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拗ねてません

旦那様からオーランティアの王太子一団が来ることは聞いていましたが、『これからのこと』に王女様の縁談の話が含まれているとは知りませんでしたし、ましてや当初はうちの旦那様がその相手だったとはつゆ知りませんでした。




「旦那様に縁談がきてたなんて、私ちっとも知らなかったなぁ」


バーベナ様のお茶会をお暇し、お屋敷に帰ってきてホッと一息。サロンのソファーにごろんと寝転びながら一人でぶつぶつ呟いてると、

「奥様に要らぬ心配をかけないよう、旦那様がわざとお話にならなかったのでございますよ」

ロータスが微苦笑しながらフォローしてきました。

「ロータスは知っていたの?」

「まあ、いちおうは。しかし国王陛下も旦那様もまったく相手になさっておりませんでしたよ。それに、その件につきましてはもう断りも入れておられますし」

「ええ、それはバーベナ様から聞きましたよ。でもちょっとくらい話しておいてほしかったなぁと思うわけですよ。バーベナ様だって、お兄様方から聞いて知っているようなレベルの情報なのでしょう? そんなに重大な秘密というわけでもなさそうでしたし」

別に縁談どうこうでうじうじ悩んだりしないのにね。

「そこは旦那様の優しさとおとりくださいませ」

「なんか隠す方がやましいことしてるんじゃないかしらって、逆に疑っちゃうのにねぇ」

「まあまあ」

「……はぁい。旦那様の優しさとゆーことで、ありがたく受け取っておきま~す」

ロータスに諭され、自然と突き出る唇。

あら、ちょっと拗ねたっぽく聞こえちゃったかしら。拗ねてるっていうより、モヤッとした感じなんだけどなぁ。

そんなことを考えていると、気付けばロータスにクスクス笑われてしまいました。そうね、まるでお子ちゃまみたいだものね。うう。

そしてロータスはひとしきり笑い終えると、

「ああ、それから。今日も旦那様のお帰りは遅くなるようですので、先に食べておいてくださいとのことです」

最近お決まりのフレーズを口にしました。

「はーい。こっちも了解です!」

何だか最近、旦那様の姿見てないなぁ。




さて、今日は慣れないお茶会で緊張したし疲れました。

旦那様がいないので、今日も使用人さんたちと一緒に賄い晩餐をいただき、すっかりお一人様モードで寝支度まで整えて私室のベッドでゴロゴロしていると、軽快に部屋の扉がノックされました。もはや寝るだけのこんな時間にノックされるなんて、滅多にありませんよ。

「なにかしら?」

「さあ……?」

ステラリアに聞いても首をかしげています。何かあったのかしら? なんて思いながら「はい、どうぞ~」と返事をすると、


「奥様、旦那様がお戻りになられました!」


と、旦那様付きの侍女さんが急いで入ってきました。

「え?! 旦那様?」

「はい、そうでございます」

思わずベッドから飛び起きましたよ。え? 旦那様が帰って来たって?!

