表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
135/236

無事に帰ってきましたが

 一時はどうなることやらと焦りまくったオーランティア王太子殿下との王宮追いかけっこ。

 長かった。ひっじょ~に長かった。マジ、もうダメかと思いましたよ~!

 しかし間一髪のところで旦那様が助けに来てくださったお蔭で何とか終わりました。マジギレした旦那様、すごかったなぁ。王太子相手に剣をふるう姿なんて、とっても凛々しかったし。ほんと、頼れる私の旦那様だなぁって再認識しました。そんな旦那様に守られて、私ってば幸せ者ですね!

 なんとか一件落着し、国王陛下以下国中のお貴族様の生温かい笑顔に見送られながらパーティーをお暇した私と旦那様。追いかけっこの際、転んだ拍子に足を捻ってしまい歩けないので旦那様にお姫様抱っこされての退場ですが何か? もうこうなったら開き直りですよ。


 近衛騎士様によって恭しく開けられたエントランスの扉の向こう、車寄せにはすでに公爵家の馬車が待機していました。

 乗り込むと、そこにはふかふかのクッションがこれでもかと置かれています。こんなのあったかしら? 確か王宮に来る時にはこんなのなかったはずなんだけど、いつの間に用意された? ありがたく使わせていただきます。

 旦那様はクッションをいい具合に調整してからその上にそっと大事に私を下ろすと、自分は私の前に跪きました。おや、座らないのですかね?

 座らぬ旦那様に首をかしげていると、

「ヴィー、足の具合はどう?」

 跪いている状態なので、下から私の顔を覗き込んで聞かれました。

「う~ん、ズキズキしてますけど、どうでしょう?」

 実際どんどん痛みがひどくなってきてるなぁとは思いますが、ありのまま伝えると多大に心配をかけるのがわかっているのでちょっと曖昧にそう答えたのですが、旦那様の目はごまかせなかったようで、

「ちょっと失礼するね」

 そう言って私のドレスの裾をちょっとめくり上げ、傷めた方の足を取りました。ちょ、いきなり何すんですか!!

「え? ええっ? 旦那様?!」

 慌てて足を引っ込めようとしたんですが、痛くないところをぎゅっと握られていて(正確に言うとふくらはぎ。そんなところ掴まないでよ!!)、引くに引けません!

 しかも旦那様ってば私が『旦那様』って呼んだのが気にくわなかったのか、

「旦那様?」

 ニコッと笑いながら威圧してくるのはやめていただきたい!

 今までずっと『旦那様』って呼んできたんです、さっきの今でいきなり『サーシス様』って呼ぶのはハードル高いんですよ!

「サーシス様!」

「はい、なんでしょう」

「じゃなくて~!!」

 半ばやけっぱちになって旦那様の名前を呼ぶと、途端に嬉しそうにニコって……。ああ、もう! そうじゃなくてですね、足ですよ足!

「足です! 何をなさってるんですか~」

「うん、捻って腫れているけど骨までは……大丈夫じゃないかな」

 慌てる私を華麗にスルーした旦那様は、真面目な顔で私の足を少し動かしたりしながら見ています。

「……そうなんですか?」

「多分ね。とにかく腫れがひどいから、帰ったらすぐに医者を呼んで手当をしよう」

「はい。ありがとうございます」

 こんな夜更けに医師様を呼び出すのは忍びないですが、大人しく従っておきます。つか、もうすでにお屋敷で待機している気がするし。




 お屋敷に帰り着き、また旦那様に抱き上げられて馬車を降りると、いつものごとくお出迎えの使用人さんたちが並んでいたんですが。


 え?! どうした?! 何があった?! 


 みなさん、ビックリするくらい顔色が冴えません。って、さっきの王宮での事件が伝わってるんですよね、はい。

 いつもあまり感情を顔に出さないダリアまでもが心配そうに私と旦那様を見ています。要らぬ心配かけちゃってごめんなさい!

「奥様のご容体はいかがでございましょう?」

 ずらりと並ぶ使用人さんの中からロータスが出てきて旦那様に聞いてきました。

「足を捻っているが、骨までは傷めていないと思う」

「サロンで医師様がお待ちでございます」

「よし、連れて行く」

 そのままロータスが先導し、サロンに向かっているようです。やっぱり医師様もうすでに呼ばれてましたね。


 サロンでいつものソファに降ろされると、『ほんとに帰ってきたんだ』という安心感から身体の力が抜けてしまいました。

「ヴィー!」

「ちょっと安心しちゃいまして」

「僕にもたれ掛るといい」

「は~い」

 そのままソファに寝そべりそうになったのを旦那様に支えられ、用意されていたオットマンに捻った足を載せます。明るい光の元でまじまじと見ると旦那様が言ってた通り、結構ひどい腫れです。こうしてまともに怪我したところを見るとさらにズキズキがひどくなってきた気が……。熱もってきた気もする?! 自分の怪我にアワアワしていると、旦那様に手をぎゅっと握られました。ちょっと落ち着こうってことですね。

「おやまあ、お可哀相に。どれどれ……」

 医師様がなるべく痛くしないように気を遣いながら診察をしてくれます。

 旦那様や使用人さんたちも固唾をのんで見守るこの状況。寄ってたかって私の素足を凝視って、ちょっと(いやかなり!)恥ずかしいんですけど!?

