そういえばこの話を聞いて、王妃様や姫君たちが『私たちがしっかり躾けてあげるわ!』って指をポキポキ鳴らしながら言ってましたね。ふふふ、フルール王家の女性陣はなかなかお転婆揃いですからね、しっかりこき使われるでしょう!」
「わぁ……」
あの高慢ちきな(言っちゃった☆)妹君が使用人とか、想像つかないなぁ。
王妃様やお姫様たちにはお近づきになったことがないからよく知りませんが、遠目にはたおやかで優しげな方たちなんですけど……実際は違うんですね。覚えておきます。
「騎士団にしろ王宮にしろ、雑用係は大変ですよ。朝から晩までこき使われますからねぇ。しかも元隣国の王族だからといって他の雑用係と区別せず、むしろそれより下の扱いですから、給金も弾まないし。莫大な賠償金、払い終えるのにどれだけかかるでしょうかね。いや実に大変だ!」
口では大変だとか言ってますが、全然同情してませんよね? むしろ楽しんでますよね、旦那様? 今めっちゃ黒い笑みになってますよ~! 悪者みたいになってますよ~!
「まあとにかくそういうことで、やつらの処遇は決まりました。オーランティアの国自体は、当面宰相を中心とした議会制にすることになっています。もちろんフルールの意向が最重要ですけどね。そのうち誰か適当な人物をこちらから派遣して統治させるかもしれませんが」
「そうなんですね」
「オーランティアは魅力のない土地ですから、フルールとしては別に欲しくもなんともないんですけどね。罪もない国民がまた苦しまないようにすることだけを考えました」
「それ大事ですよね!」
「――ということで、オーランティア関連は一件落着です。これヴィーも心置きなく療養できるでしょう」
「いや、もう十分療養してますって!」
移動はもっぱら旦那様の抱っこか車いす。気晴らしに庭園を車いすで散歩する以外は、日がな一日ベッドでゴロゴロですからね、体が鈍って仕方ありません。
怪我をしてからもう二週間も経ってますから、そろそろリハビリくらいした方がいいんじゃないでしょうか? 足の腫れも引いてますよ。
「そろそろ歩けるんじゃないかなぁって思うんですけど、歩く練習とかどうでしょう?」
座ったままですが、少し足に体重をかけてみました。お、そんなに痛くないですよ? これなら歩けるんじゃね?
できそうなのでためしに自力で立ち上がろうとしたら、
「まだ駄目です! ヴィーのお世話が最近の楽しみなんですから!」
「はあ?」
旦那様が私の手を引いたので、動きを止められてしまいました。
つか、何言ってんですかコノヒトは!
呆気にとられて旦那様を見ていると、グラスに残っていたワインをグイッと一息にあおり、ダンっとグラスを置いたかと思うと立ち上がって、いきなり私を抱き上げてしまいました。
ちょっと! 立つ練習くらいさせてくれてもいいじゃないですか!
むぅ、と睨みつけたのですが、
「さ、部屋に戻りましょうか」
「いや、ちょっとは練習――」
「も ど り ま し ょ う か」
抵抗しようとしたんですけどね、いつもの有無を言わさぬ笑顔の圧迫きました。キラキラ麗しいのに威圧感半端ないって、どうなの。
「――はあい」
仕方ない。まだしばらくお世話される日が続くようですね。
こうなりゃ旦那様のいない昼間に、こっそりリハビリするか――。
今日もありがとうございました(*^-^*)