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衝撃!

別荘に戻ってみると、私の懸念していた護衛官長さんはまだ来ていませんでした。無駄な時間を使わせなくてよかったと、ちょっとほっとしました。

ほっとついでに居間で旦那様とソファに並んで座り、しばし休憩です。

そして使用人さんが淹れてくれた美味しいお茶で、いろいろあったお散歩で疲れた体(と精神的な何か)を癒しているところに、護衛官長さんが来たと報告がきました。私たちが帰ってきたのを見計らったようなタイミングの良さですねぇ! ……まさかつけられてたとかじゃないですよね?


「先程は閣下のお手を煩わせてしまい、申し訳ございませんでした!」


フェンネルに案内されて居間に入ってくるなり、護衛官長さんはパキッと腰を直角に折り旦那様にお詫びしてきました。

しかし旦那様はそれを手で制すと、


「いや、あれくらいどうってことはない。ヴィオラに何もなかったことだし」

「「「「「!!」」」」」


さらりとそんなことを言う旦那様でしたが、ロータス、ステラリア、ローザの王都組以外の使用人さんたちがそのセリフに目を見開きました。

『マジか?! 若旦那様がそんなことおっしゃるなんて!』といった心の声が聞こえたようなきがしたけど、幻聴かしら。あれ、でもおっかしーなぁ? ここ王都のお屋敷じゃなくてご領地の別荘なんですけど? こっちの使用人さんたちの反応が、王都のお屋敷の使用人さんたちと同じ気がするんだけど?? ちなみに護衛官長さんは普通に恐縮しているだけです。

旦那様は使用人さんたちの反応に一瞬眉をクイッと上げましたが、みんなはすぐさま元の表情に取り澄ましています。さすがリカバリー早っ! やはり一線を退いたとはいえ、さすがは公爵家の使用人さんですよ。でもその一流をもってしても驚きを隠せなかった旦那様のセリフって……。旦那様、使用人さんたちにどんな風に思われてるんですか。

そんな使用人さんたちをスルーすることに決めたのか、旦那様は一つ咳払いをすると、また護衛官長さんに視線をやりました。

「しかしなぜ、手こずっていたなら公爵家うちに援護を頼まなかった? うちの護衛騎士団ならば、ずっと領地ここにいただろう」

「先代様がこちらにいらっしゃれなかったので。王都あちらでもお忙しいと思われましたので、連絡が憚られ……」

「つまり、遠慮した、と?」

「はい」

「それがむしろ、ならず者をのさばらす結果になっているなら、遠慮の意味はないんじゃないか?」

「おっしゃる通りでございます」

旦那様はいつもと違った厳しい雰囲気で、護衛官長さんをなじります。あ、また騎士様おしごとモード発動でしょうか。いつもは優しい目元が、凛としたものに変わっていますもんね。護衛官長さんは恐縮しきりで、大きな体を小さく小さくしています。


どうやら話はピエドラの町の警護の話になっていきそうな流れ。


なんだか私が聞いていていい雰囲気ではなさそうになってきたので、お邪魔虫はこの辺りでちょっと退散させていただいた方がいいですかね?

そう考えた私がチラッとロータスを窺えば、小さく首を振られました。あれ珍しい。私にここにいろと? でもやっぱり空気は読んだ方がいいのかなぁと思い、

「私、席を外しますね」

と旦那様にことわりを入れて腰を浮かせたのですが、

「いや、貴女も聞いておいてください」

旦那様に腕をとられ、そのまま元の位置、旦那様の横にストンと腰を下ろす結果になってしまいました。

「え? あ、はい」

あれれ? いいのかしら。なんかお呼びでない気がするんだけど、みんなして引き止めるんだもの。ここはできるだけ大人しくしておきましょう。


護衛官長さんいわく、


「今回の南隣の国との戦で、町の護衛官も多数防御のために領地の南側に配備されてしまい、ピエドラの町自体の警備が手薄になってしまいました。その上先代様たちという領主代理が王都に長期滞在されてしまい、にらみを利かせる立場が不在というところを突かれて、治安が乱れてしまいました。私の力不足、申し訳ございません」


ということでした。

最悪だったのは今日出会ったあの三人組だけで、そのほかはピエドラ残留組の護衛官さんたちで何とかなっていたらしいのですが。

王都では戦の間も特に変わったことがなかったので私は知りませんでしたが、やはり王都以外にはこういった戦の影響があったのですね。何も知らずに呑気に過ごしていた自分が恥ずかしいです、ごめんなさい。

私が脳内反省会をしている間にも、旦那様と護衛官長さんのお話は続いていきます。

「護衛官は、まだ当分南に重点的に配備されているからなぁ」

旦那様が腕組みをし、難しい顔をしています。

「はい」

「護衛官を増やすにも、王都に遣って訓練するのに時間がかかるし、うちの領土だけ護衛官を増やしてくれというのも護衛官のバランス上よろしくない」

「そうですね」

旦那様のお話に、神妙に頷いている護衛官長さんです。

護衛官は国から派遣されているお役人さんで、軍の末端組織に所属です。現役バリバリの騎士様を辞めた方がなることが多いこのお仕事、はなから護衛官になろうと思うと、まずは王都で騎士団の訓練に耐えなければなりません。正式な護衛官になろうと思うと、よほどの実力がなければちょっとお時間がかかっちゃうのです。護衛官長さんは街で見かけたときとっても綺麗な騎士様の礼をしていましたし、さっき居間に入ってきたときもきちっとした腰の折り方をしていたので、きっと若いころは騎士様をされていたのだろうと思います。

まあそれはいいとして。

しかし、さっきから聞いていると、旦那様と護衛官長さんは『護衛官を増やす』ことばかり考えていますが。もっと他にいい案があると思うんですけど?


