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歓迎会にて

旦那様はお仕事が忙しいのか一向に現れませんが、ダンスのお誘いはいつも通りひっきりなしにきます。


「フィサリス公爵夫人、次は私と――」

「喜んで~!」


今日もたくさんの方からダンスのお誘いがありますので、ロータス先生に怒られな……げふげふ、顔に泥を塗らないように全力で頑張らせていただきます! 

最近では若い方(しかも独身だとなおさら)と踊るのを旦那様はとっても嫌がりますが、ここは社交おしごと。頑張りましたよ。

そしてアイリス様たちは、私と違って、むしろ積極的に若い方(しかも独身オンリー)と踊っています。もちろんバーベナ様もしかり。今日も婚活に余念がありません。


もはや何度目かも忘れ去ったお誘いで私がフロアで踊っていると、ふと視線を向けた先に王太子様が踊っているのが見えました。パッと見ただけで王太子様とわかるって、すごい存在感だと思います。

縦にも横にも大柄だから、一緒に踊っているお嬢様が華奢に見える見える。横に並べばダイエット効果ありそうですね! ……違うか。

王太子様はダンスがそんなに得意ではないのか、ステップをよく間違えているのまで目立ってます。お相手のお嬢様がちょっと気の毒な感じです。がんばれ~! と心の中でエールを送っておきましょう!

しかし、私の視界の端の方でチラチラしている王太子様、結構気になります。いや、ほんと存在感があるというだけですけどね。そして何気に王太子様の方を見た時に、ばっちり目が合ってしまいました。

うわ、ヤバいヤバい! 目が合っちゃった。

人のことをじろじろ見て、お行儀の悪い奴だと思われちゃいますね!

私はささっと目を逸らせ、なかったことにしました。


しかしそれから、ことあるごとに王太子様と目が合います。ふと見た先に王太子様がいる。振り返ったら王太子様がいる。なんか視線を感じるな~って思ったら、そこには王太子様がいる……とか。

ちょ、コワイコワイコワイ!

さっきじろじろ見ちゃったので目をつけられてしまったのでしょうか?! 


旦那様はまだ現れないし、ダンスのお誘いはひっきりなしだし、そろそろ疲れてきたな~、そろそろ帰りたいな~なんて思いながら、いったんダンスはやめにして休憩していると。


「私と踊っていただけませんか、お嬢さん」


と声をかけてきた人がいました。

マジ疲れてきたからそろそろ断ってもいいでしょ、「今日の営業しゃこうは終了しました~」と、断る気満々で振り返ると。


存在感たっぷりなアノお方が、私の背後に立っていました。

そう、さっきからやたらと目が合う、オーランティアの王太子様です。


にこやかな微笑みを浮かべて私の方に手を差し伸べてきているんですが、う~ん、ちょっと雰囲気が怖いんですよね~。なんだろう。顔がコワイ? 濃い? いや微笑んで……あ、よくみると目が笑ってませんよ、だからコワイのか!! 魔王様ベリスもびっくりの眼力で私を見下ろしています。

うわ~! 王太子様からご指名入りましたよ!!

しかし、私ですか! 会場中にはもっと素敵なお嬢様方がいらっしゃるのに、よりにもよって私ですか!

……でもこれ、断っちゃダメな感じのお誘いよね。さすがの私でもわかります。

そして『お嬢さん』って、それ、違うんですけど。つか、お嬢さんって久しぶりに呼ばれた気がするわ。すっかり『奥様』って呼ばれることに馴染んじゃってるよ、私。

一瞬のうちにいろいろ脳内をよぎりましたが、

「わたくしでよろしければ」

結局のところニッコリと、ここは良妻スマイル全開でお返事です。


王太子様にエスコートされ、ダンスをしている人たちのど真ん中まで連れて行かれました。そんな目立つところで踊らんでも……いや、今日の主賓だから目立たないといけないのか。ワタシ的にはできるだけ目立ちたくないんですけど。

まあそもそもガタイがいいから目立つなっていう方が無理なのかもしれませんね。仕方ない。ステップ間違わないように頑張らなくちゃ。


難しい曲流れてくるなよ~と念じながらスタンバっていると、流れてきた曲はそう難ありませんでした。これならよほどのことがない限り間違いはないでしょう。よかったぁと安堵しますが、でも気を抜かず頑張ります!


