ご一行がやってきた!
そしてとうとう隣国オーランティア王太子様ご一行様の来訪日がやってきました。
敗戦国ではありますが、いちおう国賓扱いですので、歓迎会などするそうですよ。
「僕は朝から王宮に行ってますから、ヴィオラは後から父上たちと一緒に来て下さいね」
「わかりました」
「フィサリス公爵として僕が顔を出さなくても代理として父上がいますから、僕は仕事を優先していると思います。でも時間が合えばそちらにも顔を出しますから」
「はい」
「父上、母上。ヴィオラをよろしくお願いしますね」
「安心しろ、まかせとけ!」
「任せといて」
旦那様が仕事に出るのでお見送りに行く時、なぜか今日は義父母たちがいるなと思ったら、こういうことでしたか。
「今日の昼過ぎに着くと聞いてるけど。それから陛下と会談して、夕方に内輪だけの晩餐会。その後歓迎の夜会が開かれるから、私たちはそこからの参加になるね。ヴィオラは私たちと一緒にいればいい」
「わかりました」
ということは夕方くらいの出発ですね。それまで……うん、いつも通りエステ隊にもみくちゃにされるんでしょう。
ドレスはまた新調されています。またか~と言いたいところですが、これもおつとめです。そう心の中で折り合いをつけました。
今回は制服を着る旦那様に合わせたものを作ったので、色が臙脂色です。だって近衛に異動しましたからね~。近衛が臙脂、特務は紺、実働は深緑。ふふ、もうバッチリ覚えてますよ!
お飾りは前回と同じものです。何せ当分広告宣伝しないといけないもので。もちろん指輪も標準装備です☆
別棟に戻る義父母と別れて、私も私室に戻りました。
予想通りエステ隊に頭の先からつま先までピッカピカに磨き上げられ、ステラリアとミモザに完璧に作りこまれて、夕方には社交仕様・ヴィオラが完成しました。いつもながらいい仕事してます侍女さんたち。
「さあ、今日も完璧です! 隣国王女に見せつけてやりましょう!!」
「いやいや、そうじゃないから! 普通に夜会に参加するだけだから!!」
なぜか鼻息荒い侍女さんたちをなだめ、私は夜会へと向かうのでした。
今日の夜会は国中から貴族を集めてといった感じではないそうです。限られた、爵位で言えば伯爵以上しか招かれていないそうで、どこかしら小ぢんまり感があります。少ない方が警備しやすいからだそうです。うちの両親、来てるかしら? ……来てなさそうな気がするけど。
「ヴィオラ様、ごきげんよう」
「「「ごきげんよう」」」
誰が来てるのかな~とさり気なく会場を見渡しているとしていると、声をかけてきたのはアイリス様たち四人組です。
うちの両親は怪しいけど、この人たちはやっぱり参加しています。夜会参加率、百パーなんじゃね? ……げふげふ、ここは口をつぐむのが正解ですね!
そして、
「ごきげんよう、ヴィオラ様、みなさま」
バーベナ様もいらっしゃいました。
「ごきげんよう、みなさま。陛下や国賓の方々はまだおなりではありませんのね」
「セロシア兄様が先程、もう少しで来られるって言ってましたわ」
「どんな方なのでしょうね、王太子様と……王女様は」
みんなで扉の方を見つつ話をしていたのですが、アイリス様が気遣わしげな眼で私を見ていました。
「どんな方なのでしょうねぇ? あ、これに関してはあれからちゃんと旦那様とお話ししましたから大丈夫ですよ!」
「まあ、そうでしたの! さすが公爵様ですわね」
アイリス様がほっとした様に微笑みました。
「あら、いらっしゃったようですわ!」
クロッカス伯爵令嬢が声を潜めて教えてくれたのと同時に、「国王陛下、ならびにオーランティア国王太子殿下のおなり!」という侍従の声がフロアに響きました。
バーベナ様たちが「ここじゃ見えにくいから、王太子様たちがもっと見やすいところまでいきましょう!」と言って移動するついでに、私も引っ張っていかれました。
陣取った場所は貴賓席の近く。う~、こんな目立つ場所、人間観察には向かないんですよ! ベストは壁際なのに、みなさんご存知ないのかしら。
ぎぃ、と重々しく開いた扉から現れたのは、国王様に続いてオーランティア王太子様、王女様。そしてその後に王妃様や王族方以下略と続きました。
「あれが王太子様と妹君ですか?」
「ええ、そうですわ」
私は隣にいるバーベナ様に確認しました。
初めて見る王太子様は、なかなかゴツイ人です。ええ、一言でゴツイ。
旦那様と同じくらいの身長だと思うのですが、なにせ横幅がでかい。旦那様の倍くらいはあるんじゃないですかね? 旦那様は鍛え抜かれた細マッチョ系ですが、王太子様は……う~ん、ごつごつしている感じです。筋肉だるま系? 『デブ』という感じではなく『筋肉ラブ!』みたいな感じです。
男らしい……男臭い……いや、男らしい顔も、フルールの人とは違った面立ちです。四角張った顔に、濃い眉毛、力強い黒い瞳が印象的です。全体的に『濃い』。向こうは暑い国だからでしょうか、日焼けしているのでさらに濃さが倍増しています。普段、旦那様のお美しい顔を見慣れてしまっている私には、ちょっと濃厚すぎますね。いや、男らしい凛々しいお顔立ちとは思います。ただちょっと、フルールでもてはやされているイケメン顔とは系統が違います。
「……確か、オズマンサス・ヴァル・オーランティアカスというお名前でしたけど、もうこれはコイカオクドイという名前の方がしっくりくるわね……」
「……」
隣でポツリとバーベナ様がこぼしました。うん、激しく同意しますがなかなか毒舌ですねアナタ!
