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ホンモノの誓い

すみませんでした、って、旦那様。


謝罪、ですよね? それも私に。


およよ。使用人さんたちに心情カミングアウトの次は、私に謝罪ですよ!! ほんとに今日はどうした旦那様!?

びっくりして旦那様のきれいな濃茶の瞳を覗き込めば、揺れることなくしっかりと私を見つめているので、どうやらトチ狂ったとかではなさそうです。


しかしそもそも。

私の場合、使用人さんたちとは違って旦那様に迷惑かけられたわけじゃないから、そんな謝ってもらうことなんてないと思ってるんですけど。だって、ひどい条件で私の人生縛ったと旦那様は言いましたけど、それは私も納得の上での契約結婚だったわけですし。契約違反といえば、旦那様が愛人さんを捨てて(いや、捨てられて?)、私のところに来たことですかね。楽しい奥様生活(と書いて使用人ライフと読む)が浸食されつつあることですよね。あれ? これって一般的には契約違反どころかむしろハッピーエンドじゃね? ……えーと、思考が混乱してきています。


とにかく。


「旦那様に謝っていただかなくても、私は別に何とも思ってないんですよ? 確かにひどくて鬼畜な条件かもしれませんが、ワタシ的メリットはたくさんありましたから」

実家の借金は肩代わりしていただいから綺麗さっぱりなくなったし、このまま干物女になって一生独身で過ごすところを、公爵夫人という地位と名誉をいただいて、何の憂いもなく過ごせるようにしてもらって。これをメリットといわずしてなんというのでしょうか!!

旦那様の罪悪感を少しでも軽減しようと思ったのですが。

「何とも思われていないことが逆にツライ……」

あ、旦那様が涙目です。ここはもっとフォローしないと!

「あ、でも、旦那様のことを好ましく思っているお嬢様でしたら、この状況はつらくてつらくて仕方なかったでしょうけどね。でも私ってば枯れてるのかしら、全然つらくなかったんですよ? お邸でも使用人さんたちにとってもよくしていただいて、一人ぼっちになることなんてなかったですから、旦那様がいらっしゃらなくても寂しいことなんてちっともなかったですよ!」

私は力説させていただきました。

むしろ旦那様抜きの方がむしろ楽しく過ごしてました……って、あ、これを言っちゃ、旦那様がへこんじゃうでしょうから心の中にしまっときますよ!

あれ? でも言えばいうほど旦那様が項垂れていきますね。おっかしーなー?

「いろいろ抉られましたが、今は言及すまい……」

ボソッとつぶやいています。あれ、フォロー失敗?

いやいや、それではいかんでしょ。もっとアゲなければ!

「あっ、で、でも最近の旦那様は変わってきたと思いますよ? ほら! 私の好みなんかをロータスやダリアやミモザにも聞いてくださったりして。後からダリアに聞きましたけど、嬉しかったです。それに、新しい愛人騒動が起こった時も、すぐさま飛んできて払拭してくださったりしましたしね」

それでも旦那様が変わったなぁと思うところを素直にお伝えすれば、

「えー、ま、まあ……」

項垂れていたはずの旦那様が顔を上げました。目を泳がせてポリポリと頬をかいているところをみると、もしかして照れてます?


しばらく視線を彷徨わせていましたが、意を決したのかもう一度私の瞳をしっかりと見た旦那様。


「……じゃあ、今は、僕のことどう思っていますか?」


「好きですよ?」


旦那様の問いかけに私が間をおかずに答えると、旦那様はびっくりしたように瞠目し、がばっとおもむろに距離を詰めてきました。うん、顔近い。


「ほんとに?!」

「はい! 家族ですもの!」

「夫婦、ではなく……?」

「家族!」

「……」


「そうか、家族か。いや、前進したよな、うん、前進した! 亀のような進みだけどな!」と、旦那様はじとんとした目で一人ぶつぶつとつぶやいています。まる聞こえですが聞こえないふりをしてあげましょう。

「あ、でも今日のゴロツキをやっつけたのは、頼れる旦那様だなぁって思いましたよ?」

「あ、もう一歩前進した?」

「はい!」

私が力いっぱい頷くと、旦那様はふっと瞳を和らげました。

「前の言い方だとちゃんと貴女に伝わらなかったんだなぁとつくづく思い知りました」

「何がですか?」

「あの時、僕が『契約で縛られた結婚ではなく、ちゃんとした夫婦になりたい』と言ったのを覚えていますか?」

「へ? あの時? あ~、あ~、あの時デスネ! え、ええ。もちろんですわ?」

多分、あのシュラバの後ですよね。

「カレンと話をしたアノ日ですよ」

よかった。あってました。ホッとしてニヘッと笑っていると、

「それに、同じようなことをもう一度言ってます」

「えーと」

「戦に行く前。僕の『大事な奥さん』に、情報漏えいギリギリのことをした日」

意地悪そうに微笑まないでください、旦那様。

「あ~」

騎士団の皆さんの前で、そんなことを言ってた気が……。

「思い出しましたか? だからちゃんと言い直します」

「言い直し?」


「はい。僕はね、ヴィオラのことがとても大切な存在だと思うようになったんです。愛する存在。だからこれからは絶対に傷つけないように守っていきます。この先ずっと、僕と結婚してよかったな、幸せだなぁと思ってもらえるようにするのが、僕の贖罪だと思っています」


え?! ちょ、え? え?