緩やかなワルツの調べにのせて踊リ始めたのですが、開始早々から足を踏まれかけました。あっぶな。……やっぱり、ちょっとダンスはお得意じゃない? 

そしてしばしばステップを間違えたりするので、あの……踊りにくいことこの上なしです。ごめんなさい、いつもロータスや旦那様と練習しているので、甘えてましたね。フルールの社交界でも、みなさんお上手だからそんなに苦労することはなかったんです。でも大丈夫、ロータス先生の指導のおかげでちゃんと踊れます! 


「そうそう、お嬢さんのお名前を聞いていませんでしたね」


私が王太子様のステップにつられないよう必死で頑張っているのに、王太子様はそんなの気にせずぐいぐい話しかけてきます。そんな余裕ぶっこいてないでステップちゃんとしろよ。……おおっと、本音がついポロリです☆

そんな本音はごくっと飲み込み、引きつらないよう気を付けてニコッと微笑む私。

「ヴィオラ・マンジェリカ・フィ……「おお! ヴィオラというのですか! かわいらしい名前だ! いや、あなたによく似合っている!」」

「……ありがとうございます……」

王太子様は私の言葉を最後まで聞かずにしゃべり出してしまいました。

コノヒト、自分が質問したくせに人の話を最後まで聞かなかったよ……。

じと目になりそうなところを必死で笑顔の仮面を貼り付け取り繕います。

そして、言葉を遮ったことを悪びれもせず、また質問してきました。

「ヴィオラ嬢、お歳はいくつで?」

「十八でご……「おお、お若いのですね! 私とは十も違うのか。そうか、そうか」

貴方が聞いてきたから答えたんだけど? また話の途中で被せてきました。もうヤダコノヒト。

ご満悦でおしゃべりしてますが、ほんとステップちゃんと踏んでよね!! 何度足を踏まれそうになったことやら。

上機嫌だけど、やっぱり目がコワイし。つか、目が笑わないのは癖なのかしら? 旦那様のキラキラとした微笑みとはえらい違いです。王太子様は、どちらかというとギラギラ……。

「ヴィオラ殿の手は華奢であられるなぁ。私が握ればひとたまりもなさそうだ」

そう言って、ニッコリ笑ってそのごつごつした手でぎゅっと握ってくるのはやめてください、目が笑ってないからマジ握りつぶされそうでコワイわ! それにダンスの時、そんなにきつく握る必要ないですし、痛いっつの。ああもう、旦那様のしなやかだけど男らしい手が懐かしい。

「ま、まあ、おほほほほ……!」

引きつり笑いになるのはもう仕方ありませんよね!


こんな調子で一事が万事私のことを聞いているようで聞いてない、そんな会話が続きましたので、さすがに疲れてきました。誰か助けて! いや、自分で逃げるか!




二曲も踊らされたので、もう限界です。自力で逃げようとしていると、三曲目が始まる前にお義父様が助けに来てくれました。お義父様、救世主!!

「ふう、ありがとうございました、お義父様!」

「うんうん、頑張ったね、ヴィオラ」

「はい! 頑張りましたがダメでした!」

「見てたからもういいよ。大丈夫、ヴィオラは悪くない!」

苦笑いのお義父様に励まされています。

ステップはダメダメ(王太子様のダンスがぐだぐだなので)、会話は成り立たない(王太子様にぶった切られるので)、これでよかったのかしらと疑問ばかり残る社交タイムでした。


もう休憩する! と決心して壁際を目指していたのですが、途中でアイリス様たちを見つけました。いつもの四人かたまって、とある方向を凝視しています。何があるのでしょう?

