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南隣の国の人が来るそうです

「しばらく仕事が忙しくなりそうで、帰りも遅くなることが多くなるし、帰ってこない日もでてくると思います」


夜会からしばらくしたある日。

いつも通りダイニングで晩餐をいただいていると、旦那様がそう言ってきました。

異動の引き継ぎなどのバタバタもようやく一段落したところで、何か大きなお仕事でしょうか。

「わかりました」

「実は南隣の国――オーランティア国の王太子一行が、我が国に来ることになったのです」

「まあ!」

前職の時のこともあって敢えて詳しいことを聞かなかった私に、旦那様が説明してくださいました。特務って秘密が多かったんでね!

南隣の国ですか。戦も終わってだいたいひと月が経ち、久しぶりに聞く地名ですね。てゆーか、国名を今初めて知ったかも。

「終戦の記念と、これからのことを話し合うそうです。王宮はこれからその準備に追われるのですよ」

他所の国の人が来るんですから、警備やら何やら大変そうですね。旦那様はいちおう(・・・・)近衛騎士ですから、その計画とか指示に忙しくなるのでしょう。ん? 旦那様も警護とかするのかしら?

「旦那様も警備や警護などをされるんですか?」

特務の時は指示方でしたけど。

「いや、僕は団長と交代で指令を出したりするのが主です。団長が表に出ている時は、僕が裏で指示を出す。団長が裏にいて僕が表にいるときは陛下の警護をしていますけど。まあ、ざっくりそんな感じです」

あ、表向きやっぱり警護はするんですね。確か旦那様の部署は、前の部署と似たようなことをするって説明されてましたから。

とりあえずざっくりそんな感じなんですね。わかりました。

「大変でしょうけれど、お身体に注意して頑張ってくださいませ」

「しばらくこうしてヴィオラとゆっくりと時間が過ごせないのは残念ですが、こればかりはどうしようもないですからね。早く帰ってもらえるように頑張ります」

「そこ頑張るところじゃありませんから!! とゆーか、どうやって頑張るんですかっ!!」


旦那様、時折おかしなことをぶっこんでくるのはやめてください。




前夜聞いた通り、旦那様は次の日からお忙しくなり、姿をあまり見かけなくなりました。


「今日も遅くなるそうでございますので、先にお休みになっていてくださいとのことでございます」

「は~い。あ、じゃあ今日の晩餐は……」

「……使用人用ダイニングでもよろしいですよ」

「やたっ!! ひ さ し ぶ り ぃ!!」


夕方、そんな会話をロータスと交わしたかと思えば、


「おはようございま~す。あれ? 旦那様は?」

「旦那様は先に朝食をお召し上がりになって、もう出かけられました」

「あらま。じゃあ朝食も……」

「先代様たちは別棟にいらっしゃいますのでダメでございますよ」

「おお……」


朝起きて、ダイニングに行っては使用人さんとそんな会話を交わす日が続いています。


そして忙しくしているのは旦那様だけではありません。

義父母もなんだか忙しそうです。

お義父様はちょくちょく王様に呼ばれて王宮に連行されていきます。いつもの侍従さんがやってきて、笑顔で拉致っていくのです。

お義母様はお義父様たちについて行ったり行かなかったりですが、よくお茶会に出かけるようになりました。

いつも通りなのって、私だけ……。

誰かに何かをやれと強要されることはありませんが、ちょっといたたまれないです。いいのかなぁ、私だけとっても普通で。

だからっていきなり社交するとか絶対無理ですから、じゃあ私にできることを頑張るよ! ということで、せっせと掃除洗濯を頑張っています。疲れて帰って来た旦那様が少しでもくつろげるように、心地よい空間を保つのが妻の役目! あ、逆に旦那様や義父母がいないからのびのびできちゃってるかも。




そんな、ちょっぴり結婚当初のような生活を送ってる私の元に、バーベナ様からのお茶会の招待状が届きました。


「や~。ほんとに呼ばれちゃいましたよ。社交辞令だと思ってたんですけど」


先日の夜会の別れ際に「お茶会呼ぶから」的なことを言われましたが、あまり本気にとっていなかった私です。まさかこんなに早く招待されるなんて思ってませんでしたよ。

「明後日でございますか」

ロータスが確認してきました。

「そう。毎日予定が空白な私だから、いつでも大丈夫ですけどね~」

予定は大丈夫だけど心構えがね。よそさまのお茶会なんて初めてですから緊張しますし、ましてや知らない人ばかりだったらどうしましょ!

