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女子会

最近の流行がシンプル・ナチュラルに変わったこと、特にバーベナ様の変化に驚いてすっかりダンスの輪に入りそびれた私と旦那様は、アイリス様やユリダリス様と話し込んでおります。

そして私の『今日は素敵な方がたくさん来ていて眼福』発言(かなり誤解がありますけどね!)のせいで、いまだ私の手は旦那様にぎゅ~って握りこまれてますし、アイリス様からは冷やかされるしでどうしたらいんでしょう。

この場をどう打開しようかと思っていると、

「サファイアのお話とかいろいろお聞きしたいので、どこかで、ゆっくり、お話しいたしません?」

ニッコリ。ところどころ言葉を強調しながら、アイリス様が私の、旦那様とは反対の手を取りながら言いました。わあ~。なんでしょうこの逃れられない感は! 

すると反対方向から、

「お嬢様方の語らいに無粋な男は邪魔でしょうから、俺たちは退散するとしますか。副団長、兵部卿が呼んでましたよ」

ユリダリス様もそう言うので、

「そうですね。じゃあしばらく別行動ですね。お嬢様方、妻をよろしくお願いします」

旦那様はお嬢様方に魅惑の微笑みを見せてから、やっと私の指を解いてくれました。ちょ、握りすぎでしょ色変わってるじゃないですか!

旦那様は別れ際「すぐ戻ってきますから」と、私の耳にこそっと囁いていきましたけどね。




席を用意され、そこに腰を落ち着けたかと思うと、お嬢様方の容赦ない質問攻めが始まりました。いや、さっきのアイリス様の微笑みで察知してましたけどね。


「ヴィオラ様が今つけていらっしゃるのが例の『ヴィオラ・サファイア』なのでしょう?」

「最高級品にしかその名が許されないとか?」

「ほんと、ヴィオラ様の瞳の色と同じでお美しいですわ~」

「早く手に入れたいんですけど、まだポミエールのオーナーのところにもないって言われちゃいました」


矢継ぎ早に繰り出される質問の数々。

ここがまさに宣伝時なんですけど、お嬢様方の勢いにすっかり口を挟む隙がありません。とほほ。

お嬢様方は私のお飾りを眺めながらサファイアの話題で盛り上がっています。

「その『ヴィオラ・サファイア』というお名前は、やはり公爵様がお付けになられたんですよね?」

そしてやっぱり避けては通れぬこの質問。アイリス様がド直球で聞いてこられました。うっ……ものすごく答えにくいんですけど、それ。

でも八つのキラキラ(ぎらぎら?)した瞳に見つめられて逃げられないと悟った私です。

「……ソウデス」

「「「「キャ~~~!!」」」」

答えにくさのあまり蚊の鳴くような声で答えたのに、キャーというよりギャーに近い悲鳴を上げて喜ばれてしまいました。みなさん、クネクネ身悶えてます。他人事なら私もやりそうですけど、自分事ですからね、ものすごく恥ずかしいです。

顔から火が出そうになってる私に、


「さっきも言いましたけど、ほんと、愛されてらっしゃいますのね! ああ、宝石のことだけじゃありませんのよ? ヴィオラ様を見つめる公爵様の優しい眼差しといい、エスコートひとつとっても思いやりがあって。今日も、手をつないで登場された時には見入ってしまいましたわ! ああもう、羨ましい!!」


とまた、先ほどと同じことを言うアイリス様。


そう何度も言わなくても~! もはや顔から火どころではなく火事状態ですよ!


確かに、彼女さん(カレンデュラ様)が出て行った頃、う~ん、その前くらいからかな、旦那様の態度も変わってきて、完全に彼女さんと別れてからは私に気持ちを向けてきてくださってます。愛人疑惑とかもあったけど、必死で潔白の証明してくださったり。

そして、なんていってもピエドラの、モンデュックの丘で……っと、いかん。思い出したらまた恥ずかしくなる!!


今まで使用人さんたちに冷やかされることなんてなかったから(当たり前か!)気にしてなかったけど、こうして他の人から面と向かって冷やかされると、何だか変に意識しちゃいますね……。


ふと視線を彷徨わせると、その先に旦那様を見つけました。ユリダリス様と一緒に、どなたかとお話しされていたのですが、私の視線に気付くと小さく微笑んでくれました。

ヤバい。なんだか照れちゃいます。ぎこちなくしか笑い返せません。


私の心をいろいろなものが去来し、さらに顔が熱くなっていると、

「ヴィオラ様ったら真っ赤になっちゃって! かわいいっ!!」

アイリス様がガシッと私の手を握ってきました。

「ヴィオラ様、アイリス様ったらかわいいものが大好きですからぼんやりなさってたら襲われますわよ!」

ナスターシャム侯爵令嬢が笑いながら言いました。マジですか。それはご遠慮願いたい!