妹君は、こちらはお兄様とは対照的に小さい方で、こう……まあ、ふくよかな方です。顔はお兄様とよく似ておいでです。もうこれ以上は言いますまい。
セロシア様が全力で回避しようと頑張っていたのが頷けてしまいましたごめんなさい。
小さくてふくよかな方なんですが、今日はまたすんごいフリフリのドレスを着ているので、余計にコロコロして見えます。
「……オランジェ様でしたっけ……? チビデブス……」
「わ~!! それ言っちゃいけませんて!!」
反対隣りのアイリス様がぼそりと呟きましたので、私は慌てて小声で止めました。こちらもバーベナ様に負けず劣らず毒舌ですねぇ。え? 否定しなかったって? ……ええ、まあ……。
「あの方に見初められたって、公爵様、また随分驚かれたでしょうねぇ」
「……」
コーラムバイン伯爵令嬢のささやきに、どう返していいものなのか、私が答えに困っていると、
「全然好みでも何でもない女に惚れられても迷惑というものでしょう」
ズバッとバーベナ様が切って捨ててしまわれました。うお~。毒舌絶好調ですね~!
「しかし、ああいうお方だとは思いませんでしたわ、オーランティアの王太子様。おいくつでしたかしら? バーベナ様、ご存知です?」
「二十八とお聞きしております。妹君の方は二十だったはず」
アイリス様の質問に、バーベナ様は唇に指を当て、考えながら答えています。ほんとバーベナ様ってば情報通ですねぇ。何でも答えがすぐに返ってきます。
「二十八ですか! ……もうちょっと上かと思いましたわ」
ナスターシャム侯爵令嬢が少し驚いていました。確かに実年齢よりは上に見えますね。
「妹君も、私たちより年上に見えますし」
「なによりあのドレスが……。フリフリヒラヒラはもはや流行遅れなんですけど」
「ああ、わたくしダイエットしていてよかったですわ!!」
「サティさん……!」
お嬢様方は王太子様と、そして妹君の品評会になりつつあります。クロッカス伯爵令嬢がしみじみと自分の体形を見下ろしながら言った時には、みんなで苦笑いになりましたが。
少し前までフリフリのかわいらしいドレスがお好みだったアイリス様も、最近はシンプルなドレスを着ていらっしゃるし、会場を見渡しても全体的にシンプルなラインのドレスが流行りのようです。私のせいじゃないよ! 私のせいじゃ……!
そんなお嬢様方の中で、私はすっかり聞き役です。だっていつも私のドレスやお飾りをしてくれるのは侍女さんたちであって、私のセンスじゃないもんね! 私のセンス? それは聞かないお約束でしょ。
「ヴィオラ様。公爵様、今日はどうなさいましたの?」
アイリス様が聞いてきました。
王太子様たちのインパクトですっかり忘れていましたが、そういえば旦那様の姿、王宮に来てから全然見てませんねぇ。
いるとしたらあそこだろうという国王様の傍には近衛団長様らしき方が控えていて、旦那様の姿はどこにも見あたりません。団長が表にいるということは、旦那様は、今は裏で指示をしているのでしょう。
ユリダリス様や部下の方々の姿はちらほら見えます。
「今日はお仕事なんですよ~。今日は団長様が陛下に付いていらっしゃるから、旦那様は裏方にいらっしゃると思います。時間が合えばこちらに来ると言ってましたけど」
それまで適当におしゃべりしたりして過ごしていたらいいですよね?
適当にお嬢様方とお話ししたり、適当にダンスに誘われては踊ってみたりと、ホント、適当に社交を頑張りました。適当に社交を頑張るということができるようになった私ってば成長してますよ! もちろんヴィオラ・サファイアの宣伝も忘れずに☆
今日もありがとうございました(*^-^*)