お茶会メンツのことでちょっと憂鬱になりかけていると、

「奥様のほかにもサングイネア侯爵令嬢やナスターシャム侯爵令嬢など、奥様と親しくされているお嬢様方もご招待されているそうでございますよ」

すかさずロータスのフォローが入りました。むむ、心を読まれた?!

「それは嬉しいわ~! 知らない方ばかりだったらどうしようかと思ってました」

バーベナ様、ぐっじょぶ!! 私に優しい人選でホッとしました。威張ることではないですが、社交界の知り合いなんて片手で足りちゃうんですからね! ふふん!




そしてお茶会当日。

とってもお天気が良くて、庭園に設えられた席を気持ちのいい風が吹き抜けていきます。キラキラと光を反射してまぶしい、夜とは違った色を見せる川を眺めながらのお茶会です。よく考えたら、昼間にアルゲンテア家に来たのって初めてですよね。

バーベナ様とアイリス様、そしてナスターシャム侯爵令嬢、クロッカス伯爵令嬢、コーラムバイン伯爵令嬢、そして私の六人でテーブルを囲んでいます。アイリス様たちがいるだけでちょっと心強いですね!


「今日はお招きありがとうございます、アルゲンテア公爵令嬢様」

「あら。そんな堅苦しく呼ばなくてもいいわ。バーベナでよろしくてよ。私もヴィオラ様と呼ばせていただきますから」


わざわざ出迎えに来てくださったバーベナ様に淑女の礼をすると、そう返ってきました。おお、セロシア様の通訳なしに理解できました! ……ちがくて。ちょっとぎこちない笑顔なところがバーベナ様らしいというかなんというか。でも歩み寄ってくれてるんです! うれしいですね。

「はい! では遠慮なく」

できれば私のことはヴィオラ様ではなくヴィーちゃんと呼んでほしいのですが、ま、それはまだハードル高いですよね。


お天気のことや今流行りのことやお互いの服のことなど、アレコレと話が弾みました。


「先日の夜会は楽しかったですわ」

「若い方がたくさん来られてましたものね」

「素敵な方は見つけられまして?」

「う~ん、なかなか難しいですわねぇ。ヴィオラ様が本当に羨ましいですわ」

「あは~……ははは」


などなど。女子会らしく素敵な殿方の話になった時、

「殿方といえば、もうすぐオーランティアの王太子様が我が国に来られるそうですわね」

何気なくバーベナ様が切り出しました。

「そのようでございますね」

「今、王宮や騎士様たちはそのことで大忙しだそうで」

「王太子様と王女様が来られるとか聞きましたけど」

「いつでしたかしら? えっと……」

アイリス様たちも普通に答えてますが、これってみんな知ってることなの? 私は旦那様から聞いただけですから、てっきり秘密事項なのかと思ってたんですけど。

迂闊なことは話せないので、私は黙って聞き役に徹します!

ふんふんと適当に相槌を打ちながら聞いておきましょう。そもそも話すネタもないですし。

私たちの反応を見ながら、バーベナ様が続けます。

「兄が言うに、終戦記念と友好の印に王女様が我が国に嫁入りするそうですわ。でも、うちの王太子様はまだ五歳でしょう? 一方の王女様は二十歳と歳が開きすぎているから、誰か釣り合う貴族の元にいくみたいですわよ」

バーベナ様はお兄様情報でしたか。詳しいですね。旦那様は『終戦の記念とこれからのことを話し合う』としかおっしゃってなかったので、私は初耳です。

「確かに、国王一家の王子様は王太子様だけですものね」

「どなたの元に嫁がれるのかしら?」

他の方たちも初耳だったようで驚いています。

「最有力なのはフィサリス公爵様ですけど、ヴィオラ様という立派な奥様がいらっしゃいますからすぐさま除外。ということは、ここはセロシア様でしょうか? カラテア様には婚約者がいらっしゃいますでしょう?」

アイリス様がバーベナ様を見ながら言いました。

「カラテア兄様は嫡子ですものね。でも婚約破棄ということもあり得るでしょう。婚約であって結婚はしてないんですから」

そんな事を言いながら涼しい顔でお茶会を飲んでるバーベナ様ですが、ちょっとそれ、政治的な、ドロッとしたものを感じるんですけど?