「かわいいものは正義なのよっ! ……あら? 綺麗な指輪ですこと。これもヴィオラ・サファイアを使ってますの?」

ナスターシャム侯爵令嬢に言い返していたのですが、手を握ったことで気付いたのか、アイリス様に指輪のことを聞かれました。

「ええ、そうですの。大きな飾りにできないようなサファイアを、このように加工してくださったんです。私のはサファイアとダイヤとルビーのマルチカラーでかわいらしくしてくださいました」

よっしゃー! ここは宣伝タイムですよね!! 

私がみなさんに見えるように、手を顔の前でかざしながら説明すると、

「あら。『私のは(・・・)』ということは、公爵様も同じ指輪をしてるってことですの?」

クロッカス伯爵令嬢がつっこんできました。おっと。そこつっこみますか。

おっとりしてる割に鋭いところついてきましたねぇ……いや、私の言い方が悪いのか。

「え~と、はい、まあ、同じデザインの指輪をしています……」

さっきの意気込みはどこへやら、ごにょごにょと私が白状すると、

「あ、私さっき見ましたわ! 公爵様の左手に青い指輪を! もう~。お揃いだったんですねぇ! ペアリングだなんて素敵」

コーラムバイン伯爵令嬢がハッと思い出したように口にしました。

お揃いというかなんというか。旦那様がこっそり作ってたんですよ私は無実です。

「旦那様のはサファイアとダイヤで仕立てているので、青い指輪に見えたんですね。あちらはサファイアの石の濃淡を利用して、とっても綺麗なグラデーションになってるんですよ」

いやいや、ここは宣伝時ですね!! 恥ずかしがっている場合じゃないですよ、私!

私の指輪を見せつつ、旦那様の指輪のことも話しました。

「そう言えばヴィオラ様と公爵様、同じ手の、同じ指になさってますけど、それには何か意味があるのかしら?」

またまた答えにくいところにツッコミ来ました~!

何かを思い出すような顔でコーラムバイン伯爵令嬢が言いましたが、パッと見ただけなのにすごい記憶力ですね、アナタ!!

「あら、そうなの? 左手の薬指に何か意味でもあるんですか?」

「えーと、旦那様が聞いてこられたんですが、どこか遠つ国の言い伝えで、指輪をする位置によって意味があるそうなんです」

あ・え・て、薬指のことに触れなかったんですが、やっぱり許してもらえなかったようで、

「で? 左手(・・)薬指(・・)の 意 味 は な ん で す か ?」

ニッコリ。

ずいっと私に向かって身を乗り出してくるお嬢様方。またしても笑顔の重圧に押しつぶされそうになっている私です。だめだ、逃れられそうにない!!

四人の、有無を言わさぬ笑顔の迫力に、

「……左手薬指は『愛の進展を深める・愛の絆を深める』という意味があるそうです……」

私は諦めの境地で答えました。

「「「「きゃぁぁぁぁぁ!!」」」」

またもやキャーというよりギャーみたいな歓声を上げるお嬢様方。

こうなることがわかってたから言うの嫌だったんですよ……。


「公爵様、素敵ステキ~! ロマンチック~!」

「やだぁ公爵様ったら、ロマンチストですのね! そんなことを公爵様に言われたら、わたくし、死んじゃうかもしれません~!」

「これは是非流行らせねば!」

「そんなの私たちがどうこうしなくても勝手に流行るわよ~!」

「なんだか『ヴィオラ・サファイア』をつけてれば、公爵様とヴィオラ様のようにラブラブになれそうですわね」

「ほんとね。あやかりたい人続出よね! 私も結婚したら絶対お揃いの指輪作りますわ!!」


またしても盛り上がるお嬢様方。そして魂をどこかに飛ばす私。

宣伝になったよ、宣伝になったんだよ……。




私たちがダンスや社交そっちのけでサファイアや指輪のことで盛り上がっているところに、


「ちょっと。フィサリス公爵夫人」


私の後ろから声を掛けられてしまいました。お席できゃぴきゃぴとはしゃぎすぎてしまったのでしょうか。ちょっと反省。

しかし今日はよく後ろから声を掛けられますねぇ……ちがくて。


「すみません、うるさかったでしょうか」


ちょっと棘のある綺麗な声に、なんだかデジャブだなぁと思いながら振り返ると、やはりそこにはバーベナ様が立っていました。


近くから見てもやっぱりナチュラルになっています。

うるさくしてしまったことに自覚がありますので謝りましたが、

「べつに。周りもうるさいから気にはならないけど」

別にそれで声をかけてきたようではなさそうです。ちょっとつっけんどんな感じなのは、ナチュラルになっても以前と変わらないようです。

じゃあなんで話しかけてきた? また私に何かモノ申したいのかしら?

