ただいま!
閑話的な感じで。
旦那様の休暇も、残すところあと三日となりました。
あっという間の休暇でしたが、結構内容は濃かったと思います。ええ、ええ、濃厚でしたとも!
ギリギリまでこちらにいるのかな~と思ってたんですが、
「帰りは王都に直帰ではなく、他の領地に立ち寄ってから帰ろうと思います。ああ、南の領地はまだやめておきますけどね」
という旦那様の一言で、寄り道しながら帰ることになりました。
そこは温泉がわき出ることで有名なご領地だそうで、大きな池(なんと温泉!)でたくさんの人がほっこりとくつろいでいました。そこは領民用に開放している池だそうで、使用料さえ払えば誰でも利用できるそうです。ちなみに商人向け、貴族向けなどの温泉もあるそうです。もちろん公爵家の別荘もありますよ。
「最近の湯量は大丈夫か?」
「はい、変わりありません」
「利用料をもう少し引き下げれば、利用者も増えるのではないか?」
「そうですね。やってみましょう」
旦那様とロータスは、隙あらばお仕事の話をしています。あ、でも仕事の話ばかりではないですよ?
「ああ、仕事の話をしてしまってすみません。僕たちもあとで温泉に入りましょうか」
私が退屈しないタイミングでちゃんと話しかけてきてくださいますが。ん? 今なんか幻聴が聞こえたぞ~? きっと気のせいだね、うん!
「ええっ?! いいんですか?! わぁ! ステラリア、ローザ、温泉入っていいって旦那様がおっしゃってますよあとで入りましょう!」
「「まあ、楽しみですわ~!」」
「……」
公爵家の別荘内にある温泉で、ほっこりまったり女子会になりました☆ え? 旦那様? ロータスと入ってるんじゃないですか?
そこで一日ゆっくりしてから、私たちは王都に向かいました。
実に十三日ぶりの公爵邸です。
先触れが行ったのか、お屋敷の前で使用人さんたちが勢揃いして待ち構えていました。あ~、帰って来たって気がしますね! ……あれ? 執事さんがいるよ? でもロータスは私たちと一緒に旅行に出てたから……あ、お義父様、まだ執事ごっこやってたんですか……。
「「「「「お帰りなさいませ」」」」」
「お帰り、サーシス、ヴィオラ!」
「お帰りなさ~い、ヴィーちゃん!」
いつもと変わらず一糸乱れぬごあいさつで私たちを出迎えてくれた使用人さんたちと、満面の笑みで迎えてくれた義両親です。義両親はともかく、使用人さん総出のお出迎え、いつもならいたたまれなくなる私なのですが、今日はなんというかホッとします。帰って来たって感じがするのです!!
ロータスがお義父様を見て苦笑いしてますけど。
「さあさあ、お疲れさまだったねぇ」
「ヴィーちゃん、旅行は楽しかった?」
お義父様とお義母様が先に声をかけてきました。
「ええ、とっても楽しかったです!」
色々ありましたが大満足な旅行でしたので、私は満面のゼロ円スマイルでお答えします。大盤振る舞いです!
「そりゃあよかったよ。どんなだったか、私たちにも話しておくれ」
お義父様もニコニコとおっしゃってるのですが、旦那様ったら仏頂面で、
「いや、たった今帰って来たところですから僕たち疲れてるんで」
にべなくお断りしちゃってます。
しかしそんな不機嫌そうな旦那様なんて気にもしないのが義両親クオリティー。
「ちょっとだけじゃない、ね、ヴィーちゃん?」
お義母様のキラキラ笑顔でお願いされたら、お断りなんてできません。
「あ、はい、大丈夫です」
そうして義父母によって帰ってきて早々に、私たちはサロンへと拉致られたのでした。
「土産物は、いつもあちらで暮らしている父上たちにはありませんよ」
サロンのソファーに腰を落ち着かせると、開口一番旦那様が言いました。
「そりゃそうだ」
私たちの向かい、長椅子に腰かけたお義父様がおかしそうに笑います。
「そのかわり土産話というか、いくつか収穫と報告があります」
「ああ、サファイアのことか?」
「はい。先に手紙でお知らせしたように、サファイアの流通にも着手することに決めました。品質も申し分ないものがたくさん採れるということですので。今回間に合ったのでサンプルを持ち帰ることができたのですが――ロータス」
「はい」
旦那様がロータスを呼ぶと、いつの間にかばっちり用意されたサファイアを持ってきました。つか、旦那様、いつの間にお手紙なんて出していたのでしょう?
