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追いかけっこの行方

閉じ込められていた部屋から脱出できたと思ったら、目の前に立ちはだかった王太子兄妹。

しかもなんか、『私を手に入れる』だの『(いなくなった私の代わりに)後釜に入る』だの、トンデモナイことを口走ってましたし。もう、頭の中身を疑うレベル。


つか、この人たち、狂ってる?!


なんつーか、言葉が通じない? もう、これ以上お話しても時間の無駄だと思いますので、私、強硬手段に出させていただきます! ……って、あ、二度目か☆

一本背負いはさっき王太子に掛けましたが、コノヒトかなりの重量級でしたので今回は避けます。ごめん、二回も無理だわ。

ということで、私に今できる最大の攻撃は、指輪を利用したパンチですよね。

ええ、急所はいろいろ教えてもらいましたよ!


どこを狙おうか素早く頭で考えます。


王太子、ガタイがいいのでみぞおちは喰いこまなさそう、つか、逆に私の腕がおかしくなりそうだからパス。

じゃあ、顔面? でも、背が高いから鼻や額などを狙っても、上手く体重が乗らずにきまらなさそうですよね。

じゃあ、顎ですね。顎なら何とかなりそうです!

そう結論した私は、ぐっと拳を握り王太子にぶつかっていきました。

「またですか! ……って、ぐぁっ?!」

「残念でした! 同じ手は二回も使わないっつの! 今度はパーンチ!」

「きゃー!! お兄様!!」

さっきと同じ技をかけてくると思ったのか、ちょっと腰を低くして身構えた王太子でしたが、逆にチャンス! 顎が下がってきたところを体重掛けて打つべし打つべし打つべし~!!

指輪を意識して拳を握り、渾身の力で殴らせていただきました! よっし、手ごたえあり!

投げ技を意識していたのか、不意を付かれてひっくり返る王太子。

それを見て叫び声をあげ、さっきのように懐に手を持っていこうとする妹君。アレか! またあの薬を出すのか?!

またおかしな薬を出されては困りますので、妹の方もついでに倒しておきましょう。

「何か知らないけど、おかしな薬嗅がせてくれて!!」

「きゃぁっ!!」

妹君は、私が足払いをかけただけで見事にスッ転んでくださいました。楽勝ですね!


さあ、二人が体勢を崩してる間にさっさと逃げなくちゃ!


私はまた廊下を走り出しました。




今度は迷うことなく階段を見つけることができました。なんでさっきはあんな無暗に迷ったのかしら? と、へこみそうになるレベルで。

あっさり見つかった階段を駆け下り、庭園の方向を考え、そちらへと走ります。多分、この方向で合ってるはず。

そう自分を信じて突き進むと、廊下の突き当たりにガラス扉が見えてきました。

扉の向こうは……篝火の見える庭園です!

ここから出れば大広間まで迷わず行ける! そう思い扉に飛びついたんですが……はい、ここも鍵かかってますよね~。当たり前ですよね~。

押しても引いても動かないガラスの扉。私はさっきから握ったままになってるピンを持ち直し、鍵穴に入れました。急げ、私! さっさとしないと、いつ王太子が体勢を立て直して追ってくるかわからないですからね!

ここもちょっと手こずりましたが、頑張ってそう時間かからず開錠しました。やっぱり普段の練習は大事よねぇとか、変な感慨に耽っちゃいましたよ。

まあそれはいいとして。私はそっとガラス扉を押し開け外に出ました。


このまま壁伝いに大広間まで行けばすぐのはず…………あれっ?!


ガラス扉の外、暗い庭園に一歩踏み出した私が、壁に沿って大広間の方に進もうと向いた途端。

一瞬ボーゼンと立ちすくんでしまいました。


だってそこには私の胸くらいの高さの生け垣が、私の行く手を阻んでいたんですから!


暗いながらも点在する篝火から様子を見ると、生垣は、大広間に面する庭園を周りから隔離するようにぐるっと取り囲んでいます。大広間に行くには、この生垣を乗り越えるか、生垣が切れるところまで回っていかねばなりません。うわぁ、こんなのさっきの窓から見えなかったよ! 大誤算!