「あの~、ちょっとよろしいでしょうか?」


私はタイミングを見て、旦那様たちの会話に割って入りました。

「なんですか?」

すぐさま旦那様が答えてくれます。私に向けた視線がいつもと同じものだったので、発言してもいいってことですよね?

「護衛官を増やせないのだったら、なぜ自警団を組織しないんですか?」

私は思い切って口を開きました。

「「え?」」

旦那様と護衛官長さんが、ちょっとびっくりしています。自警団とか、思い当たらなかったのでしょうか? うちの領地では当たり前だったのですが、ひょっとして違うのかしら?? 実家うちの常識はよそでは非常識とかだったらどうしましょ! なんてちょっとおどおどしちゃいましたが、みなさん(使用人さん含む)から一斉に注目されてしまっているので、続けることにします。 

「うちの領地は元々護衛官が少ないところでしたので、領民で自警組織を作っていましたの。弱小貴族ですから、護衛官を増やしてほしいなんて畏れ多すぎてお願いできませんでしたもの」

ええ、領地の警備も自給自足ですよ。

どうやら本当に自警団のことは考えていなかったらしく、

「自警団……ふむ。で、訓練は?」

旦那様が興味を示しました。

「はい。それは伯爵領の護衛官の方々が見てくださっていました。日頃の鍛練がてら自警団を訓練するのです。ご領地(こちら)には護衛官様もたくさんいらっしゃいますし、公爵家の騎士団のみなさまもいらっしゃいますから、結構本格的な訓練ができるのではないでしょうか?」

手薄とか言ってるけど、ぜったいうちの領地より人手はありますようらやましい。

「なるほどね」

「中では本物の護衛官になりたいと思うものも出てきましたし、働き手が余っているならば雇用の促進にもなるかと思います。無償の奉仕活動ではあるのですが、みんなのために頑張ってくれる分いろいろと寄付が集まってきて、それで何とか運営できていました」

ええ、お金はないけど食べ物なんかが集まってきて、それを自警団のみんなで分け合って、それを報酬にしていました。無いなら無いで、知恵を出して解決です☆

「それはなかなかいい案でございいますね。そうすれば戦や国の政策に左右されることなく町の治安を維持することができます! いやいや、お若いのにしっかりしたお嬢様ですね!」

護衛官長さんは、私に向かってその厳つい顔を破顔させました。

でへへ。褒めてもらえましたよ! 伯爵家びんぼーの知恵を披露しただけなんですけどねっ!

しかし旦那様は『お嬢様』という言葉に反応し、

「お嬢様ではない。私の妻だ」

不機嫌そうに訂正しました。そう言い放った旦那様の顔を見た護衛官長さんの顔に『しまった』と書かれたのに気付いたのは私だけではないでしょう。

「あ! この方が……! い、いや、初めてお目にかかりましたものですから、失礼いたしました! はは、はは」

護衛官長さんは、乾いた笑いで誤魔化したつもりのようです。旦那様はそんな護衛官長をもはや無視することにしたようで、

「最近の領地の雇用状況はどうなってるんだろうか。フェンネル?」

もうフェンネルに近況を尋ねています。

「はい。戦以降もピエドラでは特に変わりはございませんが、農耕地帯などでは閑散期に手が余ることがございます。それに、戦に志願兵として参加していた領民も帰って来ておりますので、雇用の促進というのにはうってつけではないかと。ですから若奥様のおっしゃることに賛同する領民は多数いるのではないかと思われます」

フェンネルはよどみなく答えました。さすが、ロータスのお師匠さんです!

フェンネルの答えを聞いて旦那様はしばらく考え、

「そうか。……では自警団組織を試してみるか。父上には私から説明しておく。ロータス、どうだろう、できそうか?」

「細かいことは後程詰めることにして、経費的なことは問題ないかと思われます」

「では、そういうことで話を進めよう」

ロータスの答えを真面目な顔で聞いていた旦那様は、どうやらこの自警団計画にゴーサインを出されるようです。


そして、


「ヴィオラはいいことを言ってくれましたね、ありがとう。自警団がちゃんと機能しているか気になるから、これからは私もなるべく領地に顔を出すようにする」


初めの方は私に向かってにっこり微笑んで、後の方は護衛官長さんたちに向かって凛々しく言い切りましたけど。


え? え? 今までまるっきり義父母にまかせっきりだったご領地ですよね?!


みーんな旦那様を二度見しましたね。あ、久しぶりにロータスが動揺している姿を見ましたよ!

そんなある意味ピキーンと固まった空気に、ちょっとついていけていないのは護衛官長さんだけで。きっとこの人は、旦那様りょうしゅさまがご領地に来ないのは、王都での騎士団の仕事が忙しいからだと思ってるのでしょうね~。びみょーに違うんですけどそこは黙っておきましょう。

でも旦那様は正確に、この空気の変化を読み取っていました。

「なんだ? 私がこっちに来ちゃまずいのか?」

ブスッとしていますが、いやいや、アナタのせいでみんな動揺してるんですよ! 自覚しましょうね!

「そうではありません」

やはりいち早く復旧してきて苦笑して答えるロータスですが、旦那様の次の発言に、もはや完全フリーズしてしまいました。


「私だって今までのことは悪かったと思ってる。反省なんて言葉だけでは足りないのは十分承知している。しかし言葉で言っても信用されないだろうから、これからはちゃんと態度で示していくつもりだ。だから領地のことも、父上に手伝ってはもらうが、できるだけ自分でしようと思う」


うっそ!? 旦那様が自覚していた――!!!!



今日もありがとうございました(*^-^*)

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