今頃知ったこと
ひと月経って知ったこと(笑)
カレンデュラ様の乱入に一時中断したものの、部屋の模様替えを終える頃にはすっかりそんな出来事も忘却の彼方☆
アンティークな感じが落ち着きもするしかわいい感じもする、なんとも納得のサロンに様変わりしました! 忙しいのに私のわがままに付き合ってくれた使用人さんたち、感謝です☆ 今日はとっておき『ヴィオラちゃん特製ショコラタルト』でも作って振舞いましょう!
そう思い立ち向かった先の厨房入り口で。
「これはこれは、マダ~ム。今日はいつもにも増してお美しい! わざわざのお越し、ありがたき幸せ」
甘~いセリフの後、流れるような仕草で私の手を取るとリップ音もキュートに『Chu☆』。
……げはっ。甘い。美しくもなんともないですし。昨日と変わりないですし。甘い言葉にやさぐれてしまう私はひねくれモノ☆
心は絶叫するも、でも、これが厨房に来るたび毎回行われる『儀式』。
私の手を取るのは料理長のカルタム。
フェミニストなのはいいけど、毎回これやられるのはキビシイです。
甘ったるい笑顔で甘ったるいセリフを平気で言ってのけるコノヒトすごいと思います。
毎回のことだから、こっちが慣れなくちゃいけないのですが。そんなカルタムをよくよく観察してみたところ、押しなべて侍女さんたちや女性使用人には同じようなことをしているようです。しかし誰も相手にしていません。というか、フツーに流しています。そしてカルタムの方も、流されることを気にしていないようです。
みなさん付き合いが長いから対処に困らないんでしょうけど、私は公爵家に来てまだひと月しか経ってませんし、それまでも家族以外の男の人との接触が皆無でしたから、甘いセリフや仕草に対する免疫が乏しいのですよ。ですので流すスキルがまだ身についていません。
やっぱり今日もその甘ったるい笑みにビクゥっと怯えていると、
ぱかーーーん。
カルタムの頭が見事に叩かれました。クリーンヒットではなかろうかと思います。
「~~~~~~」
痛みに身悶えるカルタム。
手刀の持ち主はなんとダリアでした。
「ダ、ダリア? いいの? カルタムにそんなことして」
慌てる私ですが、
「大丈夫ですよ。この人これくらいじゃへこたれませんから」
冷たく言い放つダリアです。
そして、ダリアの言うとおりすぐさま復活してきたカルタムが、
「ひどいなぁ、ハニー。そんなに思いっきりぶたなくてもいいだろう」
拗ねた口調で言ってます。……また甘い。しかし相変わらず厳しい表情のまま、
「奥様がひいていらっしゃるでしょう。いい加減になさい!」
背の高いカルタムを見上げて睨みつけるダリアですが、カルタムはそんなダリアに怯むどころか、
「う~ん、怒ってる顔もキュートだよ~」
って言って、チュっとほっぺにキスしました。ふんぎゃ~~~~!!! あま~~~~い!! 何この甘い二人は?! またしてもの激甘に耐えきれず、私がジリッと後退すると、
「奥様の前で何してるんですかっ!」
頬を染めるという変化はしていますが、またダリアがカルタムに食ってかかりました。
「ごめんごめん、ははは~」
しかし懲りた様子はちっともないカルタム。少し癖のある綺麗な金の髪をかき上げながら、いい笑顔で笑ってます。
でも、ちょっと待ってください。なんでこんなに甘いんですかね?
「ねえ、さっきカルタムはダリアのことを『ハニー』て言った?」
引っかかったのは先程のカルタムのセリフ。するとカルタムは満面の笑みのまま、
「ええ、言いましたよ。だって僕の奥さんですからね☆」
ぱちん、とウィンク付きでさらりと言ってくれました。
は、へ?
「え? 奥さん? じゃあ、ダリアとカルタムは夫婦なの?」
「……そうでございます」
渋々といった感じでダリアが答えてくれました。
おお、なんたること! 一ヶ月もこのお邸にいたのに、たった今知りました!
パッと見堅物系のダリアと、明らかにフニャフニャナンパ系のカルタム。……すごい取り合わせだなぁ。想像だにしてませんでした。
ある意味衝撃の事実発覚の後、甘ったるい料理長の元(でも腕はピカイチ☆)、ショコラタルトを作り、お邸中の使用人さんたちに配ってまわりました。
残すは庭師長ベリスのみ。
庭師長ベリス。
前にもさらりと言いましたが、眼光鋭いイケメンさんです。手に持っている道具をスコップから剣に変えた方がしっくりきます。アッシュブラウンの髪を後ろで無造作に束ね、長めの前髪はその鋭い瞳を隠しているのですが隠しきれていません。仕事しろ、前髪!