「結構高いから乗り越えるのはさすがに無理だわ。上が無理なら下。下からくぐれるところを探すか」

私は生垣の下を覗いてみたのですが、またこれが綺麗に手入れされていて穴ひとつないんですよ。みっしりと上から下まで緑の葉・葉・葉!! いい仕事してるね、ここの庭師さんも!! ええ、ちょっとやけくそ気味に褒めてみましたよ。

仕方ありません。こうなったら生垣の切れ目を探すしかないでしょう!

私が生垣に沿ってまた走り出したその時。


「待てえっ!!」


という声がしたかと思うと、ガラス扉の向こう、廊下をドタドタ走ってくる足音が聞こえてきたじゃありませんか!!

その騒音にハッとして振り向くと、やっぱり王太子! 強面の顔をさらに引きつらせてこちらに向かって走ってくるのが見えました。

ちょ、もう体勢を立て直したの?! リカバリ早くね?!

生垣にもたもたしていたのが悪かったのかしら。とにかく逃げなきゃ!!

私は生垣沿いに駆け出しました。




「待てと言ってる!!」

「待てと言われて待つバカはいません!!」


全力疾走しながらそんな応酬を何度もしている私と王太子。

下が砂利ですので走りにくいったらありゃしません! 砂利道ダッシュはしたことなかったからなぁ。いやいや、砂利だろうが大理石だろうが、今はそんなこと言ってる場合ではないのです! とにかく転ばぬようには気をつけながら、それでも全力で駆け抜けます。

「あ! 切れ目!!」

生垣に沿って走っていると、人がようやく一人通れるくらいの切れ目? 大広間の方に行ける隙間? 入り口? が見えてきました。

私は速度を緩めないように気をつけながら曲がり、大広間前の庭園に入りました。ここまでくればあと少し!

王太子も私に続いて入ってくるのが見えたので、私はラストスパートとばかりにスピードアップを図ろうとしたのですが、


「あっ?!」


ガツン、という衝撃が足元に走ったかと思うと、私は勢いよく前のめりに転んでしまいました。とっさに受け身をとったので大した怪我はしていないようですが、ちょっと腕を打ってしまいました。痣になっちゃいますね。しかし、付け焼刃でも体術習っておいてよかった! じゃないと今頃むき出しの腕や肩など、傷だらけになってるところでしたよ!

「いった~っ! 何が起こった?!」

と思ってよく見れば、地面に木の根っこが這っていたのです。どうやらあれに躓いたようですね。

受け身をとったそのまま、私はごろんと横に回転し、またスタートの構えに入りました。

もたもたしてられないですからね! 再び立ち上がり走ろうとしたのですが、

「キャッ?!」

無事だと思っていた足首に激痛が走りました。あまりの痛さにそのまま崩れ落ちてしまったじゃないですか。


ヤバい! 躓いた拍子に足首捻った!?


どうしよう。

そう思っている間にも、足はどんどん痛みを増してきます。わぁ、ほんとに動けなくなってきちゃった!!

足首を押さえて蹲っている間に、王太子はすっかり追いついてしまいました。

ああもう、ほんとに捕まっちゃう!!

動かない私を見て、自分も走るのをやめてゆっくり近寄ってきます。そのニヤニヤ、気持ち悪いっ!

逃げたいけど逃げられない、そんなジレンマから私がキッと睨んでみるも全然気にせず。そしてとうとう、私のすぐそばまで来ると、

「おや、いかがなされました? お怪我なされましたかな?」

なんて白々しく聞いてきました。アナタ、私が転ぶ一部始終を見てたでしょうが! ニヤニヤしてんじゃないですよ!!

「大丈夫です! ナンデモナイデス!」

「いやいや、足首が腫れあがっておりますよ! 私がお部屋まで(・・・・・)お連れいたしましょう」

私が足を庇うのを見た王太子に、足首の腫れがバレてしまいました。

おい、部屋に連れてかれたら元の木阿弥じゃんよ。今までの努力、水の泡じゃんよ。

私が睨んでもニヤニヤしたままの王太子。うう、どうしよう、もうほんと万事休す!!