いや、うん、遅くなるって言ってたから合ってるんだけど、なんか微妙な時間だなぁ。「遅くなる」と言った日は、すっかり私が寝付いちゃってから帰ってくるんですけど。

「あら~……。やっぱりお出迎えしないといけないわよねぇ」

「そうでございますね」

「もう夜着デスヨ」

「デスヨネ」

私が自分の姿を見おろしながら言うと、侍女さんも苦笑いになりました。だって、すっかり寝るつもりだったのでね。

急いで着替えるか、と考えていると、

「とりあえずストールを羽織っていれば大丈夫でございますよ。さ、これをどうぞ」

そう言って大判のストールをステラリアが用意してくれました。ナイスフォローをありがとう! 私は早速それを受け取り、羽織りました。

しかしいつもなら、こういうびみょーな時間ならそっとしておいてくれるはずなのに、今日に限って起こされるというか呼びに来るってどういうことですかね。


何があった。


まあそれは後でいいとして。

「とにかく、旦那様はもうお帰りになってるのよね?」

「はい。エントランスでロータスと話をしております」

「おお~。急ぎます!」

帰ってきてるものは仕方ない。

私はしっかりストールを巻きつけると、ダッシュでエントランスに向かいました。


「お帰りなさいませ! 今日もお疲れ様でございました!」

エントランスでロータスと話している旦那様に走り寄り声を掛ければ、

「ああ! 起きているヴィオラに会うのはなんだか久しぶりの気がしますねぇ!」

そう言ってぎゅむ~っとハグされました。待って。今なんか聞き捨てならん言葉が聞こえた気がしたけど、気のせいよね。

「遅くまで毎日お疲れ様でございます。私も旦那様にお会いするのが久しぶりのような気がしますわ。お食事はすまされたのですか? まだでしたらカルタムに言って何か用意してもらいましょう」

「いや、食事はすませてきましたからいいんです。それよりも」

「それよりも?」

「オーランティアの王女の話を聞いたらしいですね」

「あ~……」


何で今日の出来事知ってるんですかアナタ。あ、今ロータスから聞いたのか。


突然何を言い出すかと思い、びっくりして旦那様を振り仰げば……近いっ! 

お綺麗な顔がものすごく近くて思わずのけぞりました。でもいつものように濃茶の瞳に微笑みは浮かんでおらず、真面目に私を見ています。あら、どうしたんでしょう??

「寝支度していたところ申しわけないですが、どうしても、僕からも話をしておきたかったので」

「はあ」

「ここで話すのもなんですから、サロンでゆっくり説明させていただきます」

「はあ」

旦那様の勢いにのまれてしまい、「今日はもう遅いですから説明は明日でもいいですよ」とは言えず。私が生返事を繰り返していると、

「ロータス、サロンに何か飲み物を用意してくれ。ヴィオラには、身体を冷やさないように温かいもので」

「かしこまりました」

「僕は着替えてからサロンに行きますから、貴女は先に行っていてください」

「はい」

旦那様はてきぱきと段取りしていきます。もはやお話は決定事項のようなので、一旦着替えに自室に向かう旦那様と別れ、私は先にサロンに向かいました。




ロータスさえもいない、人払いされたサロンで。

着替えを終えた旦那様と、いつものようにソファに並んで座り、用意された温かいお茶をいただいていると、「先程の話の続きですが」と旦那様が切り出してきました。

とりあえずお茶のカップを置き、旦那様の方に体を向け、話を聞く態勢をとります。

「オーランティアの王女との縁談の話は、貴女にいらぬ心配を掛けたくなかったので黙っていたんですよ。でも結局、他人から貴女の耳に入ってしまって、余計に考えさせてしまう結果になってしまいました。すみません。ロータスから貴女の様子を聞かされて、居ても立ってもいられなくなって呼んでもらいました」

あのお子ちゃまな態度のことを、ロータスめ、しゃべったのか!  

すまなさそうに言う旦那様ですが、でもそれ、心配とはちょっと違うような。

「え~と、怒っても拗ねてもないですよ? 初めて聞く話でびっくりしただけなんですけど……。心配とかはしないと思うのですが、隠されると、逆に、やましいことがあるんじゃないかなぁなんて邪推しちゃいますよ」

「うん、何気にさらっと抉ってきましたねヴィオラ……」

「ナンデスカ?」

「ナンデモナイデス。ま、まあ、そういうこともありますね。黙っていてすみませんでした」

ありのままを伝えすぎたのかしら? 旦那様が胸を押さえてテーブルに突っ伏してしまいました。でもすぐに復活してくるところが旦那様ですよね!

「私が聞いたお話だと、王女様とのご縁談はすぐにお断りなさったんでしょう?」

「もちろんですよ! いつもの正式な王宮勅使だと時間がかかるので、今回は特別に僕の部下を勅使に立ててすぐさま返事させました! 縁談を断る旨がしっかりはっきり書かれた勅書は、次の日にはオーランティアに届けられましたよ」

キリッと言う旦那様ですが……。部下さん、また酷使されたんだ。また昼夜ぶっ続けで馬を駆ったんだろうなぁ。今度何か差し入れをした方がいいんじゃないかと本気で考えましたよ。