 しばらく難しい顔して私の足を捻ったり伸ばしたりしていた医師様ですが、一つホッと息をつくといつもの穏やかな微笑みに戻り、

「ひどく腫れていますが骨に異常はないでしょう。足はしばらく包帯で固定して、痛みと腫れに効く湿布で様子を見ましょう。もちろん安静になさってくださいませ」

 そう言ってカバンの中から茶色い瓶を取り出し、中に入っていたモスグリーンの軟膏をガーゼにたっぷりとると、そのまま患部にピタン。

「きゃ! 冷たい!」

 思っていた以上に冷たくて飛び上がると、医師様に笑われてしまいました。

「気持ちいいでしょう。もう少ししたらミントが効いてきてスーッとしてきますよ。そしたら痛みもマシになってきますからね」

「はあい」

「ダリアさんにこの薬を渡しておきますから、一日数回、湿布と包帯を替えてくださいね」

「はあい」

「かしこまりました」

 おしゃべりしている間にも湿布の上から手際よく包帯が巻かれていきます。

 あっという間に私の足は包帯でぐるぐる巻き、ミイラ・レベル1みたいになってしまいました。


「しばらく不便ですねぇ」

 痛いから一人じゃ歩けないし、かといって車椅子とかも大袈裟だしなぁ。ベリスに言って杖でも作ってもらおうかな。

 私が包帯を巻かれた足をまじまじと見ながらため息をつくと、

「これだけで済んでよかったと思いましょう……ほんとにヴィーが無事でよかった」

 旦那様がコテン、と私の肩に頭を乗せてきました。

「そうですね」

 旦那様もきっと、私を探して走り回ってくださってたんですよね。ほんと、ありがとうございました。私は感謝の気持ちを込めて、旦那様の綺麗な濃茶の髪に触れました。

 もし旦那様が間に合わなくて拉致されてたら、今頃どうなってたか……あわわわ! 

 それに、旦那様が来てくれるまで何とか時間稼ぎができたのは、ここにいる使用人さんたちのおかげです。護身術やらいろんなことを叩きこまれていてよかったですよ。ロータス以下使用人さんたちにも感謝感激雨あられですよ。


「――まあ、ヴィーが無事で帰ってきたからって、あいつらを赦したわけじゃないですけどね」


 あれ。私の肩口から不穏な空気が流れ出してるよおっかしーなぁ?? これ絶対わっるい顔してるよね、旦那様!! 旦那様の髪から手をひこうとしたら、しっかりつかまれちゃったし。

 旦那様の雰囲気が変わったことにドキドキしていると、


「そうでございますね。ただで済ませるなどありえませんね」


 ニコッ。側に控えていたロータスが旦那様に答えました。

 ちょ、ロータス! 微笑んでるけど目が笑ってないよ?! 私はロータスのそんな怖い微笑み見たくないですよ!!

 ロータスからも黒いオーラが出てきたかと思うと、


「ほんとうに。やつらをどうしてくれましょう?」

「公爵家騎士団も派遣いたしましょうか?」

「なんでしたらお庭番も」


 口々に声を上げる使用人さんたち。つーかちょい待ち、お庭番て何?! 

 みんな笑顔なのに、背後から吹き出てるオーラがすっごい怒気って、怖いんですけど?! 使用人さんたち何気にハイスペックだから、王太子兄妹を闇に葬っちゃうとかしれっとこなしそうなんで怖いんですけど?!

 ブリザード吹き荒ぶ中、私ひとり顔色を変えてオロオロしていると、旦那様に後ろから抱き寄せられました。また、ちょっと落ち着けってことですかね。

「あいつらのことは僕に任せておけ。お前たちはヴィオラを守ることに専念してくれたらそれでいい」

「かしこまりました。期待しております」

「任せておけ」

 旦那様の言葉に頷くロータスと使用人さんたちですが、いったい何を期待してるというの?!


「そ、そうだ。移動するときはどうしましょう? いくら安静ったって寝たきりというのも……」

 この不穏な空気を一蹴しようと話題を変えたのですが、

「僕がいる時は僕がヴィーのお世話をしますから、それ以外はベッドで大人しくしていること」

「えっ?!」

「そうだ、お世話をするには同じ部屋がいいよな。ロータス、僕の部屋はこれからヴィオラと同じ寝室にする。まあ、移動させるものは何もないけど」

「えっ?!」

「かしこまりました」

 なんかトンデモナイ方向に話が行っちゃったよ?! え、それって同室ってことですかね?!

 ロータスもしれっと承っちゃってるし!? ……まあ、いいか?