王太子の手が私に届くその刹那。


「そこまでです。オーランティア王太子殿下。ヴィオラから離れてもらいましょうか」


庭園の暗闇から、低い、不機嫌な声が聞こえてきました。

そして、ザッザッという、砂利を踏みしめる音。

それは。


「旦那様!!」

「こっ、公爵!!」


闇の向こうから現れたのは、救世主! 

旦那様ではありませんか!




「ヴィオラ! 無事でしたか! ネズミ退治にちょっと手間取ってしまい、ヴィオラを探すのに時間がかかってしまいました」

旦那様は私の姿を見つけると駆け寄ってきて、王太子を押しのけ、私の横に屈みこんできました。

「はいっ! 無事です! ふわぁ、旦那様ぁ」

「泣かなくても。僕が来たからもう大丈夫ですよ」

「はいぃ~!!」

私は旦那様が来てくれた安心感からか、涙腺が決壊してしまいボロボロ泣き出してしまいました。こんな私ですが、やっぱりちょっと気が張ってたんですね。

私がえぐえぐ泣いていると、胸元からハンカチを出してそっと拭ってくれる旦那様です。あ、これ。確か私が刺繍したやつだね。

「ちょっと待っていてくださいね。さっさと仕事を終えてしまいますから」

そう言って私にそのハンカチを握らせた旦那様は、すっと立ち上がり王太子と正対し、

「オーランティア王太子オズマンサス殿。今日のことは全部わかっていますので。フルールの、しかも王宮内でとんでもないことをしてくれましたね」

旦那様はシャリンという音も涼やかに剣を鞘から抜き、王太子にピタリと向けました。

顔は見えませんが、旦那様の背中からブリザードが吹きだしています。……これ、激怒モードですよね。

「何のことだ? 私はただ庭園を散歩していただけだ。そしたらここで公爵夫人が倒れているのを見つけたので、介抱しようとしていただけじゃないか」

とぼけた顔で肩をすくめています。まーた白々しい嘘を言ってますよ、この王太子! 

しかしそんなの、旦那様に通用するわけがないですよね! 

「ほう。そうなのですか? ヴィオラ」

旦那様は鼻で笑ってから、私の方を向いて聞いてきました。

「違います!! コノヒトと妹君が何やら悪だくみをしているようなのを聞いてしまったんです。旦那様をおびき寄せて拉致っていくとかなんとか。だから私が旦那様に知らせに行こうとしたらコノヒトに追いかけられたんです。妹君におかしな薬を嗅がされて気を失ってる間に掴まって、縄でぐるぐる巻きにされてたんですよ! やっと逃げてきたのに、また追いかけてくるし!!」

詳しい話はまた後ほど。とりあえず簡単にですが、私は今までの話をしました。

「――と、妻は言ってますが?」

「違っ――公爵ではなくヴィオラ殿を拉致って帰るつもり……あっ!」


……コノヒト、本物のバカだわ。私の言葉を訂正するつもりで自白しちゃってるよ。


今さら口を押えても後の祭り。

旦那様が黒~い微笑みを浮かべています。

「そうですか。ほお~。ヴィオラを拉致って帰るつもりだったんですか。ほお~。今、ご自分で白状しましたね、王太子殿下」

「くそっ!!」

「語るに落ちましたね、殿下。いろいろお聞きしたいことがございますので、私と一緒に来ていただきましょうか」

顔をしかめる王太子に、旦那様は黒い笑みのままそう告げました。

すると、さっきの白々しいおどけた表情をかなぐり捨て顔を真っ赤にし、


「邪魔をするな! お前が離婚して我が妹と結婚し、私がヴィオラ殿と結婚すれば、フルールとオーランティア両国にとって万々歳じゃないか!!」


この期に及んでそんなことを口走りやがりましたよ王太子!!

うわぁ~。どうしようもないバカだわ……。さすがの私のあきれてものが言えなくなり、王太子を凝視するしかなかったのですが。


ブチン。


旦那様がキレた音が聞こえた気がする……。


今日もありがとうございました(*^-^*)

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