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本領発揮!!

「隙だらけな」


いつもとは完全に雰囲気の違う旦那様。ボソッとつぶやいて微笑むその笑みの黒さにびっくりですよ。

男その1が殴り掛かってきたところで、旦那様がスッと身をかがめました。

もちろん男の拳は空を切ります。


旦那様は身をかがめたそのままの態勢で、たたらを踏んだ男の懐に一気に入り、弾みをつけて肘をガツンと男の腹に喰いこませれば、男その1はあっけなく地面へと沈みました。


早すぎるでしょ。文字通り『撃・沈』です。


「なんだ、これくらいで偉そうに言ってたのか?」


旦那様はパンパンと手を払って、残る二人を冷たく見ます。旦那様の一瞥に、一瞬怯んだ感じを見せた二人でしたが、すぐに気を取り直すと、

「こ、これくらい!! たまたまだろうが!!」

「二人掛かりで相手してやるよ! 覚悟しろ!」

仲間が撃沈させられたのを見て発奮したのか、顔を赤らめて二人掛かりで襲ってくる気配です。


むん、一対二とは卑怯なり!!


さすがに加勢をしようと思ってくれたのか、私の後ろにいたガタイのいい壮年の男の人が動く気配がしたのですが、旦那様はそれを後ろ手で制して。

「ああ、こっちは大丈夫だから。ヴィオラを頼む」

「はっ」

ちらりとも後ろを見なかったのに、旦那様ったらそんなことを味方さんに言ってます。後ろに目がついてるのかしらとびっくりしちゃいました。

「かっこつけやがって!」

そんな旦那様と味方さんのやり取りを見ていた男たちでしたが、悪役まっしぐらなセリフを吐きながら、男二人で旦那様に飛びかかってきます。

しかし旦那様は冷静に男の拳を受け止めたかと思うと、その手を掴んだまま華麗に身を翻してそれは見事な一本背負い。ドザッという大きな音と、盛大な砂埃を上げて、ハイ、男その2も地面とお友達。これも一瞬でした。

また襲いかかってきた残りの男には、あっさりと腕を取ったかと思うと後ろにひねり上げ、動きを封じたところで首根っこに手刀をがつんとかませば、男は「ぐえ」とうめいて膝から崩れ落ちました。

最後の男も結構なガタイでしたが、手刀一撃で落とすなんて、どんだけ力持ちなんですかね、旦那様!


って、それはどうでもいいことで。


あっという間に勝負は決まってしまいました。


すごい! 旦那様ってば、ほんと、動きに全然無駄がありませんでしたよ!! ごろつき、三人もいたんだから、もっと連係プレイしろよとか思ったのは内緒です☆

パンパン、と服に付いた埃を払う旦那様の足元には、ガタイのいいゴロツキが三人、うめき声すら上げずに伸びています。完全ノックアウトです。

対する旦那様は、何事もなかったような涼しい顔で。


うわ~。旦那様って、ほんとに騎士様プロだったんですねぇ!!


初めて見る旦那様の姿に、完全に見入ってしまいました。

旦那様の雄姿に見惚れていたのは私だけではありません。

周りも初めは固唾をのんで見守っていたんですけど、ハッと我に返ったのか、


「すげぇ!! にーちゃん綺麗な顔してるくせに、えれ~つええな!!」

「見たことない顔だけど、ありがとよ!!」

「やっとこいつらに天罰が下ったぞ」

「ありがとうございます!!」


わぁぁと周りから歓声が上がり、人垣から拍手喝采、やんややんやのお褒めが飛んできました。

あら、このゴロツキはそんなに有名な悪者だったのでしょうか? つか、旦那様、何気ににーちゃんとか言われてるし。

いや、今そこじゃないですね。そうそう、旦那様もお怪我とかないかしら。まあ、なさそうですけどいちおう確認しましょう。


「旦那様! すごいです! あっという間にやっつけちゃいましたね! どこか痛いところとか傷めたところとかありませんか?」


私は庇ってくれていたお姉さんの腕から抜けだし、旦那様の元へ駆け寄りました。

旦那様は私を見ると、一瞬でさっきまでの剣呑とした雰囲気を霧散させ、いつものキラキラの微笑みに戻り、

「いいえ、これくらい全然大したことないですよ。運動にすらならないです。あ、でもヴィオラに手当てしてもらえるなら、怪我をしている方がいいのかな?」

なんてバカなことを言いながら、私の手を引き寄せました。

「いや、怪我はない方がいいでしょう」

「まあ、確かに。これくらいの運動で怪我をする方が逆に恥ずかしいですね」

「そうですよ! ユリダリス様に怒られますよ!」

引き寄せられたことによって縮まった距離。間近で微笑まれたら破壊力満点ですね。しかもさっき、できるところをまざまざと見せつけられちゃったしね。

私は、暴れたせいで乱れた旦那様の御髪を整え、まだ残っていた埃をそっと叩き落としました。

「ああ、でも剣があれば、一閃で解決できたのに」

「いや、むしろ剣持ってなくてよかったです」

なんつー危ないことを。あっち素人、アナタプロ。素人相手に剣一閃で解決するなんて、ダメ、ゼッタイ。

「ま、そうですけどね」

フフっと笑った旦那様の微笑みが黒く見えるのは気のせいですかね?


