さらに馴染みました
少々遅ればせながら侍女長ダリアと料理長カルタム、侍女ミモザと庭師長ベリスがそれぞれ夫婦だということが判ったところで、私は随分と彼らに対する苦手意識が薄らいできました。うん、慣れてきたともいいますね。
厨房でカルタムと今日の食事のメニューについて相談した後、私はしばらく厨房内の様子を見ていました。
厨房にはカルタム以外にも何人か料理人さんがいます。みんなカルタムの下で修行するために地方から出てきた人なのだそうです。態度はナンパなちょい悪親父ですが、腕は超一流のカルタム。大事なので何度も言っときます。
調理中は戦争のようです。
「肉はどこだ?!」
「はい、こちらに用意してあります!」
「こちらじゃなくてここに用意するんだろう!」
いつものふにゃふにゃ態度はどこへやら、びしりと厳しい親方顔のカルタムの怒声が響きます。手元に運ばれた肉塊を華麗なる手捌きで切り分けています。
カルタムが日に3度、まじめになる貴重な時間です。そして見習い料理人さんたちは厨房内を休むことなく右往左往しています。そんな中、賄担当は当番制で、一人で使用人全員の食事を作っています。
晩餐の支度は特に大変です。
別棟のお食事を丁寧に作るカルタム。
それを視界の端に捉えながら、私は邪魔にならないところで今日の賄担当の調理人さんの仕事を見ていました。
「今日の賄は何ですか?」
私の楽しみの一つですからね!
「はい、奥様。今日の賄はルザス地方の郷土料理をアレンジしたものです」
まだ若い(とはいっても私より年上です)料理人が朗らかに答えてくれました。
「まあ、ルザス地方の? あなた、ルザス地方の出身なの?」
「はい、そうです」
「ロージアからとっても遠いわよね?」
「ええ、馬車で1週間はかかりますね」
「遠路はるばるなのね! 行ったこともないし、郷土料理も食べたことないから楽しみだわ」
「ええ、腕によりをかけて作りますから期待していてくださいませ」
自分の故郷の料理だからか、自身に溢れて答えてくれます。
「そういえば見習いさんたち、皆さん出身は違うのかしら?」
ふと疑問に思ったことを口にすると、
「そうですね。カルタムさんはロージアですけど、レーヌ地方、ワール地方、ロヴァンスからというのもいますね」
手を動かしながらも答えてくれました。それはどれもこれも、南であったり北であったり、この王都ロージアからずいぶんと離れた地方都市ばかりでした。フルール王国の国土は広いので、それらの地方は同じ国内ながら気候風土も気質も違うらしいです。国土のお勉強で習っただけなので、本当かどうかは知りませんが。
「結構みなさんばらばらのところから来られてるのね~! きっと各地方の郷土料理ってこちらとは違ったお料理なんでしょうね」
郷土料理は素朴ながらも暖かいおふくろの味です。そういう意味では実家の伯爵家の味も立派な地方郷土料理だわ。おおっと、そうではなくて。
「そうですね。使う素材が違ったり、独特の調味料があったりしますからね」
どんな料理なのでしょう! 見たこともないから妄想もできません。
でもせっかく地方出身者がいるんですから、これを使わない手はないでしょう!
「ねえ。これから賄は、みんなの郷土料理を出すことにしない?」
「と、申しますと?」
一瞬きょとんとなる料理人さんです。
「せっかくいろんな地方から人材が集まってきてるんだから、ほら、毎日旅行気分が味わえます、みたいな?」
私がそう言うと、近くで給仕を手伝いながら私たちの会話を聞いていた侍女さんたちが、
「それ、面白そうですわね!」
「どの地方も行ったことがないので、どんなお料理があるのかも興味ありますわよね」
と、口々に同意してくれました。料理人さんも、
「そうですね。僕たちとしても勉強になりますし」
と、興にのってくれました。
カルタムが手すきの時にその話をすると、手離しで賛成してくれました。
これで明日から、家にいながら郷土料理めぐりです! 楽しみです。
「魔王様、魔王様!」
「……奥様。俺の名前に違う意味を持たせないでください」
「なんのこと~?」
あさっての方向を見る私。
ずっとビビってきたベリスにも、気軽に話しかけられるようになりました! 見た目や態度は怖くても本当は優しい人だと、ミモザを見守る目からしっかり感じ取りましたからね!
おおっと、用事用事。
「お願いしていた花の苗は届いている?」
「はい。もう植えておきました」
「わあ! ありがとう!」
「それから庭園の花も少しづつ変えていきますので、気が付いたことや追加があれば言ってください」
「わかりました!」
先代からの庭園なので、花のチョイスだとか配置がびみょ~に渋いんですよ。バラがいいなぁっていうところにツバキだったり? いやいや、それはそれで落ち着きがあっていいのですが、もう少し華やかなのが欲しいなと思い、ベリスに相談したのです。
ベリスも、先代夫人の好みのままに設計し手入れをしていたので、私の好みが判ればそちらに変えていくことは吝かでないと快諾してくれたので、少しづつ庭園の改造に着手してくれています。
素敵施設の温室で育てている花も、お邸を飾るのにあつらえ向きなのを選んで育ててくれています。
これだけ家の中でちょろちょろしているからでしょう、もはや誰からも「刺繍なさいます?」とか「レース編みでもいかがですか?」と進められなくなりました!……みんな私が奥様然とすることを諦めた?
でも、使用人さんたちもかなり打ち解けてくれるようになりました!
さらに公爵家使用人さんたちに馴染んだな~と思っていたら、あっという間に2ヶ月も過ぎようとしていました。
今日もありがとうございました(*^-^*)
また公爵家をカスタマイズしてしまったヴィオラです(笑)
みなさまおっしゃる通り『亭主元気で留守がいい』!!