いつもだいたい温室にいるので、私は心秘かに『温室の魔王様』と呼んでいますが、本人を目の前にして言う勇気はありません!
無口で愛想も悪いのですが、仕事は素晴らしい腕前です。公爵家の庭園はそれはそれは美事なものなのですよ。花に愛情持っている人でないとこうはいきません。だからきっとベリスもいい人なのでしょう。……見た目は魔王様でも☆
いい人だろうことは薄々感じてはいるのですが、やはり話しかける時は緊張します。
今日もやっぱり素敵施設の温室でせっせと仕事をしていました。こちらに向ける背中に男の哀愁……ではなく、『仕事中なんだよ、近寄んな。あ?』という空気を漂わせています。
しかし怖いからといってベリスをハブってはいけません!
私は意を決してベリスの背中に声をかけました。
「あ、あの~ベリス?」
おお、噛んでしまいました。
「……なんでしょうか」
背を向けたままですが、一応返事をしてくれました。でも作業は続行しています。
「え、と、ショコラタルトを焼いたので、休憩時間にでも食べてほしいなぁって、エヘ☆」
笑って乗り切れ!
「……そこのテーブルにでも置いといてください」
相変わらず背中との会話ですが、ベリスの手が温室内にあるテーブルを指しました。
「わ、わかりました。お邪魔してすみませんでした~!」
この空気に耐えられず、タルトを置いてそそくさと温室を脱出しようと思い踵を返した時。
ぱかーーーん!
「こらあ、ベリス!! 奥様に失礼でしょっ!!!」
誰かが魔王様、もといベリスの頭を叩きました。
呆気にとられる私。
叩かれた頭をさすさすと撫でているベリス。
魔王ベリスを攻撃したのは、どこからか召喚されてきた勇者ではなく、なんとミモザでした。……おや。さっきもこんなシチュありましたよね~。
ミモザの手には温室にあった木製のスコップ。おいおい、ミモザさん、そんなもんで殴ったんかい?!
ぎょっとしながら勇者ミモザを見ていると、魔王ベリスがぬっと立ち上がりました。おおう、魔王様の反撃でしょうか?! 勇者ミモザはピンチじゃないの?!
妄想実況しながら二人を見守っていると。
「さすがにそれは痛いぞ、ミモザ」
腰に手を当て、呆れた口調でミモザに言うベリス。眼光……鋭くない?! つか、むしろ優しい?! なぜ?
ふんだんにクエスチョンマークを飛ばしている私を置き去りに、二人は話を続けています。誰か、回答求む!!
「せっかく奥様が作ってくださって、わざわざ持ってきてくださったのよ? それをあんな態度で」
ぷりぷり怒りながらベリスを見上げるミモザ。
……う~ん、デジャヴ。
「仕方あるまい。俺は愛想なんぞ持ち合わせてないんだから」
ベリスはため息をつきながらミモザをなだめています。
「そうね。昔からベリスはそうよね。奥様、ベリスが非礼をして申し訳ありませんでした」
そしてなぜかミモザが私に頭を下げてきました。
「別に気にしてないわ。でもなんでミモザが謝るの?」
「あ、奥様はまだご存じなかったと思いますが、実はベリスは私の夫なんです。この人昔っから愛想がなくて、しかも強面でしょう? いつも誤解を招いてしまうんです。本当は優しい人なんですけど……」
おお、頬を赤らめています。何気に惚気られましたよね? まあ、いいですけど。
って、やっぱり夫婦か! やっぱりデジャヴ!
「おや、そうなんですか。大丈夫ですよ! 仕事を見ていたら人柄も出るじゃない。このお庭は美事だから、きっとベリスも素敵な人なんだろうなって思ってたわ。ちょっと目力が強いだけ☆ でも、昔からってどういうこと?」
「私とベリスは幼馴染なんです。私が赤ん坊の頃から世話をされていたんです」
「兄貴分なのね!」
「ええ。12も離れていますから、歳の離れた兄弟のようなものでした」
「まあ! 歳の差婚なのね!!」
オオカミで魔王様な雰囲気のベリスと優しくて柔らかい雰囲気のミモザ。う~ん、こちらのカップルも予想だにしてませんでした~。ギャップだけでなく歳の差も!
一応ロータスにも聞いてみましたが、ロータスは独身でした。いや、また何かのギャップを期待してたとか、違いますよ?
今日もありがとうございました(*^-^*)
また旦那様たち、別棟に引きこもってしまいました( ̄▽ ̄;)