「でも気を付けますわ。先程はダンスをなさっていらっしゃったのでご挨拶できませんでしたが、お久しぶりでございます」

私は立ち上がり、淑女の礼をします。バーベナ様は今日の主役ですからね。

「ほんと、お久しぶりですわね。……あの夜会以来かしら」

「そうですね。バーベナ様がすこしイメージを変えられていらっしゃったのに驚きました。とってもお似合いですわ、そのドレス。バーベナ様の美しさをとても引き立てていると思います!」

以前の盛り盛りスタイルよりも、ぐっと魅力が増したと思います。このドレスもきっとマダム・フルール作なのでしょう。バーベナ様もスタイルがいいのでうらやましいです。ええもちろん、何がとは言いませんよ!

私は素直に思ったことを口にしただけなんですが、

「べ、別に貴女のマネをしてるわけじゃなくてよ! 流行りのデザインのドレスをって言ったら、マダムが勝手にこれを仕立てたのよ!」

急に顔を赤くしてそうまくしたてるバーベナ様。

ああ、やっぱりマダム謹製でしたか……じゃなくて。えっと、私いつ『私のマネ』なんて言いましたっけ?

「はあ」

小首を傾げつつ生返事をします。しかし私の表情かおなんて目に入っていないようで、

「スレンダーが流行りだからこうなったの! 貴女はいいわね、減量なんてしなくていいから」

「はあ」

バーベナ様? 上から下まで私に視線を這わせた後、どこで視線を止めてるんですか?

「ま、まあ? シンプル・ナチュラルが流行りっていうのも、私の美しさを引き立ててくれるから悪くはないわね」

「はあ」

「もうちょっとスレンダーな方が、このデザインは綺麗なんだけど。それにしても貴女のドレス、ちょっと素っ気なさすぎやしませんこと? あ、でも後ろのリボンが目立っていいわね。それに胸元の飾りが映えるし。今度はこういうのを仕立てようかしら」

「……アリガトウゴザイマス?」

……バーベナ様、一体何が言いたいんでしょうか? 貶しに来たの褒めに来たの? でも貶された気は全然しませんけどね……。

バーベナ様が一人でしゃべりまくって、私は生返事をしているだけです。

首を傾げつつ生返事しつつ、バーベナ様のお話しに付き合っていると、


「ああ、またバーベナ嬢はヴィオラに絡んでるんですか」


そう言いながら、旦那様が後ろから私を抱き寄せました。びっくりしたっ! いつの間にそこにいた?!


「サーシス様! か、絡んでなんていませんわ!」

「旦那様! 絡まれてなんていませんわ!」

私とバーベナ様が同じようなことを訴えます。絡まれていたというのはちょっと違う……と思う。

そしてバーベナ様も心外そうな顔をしています。やっぱり何をしに来たのでしょう、貴女は? よくわかりません。

内心小首を傾げていると、


「バーベナはヴィオラ様と仲良くなりたかったんですよ。ドレスだって、ヴィオラ様はあんなのを着てた、こんなのを着ていたってマダムといろいろ話し込んでたくらいですからね」


バーベナ様の後ろからセロシア様が現れてニコニコしながら教えてくれました。あれ。さっきのバーベナ様のと話が違うんですけど?

「わーわーわ!! お兄様、なに言ってるんですか? 仕事のしすぎでおかしくなったんじゃないですか? おかしなこと言わないでくださいませおほほほほほ!!」

バーベナ様は顔色を変えてセロシア様の口を押えようとワタワタしています。

年上の方に向かって言うのはなんですが、いつもの取り澄ましたバーベナ様と違ってちょっとかわいいです。

「そうですか。バーベナ嬢はヴィオラと仲良くしたいんですか。それはいいですね」

「はい! 仲良くしていただけるならうれしいです」

旦那様もそうおっしゃるし、私も、お貴族様に知り合いが少ないので、仲良くしていただけたらうれしいですよ。

私は満面の笑みで頷いたんですが、

「うっ……ち、違うわよっ!」

「え、そうなんですか?」

顔を赤くして否定するバーベナ様に私がしょぼんとすると、慌てて、

「え、ええっと、仲良くしてあげてもよろしくてよ!」

「あ、そうなんですか?」

どっちだよ。というツッコミはなしの方向で。顔を赤くしたまま目を逸らすバーベナ様です。


私と仲良くなるのはいいんですが、バーベナ様、気に入った方は見つかったのでしょうか?


今日もありがとうございました(*^-^*)

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