ロータスはテーブルの上にサファイアをきちんと並べました。あ~ヴィオラ・サファイアですよ。またこれからあの話をひとしきり繰り返されるのかと思うと、今のうちにどこかにトンズラしたくなるんですけど。
お義父様はサファイアのひとつを手に取ると、ピエドラで旦那様がしていたように陽にかざしたり矯めつ眇めつ見ています。
「これまではルビーの方が主力でなおかつ需要もありましたから、サファイアを加工して人造ルビーとして流通させていました。しかしサファイアも高品質のものがたくさん採れるということですので、これからはサファイアも売り出して行こうと思うのですよ。もしもですが、ルビーの採掘量が減った時の穴埋めにもなりますし、なによりこれからサファイアの需要が高まると思われますので」
サファイアをじっくりと見るお義父様に向かって旦那様が説明しています。
「なぜ需要が高まると言い切れる?」
お義父様の眉がクイッと上がります。その反応を見た旦那様が、ニコッと微笑みました。
「それは、このサファイアを『ヴィオラ・サファイア』と名付けて売り出すからです。もちろん、ヴィオラ・サファイアは高品質のものだけをそう呼びます。そしてヴィオラ本人がこれをつけて社交界に出る」
「それは上手いこと考えたな!」
と、お商売の方を褒めるお義父様と、
「『ヴィオラ・サファイア』ですって! 素敵!! ねぇねぇ、ちょっとそこんところ詳しく聞かせてちょうだい!」
ネーミングの方に激しく食いついてきたお義母様。
「とりあえずサンプルで持って帰って来た石を加工して、お披露目に使おうかと。ああ、それから領地の治安に関してなのですが……」
「そうだな、どれも品質がよさそうだし大丈夫だろう。なに? 治安? 何か問題があったのか? ……」
さっそく仕事の話を始めた旦那様とお義父様の横で、
「ヴィオラ・サファイアって、なんてカワイイの~! 由来は? やっぱりヴィーちゃんの瞳の色? ああもう、ヴィーちゃん恥ずかしがっちゃって話が聞けないじゃないの~。リア、ローザ、ちょっと詳しく話して!」
「旦那様が、サファイアと奥様の瞳を見比べてお決めになりましたの」
「高品質なものだけを『ヴィオラ・サファイア』として、その中でもさらに最高品質のものには『ヴィオラの瞳』と名付けられたんです!」
「まああああ!!」
私からはまともな話が聞けないと踏んだお義母様は、ステラリアとローザを傍近くに呼んで話を聞き出し『ヴィオラの瞳』のことを聞くや、頬を両手で押さえ、身体をくねくねして身悶えています。いや、私の方が恥ずかしいんですけど……。
とりあえずの報告が済むと義両親は満足したのか「お疲れ様だったね。今日はゆっくり休みなさい」と言って解散になりました。
別棟に引き上げるお義母様たちをお見送りしてから、私たちも私室に引き上げます。
「旦那様もお疲れになったでしょう? 明日からはまたお仕事が始まりますから、今日はゆっくり休んでくださいませね」
いつも通り、私は旦那様の私室の前までお見送りしたのですが。
「休暇中ずっと一緒だったから、今更別々の部屋というのも寂しいと思うのは僕だけでしょうか?」
捨てられた仔犬演技が入ってませんか旦那様?
「お寂しいようでしたら、ロータスがいますよ?」
「もちろんでございます」
「ちがーうっ!!」
私の急なフリにもにっこり笑顔で答えるロータスですが、旦那様は即否定でした。ツッコミはえー。
「寂しいとか云々はともかく。明日からは日常が戻ってくるのですから、ゆっくり休んでください。奥様もお疲れなのですから、早く解放して差し上げてください」
ロータスが微笑みを引っ込めいつもの真面目な顔に戻り、旦那様をお部屋に押し込んでいます。
「ぐぐぐ……っ! わかった……」
王都のお屋敷だからこれがまかり通るんですよね! ロータスの力技で一件落着です。
翌朝。
旦那様は久しぶりに出仕していきました。
義父母も朝食の後、アルゲンテア家のランチからのお茶会に呼ばれてるからと言って、二人して出掛けて行きました。
旦那様も義両親もいない。久しぶりに 解 放 感 です!!
さすがにお仕着せは着ませんが、すぐさま使用人さんダイニングに直行します。みんなにお土産配らなくちゃね!
私はサファイアを使った工芸品の小物と、ピエドラ産の花の鉢を、話のタネにいくつか(全部は持てないですからね!)ダリアとステラリアに持ってもらい、使用人さんダイニングに急ぎました。
ダリアには渋い顔をされましたが「ちょっとだけだから!」と言って、別棟付き以外の侍女さんに集まってもらい、お土産を配りました。
「綺麗な髪留めですね~!」
「サファイアですか? でも色の濃淡がばらばらで、それがかえってグラデーションになっていて素敵です!」
「これは『ヴィオラ・サファイア』ではないんですよね? う~ん、残念!」
「当たり前じゃない、『ヴィオラ・サファイア』なんて高価なもの、私たちの手に入るわけないでしょ!」
侍女さんたちはうれしそうにお土産の髪留めを手に取り、キャッキャと話に花を咲かせています。つか、いつの間に『ヴィオラ・サファイア』のこと知ってるよ?
「いや、まだ出回ってないしね? 高価になるかどうかなんてわからないしね? そもそも売れないかもしれないんだし」
私が慌てて言っても、
「「「「「奥様の名前ですよ! 売れないわけないでしょう!」」」」」
侍女さんたちの勢いに押されるばかりの私です。
「このサファイアの名前、みんなよく知ってたわねぇ……」
私がポツリと漏らすと、
「もっちろん、昨日のうちにステラリアとローザから聞きましたよ~」
侍女さんたちが親指立ててます。ああ、これは『ヴィオラ・サファイア』から『ヴィオラの瞳』のことまでばっちり聞いたぜ☆ って顔ですね……。
もちろんこの後ダリアのストップがかかるまで、侍女さんたちに土産話をしました。
解散後は通常業務に戻った侍女さんたちでしたが、私はミモザ相手に話をしたり、お昼寝したり(あまり旅行中はできなかったですからね!)と、ゆるゆると過ごさせていただきました。
そして夕刻。
帰ってきた旦那様をエントランスに出迎えると。
「異動することになりました」
いつものただいまのハグの後、旦那様は上機嫌でそう言いました。
へ? 移動ですか? お引越し?! ……字が違うね!
旦那様、特務師団から異動するんですか?!
今日もありがとうございました(*^-^*)
6/26の活動報告に、相沢洋考サマからいただきました110話目のショートストーリーを載せております。
今日(7/4)の活動報告に小話(というか旅のおさらい)を載せる予定ですので、よろしければ覗いてやってください♪