あ、また気持ちが。

「えーと、今でも充分幸せですけど~?」

おずおずと進言すれば、

「そこに僕の存在はありますか?」

にっこり。でも旦那様の笑顔が黒く見えます。これは見透かされてる感じがビシバシしますね。――今日の旦那様はとても鋭いようです。

「……あはっ☆」

「これからはヴィオラの幸せの中に僕の存在も入れてほしいなと思うわけですよ。まあ、贖罪だけではなくて、僕がヴィオラを幸せにしたいと思ってるからなんですけどね」

笑って誤魔化せなかったようです。正直すぎる私の張り付けた笑みに、旦那様は苦笑しています。

「贖罪なんて、思わなくてもいいですよ? さっきも言いましたように、私はちっとも気にしてなかったんですから」

「じゃあ、贖罪云々は僕の心の中だけにとどめておきます。ただヴィオラを『僕の手で』幸せにしたいだけです。ヴィオラを幸せにするということは、家の仕事もきちんとするということも含まれるんですよね? 『仕事と領地経営と家庭と、全部サラッとできる方がかっこいい』んでしょう?」

「へ?」

あれ? そのセリフに何か覚えが……。

「って、貴女が言ってませんでしたっけ?」

イタズラっぽく笑う旦那様。

「あ~……!!」

あ、それ、えーと、多分、帰還の儀の時にお母様と話していた気が……って、旦那様、こっそり聞いてたんですか?!

そんなことを聞かれていたなんて知りませんでしたから、びっくりして口がパクパクしてしまいました。

あの時、後ろからいきなり旦那様が現れてびっくりしたんでしたよ。こっそり聞いていたんですね! ……職業病? 違うか。

旦那様の発言にアワアワする私を見て、さらにクスクス笑う旦那様。

「これまで公務に逃げていた分も、これからは自力でやろうと思ったのはそういうことです。あ、ロータスたちに負担をかけていたことの反省もありますよ?」

そういうことでしたか。……よかった、旦那様、正常ですね!

ではこの変化は喜ばしいものですよ。

「旦那様が真面目になったら、きっとみんな喜びますよ!」

ロータスの仕事の負担も減るし、使用人さんたちの心労の減るし、一石二鳥!!

「真面目って……」

「さっきはいきなり旦那様の心情カミングアウトだったから、みんなびっくりしちゃってましたけど、きっと今頃は旦那様の言葉の意味を理解して大騒ぎしてると思いますよ!」

狂喜乱舞はしないでしょうから、嬉し涙にむせんでる?

「それは大袈裟だと思いますが。でもロータス辺りはこれを好機とばかりに、領地に関する資料なんかを山積みにして持ってきそうですけどね」

想像したのでしょう、ちょっとげんなりした顔になる旦那様です。もちろん私も容易に想像つきました。黒い微笑みで書類の山を持ってくるロータス。あ、これ絶対に近未来だわ。

「それは同感です!」

「ははは。まあ、頑張りますよ」

「私にもできることはお手伝いしますから!」

貧乏さんちの知恵でよければ、いくらでもお貸しします!

私は力づけるように、旦那様の手を両手で包みました。

「そう言ってもらえるとありがたいですね」

「言葉だけじゃなくて、ちゃんと行動で示して行けば、きっとみなさんも安心しますよ~」

おぼっちゃま更生した!! ってね! 何気に『おぼっちゃま』気に入ってます、私。ぐふふ。

「そうします。でもちゃんと言葉でも伝えていきますね。使用人にも、ヴィオラにも――」


そう言ってまた真面目な顔になって私を見てくる旦那様。

なんでしょうか? 

私が小首を傾げていると、旦那様の手を包んでいた私の手をきゅっと握り締めたかと思うと、形のいい口元に持っていき。


「結婚式の時は偽りでしたが、今日は心から。ヴィオラを生涯愛すると誓います」


そう言って、ゆっくりと私の手の甲に口づけを落としました。


え?! 今のって『誓いの口づけ』ですよね?! 

お互いを生涯愛しますか~? 誓います~! と神官様に宣誓してから行われる、フルール王国での結婚式での誓いの儀式!!

あ~、あの時は嘘っぱちだったからなぁ……って、そうじゃなくて!!

しかも旦那様、宣言してから口づけたからそのつもりですよね!?

私が軽く現実逃避しながらアワアワしていると、もう一度私の手をぎゅっと握りしめた旦那様が、


「ヴィオラからの誓いの口づけは、貴女の気持ちが追いついてからでいいです。待ってますから」


なんて。キラキラ笑顔で微笑んでいました。


「は……い」


う~ん。もう、急展開すぎて魂的な何かが抜けていったじゃないですか!!

今日もありがとうございました(*^-^*)


何だかここでタイトルコールしたい気分ですが、グッと我慢……www

5/7の活動報告に小話を載せております。よろしければ覗いてやってくださいませ♪

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― 新着の感想 ―
[良い点] 自分が思っていることをお互いに言わないで そのまま モヤモヤと過ごすという物語がたまにありますが、サーシス様とヴィオラちゃんはきちんと言えたこと とても良かったです。 [一言] ヴィオラち…
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