他のみなさんもなんだか納得気味に頷いたりしてるんですけど?

真のお貴族様の姿を見た気がします。うわ~、こわいわ~! 一流貴族こわいわ~!!

これまでそんな政治的なこととは無縁だった私ですから、ちょっと引き気味にみなさんを見ていると、

「ま、セロシア兄様は幸い婚約者もいないし、そっちになるんじゃないかと思ってるんですけどね。陛下がそんな鬼畜命令を出すわけがないですもの」

バーベナ様が訂正してくれました。

国王様のことなんて、私、全く知りませんから、「そうなんですか~」と相槌を打つしかできませんけどね!

とりあえず国王様が鬼畜命令を出すような方じゃないと聞いて、私が秘かに胸を撫でおろし、お茶で口を潤そうとカップに口をつけた時、


「そもそも、向こうは初め、王女の相手にフィサリス公爵様を指名してきたそうですの」


「へ?!」

「「「「ええっ?!」」」


バーベナ様がちょとムッとした様子で言いました。びっくりした。お茶、吹くかと思いました。

フィサリス公爵って、旦那様ですよね? 

思わず間抜けな声が出てしまいました。そんな話聞いてませんよ?! 旦那様、ひとっことも言いませんでしたよね?!

お嬢様方もまたびっくりしています。

どうしてここで旦那様の名前? と小首を傾げていると、

「終戦処理で公爵様が向こうの国にいた時に見かけて一目惚れしたそうですわ。奥様がいるっていうことも知らなかったみたいですし」

「まあ、そうでしょうね。仕事で乗り込んでいってるだけなんですから、いちいち『既婚者です』とか言いませんもの」

アイリス様が相槌を打ちました。他の方も頷いています。


そうですか。旦那様に縁談でしたか。


びっくりしたあまり、持っていたカップをソーサーに戻すのに、ちょっと音を立ててしまいました。おっと、失礼。いつなんどきでも平常心だよ、私!

小さな音だったのに、みなさんハッと気付いて私の方に一斉に見てきました。

「ヴィオラ様はこの話、ご存知でなかった……?」

バーベナ様が気まずそうにしています。

「あ~、はい。旦那様、最近お仕事が忙しくてすれ違いになっておりましたので」

いや~、ちょっとこっちも気まずい感じなんですけど。旦那様、こんな大事な話はしておいてくださいよ!!

自分でもちょっとぎこちないな~と思う笑顔を張り付けていると、

「で、でも大丈夫ですわ! まず陛下が速攻『話にならん』と却下されましたし、当の公爵様は無表情でその書簡を破り捨てようとしたそうですから! そして異例の早さで『フィサリス公爵は既婚ですから絶対ダメ』と断りを入れたそうですのよ!」

バーベナ様が慌ててその後の話を続け、

「あの公爵様ですよ? 例え陛下に命令されたとしても奥様と離縁することなどありえませんわ!!」

「そうそう! むしろあの眩しいほどのご寵愛をオーランティアの王女に見せつけてやりましょう!」

「お二人の様子を目の当たりにすれば、入り込む隙などないことは一目瞭然」

「王女を完膚なきまでに叩きのめしましょう!」

「いやいやいやいや! 叩きのめすのはちょっとどうかと思います! 私は大丈夫ですから、落ち着いて下さい!! それにもうお断りを入れてるのでしょう? 王女様も諦めてますよきっと」

みなさん無理にテンション上げてフォローしまくりです。最後はちょっと穏やかではありませんが。

つか、旦那様、大事な国書を破ったりしちゃダメですよ!! え? もちろん周りに止められましたって? それはよかったです。


まあ、そんな王女様たちがやって来るんですね。う~ん、どうなるんでしょうか?


今日もありがとうございました(*^-^*)


閑話の閑話置き場『フィサリス公爵夫妻の周辺の状況』はじめました! 『裏状況説明』でもない小話置き場です。使用人さんsや騎士団メンツの話などが主です♪

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