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知らないうちに

「僕は仕事に行きますけど、くれぐれも安静にしておくこと。いいですね」

「はーい」


 お義父様たちも交えて朝食をいただいた後、私はまたまた旦那様に抱き上げられ寝室のベッドに運ばれ、そして念を押されています。ここに来るまでもすでに何度も言われてるんですが、どんだけ信用されてないんでしょうか?

「ダリアもステラリアも、十分注意してくれ」

「かしこまりました」

 しかも私だけじゃ足らず、ダリアたちに向かっても確認しています。

 つか、ダリアたちにまで言わなくったって、腫れてるし痛いしで歩けるような状態じゃないから動きませんて! もう。

「サーシス様、もう行かないとお義父様がお待ちなのでは?」

「そうだね。じゃあ、行ってくる。くれぐれも安静に――」

「わーかーってーまーすぅ。行ってらっしゃいませ!」

 いつものようにエントランスでお見送りはできませんので、私はここで失礼させていただきます。口を尖らせたままのいってらっしゃいってなんだかなぁとは思いますが、しつこい旦那様が悪い。

 旦那様は苦笑いでじと目の私を軽くハグしてから、ロータスを従えて寝室を出て行きました。


 きっちり扉が閉まるのを確認してから、私はため息をつきました。

「さっきはあんなこと言ってましたけど、大丈夫かしら?」

「なんのことでございましょう?」

 ベッドのクッションを整えているダリアが聞き返してきます。

「ほら、作戦会議がどうの、忙しくなるとかどうのこうの」

「ええと……それは何とも申し上げられませんが、奥様は気になさらなくてよろしいのですよ。難しいことは旦那様にお任せいたしましょう。今はゆっくりお休みになって、早くお怪我を治すことに専念することが大事でございます」

 一瞬苦笑いになったダリアです。ダリアもきっと、旦那様の暴走を一瞬想像したんでしょう。あの旦那様ですよ? 誰でも簡単に想像つきますよね。

「専念しようにも気が散るわ! 旦那様がお忙しいと碌なことないですから」

 しかも旦那様とお義父様のあの企み顔! あのニンマリ、怖いわ~。

 どんな作戦会議をするのか知りませんが、また戦とかになったらどうしましょう? しかもその引き金があの事件とか……自意識は過剰じゃない方だと自負していますが、さすがに今回のは私の件ですよね。

 そんなことで国中を巻き込んで戦とか、もういたたまれないじゃないですか!! 旦那様もそうですが、騎士様方を危険にさらすなんてできません。お願いですから、できるかぎり穏便に事を済ませて欲しいのですが。

 私が自分の想像にげっそりしていると、

「まあまあ。しばらくは様子を見ましょう。さ、包帯とお薬を取り換えましょうね」

 怪我をした方の足をダリアに取られたので、そのまま快適に整えられたクッションに背を預けました。

 ダリアとステラリアとで、手際よく包帯と薬が取り換えられていきます。

 包帯を解かれて見えた私の生足は、いつもの二倍くらい腫れています。こんな足じゃどこも行けないですよ、不自由極まりなしです。


 お昼ごはんもベッドサイドに運ばれ、退屈しのぎにと大量の本も持ち込まれましたが、やっぱりじっとしてるのは性に合わない私。昼下がりにはすっかり退屈してしまいました。

「だめだわ。怪我人生活半日にしてもう飽きてきちゃった」

「それは早すぎますよぉ~」

 つきっきりで私の見張り……もとい、話し相手になっているミモザに笑われてしまいました。懐妊中のミモザならば、別の用事で動き回ることもありませんので適任です。

「旦那様のいない間は車いすを用意しましょうね~。それでお散歩なら大丈夫ですよ」

「ほんと?」

「はい! ベリスに言って用意してもらいますね」

「うれしい! ありがと!」

 寝たきりだと腐ってしまう自信ありですので、車いすは願ったりかなったりです!




 旦那様はいつもよりちょっと遅いくらいの時間に帰ってきました。

 忙しくなると言っていたはずなのにやけに早いご帰還だったので、私はちょっと拍子抜けしてしまいましたよ。会議とか大丈夫なんでしょうか? まさかまたすっぽかしてきたとか?

「ただいま、ヴィー。安静にしていましたか?」

「お帰りなさいませ。ちゃんと大人しくしてましたよ! 退屈で死にそうでした」

 エントランスからそのまま寝室に直行してきた旦那様にただいまのハグをされながら、今日のことを聞かれました。もちろん素直に答えましたとも!

「でもだん……げふげふ、サーシス様、お帰りがいつもとそう変わりありませんのね?」

 言外に『仕事すっぽかしてきてないよね?』という気持ちをこめて旦那様の目を見たのですが、

「まあね。騎士団の仕事も大事ですが、それより今はヴィーのお世話が一番の仕事ですからね」

 キラキラ嬉しそうな微笑みつきで、そんな甘いセリフが返ってきました。あま~い!! 甘すぎるよ旦那様!!