素敵なはずの微笑みに頬を引きつらせていると、


「またゴロツキどもが暴れていると聞いたんだが!!」


と言って、人垣をかき分ける存在が現れました。見ると、騎士様の制服に似た感じの服を着た、これもガタイのいいおじさんです。

慌ててこちらにやってきたおじさんは、地面に伸びた男三人を見て目を丸くしました。

「こいつら完全に伸びてるじゃないか!? 誰がこいつらをのしたんだ?」

そう言って周りを見回していましたが、旦那様を見た途端。

「こ、これはお坊ちゃま――!! あ、し、失礼いたしました! これは、まさか閣下が?」


お坊ちゃまて! あ、ツッコミどころそこじゃないですね。面白かったのでつい。


旦那様を見て、この三人をやっつけたのが旦那様だと考えるところを見るに、この人は旦那様のお知り合いでしょうか。

いきなりおじさんにお坊ちゃまと呼ばれて、旦那様の綺麗なお顔が一瞬引きつりましたが、すぐさま厳しい凛とした顔になると、

「ああ、護衛官長。私がちょっと相手しておいた。こいつら、私と妻に言いがかりをつけてきたんでね。『また』と言うところをみると、こいつらは長い間のさばっていたのか? ガタイの割にはあっけなかったが」

ゴロツキたちに対するのとはちょっと違うけど、それでも低い威圧感のある声でおじさんに言いました。このおじさんはピエドラの町の護衛官長さんなんですか。だから旦那様を見て、誰だかすぐさまわかったんですね。

「先代様が王都に呼ばれて行っている間に、戦のどさくさに紛れて台頭してきたのでございます。閣下のお手を煩わせてしまい、申し訳ありませんでした」

護衛官長さんは簡潔に説明し、頭を下げました。

「いや、別に大したことはしてないのだが。ふむ、そうだったのか」

「町の護衛官たちは多数、領地の南の方を警護するために派遣されたので、ピエドラの護衛官の数が減ってしまって」

「ああ、そうか」

「こいつら、こんななりをしているくせにすばしっこいやつらで、捕まえるのに苦戦していたところでございました。町中で強請ゆするわ、民家に忍び込んで強盗は働くわ、何でもし放題で。とにかく困ったやつらだったんです」

「ではとりあえずしょっぴいておけ。詳しい話は後で聞くから、護衛官長はあとで公爵邸(うち)にくるように」

「かしこまりました」

護衛官さんは旦那様に向かって騎士様の礼をすると、後から合流してきた同じような服を着た護衛官さんらしき人たちと一緒に男たちを縛り上げ、神輿よろしく担いでどこかに去っていきました。


「……アレ(・・)、重そうですね」

「ガタイだけはよかったですからね」

「どこに連れて行くのですか?」

「町の護衛官の屯所です。留置場がそこにあるんですよ」

護衛官さんたちの後姿を見守っていると、それまで何重にもできていた人垣がパラパラと解散していきました。


気が付けば、先ほどと同じような町の喧騒が戻っています。


「いやなものを見せてしまいましたね。今日はもう帰りますか?」

旦那様が私を気遣って聞いてくれますが、別に大したダメージも受けてませんし、むしろお腹がすきました。でも旦那様次第ですね。旦那様がお疲れならば、このまま帰ってもいいですし。お食事だって、ロータスたちに言えば何とかしてくれるでしょう。

「私は大丈夫ですけど、旦那様こそお疲れではございません?」

「僕は全然ですよ」

「では、せっかくですしカフェに行きましょうよ! 旦那様も休憩しましょう」

「ははっ! いいですね。じゃ、行きますか」

「はい!」

旦那様がたのしそうに笑い、また私の手を取ると、カフェの方へと歩き出しました。




さすがは旦那様というべきか。

広場から歩いてすぐのところに、例のカフェがありました。

真っ赤な日よけがオシャレなそのカフェは、お天気のいい日のまったりティータイムにぴったりです。

店内の席は、ちょっと重厚な感じになっていて、落ち着いた雰囲気で静かにお茶を楽しむのにピッタリです。反対に外は、真っ白なテーブルセットがたくさん置かれて、明るいカジュアルな雰囲気です。今も町の人が思い思いにランチやお茶、おしゃべりに興じています。


素敵なギャルソンに、オープンエアの席に案内されて腰を落ち着けました。

すると途端に、


「あ、さっきのにーちゃん! なんか、あんた偉い人なんだな」

「護衛官長と知り合いか~?」

「いや~、さっきは爽快だったよ」

「あいつらをやっつけてくれてありがとうございました!」

「その女の子は彼女かい? 可愛くて仕方ないんだろ」

「ほんと、かわいいお嬢さんですね~!」


あっちこっちのテーブルから声が飛んできました。みなさん、このにーさんは偉い人なんですよ、お貴族様で領主様なんですけど、知らないってすごい。偉い人とわかっててもすごいフランク。でも旦那様も嫌な顔をせずにニコニコしているからいいのでしょうか。


「お嬢ちゃんがにーちゃんを心配して駆け寄る姿は、仲睦まじくってうらやましくなったよ~!」


……あ、そういえば衆人環視の中で旦那様に駆け寄りましたね、ワタシ。恥ずかしすぎるって……。


今日もありがとうございました(*^-^*)


まだまだ活動報告にて小話まつり開催中です♪ お時間よろしければお立ち寄りくださいませ!

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