 これまで何度も一緒のお部屋というのはありましたけど、いろいろと旦那様に対して気持ちが変わってきたというか自覚した今となっては……ドキドキしますね。




 またまたお姫様抱っこで私室に運んでもらいました。お世話って、こういうことか。

 いや、待って。着替えとか、湯あみはどうするんでしょうか? この足じゃさすがに一人でできないよね。えっ?! まさか?!

 そのことに考えが至った私は一人キョドってしまってます。まさか、お世話って、そこまでないよね?! さすがに旦那様にそこまで世話させるとかありえないでしょ!

「ベッドはちゃんと用意されてるな。湯殿は――」

 どぎまぎしている私とは対照的にいつも通りな旦那様は、涼しい顔で部屋に着くなりベッドやいろいろ確認しだしたのですが。


「湯あみはわたくしがお世話をさせていただきます。さ、奥様、今日の嫌なこともさっぱりと流してしまいましょうね」


 そう旦那様の言葉を遮ったのはステラリアではありませんか! 救世主キター!!

「は~い!」

「…………」

 普段の私なら湯あみの手伝いなど断固拒否しているところですが、今日は素直にお返事します。旦那様、じと目でステラリアを睨んではいけませんよ!

 旦那様に湯殿まで運んでもらいますが、そのまま入り口のところで回れ右。ドアがぴしゃんと閉じられます。

 そして湯あみが終わるとまた旦那様が呼ばれ、私は抱っこでベッドまで運ばれる、と。

 もう完全に移動手段と化してますね、旦那様☆

 ちなみに旦那様もこちらで湯あみをしました。もう完全に同室のようですね。着替えは元のお部屋でするようで、むこうに置いたままです。




 朝食をとりにダイニングに行くと、もう義父母が待ち構えていました。

 昨日は私たちだけ先に帰らせてもらったので。あれから王宮で何があったか私は知りませんが、お二人はかなり遅くに帰ってきたようです。

「どうだい、足の調子は」

「大丈夫? まだ痛い?」

 心配そうに駆け寄ってきて、足に巻かれている包帯を見て顔を曇らせるお二人。きっとロータスから怪我の具合などは聞いてると思いますが、心配かけたことは変わりません。ごめんなさいです!

「はい! ご心配おかけしてすみません。医師様もただの捻挫だということをおっしゃっていたので、しばらく安静にしていたらすぐによくなると思います」

「ヴィーちゃん若いからすぐ治るわよ!」

 お義母様が足を優しくなでながら励ましてくれました。なんかそれで治る気がしますよ。

「しばらくはベッドで安静にさせますので、母上、ヴィオラが退屈しないように話し相手になってやってください」

「もちろんよ!」

 きれいなウィンクをするお義母様です。

 すると間髪入れずに、

「じゃあ私は何をすればいいんだね?」

 話し相手に選ばれなかったお義父様が口を尖らせています。そんなお義父様に向かって旦那様はニヤリと笑うと。


「父上は も ち ろ ん 僕と一緒に王宮へ行って作戦会議じゃないですか」


 だそうです。……旦那様、また悪い顔をしていますねぇ。

「おお~、そうだな! それ大事だな!」

『作戦会議』と聞いてこちらもニヤリと笑うお義父様。どっちも笑顔が黒いんですけど? またよからぬことを企んでる顔してますよ?!

 また私が引きつりながら二人を見ていると、私の表情かおに気付いた旦那様が、さっといつもの麗しい微笑みに変えて、

「しばらくは忙しくなりそうなんですが、前のように家を空けることはしませんから安心してくださいね、ヴィー」

「あ、はい」

 あまりに普段通り、優しく微笑みかけられてとっさに何気なくそう返事したものの。


 これまでの経験からすると、旦那様が忙しいとあんまりいいことないんですよねぇ。


 旦那様の仕事が忙しい=軍の仕事が増えている=戦、みたいな式がパッと頭に浮かんできます。

 今回忙しいのって、きっとオーランティア王太子兄妹のことですよねぇ。そしてもちろん私が関わってるやつですよねぇ……。


 ちょ、いたたまれないんですけど?! これで戦とか、マジ勘弁してほしいんですけど?!


「まさか、また戦の下準備とか、そういうことじゃありませんよね?」

「ん~。ヴィーは心配しなくても大丈夫ですよ。僕も異動になったし、出張もないでしょう。いやぁ、近衛っていいですねぇ」

「いやいやいやいや、それ今、話はぐらかしましたよね?!」

 旦那様はニコニコしながらそんなこと言ってますが、これ絶対はぐらかしたよね!

 さらに食い下がろうとしたのですが、


「お食事の用意ができました」


 というロータスの声とともに朝食の皿がどんどん運ばれてきて、お話は中断せざるを得なくなってしまいました。


今日もありがとうございました(*^-^*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ちゃんと助かって良かったです [気になる点] 「何があってもヴィーはちゃんと僕が守りますから」 いや、守れてない…拉致られて怪我までしたので守れてないよね。「これだけで済んで良かったと思い…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