「いやいや、それ違います!!」

「というのは冗談だけど。まあ、日中はいろいろ忙しいけど、夕方以降は待機ばかりだから暇っちゃ暇なんで」

「そうなんですか?」

「そうなんですよ。さっさと着替えてきますから、晩餐を食べに行きましょうか」

「は~い」

 旦那様の仕事柄、あまり詳しく聞くことはできません。心配なのですが、ここは適当なところで引き下がります。話せることができたら、きっと旦那様から話してくださるでしょう。


 そしてまた旦那様にダイニングに運ばれていく私。

 ご飯が終わればサロンへ運ばれ、食後のお茶。そしてまた寝室に戻り湯あみ(これはステラリア担当です!)。その後は包帯と薬の取り換えまでしてくださるんですけど。

「薬の取り換えなんて、ステラリアたちがやってくれますよ~」

「僕がしたいだけだから、気にしないで」

「え~……」

 抗議したって右から左。

 嬉々として私の世話を焼いてくださるもんですから、もう何も言えない。つか、旦那様。包帯巻くの何気に上手いね!




 そんな生活が一週間も続きました。

 相変わらず旦那様の生活は普段と変わりありません。様子も変わりないので、何事もなかったような日々が続いています。ただ私が怪我しているだけのような。

 あまりにさりげなさすぎて逆に心配になってきますよ。


「このまま何事もなく終わればいいんですけど」

「あら、ヴィーちゃん、なあに?」

 

 寝室でお昼をお義母様と一緒にとり。

 世間話をしながらふとそう漏らした私に、お義母様が小首をかしげました。

「いえ、旦那様が『作戦会議だ~』とか言ってお義父様と毎日王宮に行ってるわりにはなんだか平和だなぁって思って」

 私が思ってることを素直に口にすれば、

「あらまあ。確かにそうね。屋敷にいるとあまり情報は入ってこないものね」

 ふふふ、と笑うお義母様。

「そうですよね。ちなみにお伺いしますが、オーランティアの王太子様ご兄妹はどうなさっているんでしょう?」

 あの日騎士様方に拘束され、どこかの部屋に連れて行かれてからの二人の消息を聞いてません。そもそもオーランティアご一行が自国に戻ったとかいう話も聞こえてこないし。

 アノ人たちがどうなったのかとちょっと気になったので聞いてみると、


「ああ、あいつらは王宮にある貴人用の牢に入れられてるわよ~」


 と、軽~く返ってきました。

 そうか。まだいたんだ……じゃなくて。貴人用の牢って、そんな特別室的なものあるんですか?!

「そんな、貴人用の牢屋なんてあるんですか?」

 王宮になんて縁遠かった私は、そんな設備があることを初めて聞きましたよ。

 びっくりしてお義母様に聞けば、

「まあねぇ。むか~し、フルールの内政が安定してなかった時代の遺産てところかしらね。うふふ。王家の歴史書とかに出てくるんだけど、実際あるかどうか知らなかったから伝説だと思ってたわ。最近じゃあそんな物騒なこともなかったから使われてなかったしね。まさかあの牢がまだあって、また使われる時が来るなんて思ってもみなかったわぁ。まあ、あそこを使わなくてもフツーに囚人用の牢で十分だと思うんだけど」

 お義母様は腕組みをし、一人でうんうん頷いています。王家の歴史書って、一般人(つまり上級貴族以外)はお触り禁止だから、私なんぞは読んだことないんで詳しいことは知りませんが、でもなんだかその牢、曰くつきっぽい気がするのは私だけ?! お義母様、怖いから楽しそうに微笑まないでぇ!


 しかしあの二人。やっぱり囚われていましたか。


 ですよねぇ。無事に解放してもらえるような雰囲気ではなかったですもんねぇ。国王様といい旦那様といい、騎士団のみなさまといい。

「人質とか、そういう感じですか?」

「そんないいものじゃなくてよ。……まあ、ヴィーちゃんは気にしない気にしない」

 また微笑んで話を曖昧に濁そうとするお義母様です。いや、気になるって!!

「気になりますよぉ」

「まあ、もうすぐわかるでしょ。ああ、今日はお天気がいいからお庭にでも行く? ロータスを呼びましょうか」

「あ、はい」

 お義母様があからさまに話を変えました。つまりこの話はもうするなってことですよね。ええ、空気読みますよ!




 またそう変わらぬ一週間が過ぎた頃。

 その日も旦那様は普段と変わらぬ時間に帰ってきました。

 いつも通りエントランスから寝室に直行してきたのですが、部屋に入ってきた瞬間からやたら上機嫌で、ハグが締め付けのようです。苦しいんですけど?! 何かいいことでもあったのでしょうか?

 ハグがきつくて「ぐぇ」と鳴いたら、「ごめんごめん」と言って緩めてくれました。

「ただいま、ヴィー! 今日は大きなお土産があります」

 なんてニコニコしながら言ってます。

 お土産? 美味しいお菓子でも買ってきてくださったんでしょうか? 

「お帰りなさいませ。大きなお土産、ですか?」

 その割には手ぶらだなぁと思いながら、旦那様を見ていると、


「そう。問題が解決しましたよ! オーランティアが無血開城しました」


 あ、お菓子じゃなかった。……違くて。

 旦那様、ニッコリ笑ってますが、それ、すっごい情報ことですよね?!

 オーランティアが無血開城って、投降したってことですか? 国が亡んじゃったってことですか?!


 たった二週間で何がどうなったんでしょう?!


今日もありがとうございました(*^-^*)


6/7の活動報告に頂き物の小話を載せています。よろしければ覗いていってくださいませね!

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― 新着の感想 ―
[一言] お義母様、何気に王太子達のこと、「あいつら」って言ってた。(笑) かなりご立腹なんですね。
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