と、今はそれじゃなかった。

「すぐにお断りされたのでしたら、ちょっとくらい私に話してくださってもよかったんじゃないですか? 機密か何かだったら仕方ありませんが、そうじゃなかったんですよね? だってバーベナ様はお兄様方から聞いて知っていらっしゃいましたもの。お茶会の話題にできるレベルのお話しということでしょう?」

あ、またちょっと拗ねたみたいになっちゃいましたね。なんだろう、隠されてたってことにムカつくのかしら? さっきもロータスとこの話をした時にモヤッとしたし。

拗ねてるみたいな発言をして恥ずかしくなってしまった私が、上目遣いでチラッと様子を窺えば、旦那様は驚いた顔をしていました。

拗ねてないとか言っときながら、拗ねたみたいなことを言ったことに驚かれた? やっぱり隠してたこと怒ってんじゃないかって思われた?

小首を傾げて旦那様を見ていると、


「ですが、この話をしたらきっと顛末を聞く前に『じゃあ私と離縁して王女様をご正妻様にお迎えください!』とか言われると思ったんです。さすがにみなまで聞くと堪えるなぁと思って……。でもまさか、こんな風に内緒にしていたから怒られるとは思わなかったなぁ」


ぽそりとそんな事を言いました。

ああ、私の言いそうなことですね! って、違うか。

ちょっと前、いや、結婚当初くらいの私ならそう言ってたと思いますけどね。

でもね。


「もうそんなこと言いませんよ! 十分大事にしていただいているのはわかってますから!」


契約とか、そもそもお飾りの妻だったこととか、最近ではすっかり忘れちゃってるくらいにね!! お飾りどころか、今じゃ大事にされ過ぎて、みんなにうらやましがられるくらいにね!!

だから言いませんよ、そんなこと! ……多分。


「ヴィオラ?」

「それに、旦那様が言ったじゃないですか……ピ、ピエドラで……」

ごめんなさい、自分でリピートするのは恥ずかしいのでそこは濁しておきます。


あ~、でもなんかすごいこと言っちゃた気がする……!


今更恥ずかしくなってきました。うう、顔が熱い!!

恥ずかしくて旦那様を直視できない私が、体ごとぷいっとそっぽを向くと、クスクスと笑い声が聞こえてきました。ああもう旦那様、笑ってるし!

「そうでした! すみません、ヴィオラ。僕が間違ってましたよ」

旦那様はそう言って、私の体を自分の方に向きなおさせました。

さっきまでの真剣な顔は消え、いつもの微笑みを湛えた濃茶の瞳に戻っています。

「そうですよ、間違ってますよ~」

「夫婦に隠し事はいけませんね。機密上のことは仕方ないですが、以前の愛人疑惑の時のようなこともあるし、できる限りきちんと伝えていきます」

「誤解が生まれない程度で結構ですので……」

あまりヘビーなものはお断ります。

「はいはい、そうします」

私の手をキュッと握り、真っ直ぐ目を見て旦那様が言いました。


「で、今度のご一行にはその王女様もいらっしゃるんですよね?」

「はい。僕が断ったので、違う人物を選定中です」

「バーベナ様や他のみなさんはセロシア様が有力だとおっしゃってましたけど」

「う~ん、最有力といえばそうなんですが、肝心の本人が嫌がってましてね。今必死で他の人物を探してるところなんですよ」

旦那様はセロシア様の様子を思い出したのか、面白そうに笑っています。他人事だと思って!

「あら、嫌がっていらっしゃるんですか?」

「まあ、好みとは違うんでしょう」

旦那様はサラッとそんなことをおっしゃいますが、待って、政略結婚ってそもそも本人たちの意志とか関係なしに決まるもんですよね?

好みが違うとかそんなので、外交的な政略結婚をお断りしちゃっていいものなの?? 聞いたことないぞ、そんなの。旦那様の場合は既婚者だからお断りできたけど(側室も愛人もマストではないので、要らなかったら別に持たなくてもいいものなのです)。


そんな政略結婚ですら『嫌だ』と言われる王女様って、ほんと一体どんな方なのでしょうか……?


今日もありがとうございました(*^-^*)

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