「アイリス様? どうなされたんですか?」

声を掛けながら寄って行くと、

「あ、ああ、ヴィオラ様。いやね、ちょっと妹君を見ていましたの」

「妹君?」

こっそりと指差す方向には、オーランティアの王女様がいらっしゃいました。

王妃様や王女様とご歓談中のようなのですが。


「おほほほほ! 今日はフルール王国で今流行り(・・・・)だという、フリルのたっぷりあしらわれたドレスを着てきましたのよ! わざわざこの日のために新調させましたの。だからかしら、こちらに来てからずっと、殿方の視線が刺さってくるようですわぁ~!」


「「「「「……」」」」」


けっこう周りはざわついているのに、音楽が奏でられてるのに、それにもかかわらず王女様の声が私たちのところまでとってもよく聞こえます。つか、声、デカすぎでしょ。

「殿方の視線は違う意味で(・・・・・)刺さってるんですよ」

じと目でこぼしたアイリス様。ぐっさりと刺しましたね! こちらも毒舌絶好調のようです。

私もアイリス様の意見に激しく同意ですが。


「フルールの社交界でピラピラフリフリドレスが流行って、ちょっと情報古くありません?」

「というか周りが見えないのでしょうか? ピラピラフリフリが流行ってたら、もっとみんな着てるでしょう。もはや誰もそんなドレス着てませんのに」

「誰か教えて差し上げるとか?」

「誰も教える人がいないからこんなことになってるんでしょう?」

「まあ確かに……」


聞きたくないけど聞こえてきた王女様の話に、みんなで目が点になります。

よく見ると私たち以外の方も、王女様の話を聞いて苦笑いしたり頭を抱えたりしています。

周りがみんな王女様の話に耳をそばだてていることに気が付いていないのか、

「前はちらりとしかお会いすることがありませんでしたけど、今日のようにとびきり着飾ったわたくしと会えば、フィサリス公爵様も思い直してくださるに違いありませんわ! 奥様を捨ててわたくしに走ってきたらどうしましょう! いやんロマンスですわぁ!」

また王女様の声が聞こえてきました。これはまた……まあ、なんというか……。

王女様は丸っこい……失礼、ふくよかなお体をくねくねさせて一人で盛り上がっています。

「それはさすがにないですわ、オランジェ様。フィサリス公爵は、それはそれは愛妻家ですの。奥様を溺愛されていると言っても過言ではないくらいですのよ」

さすがに王妃様がやんわり、しかしきっぱりと否定しています。あ、よく見たら王妃様の目が笑ってない!!

「あら~、そうなんですかぁ? きっとわたくしを選ぶと思うんですけどぉ。残念ですわぁ」

「残念ですわね! おほほほほ!」

王妃様のこめかみがひくひくしています。王妃様、がんばって!

ドキドキしながら王妃様たちを見守っていると、私の隣で押し殺した笑いが聞こえました。

「くくっ……どこからあの自信は湧いてくるんでしょう? 鏡を見たことないのかしら?」

もはや笑いをこらえすぎて体をプルプル震わせるアイリス様がおっしゃってます。笑っちゃダメですよ~!

「アルゲンテア執政官様があの方との縁談を全力回避なさったのがわかった気がいたします」

そう真顔(もはや笑いをこらえすぎて)で言うのはコーラムバイン伯爵令嬢。

「終戦と国交の正常化、そして友好のために、誰かが犠牲になるんですよね」

「いや、犠牲って言っちゃダメですよ! ナスターシャム侯爵令嬢様!」


「「「「もう、友好の印に政略結婚とか、止めた方がいいんじゃない?」」」」


小声ですが、お嬢様方の声がハモりました。




なんとも濃い、オーランティアの王太子兄妹ですね……。


今日もありがとうございました(*^-^*)

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